神を喰らう転生者   作:とんこつラーメン

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なんか…この章は今までで一番長いかもしれません…。

でも、頑張るしかないんですよね~。






第67話 旧魔王

 会議室に突如として出現した魔法陣と声。

それを見聞いた途端、サーゼクスとセラフォルーの顔が強張る。

 

「以前に見た事がある…。こいつはレヴィアタン……いや、正確に言えば旧魔王レヴィアタンの魔法陣だ」

 

アザゼルが苦々しい顔で呟く。

 

最大級の警戒をしながら、その場にいる全員(オーフィス達を除く)が臨戦態勢になる。

すると、魔法陣から一人の女性が転移してきた。

 

胸元を大きく出したドレスを身に纏い、眼鏡を掛けた褐色の肌の女。

 

「ふふふ……お久し振り。罪深き偽りの魔王…サーゼクス。そして、それ以外の方々には初めまして……かしら?」

「先代レヴィアタンの血縁者……カテレア・レヴィアタン。どうして君が……」

 

質問形式で話してはいるが、彼の中で大方の答えは既に出ていた。

 

睨みつけるようにカテレアを見据え、いつでも動けるように構えるサーゼクス。

だが、そんな彼を無視してカテレアは一切怯むことなく普通に答える。

 

「もう…分かっているんのではなくて?」

「質問を質問で返すのは感心しないな」

「あら、ごめんあそばせ」

 

からかう様な口調で話し、手で口を押えてクスクス…と笑うカテレア。

彼女は完全に自分がこの場で優位に立っていると信じている。

 

「私を初めとした、旧魔王派に属する殆どの悪魔が『禍の団(カオス・ブリゲード)』に参加することに決定しました」

「矢張りか……」

「悪魔達が前々から内部に抱えていた問題が本格的に表面化しちまった訳か」

 

サーゼクスは苦虫を噛んだような表情に、一方のアザゼルはどこか他人事のように微笑を浮かべている。

 

嘗ての大戦において死亡した四大魔王の血筋を受け継ぐ旧魔王派。

当時、最も優れていたサーゼクスを初めとした若手悪魔を支持する新魔王派。

今の冥界はその二つの派閥に分かれていた。

 

自らの血筋を主張し、強さのみで次代の魔王を選出することを反対した旧魔王派であったが、その意見は全く受け入れられなかった。

いい分だけなら尤もなのだが、彼等は戦争が終結したにも拘らず、尚も他の勢力との徹底抗戦を言い続けたのだ。

現在の冥界の平和と将来的に他の勢力や人間達との共存を考えている新魔王派に、そんな考えが通る筈もなく、結果的に旧魔王派は新魔王派によって冥界の隅へと追いやられたのだ。

この出来事が冥界を明確に二分化し、旧魔王派と新魔王派の溝を決定的にしたのだ。

 

「おい…カテレア。そいつは言葉の通りと受け取って構わねぇんだな?」

「ええ、そうですわ…ルシファー様」

 

ヤハウェと寄り添うように立っているルシファーを睨み付けるように見つめるカテレア。

この瞳には、明らかな怒りが満ちていた。

 

「我らの前から姿を消しただけでなく、本来は敵である筈の聖書の神と心を通わせるとは……貴方は悪魔の恥さらしです!!」

「なんとでも言え。俺は自分の選択を後悔したことは無い」

「その貴方の行動と、今回の会談が我々の心を決めたのです。誰もこの世界を変える気が無いのならば、我々がこの世界を変革させると」

 

変革……その言葉を聞いた各陣営のトップは、そこに妙な違和感を感じた。

 

「…明確なトップがいないくせに、結構先まで見据えてるんだな」

「ふふ……以前までの我々ならば、そこまでの大言壮語は出来なかったでしょう。ですが!今の私達にはそれを実現出来るだけの『力』がある!!」

「まさか……例の協力者…か?」

「流石は堕天使の総督。もうそこまで情報を入手していたのですね」

「当たり前だ」

「では話が早い。そう……我々は手に入れたのです!彼の手によって……『荒ぶる神』の力を!!!」

「荒ぶる神…だと?まさか!?」

 

カテレアの発言に、猛烈に嫌な予感がした面々。

 

「本当ならば、そこにいるオーフィスを我らのトップにしようと思っていましたが、その前に彼女は赤龍女帝に接触してしまった」

「我、お姉ちゃんの傍を離れない」

 

レイナーレの服を掴みながら、キッとカテレアを睨むオーフィス。

その眼力は間違いなく、最強と謳われた龍神だった。

 

「そうでしょうとも。さすがの私達も、歴代最強と言われている彼女に、何の準備も無く真っ向から立ち向かうような無謀は侵さない。でも、今はそれでよかったと思います。そのお蔭で、我々はより強大な力を手にしたのですから」

 

どこまでも自信満々なカテレア。

その自信の元がなんなのか、ある程度の予想がつきつつあるトップ達は、冷や汗を流している。

 

「この力を用いて、我等は今の世界を滅ぼし、そして再構築する。その新世界を支配するのが…我等旧魔王派。私達にはその資格がある!!」

「何をどう考えて、そう思ったのか…」

「三大勢力のアウトローが集まって、自分達にとって都合のいい世界を欲した…か。厄介極まりねぇな」

 

カテレアの考えを聞けば聞くほど、禍の団の危険性を感じるサーゼクス達。

だが、そんな彼を余所に、一人セラフォルーだけが悲しそうな目でカテレアを見つめる。

 

「カテレアちゃん……どうして!?どうしてこんな事をするの!?」

「………今更、貴女と話す舌は持ちません。セラフォルー」

 

目だけを動かしてセラフォルーを見たカテレアだったが、すぐに目線を戻してサーゼクスを見る。

 

そろそろ動くべきか…?

サーゼクス達がそう思い出した……その時だった。

 

「「はぁっ!!」」

 

会議室の窓が割れて、そこからマユとヴァーリが飛び込んできた。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 強い魔力を感じたから、急いでヴァーリと一緒に戻って来たけど…これはどういう状況?

あの褐色肌のお姉さんは誰?

 

「赤龍帝に白龍皇…!いかに雑魚とはいえ、小娘二人も足止めできないとは…!」

 

この発言……この人が今回の襲撃の首謀者か?

 

「マユ。こいつはカテレア・レヴィアタン。旧魔王であるレヴィアタンの血を引く者よ」

「旧魔王…?それにレヴィアタンって……」

 

もしかして、セラフォルーさんの知り合いか?

 

「詳しい話はあとで説明する。取り敢えず、この女が今回の襲撃の首謀者だ」

「そうですか…」

 

まさか、本当に釣れるとはな。

見事な一本釣りだ。

しかも、かなりの大物っぽい。

 

「こうして貴女と会える時を待っていましたよ。赤龍女帝」

「なに?」

 

私と会える日を待っていたって…。

こっちはアンタなんて全く知らないんですけど。

 

「『彼』が言っていました。この『力』を使えば、貴女とも互角に戦えると!」

 

彼って誰!?

って言うか……彼女が懐から取り出した物って……。

 

「注射器?」

「なんだありゃ?」

 

あ…あの注射器に描かれている紋章は……!

 

(フェンリルの紋章…!)

 

なんで…なんで彼女があれを!?

 

「おい!カテレアとか言ったな!一体何処でそれを手に入れた!!」

「マユさん…?」

「いきなりどうしたにゃ?」

 

あれがもしも本当にフェンリルの物なら、中に入っているのは…まさか……!

 

「勿論、我等の協力者からです。ふふ…貴女の動揺した顔が見られただけでも、こうして来た甲斐があったというものです」

「協力者……」

 

一体…どこのどいつだ…?

 

「そうですね。冥土の土産に教えてあげましょう。彼も自分の名を言えば、確実に彼女は驚くだろうと言っていましたから。我らの協力者……それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大車ダイゴです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

オオ…グルマ……?

 

「なんで……」

 

そんな…訳が……。

 

「なんでアイツが生きている!!!」

 

そんな訳がない!!

あの男は……あの男は確実に死んだはずだ!!

何故なら……

 

(大車を殺害したのは……闇里マユ(わたし)なのだから……)

 

闇里マユが犯した、人生で最初で最後の殺人…。

 

嘗て、シックザール支部長を止めて、シオがノヴァと一緒に月に行った後……闇里マユは偶然にもエイジス島の中を逃亡中の大車を発見した。

 

事の全貌をアリサとサクヤさんに予め聞かされていた私は、その姿を見た途端に怒りに支配された。

周囲に自分以外に誰もいないことを確認した後……私は己の神機を人の血で染めた。

 

無様に命乞いをする彼を完全に無視して、その刃を振り下ろした。

その時の感触だけは……なんでかまだある。

体験してないのに、まるで本当に体験したことがあるように…。

 

「その反応……どうやら、彼が言ったことは本当のようですね」

「それは……」

「まぁ、貴女が過去に何をしようと、今更どうでもいいこと。今重要なのは……」

 

カテレアが握っている注射器の針が彼女の首筋に向かっている。

ま…まさか……!

 

「この『荒ぶる神の細胞』で貴女を屠ること!!」

 

注射器が刺さった……。

中身が体内に入っていく…。

 

「あ……ははは……」

「カテレアちゃん……?」

「あははははははははははははははははははははははははは!!!!!」

 

カテレアの体に血管が浮き出る。

同時に目が血走り、ビキビキと言う音と共に筋肉が軋み始める。

 

「これよ!!これこそが求めた力!!赤龍女帝…貴女と同じ『荒ぶる神』の力!!!」

「やっぱり……その注射器の中に入っていたのは、オラクル細胞か!!」

 

普通ならばオラクル細胞を容器に中に入れるなんてことは絶対に不可能。

だけど、フェンリルの技術力…正確にはサカキ博士の頭脳が、その不可能を可能にした。

あの注射器もその技術の一端だ。

 

「なんだって!?」

「あの女がどうしてアレを!?」

 

そりゃ驚くでしょうよ…!

私が一番驚いてるんだから!

 

「当然です!大車はそこにいる赤龍女帝と同じ組織に嘗ては属していたのですから!!」

「「「「「なぁっ!?」」」」」

 

言われちゃったか……!

 

「その彼がオラクル細胞を所持しているのは当然のこと!!そして、その細胞によって我等は強大な力を得たのです!!」

 

いや……いくらフェンリル関係者だからって、それがオラクル細胞を所持している理由にはならない。

その理論で言えば、神機使いの全てが細胞を持っていることになる。

いや…体内に持ってはいるんだけどね。

 

「つまり……奴らは彼女と同等の力を得たと……!」

「その通り!光栄に思いなさい!その力を貴方達の体で直接試してあげるのですから!」

 

そう上手くいくと本気で思っているのか…?

体内に投与すれば誰でも最強になれれば、私達は苦労はしない!

 

「さぁ!この力の前にひれ伏しな……がぁぁぁっ!?」

「な…なんだ!?」

 

急に苦しみだした…。

やっぱりこうなったか…!

 

「な…なに……?なんなの!?この苦しみは!?痛みは!?」

「カ…テレア…ちゃん……?」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

苦悶の叫びと共に、壁をぶち破って外に飛び出していった。

そのまま、地面に這いつくばって苦しみだす。

 

「オ…オオグルマァァァァァァァァ!!!騙したなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

あの男を簡単に信用する方が悪い。

アイツは、目的の為なら手段を選ばない、典型的なクソ野郎だから。

 

カテレアの体が次第に変容していき、肌が紫に変わっていく。

 

「た…助けナさイ!!白龍皇!!貴女ハこっちニ来るはずだったノでしょウ!!」

 

え…?ヴァーリ…?

 

「おい…お前……!」

「……………」

 

何か言ってよ……ヴァーリ……。

 

「……悪いけど、絶対に嫌」

「ナッ!?」

「最初はそっちにいくのも悪くないって思っていたけど、気が変わったわ」

「なんデすっテ……!?」

「私ね、ドーピングは嫌いなの」

 

あれ?私もドーピング扱いされてる?

 

「それにね、そんな不細工な姿になってまで強者と戦いとは思わない」

 

言われてやんの。

 

「オマエェェェェェェェェェ!!!グギャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

うぐ……アラガミ化する瞬間って初めて見たけど、かなりグロテスクだな…。

リンドウさんもこうだったのか…?

 

「見てはいけません」

「そうね。情操教育に悪すぎるわ」

「あなたも」

 

幼女たちを抱えている女性陣がその目線を逸らさせてくれている。

有難い、私もあんな光景を見せたくないから。

 

漆黒のオラクルがカテレアを包み込み、その姿が急速に変容していく。

体のいたるところが隆起し、原型が徐々に無くなっていく。

そして、オラクルのオーラが無くなって、そこにいたのは……

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

声にならない咆哮を放つ、一体のサリエル堕天だった。

 

「サリエル堕天……!」

『なんと醜悪な…!見るに堪えん!早く仕留めよ!マスター!!』

 

ギルさまご立腹。

一応、サリエルってアラガミの中じゃ結構綺麗な方なんだけど…。

 

「そんな……カテレアちゃんが……」

 

…セラフォルーさんには相当にショックな光景だったようだ。

どうやら知り合いだったみたいだし。

あんな風になってしまったら、心にくるよな…。

 

「おい……嬢ちゃん」

「…なんですか?」

「ああなったらもう……元には戻れないのか?」

「……不可能です。私達の時は、本当に幾つもの偶然と奇跡が重なった結果ですから」

「そうか……」

 

基本的に、アラガミ化になった人物は元には戻れない。

ああなった以上、私に出来ることは『介錯』だけだ。

 

「過程はどうあれ、アラガミが目の前に出た以上、私は討伐をしなければいけません。よろしいですね?」

「そう…だな。もう…それしかないのだろう?」

「はい…。皆さんの前で言うのは心苦しいですが…」

「いや…君の使命を邪魔する気はないよ。理由はどうあれ、彼女は自らの意思で細胞を投与し、その結果としてアラガミ化してしまった。ならばもう…我々に出来ることは無いよ」

 

そう言わせてしまう自分が…情けなく感じる。

 

「大丈夫にゃ」

「黒歌…?」

「私達は何があってもマユを見捨てない。だから、遠慮なく行って来るにゃ」

 

はは……また…私は……

 

「姉さまの言う通りです。これはマユさんにしか出来ない事です。躊躇う理由はありません」

「ああなった以上…カテレアさんをオラクル細胞の呪縛から解放出来るのはマユさんだけです。だから……」

「彼女達は私が全力で守る。心配は無用です」

 

白音……アーシア……ゼノヴィア……。

 

「お願い……マユちゃん。カテレアちゃんを……」

「分かってます」

 

セラフォルーさんの涙……これ以上は!

 

ふと、ルシファーさんとヤハウェを見る。

すると、二人は無言で頷いてくれた。

 

「ありがとう……いってきます」

「おう、行って来い」

「気を付けてね」

 

恥ずかしくて言えないけど……いつかは言いたいな。

お父さん、お母さんって…。

 

「マユ」

「ん?」

 

ヴァーリ?

 

「無いとは思うけど……死ぬんじゃないわよ。貴女を倒すのは…この私なんだから」

「分かってるよ」

 

テンプレ乙。

ツンデレなライバル発言いただきました。

 

「行くぞ!ギル!ドライグ!」

『全力で行け!相棒!!』

『ふん!とっとと蹴散らせ!馬鹿者!!』

「はいはい」

 

リベリオン・ストライバー・ディソレイトの空木レンカセットを装備した神機を籠手から出して、再び外へと飛び出す。

 

なんでこの世界にいるかは知らないし、その目的も知らないけど……

 

「お前の好きにさせてたまるか!!大車ダイゴ!!!」

 

 

 

 

 

 




カテレアさん、まさかのアラガミ化。
そして、ヴァーリの裏切りフラグがポッキリ折れました。

これからどうしよう……。

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