Fate/GrandOrder ~憎悪と慈愛と復讐の救済を~   作:三枝 月季

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運命の夜 表

「サーヴァント アヴェンジャー 母を呼んだ我が子はだあれ?」

 

 発せられた言葉は可憐というには壮美であり、尊大というにはあまりに柔和な響きを有していた。

 

(ひぃ)(ふぅ)(みぃ)……まぁ!!愛らしいお嬢さんが三人も!!」

 

 女性としては長身と言えるだろう体躯と、露出はないものの、豊満な身体のラインに沿った淡い灰色のロングドレスは、貞淑さや淫靡さといった相反するものを兼ね備えているようでもあり、花嫁でありながら、未亡人であるかのような矛盾をも感じさせる。

 

「けれど、この場所はよくないわね。死の臭いに満ちているわ」

 

 ドレスと同色の被り布で覆われた頭部が揺れるのに合わせて、多頭竜を思わせる小さな銀のティアラが煌めく。それは辺りを一通り眺め回した後で、特定の方向を向き止まった。

 

「貴女が母の我が子(マスター)ね」

 

 文字通りに神秘のヴェールに包まれた女性は、私の正面へと流れるように進み出ると、陶器の様に滑らかな手を、慈しむようにこちらへと伸ばした。

 

「ええ、私はセツナ。よろしく、アヴェンジャー」

 

 染み一つない手をとり握手を交わせば、林檎に似た爽やかな甘酸っぱい(カモミールのような)香りが鼻腔をくすぐった。

 

「……セツナ。不思議な響きのする名前ね。とても素敵だわ」

 

 噛み締めるように私の名を反芻したアヴェンジャーの顔は、被り布と宵闇のせいで、はっきりとは見えなかったが、ほころぶように目を細める気配を確かに感じた。

 

「で、早速で悪いんだけど、事態の収拾に力を貸して貰えないかしら」

「……ええと、貴女は?」

 

 焦れたようにあがった所長の声に、アヴェンジャーの意識が逸れる。

 

「私は、オルガマリー・アニムスフィア。貴女のマスターの上司にあたるわ」

「まぁ!!そうでしたか、それは失礼を。ええと、オルガマリーとお呼びしても?」

「何だっていいわよ、好きに呼びなさい」

「ではそのように」

 

 初対面にしては、かなり失礼な態度と言えるだろう所長に対して、アヴェンジャーは始終寛大な対応である。位の高さを感じさせる女性であるのに、そこに傲慢さは欠片もなく、その姿はまさに淑女のそれだった。

 

「あの、ミセス?アヴェンジャー、質問をしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、可愛らしい盾のお嬢さん」

「かわっ……あ、いえ、その、アヴェンジャーというクラスは、どのようなクラスなのでしょうか?」

 

 そんな中あがったマシュの問いを聞き、私も我に返る。思い返せば、所長からうけた英霊の説明には確かに、アヴェンジャーというクラスは存在しなかった。

 

「そうねぇ、実のところ、母もよくは分かっていないの」

「はぁ?何よそれ!?そんなんで、この特異点を勝ち残れるの!?」

「……恥ずかしながら、聖杯戦争に呼ばれたのは、これが初めてなものですから」

 

 所長の癇癪に「申し訳ないわ」と、身を縮こまらせたアヴェンジャーは、とても戦いに向いている英霊には見えなかった。しかし――

 

「なら、アンタは聖杯に何を願う?」

 

 鋭く響いた男の声に、場の空気が一変した。

 

 瞬間、私を守護するように身を翻したアヴェンジャーは、ドレスの裾を捌き、踵をカツン!!と打ち鳴らした。すると、それが合図となったのか、彼女の足元から一陣の突風が吹く。それは、ヴェールを被って尚、隠し切れないでいた彼女の美貌を、白日の下に晒すのに一翼を担った。

 

「盗み聞きとは無粋な。どこの手の者です?」

 

 宝石のような灰紫の瞳を(すが)め、静かに辺りを索敵したアヴェンジャーの視線が、彼の輪郭を捉えるのに、そう時間は要さなかった。

 

「挨拶もなしに問いを投げかけるのが、貴方のお国の流儀なのかしら?」

 

 アメジストグレーの剣呑な輝きはそのままに、アヴェンジャーは只の暗がり(・・・・・)に向けて、剣を振るうように言葉を並べ、盾を掲げるように微笑みを浮かべる。美しさこそが最大の武器だと言わんばかりに。

 

「……ほぅ、俺の気配遮断を看破するたぁ、見かけによらずやるな、アンタ」

 

 やおら、姿を現したキャスターは、値踏みするような目線をアヴェンジャーの肢体に這わせ――

 

「ふふ、お気に召して頂けまして?」

 

 煽るようなアヴェンジャーの台詞に眉を顰めた。

 

「…………アンタ、いったい何者なんだ」

 

 対峙しているだけなのに、キャスターとアヴェンジャーの纏う空気には、余人が入り込めるような余地などなく、それは息をする事さえ憚られるほどの気迫だった。現に所長は場の雰囲気にあてられてか腰砕け状態で、厳密にはこの場にいないドクターでさえ生唾を飲み込んでいる。仲裁のタイミングを逃したマシュはと言えば、引き攣った表情で、私に助けを求める様な視線を寄越してきた。

 

「………その質問に答える前に一つ、確認をさせて下さらない?」

 

 そんな、気が狂いそうな時間を終わらせたのは、アヴェンジャーの涼やかな美声だった。

 

「あん?何を――」

「我が子」

 

 眉間の皺を深くしたキャスターが言い終わらぬうちに、アヴェンジャーはキャスターから視線を逸らすと、身体ごと私へと向き直る。そして――

 

「何?」

「彼は、我が子の駒のうちの一人なのでしょう?」

 

 嘆くでもなく、怒るでもなく、彼女は私にそう問いかけた。

 

(あー、これは敵わないわ)

 

 聖母のような眼差しを前に、感情より先に本能が白旗を挙げた。

 

「……あ~、うん。捨て駒第一候補、かな?」

「なるほど、駄犬ね」

「おい!!マスター!!オレは至って真面目にソイツを警戒してんだけど!?」

「しかもよく吠えるのね」

「それ以上言ったら流石にキレるぞ?」

 

 私とキャスターのやり取りに茶々を入れながら、くすくすと少女のように笑ったアヴェンジャーは、元の穏やかな雰囲気へと戻ると――

 

「母を騙した(試した)のですから、これくらいの意趣返しは甘んじて下さいな。キャスター(・・・・・)

 

 その一言で殺気だったキャスターを黙らせた。

 

『マスター?』

『私は話してないわ』

 

 途端に、警戒を強めたキャスターからの念話が響く、私の返答を聞いたキャスターは、それこそ苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた。

 

「何故、オレがキャスターだと?」

 

 そうして素直に敗北を認めながらも、敗因を明らかにしようとする辺り、キャスターはそれなりに負けず嫌いである。

 

「本物の暗殺者であれば、母には感知できないでしょう。ですが、貴方の視線は確かに感じ取れた。そこから、アサシンではないのに気配遮断じみた真似が出来そうなクラスは何であるか?を考えた結果」

「一番可能性が高いと思ったのが、魔術師(キャスター)だったと」

「ご明察の通りです」

 

 良く出来ました。と言うように、目を細めて微笑んだアヴェンジャーの様子は、さながら、息子を褒める母親のようである。が――

 

「端っから、アンタの掌の上だったつうわけか」

「いいえ、それは語弊がありますわ。貴方が声を発さなければ、その分気付くのに時間を有したでしょう。ですから、そう嘆く事はありませんよ。今回はたまたま、相手が悪かっただけです」

「そりゃあどうも。お互いに、今回は味方同士で助かったなあ?」

 

 キャスターの方は絶賛反抗期もかくや、といった様相だった。実際の力量差は不明ではあるものの、見た限りでは精神的にはアヴェンジャーのほうが上手なようである。

 

「にしたって、あの状況で敵に背を向けるのは、豪胆と褒めれるもんじゃあねぇな」

「ええ、確かに、貴方の殺気は本物でした。けれどそれは、母個人に向けられたもの(・・・・・・・・・・・)であって、決して、我が子に向けられたそれ(・・・・・・・・・・・)ではありませんでした」

「その推測が外れる可能性は考慮しなかったのか?」

「その時は潔く、されど執念深く。子を守る為の盾となり矛となる覚悟でおりました」

「賛同はしかねる理論だな。命を賭して主を守ろうとする気概は認めるが、それは尽くせる手段を尽くしてから選択するもんだろう?手前が死んだら、その後の主の面倒は誰が見るってんだ?」

「それは、貴方のように生まれながらにして英雄とされる存在にのみ通用する理論です。手段を巡らす暇も与えられずに、暴虐の憂き目に遭うしかなかった者にとっては、始めから差し違える覚悟でおらねば、守りたいものを守り通す事など到底できません」

 

 そう語る二人の英霊の価値観や立場、置かれていた状況はきっと、真逆と言ってもいいほどに違うのだろう。けれど、どちらの意見も、私には酷く重く響いた。

 

「それと我が子」

「なっ、何?」

 

 心の底から湧き上がった陰鬱な感情に気を取られ、完全に虚を突かれた私は、アヴェンジャーの優しくも厳しい視線に閉口する。

 

「背に隠した左手を見せなさい」

 

 そうして鼓膜を震わせた窘めるような声音は、泣きたいくらいの寂寥感と共に、私を咎めて離さなかった。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

「戦場において鮮血とは蜜のようなもの、戦うモノに否が応にも興奮をもたらします。特に此度の様に狂った戦場では尚の事、魔の物は血の香に敏感に反応するように出来ているのですから。無用な争いを招かぬ為には傷付かぬ事が肝要です」

 

 マスターの左手に巻かれた赤いスカーフを丁寧な手つきでほどきながら、滔々と語ったアヴェンジャーの言う事は、正しいだけに不気味だった。

 

(その血に喚ばれたアンタは何者だってんだ)

 

 今のところ、敵対の意志は見せていないが、女って生き物は大なり小なり狡猾に出来ている。それがいけないとは言わないが、用心するに越したことはないだろう。

 

「キャスター」

「なんだ」

「我が子の傷を癒して下さりませんか」

「……なんでオレが?」

 

 その問いに、アヴェンジャーは傷口を眺めたまま口を開いた。

 

「口惜しい事に、母はこの傷を癒す事が出来ません」

 

 マスターの手から溢れた血が、アヴェンジャーの手の甲を伝い滴り落ちる。

 

「……分かった」

「感謝いたします」

 

 アヴェンジャーと場所を変わり、マスターの左手に回復のルーンを刻みながら、分かった事を整理する。少なくとも、アヴェンジャーには他者の傷を癒す術はなく、マスターの能力は致命傷にしか反応しないようだった。

 

「こんなとこか」

「ええ、支障はないわ。魔術ってほんと不思議ね」

 

 完治した左手を何度か開閉したマスターは、その表情を少しだけ愉しげに緩めた。

 

「コホン。話が済んだのなら、どこか安全なところに移動しましょう。ここじゃあ落ち着かないわ」

「そうですね。ドクター、わたしたちの居る今の位置から、一番近くにある。頑丈そうな建物は何処になりますか?」

「頑丈そうな建物って言われてもなぁ……あっ、学校」

「あ~、そういや近くだな」

 

 わざとらしく咳き込んだ白髪の女の提案に、堅実的な意見を述べた盾のお嬢ちゃんと、軟弱男の会話に、学び舎の存在が浮き彫りになる。

 

「キャスター、知ってるの?」

 

 すると、そんなオレの発言が意外だったのか、傍らでこちらを見上げる黒曜の瞳が、微かに見開かれた。

 

「まぁな。安全かどうかはさておき、オレのクラスには、お誂え向きだろうよ。尤も、オレのやり方には向かねぇんだが……どうするかはアンタが決めな」

「決まってるでしょそんなの、場所が分かるのなら案内を任せます」

「オレはマスターに聞いたんだけどな」

「なっ、わたしは貴方のマスターの上司よ、上司!!」

 

 いや、それお前さん向いてねぇぞ。いろいろと

 

「こりゃあ、また難儀なのを上司に持っちまったな。マスター?」

 

 押し黙ったままのマスターに同意を求めるも、彼女は心ここにあらずという感じで、整った顔を曇らせている。

 

「先輩、大丈夫ですか?」

「ちょっとロマニ、きちんとバイタルチェックはしているの?彼女の顔色、通常より良くないわよ」

「えっ!?あ……うん、これはちょっとまずいね。突然のサーヴァント契約だったからなあ……恐らく、使われていなかった魔術回路(しんけい)がフル稼働して、脳に負担をかけているんだろう」

「ならば、休息が必要ではなくて?」

 

 再び被り布で顔を隠したアヴェンジャーが、その薄布越しにこちらを見やる。

 

「はいはい、わぁったよ。案内すりゃあいいんだろ?」

 

 その視線を振り切るように、オレは杖を消すと同時に漆黒の少女を抱き上げる。そしてお互いに眉を顰める事となった。

 

「何してるのかしら?キャスター」

「何って途中で倒れられたら面倒だからよ、にしても予想以上に軽いな」

「見た目ほどヤワじゃないわよ。私」

 

 その表情を忌々し気に歪めてマスターは文句を言うが、今の彼女が放つには余りに説得力に欠ける言葉である。

 

「キャスター、貴方に悪気はない事は分かりますが、女性に対して断りもなくそういう事をするのは、褒められるような事で――――!!」

 

 そんなオレに対するアヴェンジャーの非難の言葉は、形になるより先に驚愕の表情へと塗り替わった。

 

「どうかしたの?」

 

 怪訝そうなマスターの問いには答えずに、アヴェンジャーは一度だけ後方の空を仰ぎ見ると――

 

「……………………この気配。つくづく、この身に流れるは、不幸の因子とみえる」

 

 感傷的に激した。

 

「アヴェンジャー?」

「いえ、なんでもないわ。母は我が子を守るだけよ」

 

 少しだけ不安そうに己を呼ぶマスターへと振り返ったアヴェンジャーは、何かを決意するように、オレの腕の中で浅い呼吸を繰り返す少女の頬を撫でる。

 

「……………………例え、己が血筋に仇なす事になろうとも」

 

 地を這うような声音で告げられたその言葉に、腕の中の黒曜が静かに揺らいだ。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

「どう、いう意味?」

 

 私にしては酷く震えた声だった。それがどんな感情から生じた震えかなんて、分からなかったけれど、何かとても恐ろしい事が起きようとしているのだ。という予感があった。

 

「――!!悪いけど、話はそこまで!!みんな直ぐに移動するんだ!!」

 

 しかし、焦燥した様子のドクターの叫びに、私の質問は上書きされる。

 

「ええ、話は移動しながらにしましょう。失礼を、オルガマリー」

「えっ?ちょっと、なんで私まで抱きかかえられているの!?」

「暫し、口を閉じていなさい。舌を噛んでも知りませんよ」

 

 急展開に狼狽える所長を、厳しい声音で叱咤したアヴェンジャーは、キャスターと目配せを交わすと同時に走り出し――

 

「お嬢ちゃんも、はぐれねぇように、しっかり付いて来い!!」

「分かりましたっ!!」

 

 キャスターの掛け声に、一瞬遅れながらも、マシュが並走する。

 

 ここまで緊迫した状況となれば、熱に浮かされたように働かない頭でも予測は立てられた。

 

『敵はライダー?』

『流石に、聡いな。話す手間が省けて助かる』

『そんな事は今どうでもいいでしょう。で、どうするの?』

 

 本音を言うなら、何故仕留めていないのか?を問いたいところだが、そうして彼を責められる状況でも立場でもない事は分かっているので、私はそれ以上の言葉を噤む。

 

『取り敢えずは見つからねぇ事が一番なんだが、場所が悪かったな』

『……そのようね』

 

 苦々し気なキャスターの口調に、私は後方で迸る、とてつもなく大きな光源を視認する。瞬きのうちに、翼の生えた巨大馬のような形となったそれは、まだこちらには気付いていないようだが、条件の悪い事に、今の私達が駆ける道に、これと言った遮蔽物はなく、見つかるのが時間の問題であるのは明白だった。

 

「キャスターさん!!敵サーヴァントの真名は、ご存知ですか!?」

 

 並走するマシュが、表情を硬くしながらも、闘志を絶やさぬ瞳で、キャスターへと問う。

 

「ありゃ、ギリシャ神話に名高い女怪メドューサだ。クラスは見ての通りの騎兵で、騎獣は奴の子である有翼の早馬(ペガサス)。神獣クラスのバケモンだ」

「……なるほど。女性のようだから、ペルセウスにしては可笑しい。とは思ったけれど、まさか母親のほうだったなんて……厄介そうね」

 

 メドューサとはまた、なかなかのビッグネームである。神話において、彼女を討ち倒したのは半神の英雄だが、その彼をしても、神々の助力なしでは危うかった。というような描かれ方をしているというのに、コレ勝てるの?詰んでない?というか、そんなメドューサを負かしたという、まだ見ぬセイバーは何者なわけ?

 

「安心なさい、我が子。力量はどうあれ、母親としてならば、母のほうが強いわ」

「まぁ、アレだ。槍兵クラスじゃあねえのが惜しいが、魔物殺しなら得意分野だからよ」

 

 そんな私の心中を知ってか知らずか、アヴェンジャーは気高さの滲む微笑みを浮かべ、キャスターに至っては、あのメドューサを蜥蜴か蛇ぐらいの脅威にしか見ていないかのようだった。なんなのこの人達、英霊ガチ勢かよ。

 

「あっ、あなたたちねぇっ!!そんな余裕たっぷりに話してないで、早くアイツをどうにかする算段を――ヒィッ!!」

 

 どうやら所長も同じ感想を抱いたようであったが、彼女は涙目で喚きながら後方を振り返ると、引き攣った悲鳴をあげて、そのまま気を失ってしまった。

 

 と同時に、後方から微かではあるが、確かな重圧を感じる。まさか、所長――

 

「チッ、気付かれたか、奴の目には石化の効力がある。オレたちだってアレは、それなりにヤバいんだ。マスターは絶対に振り返るんじゃあねぇぞっ!!」

 

 メドューサが何故恐ろしい怪物と名高いのか、その最たる理由に挙げられるのが、見たものを石に変えてしまうとされる、その瞳であろう。

 

 並走するマシュも、その事に思い当たったのか、白皙の顔が青くなっている。

 

「……キャスター、母に考えがあります。ただし、それは命がけです」

 

 そんな絶望的な空気を裂くように、アヴェンジャーが覚悟を感じさせる声で、ある提案を投げた。

 

「……ハッ、いいんじゃねえの?賭け事は賭け金(リスク)が多いほうが燃えるってもんだ」

「……貴方なら、そう言って下さると思いました」

 

 吐き捨てるように返したキャスターに、アヴェンジャーは感謝するように目を伏せる。

 

「ですがっ!!それじゃあ!!」

「盾のお嬢さん、貴女には我が子の盾になって貰わねばならないの……ごめんなさいね」

 

 対してマシュは、今にも泣き出しそうに顔を歪め、アヴェンジャーは諭すような優しい口調で彼女を宥めた。

 

「だからと言って、独りでアレを相手取るとはどういうつもり?」

「身を呈して子を守るのは母の責務よ」

 

 何を当たり前の事を(それが答えだ)。と言うかのようなアヴェンジャーの真剣な表情に、思わず私も言葉を失う。

 

「あ~、さっきから聞いてりゃ、今生の別れみたいな雰囲気出しやがって」

「キャスター」

「悪いなマスター、オレがランサーならもっと楽に済んだし、アンタの事も不安にさせなかったんだがよ……つくづく、槍が欲しいぜ、まったく」

 

 キャスターの私を抱く手に力がこもる。それは腕が鬱血しそうなくらいだった。

 

「まあ、なんだ。アンタの母ちゃん(・・・・)は、オレが責任を持って、アンタのとこに返してやるからよ。だから泣くなや、な?」

「……いつ、私が泣いたんです?心配してくれた事については素直に感謝をしますが、あまり私を失望させないで下さいね?キャスター」

「うっわ、絶妙に可愛くねえ」

「そんな事はありません!!キャスター!!我が子はとっても可愛い娘です!!前言は撤回して下さい!!」

「ああもう!!私の顔面偏差値とか性格云々については、この際どうでもいいから!!」

 

 私は笑う。不器用ながらも精一杯に

 

「*****」

 

 その言葉を合図に、キャスターは十字路の手前で火球の弾幕を張る。そうして私達は左へと進み、アヴェンジャーだけが(・・・・・・・・・・)直進した。




 ちょっと文字数が少なくなってしまった事が不満点ではありますが、ようやく、母と娘(仮)が出会った!!長かったわぁ~(作者が言うなよという感じですが)

 早い人は既にアヴェンジャーの真名にアタリをつけたかもしれませんが、彼女の真名及び能力が知れるのは、まだ少し先になります。(序章のクライマックスで、真名バレそのものと言えるような宝具の展開を予定しております)

 尚、アヴェンジャーのキャラ付けには作者なりの手心を加えてはいますが、元ネタから大幅に逸れる事はありません。

 そして非常に申し訳ない事に次話の投稿日時は未定です。(最低でも今月中には投稿したいと考えてはいます)

 *おまけ
 和名ではカミツレというカモミールですが、マザーハーブ(母の薬草)と呼ばれる事もあるそうです。
 花言葉は 逆境に耐える。あなたを癒す。など、精神的に逞しい印象がありますね。
 但し、この物語においては毒の効いた皮肉かもしれません。

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