神を喰らう転生者   作:とんこつラーメン

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頭痛い~、喉痛い~、しかも眠い~。

でも頑張る~。







第69話 二天龍

 複雑な気持ちになりながらも、なんとかサリエル堕天を倒し、皆が待っている会議室へと戻っていった。

壁が丸ごと破壊されているから、中の様子が丸見えになっている。

どうやら、リアス達は無事にギャスパー君の救出に成功したようだ。

ギャスパー君も特に外傷が無いようで安心した。

 

「お姉ちゃ「マユ先ぱぁ~~~~い!!」…え?」

 

リアスが何か言う前にギャスパー君がダッシュで来て私に抱き着いた。

きっと、凄く不安だったに違いない。

 

「大丈夫だったか?」

「はい……部長さん達が助けてくれましたから……でも……」

「怖かった…か?」

「はいぃ~……。やっぱり…僕はこんな力なんか……」

 

今回の事で、より一層己の神器に対しての恐怖心が出てしまったみたいだ。

強大な力を制御しきれない気持ちはよく分かる。

けど……

 

「ギャスパー君……よく聞いてくれ」

「はい…?」

「確かに強い力は誰かを傷つける事がある。けど……」

「……?」

「君の努力次第で、その力は誰かを守る最高の『力』になるんだ」

「誰かを……守る……」

「そう。どんなに怖がっていても、君が停止世界の邪眼を持っている事実は変わらない。なら、これから頑張ってそれをコントロール出来るようになればいい。私も可能な限り協力は惜しまないつもりだ」

「先輩ぃ~……」

 

よくよく考えれば、私の中にあるオラクル細胞だって似たようなものだ。

だけど、色んな人々の努力と研究のお蔭で、この忌むべき力は今、人類を守護する最強にして最後の力になっている。

要は、使い方次第なんだ。

 

「ホント……貴女のセリフってどれも説得力に溢れてるわね」

「そうか?」

 

何気なく言ってるだけなんだけどね。

 

「ギャー君。いい加減にマユさんから離れてください」

「うぅ~…私にもギャスパーさんぐらいの積極性があれば……」

 

白音さん、マジでその顔怖いです。

アーシアは変な事で悩まない。

 

「と…取り敢えず、これで全てが終わったのよね?」

「そのようだ」

 

このままでは収集がつきそうにないと判断したのか、リアスが無理矢理締めてくれた。

それと同時にサーゼクスさんが安心したような顔で外を見ている。

周囲にはもうさっきまでいた魔法使い達の姿は全く見当たらない。

 

「どうやら、自分達のボスが倒されたのを見て、連中も根こそぎ撤退したようだな」

「捕虜の一人ぐらいは欲しかったですが……」

「リアス。彼を救出した際にも奴らはいたんだろう?そいつらはどうなった?」

「はい。私達が踏み込んだら、不利と判断したのか、即座に魔法陣を使って消えました。すいません…」

「いや、気にしなくてもいい。あの場合はギャスパー君の救出が最優先だったからね」

 

だが、気になる言葉は幾つか聞けたけどな。

大車の事とか……。

 

(あいつが何故生きていて、禍の団に協力しているのか。それをなんとかして突き止めないとな……)

 

もしかしたら、私と言う存在がいる事によって何かが歪んでしまっているのかもしれない。

だとしたら……

 

(私が…何とかしなければ……!)

 

色んな意味で、あいつの事は放置できないから……。

 

「マユ?また何か難しい事を考えてるにゃ?」

「黒歌……」

 

いつの間にか黒歌が目の前にいた。

なんか覗き込むようにしてこっちを見てるけど……。

 

「眉間に皺が寄ってるにゃ。マユが何か考えてる時はいっつもそうしてるにゃ」

「そ…そうだったのか…」

 

私にそんな癖があったなんて…初めて知った。

 

「何を考えてるかは知らないけど、一人で抱え込むのはやめて欲しいにゃ」

「黒歌の言う通りだ」

「ゼノヴィア……」

 

黒歌の言葉に皆が頷いた。

あのミカエルさんやガブリエルさんまで。

 

「貴女はもう一人ではありません。全ての宿命を一人で抱え込む必要はないんです」

「そうだぜ。どうやらお前さんは自分で全てを解決しようって癖があるみたいだな。そいつはちと傲慢って奴だぜ」

 

傲慢……か。

痛いところを突かれたな…。

 

「周りを見てみな。お前の周りにはこんなにも多くの仲間がいる。これだけの味方がいて、何を悩む必要がある?」

「そう…ですね」

 

はぁ……力は成長しても、心の方は全く成長しないな。

そう言えば、記憶の中でツバキさんも言っていたっけ。

『お前はもう少し、誰かに頼ることを覚えるべきだ』って…。

全くもってその通りじゃないか…。

 

「ゴメン…皆。どうやら私は無意識の内に誰かに頼るという事を忘れてしまっていたみたいだ。これからは悩みとかを相談しても…いいかな?」

「勿論よ!」

「当然ですわ」

「どんなに些細な事でも、先輩のお役に立てるならば光栄です」

「今更ですよ、マユさん」

「微力ながら、私もマユさんを支えたいです」

「私もな。神の使命とは関係無しに、貴女の事をサポートしよう」

「わ…私は…その…アンタの従者なんだから、支えるのは当然って言うか……」

 

どんだけ周りが見えてなかったんだよ、私は…。

こんなにもいい仲間が沢山いるのに、気が付かなかっただなんて…。

 

「黒歌。私に大事な事を気付かせてくれて、本当にありがとう」

「そ…そんな……私はただ……」

「黒歌は私の事を私以上に見てくれていたんだな」

「にゃ…にゃにゃっ!?」

 

ふふ……そんな風に顔を赤くする彼女を見るのも久し振りだな。

 

『無論、俺達も相棒の事を支えるぞ』

「ドライグ……」

『ふん!乗りかかった舟と言うやつだ。こうなったら、お前の事を最後まで見てやろうではないか』

「ギルも……」

 

そうだった。私の中にも支えてくれる人達はいるんだった。

ドライグは龍だけど。

 

「これで一件落着…かな?」

「そうだな。一応、会議自体は襲撃前に終わりかけてたし。細かい詰めは後ですればいいだろう」

「それがいいですね。まずはこの会議で得た情報を持ちかえり話し合わなければ」

 

各陣営に戻っても、まだやる事は一杯あるんだな。

トップは大変だ。

 

「で、クレイドルの方はどうするんだ?」

「それは僕とルー君でなんとかするよ」

「いくら代表になったとは言え、こいつがまだ子供な事には変わりないんだ。取り敢えずは俺達が大まかな事をするつもりだ」

 

ですよね~。

こっちとしてもその方がいいと思う。

私に組織の運営とか難しいでしょ。

 

「拠点はあの家でいいだろ。見た目はちょっとした高級住宅だが、あれの周囲には俺らの結界が張られてるからな。下手な基地とかよりはよっぽど安全だぜ」

 

…今にして思えば、私の家って凄い事になってたんだな…。

 

「あの~…ちょっといいかしら?」

「ヴァーリ?いきなりどうした?」

「終わりかけの雰囲気を出している所を申し訳ないんだけど、少しマユにお願いがあるのよ」

「お願い?」

 

この空気の中で何を言い出す気だ?

 

「私がさっき言おうとしたこと…覚えてる?」

「さっき…?それって、会議室に突っ込む前に言おうとしていたことか?」

「ええ、それよ」

 

あの時は急いでいたから、正直うろ覚えだったけど。

 

「実はね、あの時…こう言うつもりだったの」

 

なんですのん?

 

「私と……戦ってほしい」

「「「「「「えぇ!?」」」」」

 

いきなりの発言に全員が目を見開く。

再び夢の世界に行ってしまった幼女組以外は。

 

「別に貴女に恨みがあるとか、敵対心があるととかじゃないわ。純粋に赤龍帝であるマユと戦いたいの」

「ヴァーリ……お前は……」

 

彼女の前にはさっきまでの迷いは一切無い。

どこまでも真っ直ぐに私の事を見ている。

 

「……分かった」

「お姉ちゃん!?」

「…いいのかい?」

「はい。もしも何か別の思惑があるなら、迷う事無く断っていました。けど、今の彼女からはそれが見えない。ヴァーリは本当に私と戦いたいだけなんです」

 

っていうか、こんな目で見られたら、断りたくても断れないじゃん。

 

「ありがとう。で、もう一つお願いがあるんだけど」

「まだあるのかよ?欲張りな奴だな」

「堕天使の総督であるアンタがそれを言うの?」

「うっ!」

 

会心の一撃!

アザゼルさんは胸を押さえて苦しみだした。

 

「言われてますね、アザゼル」

「うっせ」

 

何気にミカエルさんとアザゼルさんも仲いいね。

なんか悪友って感じ。

 

「…私と戦う際には…貴女も禁手になってほしい」

「禁手に?」

「そうよ。原初にして最古の英雄王であるギルガメッシュの力を開放した禁手……その力と対峙してみたい」

 

なんちゅー怖いもの知らず…!

でも、ギルがそんな事を許可する筈が……

 

『ふはははは!この我の力を見てみたいとな!このような無礼者を見るのは初めてだ!よかろう!マユよ!此度の戦い、我の禁手を使用する事を特別に許可する!!』

 

まさかの許可出ましたよ!?

ホントにいいのかよ!?

 

「自分で言っておいてなんだけど……本当にいいの?」

『構わん!その代わり……我の事を楽しませてみよ。白龍皇』

「こっちも全力で行くわよ。手加減して勝てる程、甘い相手じゃないのは重々承知しているもの」

 

私はどこまで過大評価されているんだろう……。

 

「じゃ、先に行ってるから」

 

あ……外に行ってしまった。

 

「ったく……悪ぃな、嬢ちゃん。バカ娘の我儘に付き合わせちまって」

「大丈夫です。二天龍を宿している以上、こうなる事は避けられないでしょうから」

「悟ってるんだな」

「強がってるだけですよ」

 

そう思わないとやってられないしね。

 

「そんな事だから…頼む、ドライグ」

『なに、構わんさ。俺も心のどこかでこの時が来るのを覚悟していたからな』

 

私と一緒だったか…。

 

「じゃあ、行きますか!」

『『おう!!』』

 

籠手の宝玉が光りだし、音声が響き渡る。

 

【Welsh Dragon Gilgamesh Balance Bleaker!!】

 

禁手のお約束、眩い光が私の体全体を覆い尽くす。

 

一瞬の後に光が収束し、そこには禁手状態になった私がいた。

 

「これが……!」

「英雄王の力の顕現……」

 

私の全身はギルガメッシュが纏っている鎧に酷似した鎧に覆われている。

けど、その色が違った。

鎧は籠手と同じ真紅に染まり、左腕の部分は赤龍帝の籠手のまま。

右手は腕輪を避けるように覆われている。

けど、ギルガメッシュの鎧の名残を彷彿とさせるように黄金の装飾が施されている。

そして、胸や膝や肘の部分にはこれが赤龍帝が宿っている事を示すかのように、籠手と同じ緑色の宝玉が填められていた。

ちゃんと胸の部分は膨れ上がって、私の胸部を圧迫しないようになっている。

 

「今までで一番、禁手っぽいわね…」

「けど、全身からとてつもない力を感じますわ……」

 

少しだけ動きにくくはあるけど、ギルの戦い方を考えれば問題無い。

 

「行ってきます」

「頼むぜ。アイツに『敗北の味』ってヤツを教えてやってくれ。多分それが、あいつの事を成長させるはずだ」

「はい」

 

負けを知らない者は、本当の意味で強くはなれない。

私は過去に何回も敗北を経験しているから、ここまで来れた。

 

カシャンカシャン…と言う音を出しながら外に歩いて行き、いつの間にか禁手状態になって空中に浮いているヴァーリに向き合った。

 

「待たせた」

「別に気にしてないわ」

 

こうしていると、なんだかこっちも体が震えてくる。

私も興奮しているのだろうか。

それとも、私の中にある赤龍帝の力が白龍皇の力に共鳴でもしているのか。

 

「多分、この勝負は長くは続かない」

「決着は……一瞬だ」

 

ヴァーリの全身から闘気が溢れているのがよく分かる。

なんだか白いオーラみたいのが見えてるし。

 

「ギル……『エア』を使うぞ」

『いいだろう。ただし……』

「承知している。真名解放はしない」

 

そんな事をしたら、駒王学園が…下手をすれば駒王町が滅びかねない。

守るべき場所を自分の手で壊すなんて論外だ。

 

前方に宝物庫の波紋が出現し、そこに手を突っ込む。

すると、私の手に何かの感触があった。

そこにある物を握りしめてから、まるで鍵を使用するように回すと、その感触が消えて、そこにまた別の感触が生まれる。

それを握ってから、そのまま引き抜くと、私の手には一本の異形の剣が握られていた。

 

柄には黄金の装飾が施され、刀身部分は赤い光を放つ文様を備えた3つの円筒が連なるような形状。

この3つの円筒はそれぞれに『天』『地』『冥』を表しているらしい。

これこそがギルガメッシュが所有するオリジナルの宝具にして、正真正銘の神造兵器。

 

「それは一体……!?」

「乖離剣エア。古代バビロニア神話の知恵の神の名を冠する剣だ。と言っても、本来は無銘の剣で、ギルが自分で名付けたんだがな」

「剣……剣なの?」

「剣に見えないのは仕方が無い。何故なら、エアはこの世に剣と言う概念が誕生する前に生み出された存在だから、正確には剣と言う代物じゃない。本当は剣と言うよりは杖に近いらしい」

 

より正確には武器ですらないんだけど。

そこは言わなくてもいいだろう。

 

「これを抜くと言うことは、少なくともギルが本気を出した証拠でもある」

「あの英雄王が本気を……ね。光栄の極みだわ」

『ならば、この一撃……見事受けてみせよ!!白龍皇!!』

 

エアをしっかりと握りしめてから構える。

すると、エアの刀身に赤い魔力の奔流が流れ込み、周囲の空間を歪ませる。

 

こっちの戦闘態勢を見て、ヴァーリも自身の体に全ての魔力を充満させる。

拳を構えて、腰を低くする。

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

体をバネのようにして動かし、凄まじい速度でヴァーリが突撃してくる!!

その拳にはアルビオンのオーラとヴァーリ自身の魔力が混ざり合った力が宿っている!

 

「全てを切り裂け!!エア!!!」

 

こちらもエアをヴァーリに向けて放つ!!

エアの刀身にもドライグのオーラとギルの魔力が混ざり合っている!

それがまるで真紅の竜巻のように放たれ、向かってくるヴァーリに直撃する!!

 

「ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

最初は耐えたかのように見えたが、次の瞬間には拳の部分の装甲に罅が走り、そこから全身に罅が入って、次の瞬間には白龍皇の鎧が粉々に砕け散った。

 

ヴァーリは大きく吹っ飛び、かなり離れた場所に落ちた。

その周囲には白い鎧の欠片が沢山散らばっている。

 

「これが……英雄王の力…ね。まさか…この拳を当てる事さえ出来ないなんて…」

『戯け。これが我の…エアの全力である筈がなかろう』

「なんですって……!?」

『もしもエアの真名を開放して放てば、間違いなく貴様は跡形も無く消滅している。それどころか、この町ごと消え去っているわ。故に、マユは自らの意思で威力を調節した。今のは精々、3割と言ったところか』

「さ…3割でこの威力……!?」

 

エアを放った方には、まるで何かで抉られたかのような跡が出来ている。

真っ赤に赤熱していて、そこからは煙が出ている。

 

『ところで娘。何故に半減の力を使わなかった?』

「こんな力を半減して吸収でもしたら、私の方がオーバーフローを起こしちゃうわよ…。それに……」

『それに?』

「純粋な力と力のぶつかり合いの勝負に、そんな無粋な真似はしたくないじゃない……」

『貴様なりの騎士道…と言うやつか?』

「そんな立派なモノじゃないわ…。単なる自分ルールってやつよ……」

 

その言葉を最後に、ヴァーリは気を失った。

 

『エアを真正面から受けて、その程度で済むとはな。少しは白龍皇の評価を改める必要があるかもしれんな』

「珍しい…」

『お前は我をなんだと思っている』

「慢心大好き英雄王」

『よく分かっているではないか!ははははは!!』

 

慢心している自覚はあるんかい。

 

気絶したヴァーリの所に行こうとすると、足に何かがぶつかった。

 

「ん?」

 

視線を下すと、そこには青い宝玉が転がっていた。

 

「これは……」

『白いのの宝玉だな。あの一撃を受けた際に取れたんだろう』

 

拾い上げてみると、傷一つない綺麗なままだった。

 

『これは神器の力が集中している場所だからな。流石にそう簡単には破壊されんか』

「ふ~ん……」

 

力が集中している……ね。

 

「これを取り込めば、私も白龍皇の力が使えるようになるのかな?」

『ふむ……。通常ならば不可能に近いが、お前はオラクル細胞を宿した存在。あらゆる物を捕食し、学習するその特性を利用すれば…あるいは……』

 

いきなりギルが考え込んでしまった。

 

『物は試しだ。籠手の宝玉の部分にそれを当ててみるがよい』

「了解」

 

コツンと青い宝玉を籠手にある緑の宝玉に当ててみる。

すると、少しの光の後に青い宝玉が吸収された。

 

『こ…これは!?』

「ド…ドライグ?どうした?」

 

何か不具合でもあったのか?

 

『信じられん…!まさか、ここまでスムーズに力が付加されるとは…!』

『感じる……感じるぞ!奏者!間違いなく余に新たな力が加わった!』

『どうやら私もだな。不思議な感覚が体に宿っている』

『みこーん!私にも来ましたよ~!これならばもっとご主人様のお役に立てます!!』

『おや?私にも何かが付加されたようです。これは不思議な感覚ですね』

 

ドライグが驚いている中、ネロとエミヤと玉藻とアルトリアがなにやら言っている。

宝玉を取り入れた事によって、この4人に新しい力が加わったようだ。

 

『おいマユ。痛みなどは無いか?』

「特には」

『矢張りか…。そんな事をすれば普通は全身に壮絶な痛みが走る筈だ。それが無いと言う事は……』

『相棒の体が僅かにアラガミ化していることが原因か?』

『恐らく…な。そうでなければ説明がつくまい』

 

アラガミ化もデメリットばかりじゃないって訳か。

何事にもいい部分はあるってことね。

 

エアを宝物庫に戻してから、ヴァーリの所まで行って横抱き。

そのまま会議室に戻った。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 戻ると、また皆がポカ~ンとしていた。

 

「アザゼルさん。彼女を……」

「お…おう」

 

彼が慌ててヴァーリを受け取る。

 

「本当に…一撃で終わったね…」

「って言うか、あれで3割って……」

 

そう言われてもな。

 

「これで本当に終わり…ですか?」

「みたいですね…」

 

短いようで長い時間だったな…。

これってメタ発言か?

 

力を抜いて、禁手状態を解除する。

 

「ふぅ……」

 

流石に今回は疲れた。

汗で服がべたつくし、少しだけ息が上がってる。

 

「本当にお疲れ様。結局、最後を締めるのはお姉ちゃんね」

「もうこれもお約束になりつつありますわね」

 

そう言われると、次もまた何かありそうで怖い。

これもまた赤龍帝を宿した者の宿命か…。

 

「げっ!?もう終わっちまったのかよ!?」

「ん?」

 

聞き覚えのない声が校庭の方から聞こえた。

当然のように皆の視線がそっちに集中する。

すると、そこには中華風の鎧を纏った男が立っていた。

その手にはどこかで見た事があるような棍が握られている。

 

「お前は誰だ?」

「へぇ~…お前さんが噂の赤龍女帝か。生で見ると、かなりの美女じゃねぇか」

「いいから答えろ」

「おぉ~怖い。ちゃんと言うから、そんなに殺気を出すなよ。流石の俺もマジでビビっちまうぜ」

 

その割には飄々としているけどな。

 

「俺っちは美猴。戦闘勝仏の末裔……って言えば分かるか?」

「戦闘勝仏の末裔……」

「つまりは、かの斉天大聖の子孫…か」

 

斉天大聖って……要は孫悟空?

じゃあ、あの手に持っているのは如意棒?

 

『その猿の末裔が何の用だ?よもや、貴様も例の禍の団とか言う雑種共の一味ではあるまいな?』

「どこから聞こえてくるのかは知らないが、随分と言ってくれるじゃねぇの」

『いいから答えよ。さもなくば、今すぐこの場にて塵にしてやろう』

「分かった!分かったから、そんなに癇癪起こすなよ…」

 

声だけでもギルの怒りは伝わったようで、あの美猴とか言う奴は大人しく話し出した。

 

「今の俺は禍の団のメンバーじゃねぇよ」

「今……?」

「ああ。少し前までは確かに奴らの所にいた。ヴァーリの奴を誘ったのも俺なんだよ」

「テメェだったのか…!」

 

あ、アザゼルさんが切れてる。

この人には、大事な娘を惑わした不良みたいに映ってるんだろうな。

 

「俺も目的自体はヴァーリと同じだった。強い奴と戦えればそれでよかった。けどな、あの大車って野郎が来てから、禍の団は完全に変わっちまった。あんなドラッグよりも遥かにヤバい代物に手を出すようになっちまったら、もう終わりだ。だから、あそこに見切りをつけて出てきたって訳だ。俺と同じ理由であそこを抜けた連中も結構いる」

 

仲間内で揉めだすとか…。

力を引き替えに結束力を失ったか。

 

「そんで、ヴァーリを説得しようと思ってここまで来たんだけどよ…」

 

美猴がアザゼルさんに抱えられたヴァーリを見る。

 

「どうやら、無用の心配だったみたいだな」

「当たり前だ。確かにヴァーリは馬鹿だが、愚かじゃねぇ。自分の信念を曲げてまで強さを求めようとはしねぇよ」

「全くもってその通りだ」

 

はっはっはっ!と高笑いする美猴。

元テロリストとは思えないような豪快さだ。

 

「君はこれからどうする気だい?」

「別にどうもしねぇよ。前のように世界中を旅しながら、強い奴を探すさ。それにヴァーリも誘おうかとも思ったんだがな……」

 

今度はこっちを見た。

少しだけ視線が合ってしまった。

 

「派手にやられたみたいだな。お前さんに」

「まぁ……な」

「その地面を見ても分かる。赤龍女帝……こっちの想像の遥か上を行く強さみたいだな」

『何を今更……』

 

なんて言いながらも、嬉しそうですよ、ギルさん。

 

「少なくとも、もうあいつ等とは関わることは無いだろうよ」

「そうか。それが聞けただけでも有難いよ」

「三大勢力はまだ信用出来ないが、赤龍女帝…気が向いたら手助けぐらいはしてやるよ」

「そうか」

 

あっさりと返事したけど、今…凄いこと言わなかった?

 

「無駄足になったと思ったけど、噂に名高い赤龍女帝の顔を生で拝めただけでも来た甲斐はあったかもな。それじゃ、俺はこれで失礼するぜ」

 

美猴はまるで瞬間移動でもしたかのように、一瞬で消えてしまった。

 

「消えた…?」

「魔法の類じゃない。あれはきっと、凄いスピードで移動したんだ」

 

体術だけであの域に達するか。

孫悟空の子孫というのは伊達じゃないようだな。

 

「さて、では我等もそろそろ帰るとしようか?」

「そうですね」

 

皆が帰り支度を始めようとする。

ふと、私は純粋な疑問を投げかけた。

 

「あの……」

「なんだい?」

「この校舎はどうするんですか?今日は平日で、明日もちゃんと学校はあるんですけど……」

「それなら心配は無用さ。僕らが何とかするから」

「はぁ……」

 

そう言うなら大丈夫……なのか?

 

「ヴァーリの事はこっちに任せてくれ。こいつと話してから、これからの処遇を決めようと思う」

「それがいいだろうね」

 

本音を言うと、ヴァーリとは仲良くなりたい。

二天龍の宿命とか、そんなのとは関係無しに友達になりたい。

 

「ガブリエルはこのまま彼女と一緒にいてください」

「元よりそのつもりです」

 

え……そうなの?

まぁ…部屋はまだあるから大丈夫だけど。

 

「そんな訳で……改めまして、これからよろしくお願いします。マユ様」

「こ…こちらこそ」

 

また同居人が増えたな~。

 

「ま…まさかガブリエルさまが来るとは……」

「あわわ~……」

 

教会関係者であるアーシアとゼノヴィアは完全に緊張してる。

二人からすれば、文字通り天の上の人だからな。

 

それぞれに今後の事を軽く話した後、私達は解散となった。

 

こうして、ここ駒王学園において、3大勢力に加え、私達人類代表であるクレイドルを含めた4大勢力の各代表の元に、和平協定が成立された。

 

後にこの時に成立された協定を『駒王協定』と呼称するようになり、後世に語り継がれていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久し振りだからって気合を入れた結果がこれだよ…。

めっちゃ長くなった……。

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