Fate/GrandOrder ~憎悪と慈愛と復讐の救済を~   作:三枝 月季

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 初の二次小説です。どうぞ、よろしくお願いいたします。


プロローグ
始まりの悪夢


 

 視界を埋め尽くす強烈な過去を前に、私の心は可笑しいくらいに凪いでいた。

 

 ――また、この夢か。

 

 もう飽きるほどに繰り返し見てきたその光景は、年々、酷さに拍車がかかっているような気がする。

 

 それは、まるで“忘れる事を許さない”と言われているかのようだ。

 

 ……はっ、一体、誰に?

 

 導き出された答え(自覚)に、感情が冷めていく。そのまま、深淵へと引き摺られそうになった私の意識を押しとどめたのは、足元へと転がって来た惨状(過去)だった。

 

 “それ”を拾い上げれば……悲しいかな、自然と口角が上がってしまう。

 

 死なない限り、私は何度もこの光景(過去)を見せられ、同時に、この光景(過去)に生かされるんだろう。

 

 ああ――、なんて優しい呪いだろうか。

 

 私はどこまでも“それ”を恐れ、“それ”を望むだろうに――

 

 ふっ、と自嘲的な笑みが浮かぶと同時に、身体の感覚が緩む。

 すると、それが合図となったのか、自然と腕から過去が零れ落ちていった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォウ……?キュウ……キュウ?」

 

(……何かが近くに居る……?)

 

「フォウ!!フー、フォーウ!!」

 

(……いま、頬を舐められたような……)

 

 夢からは醒めたというのに、未だに私の目は覚めず、暗闇の中を彷徨っていた。傍らで蠢く生き物が、いったい何なのかは分からないが、寝ている婦女子の顔を舐めるような、気違いな人間ではない事を願いたい。

 

「……あの。朝でも夜でもありませんから、起きてください、先輩」

 

 ふと、言葉にならない声しか聞こえなかった私の耳に、突如としてハッキリと聞こえたのは、可憐な少女の声だった。

 

 その声に、どこか背中を押されるように重い瞼を押し上げれば、人工的な光が容赦なく瞳を焼き、呻きながら上体を起こした私は、瞬きを繰り返しながら辺りを見回した。次第に、ゆっくりと視力が戻って来る。そして、息を吹き返した私の視界に映った光景は、先程の夢とは、どこまでも対照的なものだった。

 

 目の前に広がる回廊は、一目で見てわかるほどに衛生的で美しく、明かりに満ちている。先進的な病院のような印象と、まだ真新しい匂い。それは、夢の余韻を振り切るには丁度いいくらいに皮肉の効いた光景で、私は思わず苦笑をこぼした。

 

「ここは……?」

「はい。それは簡単な質問です。たいへん助かります。ここは正面ゲートから中央管制室に向かう通路です。より大雑把に言うと、カルデア正面ゲート前、です」

 

 無意識に口に出した疑問に、予想をはるかに上回る丁寧さで説明責任を果たしてくれたのは、私を目覚めさせた声――

 

 まるで、導かれるように声のした方へと目を動かせば、どこか緊張した面持ちの美少女と視線が交錯する。やや紫がかったボブヘアに、視力が悪いのか眼鏡をかけているが、そのレンズ越しでも分かる。長い睫に彩られた瞳は紫水晶(アメジスト)のように美しく、日に当たったことがないのか?と思ってしまうくらいに白く美しい肌からは、どこか人間離れしたものすら感じられる。服装は制服のようなものの上に、白いパーカーという簡素な出で立ちであるというのに、それが不思議と彼女にしっくりときていた。

 

 すると、同性の私ですら見とれるレベルの美貌の持ち主は、やや、不自然さの残る視線の逸らし方をした。

 

「ああ、そっか。そう言えば、ここはそんなところだったね」

 

 不躾に見つめすぎた事を、心の中で悔い謝りながら、少女の懇切丁寧な説明のおかげで、混乱することなく、自身の置かれている状況を理解した私は、とりあえず起き上がる事にする。

 

 くぁあ~と、無防備に過ぎるだろう大きな欠伸とともに身体を伸ばせば、身体の節々が小気味の良い音をたてた。

 

「……コホン。どうあれ、質問よろしいでしょうか、先輩」

 

(あっ、やばい)

 

 美少女の前で醜態を晒してしまった事に気付くも、これでは後の祭りである。

 

「何かしら?」

 

 努めて冷静を装い少女を促せば、心なしか逡巡するようなそぶりで、形の良い唇が開かれた。

 

「お休みのようでしたが、通路で眠る理由が、ちょっと。硬い床でないと眠れない性質なのですか?」

 

(……真剣な表情をするものだから、何事かと思えば、そんなことか)

 

 肩透かしを食らった気分で少女を見れば、至極真面目な顔で私の答えを待っているのが分かり、ほんの少しではあるが、意地悪をしたい気分になってしまう。

 

「実はそうなんだ。畳じゃないと、ちょっとね」

「ジャパニーズカーペットですね。噂には聞いていました。なるほど……なるほど」

「フォウ!!キュー、キャーウ!!」

「……………………」

 

 冗談が通じていないのか、私が冗談を言っていると理解したうえでの切り返しなのか、イマイチ判断のつかない子である。

 

 どちらにせよ、誠実そうな印象の通り、品行方正な優等生タイプだろう。悪い子ではなさそうだ。だからといって、仲良く出来るという保証はないのが、人の世の常ではあるのだが。

 

「……あの、それはそうと、取り敢えず先程から忙しなく鳴いておられる。そちらの小動物についてのご説明を願えますかね?」

 

 加えて、今現在の私の興味関心は、彼女よりも、彼女の足元を動き回る、見たことのない白い小動物へと注がれてしまっているのである。大きさは小犬くらいだが、どこからどう見ても犬ではない。

 

 そして、なぜだが、そんな不可解さがどうしても気になってしょうがないので、又しても彼女に説明を頼んだら、きょとんとした表情の後に、少女は、どこか恥じ入った様子で口を開いた。

 

「……失念していました。あなたの紹介がまだでしたね、フォウさん」

「フォウさん?」

「こちらのリスっぽい方はフォウ。カルデアを自由に散歩する特権生物です」

「へっ、へぇ~。って特権生物!?」

「わたしは、フォウさんに此処まで誘導され、お休み中の先輩を発見したんです」

「フォウ。ンキュ、フォーウ!!」

 

 彼女の紹介に、フォウと呼ばれた小動物は、己を誇るかのように高らかに鳴いた。小生意気な態度だが、可愛いは正義である。

 

「ふぅん?じゃあ、お礼を言っておかないと」

 

 何より、可愛い小動物とは是非とも触れ合いたい。と思ってしまう心理は、ある種の女性特有の性ではなかろうか?

 

「あっ……」

 

 ……が、彼?にそんな気はなかったようで、私の手からやすやすと逃れると、捨て台詞の様に一声鳴いて、走り去ってしまった。

 

「……またどこかに行ってしまいました。あのように、特に法則性もなく散歩しています」

「……不思議な生き物」

「はい。わたし以外にはあまり近寄らないのですが、先輩は気に入られたようです」

「あら?それは光栄ね?」

「おめでとうございます。カルデアで二人目のフォウさんのお世話係誕生です」

「……あー、それはちょっと、複雑な感じがする」

 

 と言うか、触らせてくれないのに世話をしろ。というのは、労働基準法違反では……?

 

「……………………」

「………………………………」

「!!そう言えば、自己紹介がまだでしたね。わたしは、マシュ・キリエライト。カルデアのマスター候補者の一人です」

「ん?ああ、確かに、身元を明かしていなかったね。私は――」

 

 フォウがいなくなり、どことなく気まずい雰囲気になりかけた空気を裂いたのは、礼儀正しい彼女の機転だった。

 

 しかし――

 

「ああ、そこにいたのかマシュ。駄目だぞ、断りもなく移動するのはよくないと――おっと、先客がいたんだな。君は……そうか、今日から配属された新人さんだね」

「………………………………」

 

 確かな悪寒と共に、私の名乗りは、突如として湧いて出た無粋な闖入者によって、遮られたのだった。

 

「私はレフ・ライノール。ここで働かせてもらっている技師の一人だ。君の名前は……?」

「…………イモリ・セツナと申します。お見知りおきを」

 

 マシュへと言うはずであった名乗りを、レフと名乗った男性へと返せば、彼は私を品定めでもするように、視線を彷徨わせた。

 

「ふむ、セツナさんと。招集された48人の適性者、その最後の一人というワケか」

「……………………」

「ようこそカルデアへ。歓迎するよ」

「……どうも」

「一般公募のようだけど、訓練期間はどれくらいだい?一年?半年?それとも最短の三ヶ月?」

「……ご想像にお任せします」

「おや、早くも競争意識に目覚めたのかな?他のライバルたちに向けて情報は隠匿するのかい?」

「まぁ、そんな感じです」

「レフ教授。イモリさんの訓練期間は数時間レベルです。単に恥ずかしがっているだけかと」

 

 ええと、マシュ?フォローありがとう。だけどやめて、ホントに恥ずかしいじゃないか。

 

「おや。それは……そうか、数合わせのために緊急で採用した一般枠があったな」

 

(……数合わせ、ね)

 

 それは分かっていたことであり、またその程度の事実を言われたからといって、簡単に傷心してしまえるような、脆弱な精神など持ち合わせてはいないが、本人を目の前にして普通、そんな事を平然と言うものだろうか?

 

「君はそのひとりだったのか。申し訳ない。配慮に欠けた質問だった」

 

(あっ、コイツ確信犯だわ。タチ悪いわ)

 

 黙っている私の心境を汲んだのだとしても、勘に障る気遣いを見せる男である。

 

「いいえ、謝っていただくほどの事では――」

「けど、一般枠だからって悲観しないでほしい。今回のミッションには、君たち全員が必要なんだ」

 

(話は最後まで聞こうよう。イラつくなぁ)

 

 おかげで、私としては非常に珍しいことに、引き攣った笑顔を作ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 輝かしい栄光そのものであるような回廊に、三種類の足音が響いては消えていく様子を、私はどこか、他人事のように静聴していた。

 

 右隣の悠然とした低音と、左隣の少し浮き足立った高音。そして、残った一つが、両音に挟まれる形で、時計の針のように規則正しく響く、酷くつまらない私の音である。ああ、本当に、どうしてこうなってしまったのか――

 

「……魔術の名門から38人、才能ある一般人から10人……適性者すべてを、カルデアに集められたのだから」

「はぁ」

 

 予想外の人物を迎えての自己紹介が済んでからというもの、右隣の件の彼(レフ教授)は、想定外な情報を私に教示し続けている。親切にして頂けることに悪い気はしないのだが、ぶっちゃけ、ありがた迷惑感は拭えない。

 

 これは持論なのだが、人には一を聞いて一を返して欲しい人種と、一を聞いたら十にして返して欲しい人種がいると思う。因みに私は前者だ。聞いたことにも、聞かれたことにも、労力を割いて受け答えをするタイプではないし、知りたい事や、知るべき事も、シンプルであるほうが好ましい。まぁ、恐らく、彼は後者なのだろうが。

 

「わからない事があったら、私やマシュに遠慮なく声をかけて……おや?」

「今度はどうされました?」

 

 やっと解放されるかと期待していた矢先、面倒なことに、レフ教授の知的好奇心に新たな獲物がかかってしまったようである。ため息を吐きたくなるが、左右両方から視線を感じるために、それもままならない。今更ながら、位置取りをしくじったことに気付き、口調にもほんのりと毒気が混じってしまう。

 

「そういえば、彼女と何を話していたんだいマシュ?らしくないじゃないか。以前から面識があったとか?」

 

 そんな私の様子に気付いているのか、いないのか、どちらにせよ、気にした素振りを微塵も感じさせずに、レフ教授は私越しにマシュへと話かけた。

 

 彼の言を受け、私も思わずマシュへと視線を向ける。この人間観察が趣味のような男が“らしくない”と評した。彼女の言動の背景に、興味を覚えたから――

 

「いえ、先輩とは初対面です。この区画で熟睡していらしたので、つい」

「熟睡していた……?彼女がここで?」

「…………………………」

「ああ、さては入館時にシミュレートを受けたね?霊子ダイブは慣れていないと脳にくる」

 

 脳にくる。とは、これまた物騒な話である。途端に、此処での新生活が不安になってくるぐらいには。と同時に、廊下に転がっていた得体の知れない女に、親切に出来る彼女の器量に舌を巻く。私だったら、確実に無視している案件である。

 

「シミュレート後、表層意識が覚醒しないままゲートから開放され――君が倒れたところで――医務室まで送ってあげたいところなんだが……すまないね、もう少し我慢してくれ。じき所長の説明会がはじまる。君も急いで出席しないと」

 

 指摘されてしまったことで、頭痛と倦怠感を意識し始めた私の横では、相変わらずの教授の弁舌が光る。まぁ、当たり前の様に、その殆どを聞き流していた私ではあるが、取り敢えず――

 

「説明会……?」

 

 聞き捨てならない言葉があったぞ?

 

「はい、先輩と同じく、本日付で配属されたマスター適性者の方達へのご挨拶です」

「ようは、組織のボスから浮ついた新人たちへの、はじめの挨拶(しつけ)ってヤツさ」

 

(あー、どこの世界でもそういうのってあるんだな~面倒な事この上ないわ~、サボりたい)

 

 と、一瞬にしてスイッチが傾いた私の惰性を感じとったのか、視界の端ではマシュが苦笑を浮かべ、教授の表情は怪訝なものへと変わった。

 

「……コホン、あの、それって欠席は出来ないんでしょうか?」

 

 失態は早めに取り返すに越したことはない。特に、こういった手合いと組織の前ならば、尚更である。よって、私は正直に、出席したくない。と、婉曲に意思表示する。

 

「それは、よっぽどの理由がない限り、認められないだろうな。所長は些細なミスも許容できないタイプだからね、ここで遅刻でもしたら、一年は睨まれるぞ」

 

(些細なミスなら許容していただきたいなぁ。と思う私は、もしかしなくても、社会不適合者なんだろうな~)

 

「五分後に中央管制室で説明会がはじまる。この通路を真っ直ぐ行けばいい。急ぎなさい」

「……分かりました」

 

 自慢じゃないが、私は諦めが早く、聞き分けの良い子なのである。それに、望んだ結果が得られなかったからといって、駄々を捏ねるほどに子供でもない。加えて、シミュレートを終えた今、たかが説明会に、万全な状態で出席する必要性は、高くないようにも思えた。

 

「レフ教授。わたしも説明会への参加が許されるでしょうか?」

 

 すると、静かに私と教授の動向を伺っていたマシュが、控えめに進言した。

 

「うん?まあ、隅っこで立っているぐらいなら、大目に見てもらえるだろうけど……なんでだい?」

「先輩を管制室まで案内するべきだと思ったのです。途中でまた熟睡される可能性があります」

 

 てっきり私は、説明会にはマスター候補者全員の出席が義務付けられているのだ。と、思っていたのだが、レフ教授の言を聞く限り、そうでもないらしい。レフ教授ほど専門的ではないにしろ、カルデアについて、私に語れるだけの知識を得ていることを鑑みるに、マシュが此処に来たのは最近のことではないのだろう。であれば、彼女が説明会に出席したところで、得るものはそう多くはない。と、言われても頷ける。今回の打診は単に、彼女の優しさがなせる(わざ)なのだから、まぁ、前半部分は素直にありがたいのだけれど、後半部分に関しては、私って、そんなに信用がないのか?と暗くなってしまう内容ではある。

 

「……君をひとりにすると所長に叱られるからなぁ……結果的に私も同席する、という事か」

 

 ん?その理屈はよく分からないし、ぶっちゃけ、貴方には同行されたくないよ。レフ教授。

 

「まぁ、マシュがそうしたいなら、好きにしなさい。君もそれでいいかい?」

 

 あ~、なんかこれあれだ。拒否出来ない流れだ。うん。ってことで頷いておこう。

 

「他に質問がなければ管制室に向かうけど。今のうちに訊いておく事はある?」

 

 これから説明会があるのというのに、ここで質問をしては、説明会に出席する意味が、根底から揺らぎかねないと思うのだが……かと言って、マシュの手前。レフ教授が慮ってくれたというのに、何も聞かないのは、印象が悪いだろう。

 

 この男にどう思われようと、個人的にはどうでもいのだが、折角、知り合えた同世代の女の子と、この場限りの関係で終わってしまうのは惜しい。

 

「ところで、貴女は何故、私を先輩と呼ぶんですか?」

「……………………」

 

 しかしながら、私と言う女は口下手のコミュ障なもんだから、言葉選びも上手く出来ないのである。おかげで、思った以上にぶっきらぼうな聞き方になってしまった。

 

 驚いた表情のマシュの無言(絶句)に、心が痛む。

 

「ああ、気にしないで。彼女にとって、君ぐらいの年頃の子は、みんな先輩なんだ」

「はぁ」

 

 マシュへの問いかけに、どうしてか、レフ教授から答えが返る。疑問点は減らない。私と彼女では明らかな人種の差もあり、実年齢はどうあれ、見た目では、彼女のほうが幾らか大人びて見えるような気もするのだが――

 

「でも、はっきりと口にするのは珍しいな。いや、もしかして初めてかな。私も不思議になってきたな。ねえマシュ、なんだって彼女が先輩なんだい?」

 

 まぁ、考えても、それは第三者の主観でしかない為、やはり、本当のところは当人の言を仰ぐ他ないと言える。

 

 そして、肝心の当人は、私とレフ教授の追及にたじろぎながらも、口を開いたのだった。

 

「理由……ですか?彼女は今まで出会ってきた人間の中で、一番、人間らしいです」

 

 ………………は?いや、ちょっと待ってよ。私が人間らしい(・・・・・)

 

 なんだ、それ。それじゃあ、つまり…………今まで、マシュの周りには人間がいなかった(・・・・・・・・)のか?

 

 予想だにしていなかったマシュの発言に、私はただ、ただ瞬きを繰り返し――

 

「ふむ。それは、つまり?」

 

 声の出ない私の意を汲んだかの様に、レフ教授がマシュへとその真意を問うのを、どこか他人事の様に見つめる事しか出来ない。

 

 それぐらい、マシュの言葉は、私にとって衝撃的だった。

 

「まったく脅威を感じません。ですので、敵対する理由が皆無です」

 

 確かに、マシュと比べてしまうと、貧弱な胸ではあるけどもね……って、そう言う事ではないか、ないよな?

 

「なるほど、それは重要だ!!カルデアにいる人間は一癖も二癖もあるからね!!」

 

 いや、貴方がそれを言いますか、レフ教授。

 

「私もマシュの意見には賛成だな。彼女とはいい関係が築けそうだ!!」

 

 ごめんなさい。こういうとき、どんな顔をすればいいか、わからないの……

 

「……レフ教授が気に入るという事は、所長が一番嫌うタイプの人間という事ですね」

 

 そしてナチュラルに爆弾を投下してくれるね、マシュちゃん。これ以上、私のライフを削るのはやめようか?ね?

 

「…………あの、このままトイレにこもって説明会をボイコットする。というのはどうでしょうか?」

 

 恐らく、この時の私は相当酷い顔をしていたのだろう。私の無言の圧力に、マシュが焦ったように打開策を提案するくらいには。

 

「ナイスアイデ――」

「それじゃあ、ますます所長に目を付けられる。ここは運を天に任せて、出たとこ勝負だ」

「……………………………」

「虎口に飛び込むとしようか。なに、慣れてしまえば愛嬌のある人だよ」

 

 この瞬間に確信した、だから断言できる。

 

 私はレフ教授(この男)が嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間に合いました。ここが中央管制室です。先輩の番号は一桁台、最前列ですね」

 

 マシュとレフ教授に案内されて、私は組織(カルデア)の中枢へと足を踏み入れた。そして、改めて気付くことになる。一見した限りでは医療機関のように洗練されたこの施設が、どれだけデタラメな所なのかを――

 

「こんな時に、変な運が働くのはなんでなんだろう」

 

 まぁ、私の運の悪さは今に始まったことじゃないんだけど。

 

「一番前の列の空いているところにどうぞ。……先輩?顔の色が優れないようですが?」

「あ、いや何でもないよ?ただ……眠い……すごく眠い」

「シミュレーターの後遺症ですね。すぐに医務室にお連れしたいのですが……」

 

 申し訳なさげに尻すぼみになったマシュの声と共に、会場のざわめきが次第に落ち着いていく。身体を襲う倦怠感に顔を上げられずにいる私でも、この場にいる人間の関心が、一点に集約されていく気配を察する事は可能だった。

 

「…………」

「無駄口は避けた方がよさそうだ。これ、もう始まっているようだからね」

 

 いつの間にか、傍らに立っていたレフ教授の声に、重い顔を上げれば、参加者よりも一段高い場に立つ、気の強そうな、ともすれば、気を張ったような顔付きの、マシュとは異なった系統の造形美を持つ若い女性と視線がかち合う。

 

 彼女はそのまま、私の全身を頭の先からつま先へとねめつけてから視線を外すと――

 

「時間通りとはいきませんでしたが、全員そろったようですね」

 

 良く通る声で、暗に私を責めながら、説明会を開会させたのだった。

 




 言い忘れていましたが、当方、Fateシリーズはもとより、型月作品は初心者でございます。アニメ媒体とFGOで齧った程度の知識量でございますれば、諸先輩方からすれば邪道な見解をしていると思われかねない部分もあるかと思います。できるだけ、原作と乖離しすぎない作品に仕上げていきたいとは思っておりますので、何卒、ご教授頂ければ幸いです。

 その他、感想や誤字・脱字の報告などの、ご指摘もご遠慮なく!!


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