でも、中々にタイミングが掴めずに、結局はこんな形に……。
番外編 もしもマユ以外に転生者がいたら
ここ最近ははぐれ悪魔の事件もアラガミの出現も無く、久し振りに平和な日常が続いていた。
私達は今日も放課後にオカ研の部室に集まって、いつものようにのんびりと過ごす。
……今更だけど、私達って全くオカルトを研究してないな…。
少しはそれっぽい活動をした方がいいんじゃないんだろうか?
「もうすぐ夏休みか……」
夏休みは私にとって絶好のトレーニングタイムだ。
今年は去年よりもより多く、そして長く指立て伏せが出来るようになりたい。
「お姉ちゃんはもう夏休みの予定は決まっているの?」
「いや、別に。ただ、毎年夏休みはトレーニングに費やしてるな」
「そう言えば、去年は一日の殆どを外でのトレーニングに使ってましたね」
『鍛錬に励むのは本当に素晴らしい事だが、少しは限度と言う物を知った方がいいと思うぞ、マスター…』
「え?」
嫌だなぁ~、エミヤってば。
あんなのはまだまだ序の口だよ?
「む…昔からずっとあのトレーニング量をこなしてたのね……」
「なんとなく、マユ殿がどうしてあそこまで強いのかが分かったような気がするな……」
ゼノヴィアにまで引かれちゃったよ。
「私はともかく、リアスの方は何か予定があるのか?」
「夏休みは冥界に帰る予定よ」
「へぇ」
実家に帰省するのか。
偶には帰らないと、リアスのご両親も心配するだろうしな。
「リアス部長が行くと言う事は、眷属である朱乃さんや裕斗さんも一緒に?」
「そうよ。で、お姉ちゃんにお願いがあるんだけど、いいかしら?」
「なんだ?」
リアスからのお願いとは珍しい。
私に出来る範囲で協力はしてあげたい。
「実はね、お父様とお母様がお姉ちゃんを家に招待したいって言ってるの。来てくれないかしら?」
「私を……」
そう言えば、私はリアスのお父さんには会ったけど、まだお母さんにはまだ会ってないな。
ああして一緒に住んでいる以上、私からもちゃんと挨拶をした方がいいだろう。
「そうだな。ヤハウェやルシファーさんに相談してからになるが、私個人としては別に『プルルルル』……ん?」
こんな時に電話?
「済まない」
一言言ってから席を立つ。
「もしもし?」
『僕達なら大丈夫だよ~!寧ろ、マユちゃんの両親として一緒について行くつもりだから~』
「……………」
まるでこっちの会話を見ていたかのような言葉に、思わず固まってしまう。
電話から聞こえたヤハウェの声は皆にも聞こえていたようで、私と同じように固まっていた。
「なんか……大丈夫っぽい」
「そ…それはよかったわ……ははは……」
リアス、笑顔が引きつってますよ。
「どうせなら、家にいる皆で来たらいいわ。ちょっとした小旅行だと思って」
「い…いいのか?ご迷惑になるんじゃ…」
「それぐらい気にしないわよ。普段からお姉ちゃんには凄くお世話になってるんだから、こんな時ぐらいは恩返しをさせて頂戴」
リアスの優しさに、私の心の中にいる全ての私が拍手喝采な上にスタンディングオベーションで号泣した。
「きっと、オーフィスちゃん達も喜びますわ」
「姉さまやマユさんと旅行……楽しみです」
そっか。白音や黒歌と一緒に同居するようになってから、碌にどこかに連れて行ってあげた事なんて無かったっけ。
これもいい機会と思って、久し振りに純粋に楽しむのも悪くないかもな。
「勿論、俺も一緒に行くからな」
今まで会話に参加してこなかったアザゼルさんが紅茶を片手に傍に来た。
「サーゼクスとはまだまだ色々と話し合わなくちゃいけない事もあるし、俺も偶には慰安旅行みたいなことをしたかったしな」
「慰安って……」
この人が言っても説得力無ぇ~。
「マユの嬢ちゃんも、この機会にゆっくりと体を休めておけ」
「私もですか?」
「当たり前だ。こいつ等から聞いたぞ。お前……相当にハードなトレーニングを普段からしてるそうじゃねぇか。トレーニングメニューを聞いた時は自分の耳を疑ったぞ」
ハード……かなぁ~?
「大体、逆立ちの状態で指立て伏せ10万回ってなんだよ?そんなトレーニング、悪魔や堕天使が一緒の事をしたら確実に体を壊すぞ」
「はぁ……」
別に大丈夫なんだけど…。
「だから、夏休みに冥界に行っている間は、嬢ちゃんはトレーニング禁止な」
「えぇっ!?」
そ…そんな!?
それなんて拷問!?
『相棒……俺はアザゼルに全面的に賛成だぞ』
「ドライグまで!?」
『偶に……本当に偶にでいいから、相棒は休んだ方がいい。いや、頼むから休んでくれ!』
とうとうお願いされてしまった…。
「わ…分かったよ。冥界に行っている間は自重するよ」
こうでも言わないと話が進みそうにない。
「どれぐらい向こうに滞在する予定なんだ?」
「一応、8月20日までいるつもりでいるわ。私自身も向こうで予定があるから」
お貴族様は大変だ。
庶民の私には分からない感覚だな。
「冥界……か。よもや、ついこの間まで教会にいた私が冥界に行くことになるなんてな。人生、何があるか分からないもんだ」
「そうですね。私も立場的にはゼノヴィアさんと大差ないですから、その気持ちはよく分かります」
聖剣使いやシスターとは、下手したら一生縁が無い場所だしね。
「出発は夏休みに入ってからすぐに?」
「出来ればね」
「そうか。ならば、それまでに色々と冥界行きに備えて色々と買い揃えた方がいいな」
「私も丁度、家族にお土産を買おうと思っていたから、一緒に行くわ」
「じゃあ、その時にガブリエルさんの部屋の家具とかも買ったらいかがですか?」
「そうだな。じゃあ、今度の休みの日にでも、皆で一緒に買い物に行くか」
「「「「「「「賛成!!」」」」」」」
おぅ……元気だな。
「ギャスパー君も一緒に来るか?」
「ぼ…僕もですか?」
一緒に暮らすようになってから、少しずつではあるが、彼は外に出る努力をしている。
ちょっとステップを飛ばしているかもしれないが、これもいい機会だと思う。
「マ…マユさんが行くなら…行こうかな……?」
ハイ決定。
「ぼ…僕も一緒に行きます!荷物持ちぐらいは出来ます!」
「そ…そうか」
いきなり裕斗が積極的になったな…。
でも、荷物持ちは純粋に有難い。
そんな訳で、今度の休日は皆で一緒に買い物に行くことに。
時にはこんな女っぽい休日も悪くないな。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
おっす!俺は田中卓郎!
ハイスクールD×Dの世界に転生した転生者だ!
食中毒になって死んだ俺は、神様によって転生させられる事になった。
転生する世界が『ハイスクールD×D』だと知らされた時、俺のテンションは一気にMAXになった。
転生特典を利用して、原作主人公である兵頭一誠からリアスを初めとしたヒロインを全員奪ってやるぜ!……と思っていたんだけど、神の口から衝撃的な事を聞かされた。
まず、今から俺が転生する世界に、兵頭一誠は存在しない。
改変されたか死亡したかと思ったが、どうやら最初からいないらしい。
つまり、この世界は俺が知っているハイスクールD×Dに限りなく酷似した世界だって事になる。
それは最大のチャンス!と思って、俺に赤龍帝の籠手をくれと言ったら、それは無理だと言われた。
なんでも、俺のずっと前に転生した奴がいるらしく、そいつに赤龍帝の籠手が宿っているとの事。
しかも、そいつの籠手は原作には無いような様々な能力が付加されていて、原作以上にチートになっているらしい。
それじゃあ『王の財宝』とか『無限の剣製』とか欲しいって言ったら、それもダメって言われた。
どうしてか聞いたら、俺の前の転生者に宿っているからダメだってさ。
どういう事だよ!?赤龍帝の籠手に加えて、他の能力まで持ってさ!どんだけチートすれば気が済むんだ!
しかも、その転生者野郎は既に殆どのヒロインを攻略して、見事なハーレムを築いていると言われた。
それを聞かされて、俺は本気で絶望した。
もう俺に勝ち目なんて無いじゃん…。
もうハイスクールD×Dは嫌だって言ったら、既に俺がHDDの世界に転生する事は確定しているらしく、もう変えられないって言われた。
結局、俺は何の楽しみも無いまま転生する羽目になった。
せめてもの情けとして、身体能力と頭脳のチートは貰ったが、それだけ。
俺には特殊な能力なんて何も無い。
こんなんで、あの死亡フラグ満載の世界を生き残れるのか!?
……な~んて思っている時期もありました。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「はぁ~…」
溜息交じりに店のカウンターに肘をつく。
「こらぁっ!しゃんとしろ!」
「す…すんません!」
て…店長怖え~…。
俺は今、バイト先の本屋のレジにて、溜息交じりに立っている。
俺が転生してもう16年。
あっという間に高校2年生だ。
でも、俺は原作キャラと全く関わっていない。
何故なら……
(どうして駒王町の隣町に転生するかな~!?)
こんなんじゃ、原作に関わりようがないじゃん!
駒王町に行こうと思えば行けるけど、仮に俺が行っても完全に部外者だし、下手に名前なんて呼べば確実に不審者扱いだ。
最悪の場合、俺自身がリアスを初めとした原作キャラに敵視される可能性もある。
流石にそれだけは絶対に嫌だ!
それ以前に、何の能力も無い俺が行っても足手纏いは確実だしな。
二回目の人生ぐらい、ちゃんと天寿を全うしてから死にたい。
え?ハーレム?そんなもの、とっくに諦めたよ。
第二の人生を過ごしながら考えたけど、俺なんかにハーレムなんて無理だろ。
変に複数の女の子に現を抜かすぐらいなら、本当に好きな子を全力で好きになった方がずっとマシだ。
なんで、こんな当たり前の事に転生前に気が付かなかったかな…。
俺が中学生になった時、神から連絡があって、俺の前に来た転生者の特徴を教えられた。
性別は女で、凄く背が高いらしい。
黒い髪で眼鏡を付けていて、鋭い目つきが特徴。
で、左腕には謎の腕袋をつけて、右手首には大きく赤い腕輪を装着しているんだと。
女でハーレムって……所謂『百合ハーレム』ってやつだな。
どんな風になっているのか興味はあったが、それだけで今更原作介入をする気にはなれなかった。
命は大事に……だ。
「あぁ~……なんで俺は折角の休みの日にバイトなんてしてるんだろうか…」
あ、本当はこの日に出る筈だった先輩が、急に家の事情でドタキャンして、その代わりに暇な俺が駆り出されたんだ。
まぁ……暇なのは事実だから別にいいんだけど。
家でボケ~っとゲームをしてるよりはマシか。
「ん?」
店の自動ドアが開いて、お客さんが入ってきた。
しかも団体さんだ。
「いらっしゃ~せ~」
完全に条件反射になった言葉を言って、入店してきたお客さん達を見る。
「!!!」
あ…あれって……まさか……!?
「へぇ~…思ったよりも品揃えがよさそうね」
「そうですね。これなら色々とありそうです」
リ…リアス・グレモリー!?
その隣にいるのは塔城小猫か!?
しかも、よく見たら、他にも姫島朱乃とかアーシアとかゼノヴィアとかもいるじゃねぇか!
「料理の本とかも無いかにゃ?」
「あるんじゃない?ほら、あそこに料理本のコーナーがあるわよ」
く…黒歌にレイナーレも!?
なんであの二人が揃ってるんだ!?有り得ないだろ!?
「お姉ちゃん。我、あっち見たい」
「私は向こうに行きたいぞ!」
「私は二人について行こう」
あ…あれってもしかしてオーフィスか!?
その傍にいる二人の美幼女は誰だ!?
「これが地上の本屋ですか。様々な本があるのですね」
あの金髪美女って……天使のガブリエルか!?
もう訳分からねぇよ!
「み…皆元気だな……」
あ、あの疲れ果てたイケメンは木場裕斗か?
いつもならイケメンは敵だって思うけど、今は激しく同情するぜ…。
普通に見たらアイツのハーレム状態なんだろうけど、今の木場裕斗からは完全にパシリの臭いがする。
「こうして二人でお店に入るなんて、なんか久し振りだね~」
「だぁな。今度から偶にはこうしてデートでもするか?」
「いいね~!僕は賛成~♡」
……あのリア充カップルはなんだ?
一緒に入って来たってことは、間違いなく原作の関係者なんだろうけど…。
金髪僕っ娘美少女と褐色肌のワイルドイケメンのカップル。
悔しいけど、めっちゃ絵になるな…。
「ほ…本が一杯ある…。なんだか落ち着きますぅ~…」
で、あのさっきからビクビクしている奴は、ハーフヴァンパイアにして男の娘でもあるギャスパーか。
本当に男に見えない。
別の意味で男泣かせだな。
そして、あの集団の中心にいて一番背が高い美女が……
「ふむ……どこかに効率的なトレーニング方法が書かれた本は無いかな?」
眼鏡に黒い髪。
左腕には季節に合わない腕袋をしている。
俺の場所からは見えないが、きっと腕輪もしているんだろう。
じゃあ、あれが……
(俺の前に転生した転生者……か)
あぁ~……あれは勝目無いわ。
だって、あの子…凄い美人だぜ?
それでいて、どことなく格好良くもあるし。
あれは間違いなく、同性に極端にモテるタイプの女子だ。
体育大学とか行けば間違いなく後輩にキャーキャー言われる子だな。
「じゃあ、一旦ここで別れましょうか。買いたい物があったら、それぞれに買いましょう」
「賛成ですわ」
「分かりました」
あ、右腕が見えそうだ。
「私はどこに行くかな……」
見えた……けど、あれって……
「お姉ちゃん。我達と一緒に行く」
「分かった。一緒に行こうか」
ゴッドイーターの腕輪じゃねぇか!
じゃあなにか!?あの子は神機使いなのか!?
もしかしてアラガミもいるわけ!?冗談じゃねぇぞ!?
「あ……」
行っちまった……。
いやいや……確かに『大きくて赤い腕輪』だけど!
まさかそれが神機使いの腕輪だなんて想像もしなかったつーの!
「一体この世界はどうなってるんだ…?」
幾らなんでも、これはゴチャゴチャとし過ぎだろ…。
もう意味分からん…。
いきなりの事に驚きすぎて、原作キャラに会えた喜びとか、完全にどっかに吹っ飛んだ。
少しして、さっきの転生者の子が一冊の本を持ってレジに来た。
「これください」
「…………」
「あの……」
「あっ!?は…はい。失礼しました」
ヤベェヤベェ……こうして近くで見ると想像以上に美人だから、思わず本気で見惚れちまった…。
商品を受け取りながら、そっと彼女の顔を見る。
(うわぁ……睫毛長ッ!肌も超白いし……髪もサラッサラじゃねぇか…。なんか、この子に惚れる子達の気持ちが分かる気がするな…)
レジを操作しながら密かに観察する。
(つーか胸もでかいな!?絶対にリアスクラスの大きさだろ…。腰も細いし、全体的にスタイル良過ぎだろ…)
こんな美人と付き合えたら、絶対に勝ち組だろうな…。
「……どうしました?」
「はえっ!?」
ば…バレた!?
怒られるかな……?
「私の顔に何かついてます?」
「い…いや、別にそんな事は……」
よ…よかった~……バレてなかった~…。
思ったよりも鈍感なのか?
「お客さんがあまりにも美人だから、思わず目線が行ってしまって……たはは~…」
って!いきなり何を言ってんだ俺は~!?
これじゃあ、思いっきりナンパじゃねぇか!
「び…美人ですか……」
あ……照れてる。
(か…可愛い……)
さっきまではイケメン系美人だったのに、照れて女の顔になった途端に可愛くなった…。
なんだよこのギャップ……。
このままじゃなんかヤバい!
そう思って、俺は急いで本を袋に入れた。
「え…えっと……648円になります!」
「はい」
「ちょ…丁度ですね!レシートです!ありがとうございました!」
「は…はい……」
なんか、まとも顔を見れない…。
彼女は呆けながらレジから離れていった。
その後にもリアスを初めとした女性陣がやって来たが、不思議と彼女の時のように緊張はしなかった。
全員が買い物を済ませてから、揃って店を後にしたが、どうにも彼女の顔が目に焼き付いて離れなかった。
「はぁ~……」
「おい田中」
「はい?って、先輩!?」
いきなり俺の後ろに来たのは、バイトの先輩だった。
「なんだよ~、あの美女や美少女の集団は~」
「知りませんよ……」
俺の方が聞きたいっつーの。
「しかも、お前……あの眼鏡かけた背の高い美人と見つめ合ってたろ?」
「んな事してねぇっスよ!」
いきなり何を言い出すんだ、この人は…。
「ちくしょ~!あの瞬間だけでも俺がレジをすればよかったなぁ~!」
「そっちが俺にレジを押し付けたんじゃねぇっスか……」
「うっせ!」
うげっ!?く…首が締まる…!
にしても、同じ転生者なんだし、せめて名前ぐらいは知りたかったなぁ~……。
また会う機会は……ないだろうなぁ~。
なんたって、向こうは原作にどっぷりと浸かってるっぽいし。
丁度この時期だと、冥界に旅行に行く頃か?
これからも、俺が知らない所で物語が進んでいくんだろうな…。
今回出て来た田中君は、これっきりのスポット参戦キャラです。
田中「えっ!?マジで!?」
マジです。
田中「うそ~ん!」
そんな訳で、彼の出番はこれで終了。
因みに、彼の名前は適当に考えました。