それを久し振りに思い知りました。
冥界にやって来て二日目。
客人としてグレモリー家にやって来た私達は、それぞれに時間を過ごしていた。
黒歌やレイナーレは、ここで働いているメイドさん達と話をしながら、プロの方々から様々な技術を吸収しているようだ。
少しだけ見かけたが、今までで一番生き生きとしていた。
本当に家事が大好きなんだな…。
その様子を見てエミヤも混ざりたいと言っていたけど、二人の邪魔をしたくは無いから勿論却下。
ゼノヴィアは裕斗と一緒に中庭で木刀を使って打ち合いをしていたな。
折角の休みなんだから、ゆっくりすればいいのに。
え?私が言うな?私の場合はトレーニングが日課になってるからいいの!
オーフィスちゃんを筆頭にした闇里家幼女トリオは、昨日と同じようにミリキャス君と一緒にいるみたい。
このままいけばリアスのお父さんが言った通り、三人のうちの誰かがミリキャス君のガールフレンドに…?
それはそれで絵になるからいいとは思うけど……。
そうやって皆が充実した二日目を過ごしている中、当の私はと言うと……
「ここは……これでいいですか?」
「はい!僅か2時間でここまでご理解なされるなんて……流石は赤龍女帝様です!」
「出来れば名前で……」
本棚が沢山並んでいる書庫のような場所で、教育係の悪魔さんに冥界の言語の読み書きを習っていた。
いきなりではあるが、私はクレイドルと言う人類代表のような組織のトップになったのだ。
これからはきっと冥界だけでなく、堕天使のヒト達や天界の天使の方々とも交流をする機会が増えるだろう。
そうなった時に恥をかかないために、こうして少しでも勉強をしようと思った。
冥界の歴史や悪魔達の上下関係に関する事も教えて貰えることになったが、そっちの方は既にリアスや籠手の中にいる英霊(主にギル)に教えて貰ってある程度は知っていたので、ここでは丁重に遠慮しておいた。
こうして真新しい知識を吸収するのも悪くは無い。
あの時はよくコウタが居眠りをしていたっけ。
再び集中して目の前の本とノートに視線を落とすと、ガチャリとドアが開く音が聞こえた。
「マユさんの勉強は捗っているかしら?」
「奥様!」
ヴェネラナさんがやって来たのか…。
何か用があるのかな?
「マユ様は本当に凄い方です。この短時間でかなりの事を学習なられました。しかも、冥界の歴史などに関しては既に学んでおられたようで、お教えする事は何一つありません。これならば、滞在中どころか7月中に全ての講義を終える事になると思います」
勉強自体は嫌いじゃないしね。
これも一種のトレーニングでしょ。
脳みそコネコネってやつだ。
「そう…。リアスからとても勤勉で努力家、それでいて求道家とも聞いていたけど…本当のようね」
「それだけしか取り柄の無い女ですから」
「ご謙遜を。文武両道を形にしたような女の子だと、学校でももっぱらの評判だと聞いてるわよ?」
「え……?」
そんな事を言われてたの?シランカッター。
「そうそう。実は先程サーゼクスから連絡があって、今から三日後にある若手悪魔の会合にマユさんも参加してほしいそうよ」
「若手悪魔の会合?」
なんか仰々しそうなイベントだな。
会合と言うからには、きっと色んな悪魔が集結するんだろう。
そんな場所に私も行っていいのかな?
「簡単に言うと、正式なレーティングゲームに参加する前の若手の悪魔達が一堂に会して、挨拶や決意表明をするの。その際にはサーゼクスを初めとした魔王も集まる事になるけど。全員がリアスと同世代なの」
ほ…本当に大事なイベントやないか~い!
「な…なんで私が……?」
「貴女はクレイドルと言う組織のトップなのでしょう?恐らく、これからの事を考えて貴女とクレイドルの存在を公にして、周囲に認めさせようとしてるんじゃないかしら?」
そう言われると納得するしかない…。
クレイドルの名はこれから確実に三大勢力や闇に潜む連中の中で有名になっていく。
いい意味でも悪い意味でも。
後々に伸ばすぐらいなら、機会を見つけて発表した方がいいと考えたんだろう。
あのヒトらしいよ、ホント。
「勿論、これは貴女のご両親でもあるルシファー様とヤハウェ様も了承しているわ」
「そうですか」
逃げ道は無し…と。
元からそんなつもりはないけど。
「それに際して、実は貴女以外に二名程一緒に来てほしいらしいわ」
「二名……」
「えぇ。全員で行くのもいいんだけど…ほら、あのアーシアさん…だったかしら?彼女のような子には少しキツいと思うのよね…」
「あぁ……」
アーシアのような絵に描いた清純派女子には悪魔の会合はまだキツいかもしれない。
「だから、後で闇里家の皆で話し合うといいわ。昨日夕食の時に使ったダイニングルームを使ってもいいから」
「分かりました」
そうだな。これはクレイドルのこれからを占う事でもある。
何事も最初が一番肝心なのだ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「……と言う訳で、私の他に二人ぐらい一緒に来てほしい」
「若手悪魔の会合……」
「リアス部長達も大変ですね。夏休みなのに全然休めてません」
「それがお貴族様ってやつよ」
「本当に金持ちには厳しいにゃ……」
ヴェネラナさんのご厚意に甘えて、リアスと朱乃と裕斗とギャスパー君を除く全員が、昨日訪れたダイニングルームに集まった。
「マユさんは誰がいいんですか?」
「ん~……別に言ってもいいが、これは皆で話し合って決めたいからな……」
「大丈夫だ。初めから簡単に決めるつもりはないんだろう?だったら、言うだけ言ってみてくれないか?少なくとも目安にはなる」
「ゼノヴィアがそこまで言うなら……」
贔屓っぽくなるかもしれないから、あまり言いたくは無いんだけど……。
「私の中じゃ、少なくとも一人は決まっているんだ」
「それは誰にゃ?」
「……ガブリエルさんだ」
「私ですか?」
キョトンとした顔で自分の事を指差すガブリエルさん。
「ミカエルさんと同じぐらい有名なガブリエルさんのネームバリューは非常に大きい。こんな言い方は好きじゃないけど、クレイドルにガブリエルさんのような大物が参加していると分からせる事の効果は絶大だと思う。最初に大きなインパクトを与えておくと、後から舐められるような事は少ないと思うから」
相手はこっちの事を殆ど知らないに等しいのだ。
それなのに、こちらが勝手に『私達の事を知ってください』と言うのは烏滸がましい。
だから、一番最初に相手にいい意味で印象を残さないといけない。
こう言うのってバイトや会社の面接に似てるかも。
どっちも相手がこっちを知らないのは一緒だしね。
「成る程。そう言う理由があるのなら、私は異論はありません」
「いいんですか?」
「勿論。貴女はクレイドルの長。その決定には従いますよ」
私としては微妙な気分。
誰かの一存で全てを決めるのはあまり好きじゃない。
甘いと思われるかもしれないが、これが私なのだ。
「もう一人はどうするにゃ?」
「そうだな……」
「ねぇ」
「いっその事、くじ引きで決めますか?」
「流石にそれは……」
「ちょっと!聞いてるの!?」
なんかヴァーリがうるさい。
今は話し合いの最中なのだから、静かにするべきだと思うよ?
「なんで私もここに呼ばれてるのよ?私は別にクレイドルの一員じゃないし、ましてや闇里家に世話になってるわけでもないんですけど?」
「それは……」
白音がスマホを出してこっちに向ける。
『俺がお前をクレイドルに強制的に参加させたからだよ』
「ア…アザゼル!?どういう事よ!?」
『お前みたいなじゃじゃ馬娘を少しでも大人しくさせるには、こうでもしないと無理だろ?』
「だからって、私の許可ぐらい取りなさいよ!」
『いや、もしも言ったら絶対に嫌だって言うだろ』
「当たり前じゃない!何が悲しくて宿命のライバルと同じ組織に属さないといけないのよ!」
『別にいいじゃねぇか。同じ場所にいるって事は、逆に言えば、いつでもマユの嬢ちゃんと手合わせ出来るって事だぜ?』
「そ…それは……」
論破されてやんの。
『それに、お前だって本当は満更でもないんだろ?』
「な…何言ってんのよ!バカ!」
ヴァーリ……顔が真っ赤になってるぞ。
『嫌よ嫌よも好きのうちって言うだろ?』
「言わないわよ!!つーか、会議はどうしたの!」
『現在進行形でやってるよ。な?』
『そうで~す!』
『元気にしてるか~?』
『お…お二人とも、会議に集中して……』
ルシファーさんとヤハウェ…。
二人して何してんですか…。
あと、サーゼクスさん…ウチの義親が迷惑かけて済みません…。
『俺等の愛しの娘達よ!迷惑かけてないか~?』
「心配は無用ですよ。ね?」
「「「うん!」」」
「寧ろ、ミリキャス君と仲良くなってます」
『な…何っ!?』
『ウチの息子とかい?』
「今日も一緒に遊んだ」
「楽しかったぞ!」
『お…俺は認めねぇぞ~!サーゼクス!俺の目が黒いうちは大事な娘達はどこにも嫁には出さねぇからな!!!』
『えぇ~!?』
勝手な事を言ってますがな。
何処の親も似たようなもんだな。
まだオーフィスちゃん達には早いでしょうに。
「一応言っておきますけど、ルシファーさんはマユさんの事も言ってるんですよ?」
「私?」
「マユさんって今年で18ですよね?法律上はもう婚約できますよ?」
そうかもしれないけど……やっぱ私にも早いでしょ。
「白音。それはあの不死鳥野郎の目の前で絶対に言っちゃ駄目にゃよ?」
「そ…そうですね…。気を付けます」
不死鳥野郎?ライザーの事か?
もしも知ったら五月蠅そうではあるけど…。
『マ…マユ!お前にはまだ交際は早い!まずはお友達からだな……』
『はいはい。るーくんは落ち着こうね~。ともかく、ヴァーリちゃんはクレイドル参加確定って事で。よろしく~!』
あ、通話が切れた。
「………なんか一気に疲れた。もうクレイドル参加でいいわよ…。下手に文句言っても論破されて封殺されるのが目に見えるわ…」
「流石の白龍皇も口論では勝てませんか」
「………フンッ!」
プイッとそっぽを向いちゃったけど、ここからは出ていかないのな。
なんだかんだ言って、ここにいる事を気に入ってるんじゃない?
「折角だし、ヴァーリさんを連れて行けばいいんじゃないんですか?」
「アーシアが意外な発言……」
「え?私何かおかしな事を言いましたか!?」
「いや…単純に意見を出したことに驚いてるのよ」
アーシアが自分から意見を言うのはいい傾向だと思う。
積極性があるのはいい事だ。
「別に行ってもいいわよ。ここまで来たらもう、どーにでもなれ…よ」
「完全に目が死んでるぞ。白龍皇」
「なんとでも言って」
乾いた笑いが出てるし。
ヤケクソはよくないぞ、ヴァーリ。
「それじゃあ、これで家族会議は終了って事ね」
「天界で名の知れた天使と白龍皇。最初のインパクトとしては充分過ぎるでしょ」
「まさか、赤と白が同じ場所に並び立つ日が来るなんてね…」
『俺も驚いている。だが、同時に悪くないとも思っている』
「アルビオン……」
『時代は移り変わる。いつまでも赤と白の対立に拘る事も無いだろうさ。だろう?赤いの』
『俺は前々からそのつもりだ。俺は相棒と言う存在と運命共同体となった瞬間から、その行く末を最後まで見守ると決めた。俺の中ではもうお前に対して敵対心は持っていない』
『本当に変わったのだな……』
二天龍も異議が無いみたい。
今まで敵対していたライバル程、味方になった時に心強い存在は無いってよく言うよな。
これは正しくソレなのかもしれない。
「にしても、他の若手悪魔ってどんな連中が来るのかしらね?」
「一人はもう確定してますね」
「誰にゃ?」
「駒王学園の生徒会長のソーナ・シトリーさんです」
「そう言えば、彼女も魔王の妹だったな…」
なら、会合の時にソーナとも会うのかな?
リアスが帰って来てるのなら、ソーナも帰省してるはずだし。
「会場で会ったら、色んな意味でびっくりするでしょうね」
私が来るとは思わないだろうし、一緒にガブリエルさんとヴァーリも来るんだしな。
……会場が騒然とならないといいけど。
「話し合いは終わった?」
「リアス」
丁度いいタイミングでリアス達グレモリー眷属が部屋に入って来た。
「それで、誰がマユさんと一緒に行くことになったんですの?」
「ガブリエルさんとヴァーリさんです」
「ガブリエルさんはなんとなく分かるけど……彼女も?」
「アザゼルがいつの間にか私の事をクレイドルに所属させてたのよ」
「ご…ご愁傷様ですぅ~…」
「怯えながら言われると微妙な気分ね……」
こうして、闇里家初めての家族会議は何事も無く(?)終了した。
……この流れでヴァーリまでウチに住んだりしないよな?
いや…部屋にまだ空きはあるんだけどね。
今でもかなり多いのに、これ以上同居人が増えるのってどうかと思うのよね…。
なんて言ってたらフラグになるかな?
まだまだ会合にはいきませんゼ?
次回も別の話を予定しますから。