プレステまで?それともセガサターン?
駅に着くな否や、いきなりの大声で出迎えられる。
突然の出来事に、リアスと朱乃と裕斗以外の全員の目が文字通り点になった。
「な…なんなんですか?」
「ビックリしたにゃ…」
「ふぇぇぇぇぇ~!!!」
ギャスパー君に至っては完全に怯えて私の後ろに隠れてしまったし。
あ~あ~、こんなに震えちゃって。
兵士のような人々は綺麗に整列していて、その手に握っている楽器で見事な音楽を奏でている。
他には執事やメイドの姿をした人達がニコニコと微笑みながら拍手をしていた。
その殆どの目線がリアスに注目していたが、その中の数名が私を見た途端に固まった。
「お…おい…あの女性は……」
「間違いないわ……あの方こそ……」
「冥界の英雄にして、伝説の赤龍女帝!」
冥界の英雄って……。
「マユさんは冥界ではどんな風に言われているんでしょうね?」
「あまり考えたくない…」
確実に黒歴史確定だろうから。
そういや、私に関する書籍や映像なんかも勝手に製作したって言ってたっけ。
冥界に来た以上、目にする機会があるんだろうか…。
「あ~…ビックリさせちゃったみたいね。ごめんなさい」
「いや……大丈夫だ」
「でもギャスパーは……」
「大丈夫だ」
そう言い聞かせないと、ここから先持ちそうにない。
リアスの先導に任せようと思っていると、奥の方から見覚えのある人影がやって来た。
「お帰りなさいませ、リアスお嬢様。そして、よくぞいらっしゃいました。マユ様」
「ただいま、グレイフィア」
「ご無沙汰してます」
どうやらグレイフィアさんは私達を迎えに来てくれたようで、そこから私達を先導して駅を出た。
その時に見たけど、駅の構内も私達が普段使用している駅とそっくりだった。
成る程、表裏一体とはよく言ったもんだ。
駅を出ると、そこにはとても大きくて豪華絢爛な馬車が待っていた。
馬車に繋いである馬も筋骨隆々で大きく、明らかに地上の馬とは違っている。
「グレモリー領まではこれでいきます。どうぞお乗りください」
馬車は二つ用意してあって、片方にリアス達グレモリー眷属と私と白音、黒歌とアーシアとゼノヴィア、そしてグレイフィアさんが乗る事に。
もう片方に残りの全員が搭乗した。
「では、出発いたします」
え?もしかしてグレイフィアさんが馬車を動かすのか?
今時のメイドはこんな事も出来るんだ…。
もう一台の馬車の方にもメイドさんが乗ってたし…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
初めての馬車に体を固くしながら乗っていると、ふと窓から外の景色が目に入った。
道自体はとても綺麗に舗装されていて、こうして乗っていてもあまり揺れを感じない。
列車の時と同様に、景色は空が紫である事を除けば非常に自然豊かで穏やかに感じる。
これが冥界の景色だと言って誰が信じるだろうか。
「ん?あれは……」
正面の方から凄く大きな城のような建築物が見えた。
ああいった所は中世のヨーロッパみたいなんだな。
「あのお城は……」
「あれがグレモリー家の本邸で、家の一つなの」
「い…家の一つ!?」
「お城が本邸って……」
お貴族様は家一つとっても庶民とはスケールが違いますな。
物的な意味でも、思考的な意味でも。
そのまま馬車は進んでいき、花々が咲き乱れる城の庭と思わしき場所に停車、そこに降り立った。
後ろからもう一台の馬車もやって来て、同じように停車し、中にいる皆が降りてきた。
目の前には大勢のメイドさんと執事が両脇に並び立ち、まるでモーゼの海割りを思わせる光景だった。
その中央には真紅に染まったカーペットが地面に敷いてあり、それが城の方まで延々と続いている。
グレイフィアさんが城の城門の前に立つと、鋼鉄製の門が重苦しい音を立てながらゆっくりと開門した。
「では、お嬢様に眷属の皆様。そして闇里家の方々。どうぞお進みください」
グレイフィアさんの会釈を合図にして、私達は歩き出す。
先頭はリアスで、その後ろに私達がついて行く形に。
「緊張すると言うか、恥ずかしいと言うか……」
「こんな形でギャー君の気持ちが理解できる日が来るなんて……」
「これからはもう馬鹿には出来んな……」
いやいや、最初からバカにしちゃ駄目でしょ。
「そのギャスパー君はどこにいますの?」
「さっきからずっとマユ先輩の後ろにいて、服にしがみ付きながら歩いてます」
そうなんです。別に隠れるのはいいけど、あまり服は引っ張らないでほしい。
服って伸びたら簡単には戻らないんだぞ?
そうして歩いていると、メイド達の列の影から一つの小さな人影がリアスに向かって飛び出してきた。
「リアスお姉さま!お帰りさない!」
「ただいま、ミリキャス。少し見ない間にまた大きくなったみたいね」
お姉さまとな?
この赤い髪の男の子は一体……?
「リアス。この男の子は誰なの?」
「この子の名前は『ミリキャス・グレモリー』。お兄様の息子で、私にとっては甥っ子に当たる子よ」
「リアスの甥……」
つーか、サーゼクスさんって子持ちだったのか。
思ったよりもお盛んなことで。
でもそれって、グレイフィアさんの息子でもあるんだよね。
「あ!?」
リアスに抱き着きながら、ミリキャス君の目線がこっちを向いた。
「リアスお姉さま……この方はもしかして……」
「そう。あなたも大好きな赤龍女帝の闇里マユさんよ」
「やっぱり!」
お?なにやら興奮した様子でこっちに来たぞ。
「あ…あの……僕はミリキャス・グレモリーといいます!初めまして!赤龍女帝様!貴女のお噂は沢山聞いていて、それで……えっと……」
……私ってそんなにも緊張するようなキャラ?
ちょっとショック…。
「初めまして。私は闇里マユだ。出来れば私の事は赤龍女帝じゃなくて名前で呼んで欲しいな?」
「よ…よろしいんですか!?」
「勿論だ」
腰を低くして頭を撫でてあげると、目を細くして気持ちよさそうにしていた。
「わ…分かりました!マユ様!」
「様は取れないのか……」
本当は『様』もなんとかしてほしかったけど。気にしたら負けか。
「出来れば、私の妹達とも仲良くしてあげてくれ」
「妹……ですか?」
見た目的な年齢じゃオーフィスちゃん達とミリキャス君は同じ位だと思う。
きっといい友達になれるだろう。
「この子達だ」
「あ……」
私が傍にいるオーフィスちゃん達に目線を向けると、彼の目線も同じ方向を向いた。
三人を見た途端にミリキャス君の顔が赤くなった。
「三人とも、自己紹介」
「ん。我、闇里オーフィス」
「私は闇里レドだ!」
「闇里ティア。よろしくな」
「ミ…ミリキャス・グレモリー…です…」
あ…あれ?今度は急に縮こまってしまったぞ?
「ミリキャス……あなたもしかして……彼女達を見て照れてるの?」
「そ…それは……!」
図星だったようだ。
「あらあら。これはオーフィスちゃん達のボーイフレンド候補の誕生でしょうか?」
ボーイフレンド……か。
確かに、この子達にも異性の友達がいてもいいかも。
そこから学べる事も沢山あるだろうし。
「まさか……この子達の誰かが将来の私の義娘に……」
そんでもって、グレイフィアさんはさっきから何を呟いているんだろう?
因みに、サーゼクスさんの子供であるにも関わらず何故彼が自分の事を『グレモリー』と名乗っているのかと言うと、本来『ルシファー』と言う名前は歴代の魔王にしか名乗る事が許されないから。
謂わば『ルシファー』とは名前と言うよりは称号に近い名称なのだ。
とどのつまり、ミリキャス君はリアスの次の次期魔王候補って訳なのね。
「そろそろ屋敷内に入りましょうか」
そう言うと、リアスはミリキャス君の手を繋いで歩き出し、私達もそれに続く。
歩いている間、彼はずっとオーフィスちゃん達の事をチラチラと見ていた。
これはもしや……本当に脈アリか?
巨大な門をくぐって、更にそこから幾つかの小さな門をくぐっていくと、大きな西洋風の扉があった。
それを開けて中に入ると、そこにはとても大きな玄関ホールが。
真上にはキラキラと眩しいシャンデリア、目の前には二階に続いていると思われる大きな階段もある。
勿論、床にはさっき見たカーペットと同じ種類の物が所狭しと敷かれていて、この間テレビで見た外国の貴族のお屋敷を彷彿とさせる。
よもや、自分がこんな場所に来る日が来るとは……。
「お嬢様。皆さまもお疲れでしょうし、ここはまずお部屋にご案内しようと思うのですが」
「それがよさそうね。私やお姉ちゃんはともかく、アーシアや子供達は疲れているだろうし」
私はともかくってなによ。
私だって疲れる時ぐらいはあるんだよ?
「そうだ。お父様とお母様に帰省の挨拶をしたいと思うんだけど、今はいらっしゃる?」
「旦那様は私用にて現在外出中です。お帰りになられるのは夕刻ぐらいになると聞いています。夕餉の時に会食をしながら皆様と顔合わせをしたいと仰られておりました」
「分かったわ。なら皆には一先ず休んでもらう事にしましょうか。もう荷物の方は部屋に運び込んであるんでしょう?」
「はい。客室の方はすぐに使用出来るようにしてあります」
スゲー……これだけ大きい屋敷だと、客室だってかなり多いだろうに。
それを予め使用可能にしてあるって……グレモリー家のメイドが凄いのか、それともメイドの人数が単純に多いのか。多分、両方だろう。
まぁ、実際のところ、私も気疲れはしてたんだけどね。
普段から学校で他者からの視線には慣れてるけど、あそこまで集中的に見られたのは初めてだったし。
私でこうだったんだ。他の皆も同じぐらい……いや、それ以上に疲れているだろう。
早く休ませてあげたい。
グレイフィアさんの案内で各々に割り当てられた部屋に向かおうとすると、階段の上から煌びやかなドレスを纏ったリアスにそっくりな女の子が降りてきた。
二人の違うところと言えば、目つきの鋭さと髪の色ぐらいか。
降りてきた子は髪が亜麻色に染まっている。
「あら……リアス。お帰りさない」
もしかして、彼女はリアスのお姉さんかなにかかな?
でも、今までそんな話は一度も聞いた事ないよな?
「只今帰りました。お母様」
「「「「「「!!?」」」」」」
い…今……なんつった?お母様?そう言ったのか?
「お…お姉さんじゃないのか?」
「あらお上手」
クスクス……と優雅に微笑む姿は、とても綺麗で可愛らしい。
これで高校3年生の娘がいるって言われてもね…。
(いや、私の義両親も他人の事は言えないか)
神と魔王だからと言えばそれまでだが、それでもあのバカップルはとても若々しい。
実際、授業参観の時も注目を浴びていたし。
「見た目年齢で悪魔は判断してはいけないようだな…」
「混乱してきました~…」
でしょうね。
私も混乱してきたよ。
サーゼクスさんも見た目通りの年齢じゃない事は確実だろうし。
「貴女が噂に名高い赤龍女帝ね?」
「え?」
あやや……急に目の前にまで近づかれてしまった。
心なしかいい香りがするし。
「初めまして。私がサーゼクスとリアスの母親の『ヴェネラナ・グレモリー』です。貴女の事は息子や娘、夫からよく聞いています」
「は…初めまして。闇里マユ…です」
なんと申しますか……どことなく雰囲気がサクヤさんに似てる気がする。
妖艶と言うか、包容力があるって言うか…。
グレイフィアさんもそうだったけど、人妻って皆こうなのか?
「へぇ~…成る程ねぇ~…」
「な…なんですか?」
目が細くなってニヤニヤしている。
私ってば何かした?
「こうして近くで直に見ると納得だわ」
何が?
「貴女みたいな女の子の事を『おっぱいのついたイケメン』って言うのね」
「は?」
この人はいきなり何を仰ってる?
イケメンって『イケてるメンズ』の略称でしょ?
それって本来は男に対して使う言葉だろう?
確かに私は男勝りであるって自覚してるけど、それでも一応は女の子なんですよ。
「奥様。マユ様が困っています」
「あら?グレイフィアもマユちゃんにお熱なの?」
「な…何を仰るんですか!?」
「お母様!お姉ちゃんをあまりからかわないでください!」
「はいはい♡」
絶対に分かってないだろ。
この屋敷にいる間はこの人には注意するようにしよう。
「これからも私の子供達をよろしくお願いしますね?」
「こ…こちらこそ」
ズイズイと来る人だな。
前にサカキ博士と話した時に似てる。
「そして」
「ん?」
今度はなんだ?
「ミリキャスにも春が来たみたいね?」
「はうっ!?」
次のターゲットはミリキャス君か。
私からは頑張れとしか言えない。
「この子達がマユちゃんの妹さんかしら?」
「あ……そうです」
大丈夫だろうか…?
一応は促しておくか。
「皆」
「ん。分かってる」
ほっ……よかった。
失礼な態度を取ったりしたらどうしようかと思ったよ。
さっきと同じように自己紹介する三人。
すると、ヴェネラナさんはさんの頭を優しく撫でた。
「これからもウチの孫のミリキャスと仲良くしてあげてね?」
「「「うん!」」」
「フフ……可愛い子達ね♡」
にしても、この容姿で孫持ち…か。
世の男共が聞いたら月までぶっ飛ぶな。
「初曾孫はいつかしらね~?」
「幾らなんでも話が早すぎです!!!」
リアスがここにいる全員の心を代弁してくれた。
彼女が言わなければ、絶対に私がツッコんでいたよ。
「この方がヴェネラナ・グレモリー…。私も彼女に関する噂なら何回か聞いた事はありますけど、どうやら噂通りの女性だったみたいですね…」
どんな噂なんですか、ガブリエルさん。
「こちらこそ。貴女の話は昔から聞いてますわ。ミカエルの右手と言われているガブリエルさん?」
「ホホホホホ……」
「ウフフフフ……」
こ…怖い?
二人の間に火花が見える…。
「え~…コホン。流石にもうそろそろ……」
「あら、それもそうね。ごめんなさい」
やっとこの流れが断ち切られたか…。
このまま夕食の時までここで過ごす羽目になるかと思って冷や冷やした。
「では、これよりお部屋にご案内致します」
「私はこれで失礼するわね?夕食の時にまた会いましょう」
そう言うと、ヴェネラナさんは来た時と同じように優美に去っていった。
何とも言えない空気から解放された私は一気に疲れてしまった。
それは他の皆も同じだったみたいで、一番疲れていたギャスパー君なんか完全に沈黙していた程。
こうして、冥界に来てから早速色んな意味で刺激的な歓迎をされた私達だった。
今はとにかく横になりたい…。
なんか最近、人妻&年上キラーになりつつあるマユ。
華の女子高生として、これってどうなんでしょう?