割と先の方まである程度ストーリーは固まってますから。
初めての闇里家家族会議から3日後。
私とヴァーリとガブリエルさんからなる『クレイドル選抜メンバー』は、リアス達グレモリー眷属と一緒に、冥界に来た時と同じグレモリー家のプライベート列車に乗って移動していた。
リアスは前と一緒で前の車両に乗っていて、朱乃と裕斗とギャスパー君が私達と同じ車両に乗車している。
今回の目的は、リアス達が出席する若手悪魔達の会合に私達がクレイドルの代表として一緒に出席する事。
正直言って、会合なんて仰々しいイベントは生まれて初めてなので、今から緊張しまくってます。
けど、それ以上に問題なのは私達の今の恰好な訳で……
「リアスも先程言ってましたけど……凄く似合ってますわ…♡」
「違和感が全く無いですね……」
「す…素敵ですぅ~…」
なんでか、今の私は黒いレディーススーツを着ている。
これは出発する少し前にヴェネラナさんとグレイフィアさんが『こっちの方がリーダーとしての威厳があっていい』と言って貸してくれた物。
私は学校の制服でいいと言ったのだが、その訴えは速攻で却下されて、次の瞬間には二人がかりでこの恰好に半ば無理矢理に近い形で着替えさせられた。
ご丁寧に、お揃いのハイヒールまで用意してたしね。
別にハイヒール自体は何気に他の衣装で履きなれてるからいいけど。
その時、何気にリアスや朱乃、我が家の女性陣も加わっていたことが少しだけショックだった。
私が着替え終わった後、全員が揃ってサムズアップしてやがったし…!
「貴女って本当に高校生?こうしてると、どう見てもキャリアウーマンにしか見えないわよ?」
「それだけマユさんが大人びていると言う事でしょう」
なんて言っているヴァーリとガブリエルさんの二人も、私と同じようなスーツを身に付けている。
ヴァーリは白龍皇と言う事もあって、清潔感のある白いスーツ。
ガブリエルさんは薄いピンクのスーツを着用している。
ヴァーリは最初、ハイヒールに苦戦してたっけ。
「なんだか、凄腕の女社長と、その秘書二人って感じですぅ~…」
「アンタ……人見知りのヒキコモリの癖に、中々言うじゃない…」
最近になってギャスパー君は口数が増えてきた。
思った事が口に出るようで、結構ズバッ!と言ってくるけど。
「10代にして大人の魅力に溢れているって、もう一種のスキルよね」
「そう言うヴァーリさんは、なんだか背伸びしている女の子に見えますけどね」
「う…うっさいわよ!ガブリエル!」
……この二人って、実は思っている以上に仲がいい?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
列車に揺られる事、約3時間。
私達は魔王領である『ルシファード』と呼ばれる都市の駅に到着した。
なんでもここは、初代魔王ルシファーがいたと言われている冥界の旧都市であるらしい。
つまり、私から見れば義理の父親の故郷になるわけだ。
ま、これ全部が朱乃の受け売りなんですけどね。
「次は地下鉄に乗り換えるわよ。皆ついて来て頂戴」
リアスが先導する形で駅の中を進んでいく。
すると、構内にいた悪魔達が一斉にリアスの方を見て大きな歓声を上げる。
その途端にギャスパー君が私の後ろに即座に隠れたけど。
「現魔王の妹と言う事もあって、リアスは下級や中級の悪魔達からは尊敬をされていますのよ。こう見えても」
「一言余計よ!朱乃!」
「あら?ごめんあそばせ」
絶対に態とだな。
手で隠しているけど、朱乃の口が笑ってるもん。
「ん?」
リアスを見ていた悪魔達がこっちを見て急に静かになった。
な…なんか気まずいぞ……。
「ど…どうしたんだ…?彼らは……」
「あぁ~…これは……」
「来ますね」
「え?何が?」
なんだか悟ったような表情で、ヴァーリとガブリエルさんは黄金の耳栓を身に付けた。
って!それって前にギルがレーティングゲームの時に出した耳栓じゃん!
なんで二人がそれを持ってるの!?
しかも、しれっとリアス達も耳栓つけてるし!
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!赤龍女帝さまぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
「うおっ!?」
こ…声がソニックブームになって耳に襲い掛かって来た…!
こ…鼓膜が痛い…!
「うぉぉぉぉぉぉ!!生で見ると、すっげー美人だ!!」
「なんて凛々しいお方なの……♡」
「俺……もう死んでもいい……」
「私さ……赤龍女帝さまを見れたら、実家に帰って店を継ぐんだ…」
男女ごとに色んな反応をするんだな…。
あと、最後の子は死亡フラグ!
こんな事で立てようとしないで!?
「お姉ちゃんの人気も不動よね…」
「マユ先輩は冥界の英雄ですからね」
したり顔で語らないでください。
叫ばれる方の身にもなってよ!
リアスなら分かるでしょ!?私とは似たり寄ったりなんだから!
「フフフ……そうやって私のお姉ちゃんを称えなさい!」
分かってなかったー!!
言ってる事が怪しい宗教家みたいになってるよ~!
人込みならぬ、悪魔込みで溢れる構内をなんとか移動しながら、私達は無事に(?)地下鉄に乗ることが出来た。
あぁ~……会合前に精神的に疲れた~……。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
地下鉄に乗り換えてから5分ほどして、私達はかなり大きな建物の地下のホームに到着した。
(ここが今回の会場になるのか……)
一体どんな話があるんだろうか…。
サーゼクスさんは私達が来ることによってクレイドルの存在を公にしようとしているって言ってたけど、私みたいな小娘が出て行って何が出来るんだろうか?
今のところ、私はお飾りのリーダーみたいなもんだし。
実質的な指導者はルシファーさんとヤハウェでしょ?
私達はリアスについていく形で、付近にあった高級感のある大きなエレベーターに乗り込んだ。
中は全員が乗り込んでも余裕があるほどの広さがあって、悪魔の技術力を改めて思い知った。
「念の為にもう一回言っておくわよ。今日、ここに来ている者達は全員が将来的なライバル達よ。だから、無様な姿だけは絶対に見せられない。例え何が起きても平常心でいる事。そして、何かを言われても決して手を出したりしない事。いいわね?」
朱乃と裕斗が力強く頷く。
ギャスパー君も震えながらなんとか頷いた。
「そして、これはお姉ちゃん達にも言える事だからね?まぁ…普段から冷静沈着なお姉ちゃんなら問題無いって思うけど」
「そうですね。マユさんなら大丈夫でしょう。マユさんなら」
「ちょっと。なんでこっちを見ながら言うワケ?」
「あらヴァーリさん。自分が口よりも先に手が出るって自覚してるんですか?それは感心しますね」
「アンタねぇ~……!」
ガ…ガブリエルさん…。
この広い世の中で、白龍皇をおちょくる天使なんて貴女ぐらいですよ…。
少ししてエレベーターが停止して、お約束のチーンと言う音が鳴った。
「着いたわよ。皆……気を引き締めてね」
なんて言っているが、これはきっと自分自身を奮い立たせるために敢えて言っているんだろう。
その気持ちはなんとなく分かる。
エレベータの扉が開き、そこから出て真っ赤なカーペットが敷かれた廊下を少し進むと、なにやら広いホールのような場所に辿り着く。
そこには見事な執事服に身を包んだ人物(多分、使用人)がいて、私達に丁寧な会釈をした。
「ようこそいらっしゃいました。リアス・グレモリー様。そして、闇里マユ様。どうぞこちらへお進みください」
使用人さんの案内で廊下を進んでいくと、その途中で複数の人影が通路の一角に見えてきた。
普通ならこの距離じゃ分からなないけど、体格からなんとなく性別は分かる。
あれは男だな。周りも男性が多いみたいだ。
「サイラオーグ…」
「む…リアスか。こうして会うのは久し振りだな」
おや、この人とはお知り合いですか。
リアスがサイラオーグと呼ぶこの男性……服の上から分かる程にかなり鍛えているのが分かる。
黒い短髪に背の高い好青年。
……やっぱ、私の背って女としておかしいよな…。
こうして背の高い男性と向き合うと、それを改めて実感してしまう。
チラッとサイラオーグさんの後ろに控えている眷属と思わしき人物達に目を向ける。
そのいずれもが猛者ばかりだと判断出来た。
何故なら、戦士特有の『闘気』のような物をサイラオーグさん達から感じたのだ。
私が彼らを見ている間にリアスとサイラオーグさんは会話をしていく。
ふと、二人の目線がこっちに来た。
「ホント。貴方はいつになっても変わらないわね。そうだ、お姉ちゃんにも紹介するわね。彼はサイラオーグ・バアル。今回の出席者の一人で、私にとっては母方の従兄弟でもあるの」
「リアスの従兄弟……」
そう言われてみると、どことな~くリアスやサーゼクスさんと似ているような……?
リアスとサーゼクスさんを足して2で割って、更に筋骨隆々にした感じ?
「リアス。この女性は…まさか……」
「そのまさか…よ」
「なんと……!」
ん?いきなり驚いた表情になって背筋を伸ばしたんですけど?
「お初にお目にかかります、赤龍女帝殿。俺はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主でもあります」
「こちらこそ初めまして。人類代表組織『クレイドル』リーダーの闇里マユです」
自然な感じで握手をする私達。
なんでかサイラオーグさんは両手で握ってきたけど。
(まるで…特撮ヒーローのショーに来た子供みたいな反応をするな~…)
さっきまでの男らしい顔はどこへやら。
今の彼は無邪気な子供のような表情に変わっていた。
「貴女の数多くの活躍は幼い頃から聞いてきました。こうして直に出会えたことを、俺は何よりも嬉しく思います」
「私の活躍などたかが知れています。私は唯、私のやるべき事を必死にしてきた。それだけです」
「三大勢力の中で最高の英雄と称されているのに、その謙虚な姿勢…。やはり、貴女は素晴らしい人物です。魔王様達が惹かれるのも頷けます」
もうこの手のヒトの扱いにも慣れてきている自分がいる…。
慣れって本当に怖いわ~。
「ふぅ~ん……こいつが噂に聞くサイラオーグねぇ~…」
「む…?君は……」
ヴァーリがさっきからジト目でサイラオーグさんを見ていた。
それこそ、頭の先から爪先まで。
「私はヴァーリ・ルシファー。現代の白龍皇よ。よろしく、次期大王候補さん」
「今までずっと殺し合う間柄だった赤龍帝と白龍皇が同じ組織にいるのか……!?」
「そうなの。驚いたでしょう?」
「あぁ……。これならクレイドルとか言う組織に正面切って喧嘩を売る連中はいなくなるだろうな…」
「もしもそんな事をしたら、天下に名立たる赤龍帝と白龍皇を同時に相手する事になるものね。普通の神経なら絶対にしないわ」
「俺も激しく同感だ」
そこまで言いますか。
まぁ……私達のネームバリューが非常に強大なのは私も納得するけど。
それから、ガブリエルさんもサイラオーグさんに挨拶をしていた。
有名な大天使が来ている事に、またまた驚きまくっていた。
悪魔の立場からすれば当然の反応だろうな。
ガブリエルさんはどこまでも余裕ある表情だったけど。
まさに大人の女性。
「ところで、こんな場所で一体何をしていたの?」
「別に。ただ……余りにもくだらなすぎて出て来ただけさ」
「え?」
溜息交じりに言ったけど、目の前にある扉の奥で何が起きてるっていうの?
「実は、アガレスとアスタロトが先に来ていてるんだが……その後にやって来たゼファードルが着いた矢先に馬鹿をし始めて…な」
「はぁ……全く……」
頭を抱え始めるリアス。
彼女からすれば、今日の会合は本当に大事な行事。
それなのに、始まる前から喧嘩をおっ始めた連中に対して辟易しているんだろう。
なんて呑気に考えていたら、いきなり地震のように建物全体が大きく振動し、同時に何かが壊れたりするような音が響き渡った。
「こんな事になるだろうと思ったから、俺は前々から開始前の会合なんて必要無いと言っていたんだ。まぁ……こうして赤龍女帝殿に出会えたことは純粋に嬉しいがな…」
何気に照れてますね。
敢えてツッコみませんけど。
「……………」
「お姉ちゃん?どうしたの?」
このままにしてはおけないでしょ!
私は音がした方にある大きな扉に向かって一人で歩き出した。
「……お人好しね」
「けど、それでこそ…だと思います」
お?ヴァーリとガブリエルさんも一緒に来るの?
扉を開くと、そこに見えたのは……
「うわぁ~…」
「これはまた……」
ズタズタのボロボロになって、見る影も無くなった大広間があった。
普段なら豪華絢爛な装いだったであろう机や椅子が、見るも無残な姿になって横たわっている。
そして、その中央付近には睨みあっている悪魔の集団が2つ。
片方は眼鏡を掛けた女性の悪魔。
もう片方は上半身が裸に近い恰好の、服を着崩した不良って感じの男の悪魔。
ズボンについている装飾品に、肌に刻んだタトゥー。
更に、逆立てた緑の髪。
……不良の恰好って、人間の悪魔も大差ないのな。
二人はお互いに武器を出していて、もう完全に一色触発の状態に陥っていた。
「アンタって脳みそまで性欲で満ちてるのね。そんなんだから、いつまで経ってもバカなまんまなのよ。少しは別の事を考えられないの?それとも、そんな事すら出来ない程に脳が劣化しちゃったのかしら?」
あ…あの眼鏡の女の子……言うなぁ……。
「んだとゴラァッ!!折角、この俺様がそこの個室で一発ヤッてやるって言ってやってんのによ!これだからアガレスの女は無駄にガードが固くて嫌になんだよ!そんなんだから、いつまで経っても男がよりつかねぇんだよ!!このまま死ぬまで処女を貫く気ですかぁ~?だから、この俺様が華々しい貫通式をしてやるっつってんのによ!」
……おい……今……あの野郎……なんて言った……?
「ここは本来、時間まで我々が待機している場所だったんだがな」
いつの間にか後ろに来ていたサイラオーグさんが何か言っているが、怒りが頭を支配して上手く聞き取れない。
「更に言ってしまえば、ここは若手の連中が集まって軽く交流をする場でもあったのだが、実際はこの有様だ。唯でさえ普通よりも血の気が多い連中が一堂に会すんだ。これぐらいの事は容易に想像出来そうなもんだがな。まぁ…あいつ等が何をしようが俺にはどうでもいい話だが、このまま放置しておくことも出来ないのもまた事実。ここは俺が……」
気がついた時は、私は不良悪魔の方に歩き出していた。
「私も行くわ」
「ヴァーリ?」
「私ね……あんな風に女を馬鹿にする奴が一番大嫌いなの」
「そうか……」
私と同じ気持ちになってくれた事が嬉しくて、思わず笑ってしまう。
「じゃあ……やるぞ」
「えぇ!」
私達の歩行速度がアップする。
「二人とも……何を!?」
「す…凄まじい殺気…!これが二天龍の怒りか……!」
ズンズンと歩いて行くと、睨みあっていた二人の悪魔と、その周囲にいる連中がこっちを見て止まった。
「な…なんだこの女ども……!」
不良野郎に向かって思いっきり拳を振りかざして……
「女の敵は……」
「私達がぶっ飛ばす!!!」
「て…テメェら!この俺様を誰だと思って……」
二人の全力でアッパーカット!!!!!
「「そんなの知るか!!!!!」」
「ぶべらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
私達の拳をその顎に受けたクソ男は回転しながら天井までぶっ飛んで、そのまま天井にぶっ刺さった。
下半身だけが天井から出ていて、その姿はまさに……
「逆犬神家だな」
「プッ……ハハハハハ!マユも言うじゃない!座布団一枚だわ!」
ヴァーリも笑点を知ってるのね…。
意外な一面を見た気がする。
「あぁ~……やっちゃった……」
女性の敵は私の敵。
いくら私でも、堪忍袋の緒が切れる時ぐらいはある!
って……なんでリアスは眉間に皺を寄せているの?
マユとヴァーリの初めての共同作業(アッパー)