あくまで『ちょっと』だけ…ですけど。
マユとヴァーリが外にて魔術師達と戦闘を開始したと同時に、リアスを初めとしたオカ研メンバーがキャスティングにて旧校舎に転移するための準備をする。
「ちょっと待ちな」
アザゼルがポケットから腕輪のようなアイテムを取り出して、リアスに投げ渡した。
「これは…?」
「それもある意味、俺の研究の集大成さ。そいつを付ければ神器の力をある程度は抑制出来る筈だ。無事に救出に成功したら、そいつを付けてやんな」
「…わかったわ」
複雑な顔をしてはいたが、文句を言っている状況ではないし、背に腹を変えられないのも事実だった。
「ではお兄様……行ってきます」
「ああ。……最後まで油断をしてはいけないよ。ここに戻ってくるまでが救出作戦だ」
「まるで小学校の先生のようなセリフはやめてください」
「それだけ心配しているということさ」
「はぁ……分かってます」
溜息交じりにリアス達は魔法陣の上に移動する。
「二人とも……行くわよ!」
「「はい!!」」
リアスの言葉に頷き、淡い光と共に三人は転移する。
「……行ったか」
「だな」
心配そうにしてはいるが、それを言葉には出さない。
サーゼクスなりの強がりだった。
「アザゼル。少しいいですか?」
「なんだ?ミカエル」
「先程、あの魔術師達が出現した時に、貴方はまるでこの事態を予想していたようなセリフを言っていましたが、それはどういうことですか?」
「あちゃ~……言っちまってたか…」
どうやら、無自覚だったようだ。
「実と言うとな、さっき言った神器を集めている理由、研究の為だけじゃねぇんだわ。もう一つ理由があったんだ」
「なんだい?それは」
「備えていたんだよ。有事の際に備えてな」
「有事?」
「そうだ。勿論、俺が言った『有事』ってのはお前等の事じゃない」
「と言うことは……」
この場に残った全員の目線が窓の外に向けられる。
「今、マユさん達が戦っている、あの魔術師達ですか?」
「ご名答。連中は自分達の事をこう名乗っている……『
「カオス……ブリゲード……」
聞き覚えのない名前に、全員が困惑している。
「端的に言っちまえば、一種のテロリストだ。三大勢力の危険因子や自らはみ出し者になった者。他には神器持ちの人間もいるらしい」
「なんと……!」
まさか、そんな組織が三大勢力に気が付かれないまま結成されていた事実に、ミカエルは驚愕していた。
「しかも、その神器使いの何名かは既に禁手状態に至っている者もいるようだ。その神器持ちの中には『
「ったく……親の心、子知らず…とはよく言ったもんだぜ…!」
ルシファーが眉間に皺を寄せながら隣にいるヤハウェの肩を抱き寄せる。
ヤハウェは悲しそうに俯いている。
「けど、その連中の目的は一体なんなんだにゃ?テロリストって言うからには、何らかの思想のようなものがあるはずだにゃ」
「思想なんて御大層なものじゃねぇよ。あいつ等の目的はただ一つ。『破壊』と『混沌』…それだけだ」
「確かにシンプルだが……それだけに質が悪いな。下手な主義主張が無い分、迷いが無いだろう」
「聖剣使いの嬢ちゃんの言う通りだ。あいつ等はテロ行為を起こすのに一切の迷いや躊躇が無い」
今までに禍の団の被害を見てきたのか、アザゼルの顔が急に険しくなる。
「あの……」
「どうした?シスターの嬢ちゃん」
「少し疑問に感じたんですけど……組織の体裁を築いている以上、それらを率いている方がいらっしゃると思うんですが……それは何方なんですか?」
「ふむ…。アーシアさんの疑問も尤もだ。アザゼル、連中のトップは誰なんだい?」
「それなんだがな……」
バツが悪そうに頭を掻くアザゼル。
「俺の調査によると、あいつ等には明確なトップは存在しない」
「なんだって?」
トップがいない。
組織である以上は必ずいなければいけない存在が空席になっている。
普通ならあり得ないことに、流石のサーゼクスも目を見開いた。
「どういうことですか?」
「どうやら、あいつ等は組織内で幾つかの派閥に別れているらしくてな。派閥ごとのリーダーのような者はいるらしいが、組織全体のトップとなると、誰もいない」
「じゃあ、どうやって統制を取っているんだ?」
「各派閥ごとに不干渉を貫いているのさ。つまり、それぞれの派閥は基本的に上下関係は無い。互いに協力も敵対もしない代わりに、命令とかも一切出来ない」
それはつまり、小さな組織が幾つも重なり合って、一つの大きな組織になっている…と言うことに等しかった。
「けど、最近入手した情報によると、人間の協力者が出現して、そいつが各派閥のパイプ役をしているとか……」
アザゼルが顎に手を当てながら呟くと、突然…会議室に、この場にいない者の声が響いた。
『その通り。彼のお蔭で我々は強大な力を手にすることが出来た』
「こ…この声は!?」
「う…嘘でしょ……?」
サーゼクスとセラフォルーが聞こえてきた声に驚いていると、いきなり会議室の床に見覚えのない魔法陣が出現した。
「この魔法陣は!」
「やっぱり……そうなの……?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
少しだけ時間は遡る……
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
それは……一方的な蹂躙劇だった。
私は翼を広げて空中で魔術師達を倒し続けていたが、後から来たにも拘らず、彼女……マユの方が明らかに多くの魔術師達を倒している。
それと言うのも……
「行け!!
『ははははは!!!せめて散り際にて我等を楽しませてみせよ!!蛆虫ども!!!』
マユの背後に黄金に輝く波紋が無数に展開して、そこから雨のように数多くの武器が放出される。
しかも、その一つ一つの全てが神滅具級の威力を持っている。
まるで当たり前のように攻撃を放ってはいるが、あの武器の全てが国宝級の価値があるはず。
その価値を知っている者が見れば、気絶しかねないわね。
「……なんなの?あれは……」
『圧倒的な武力…。存在そのものが戦争とは、よく言ったものだな』
そう言えば、出る前にそんな事を言っていたわね。
「あれが…歴代の力を身に着けたマユの実力……」
『ギルガメッシュは歴代の赤龍帝の中でも、最も多くの財を有していた。それ故に傍若無人だったが、決して無能な王ではなかった。寧ろ、王としては最優に近いだろう』
あれで……?
「そこっ!」
マユが大きくジャンプして前に手を翳すと、また背後の波紋から武器が発射される。
魔術師達は防御を試みるが、案の定、呆気なく貫通して倒される。
「あのジャンプ力も……オラクル細胞とか言う物の恩恵なのかしら……」
『そのようだな』
あの子は当たり前のようにしているが、あれ…軽く4~5メートルは飛んでるわよ…。
神器を使わない状態では、私でもあそこまで高くは飛べない。
しかも、力の使い方も非常に上手だ。
普通なら、あれ程の力を持っていたら絶対に慢心して力に振り回されそうだけど、彼女はそんなことは無い。
単体の敵に対しては武器を小降りに出して、集団の敵には一気に放つ。
敵に応じてちゃんと射出する量を使い分けている。
『ヴァーリ!来るぞ!!』
「おっと」
こっちも忘れちゃいけないわね。
「白龍皇!覚悟!!」
魔術師の一人がこっちに向かって魔術の弾を放つが、その行動の全てがスローに見える。
結果、簡単に避けて背後に回る。
「なにっ!?」
「遅いのよ」
その顔面に拳を叩きつける。
魔術師は無様に吹っ飛び、地面に落ちる。
「はぁ……こんなんじゃ、肩慣らしにもならないわ」
やっぱり……『連中』のスカウト……受けるべきかしら?
でも……
「家族を狙う者に容赦はしない!!」
『ふむ……。やはり、決め台詞は『我のこの手が真っ赤に燃える!!』か?それとも『ストライクゥゥゥゥゥ!!!』か?いや…ここは……』
……マユが真剣に戦っているのに、ギルガメッシュは何を言っているのかしら?
あと、ストライクって何?
「せ…赤龍女帝の実力がこれ程とは!?」
「奴は化け物か!?」
…あんなシーンを見せつけられたら、嫌が応でもそういう感想が出ちゃうわよね…。
でも、彼女はそんなの抜きにしても……とてつもなく強い。
実力だけじゃなくて……その心が。
「何をやっている!!いかに相手が伝説の二天龍とはいえ、相手はたった二人の小娘だぞ!我らが負けるはずがない!!」
小娘……ね。
言ってくれるじゃない!
「……ギル」
『どうした?』
「あいつら……後から後から出てくるな」
『そうだな。我らの前では羽虫も同然だというのに』
さっきは蛆虫って言ってなかった?
確かに、倒す先から魔法陣でやって来るけど。
「羽虫……ね。やっぱりギルもそう思うか」
マユ?
「一斉攻撃で一気に葬るぞ!!」
連中が陣形を組んで、同時に魔法を放とうとしている。
どうやら、個人個人では私達に勝てないと判断したようだ。
無駄な足掻きだけど。
「ならば…ギル!『アレ』を使わせてもらうぞ!!」
『今更遠慮などするな!!貴様ならば、我が盟友も認めよう!!』
盟友?
「
さっきと同じようにマユの背後に幾つもの波紋が広がるけど、そこから出てきたのは武器ではなかった。
「鎖……?」
見た限りでは、何の変哲もない鎖だけど、あれがギルガメッシュの宝具である以上、普通じゃないことは確実だ。
「そのような鎖で何が出来る!!撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
魔術師達が全員で攻撃してくる。
この程度ならば軽く避けられるけど、ここはマユに任せてみましょうか。
「天の鎖よ!!回転しろ!!」
「これは……!」
全ての鎖が校舎全体を覆うようにして、高速で回転する!?
「
鎖が全ての攻撃を弾き返した!?
そんな事が可能なの!?
「ば…馬鹿な…!」
そりゃ驚くわよ。
私だって驚いてるし。
『ははははははは!!!本来は敵を拘束するための『天の鎖』を防御に使うとはな!これは我も驚いたぞ!!』
「ぶっつけ本番だったけど……案外上手くいくもんだな」
「はぁっ!?」
もしかして…今のって、今さっき思いついたの!?
冗談でしょ!?
「……なぁ……ギル」
『なんだ?』
「羽虫程度に貴方の宝物庫の財を使うのは、勿体なくないか?」
『それを今言うか…。ま、それもそうだな』
「羽虫には羽虫に相応しい末路があると思う」
『ほぅ?貴様も言うようになったではないか。我の力を使ったせいで精神状態も我に近くなったか?』
「まさか。思ったことを言ったまでだ」
マユ……貴女は何を……
「え…ええぃ!怯むな!!数はこっちが上なのだ!物量で圧倒せよ!!」
懲りないわね…こいつらも。
なんか、萎えてきちゃったわ。
こんなバカな連中と顔を突き合わせるのは……ちょっとね。
「天の鎖よ!私の意思に従え!!」
また鎖が動く…!
今度は何をする気?
「ヴァーリ!!」
「なに?」
「
「へ?」
いきなり何を……
『ヴァーリ!どうも鎖の動きがおかしい!ここは一旦赤龍帝の場所まで下がった方がいい!』
「そ…そうね」
後ろに下がる…なんて、ちょっと悔しいけど、ここは大人しくアルビオンの忠告に従った方がよさそうね…。
「く…鎖が!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
あれは……!
「まるで…鎖が自分の意思を持つかのように動いて、蜘蛛の巣のような姿に変わっていく!!」
鎖をこんな風に使うなんて……。
彼女は単純に強いだけじゃない、戦うために必要な頭脳も応用力もずば抜けている!!
マユの全てが戦う為の『力』に直結しているんだ!!
恰も、蜘蛛の巣に捕らわれた虫達のように魔術師達が捕らわれていく!
「名付けて…『
『よもや…我が天の鎖にこのような使い方があるとはな…。『相手を捕縛する』という役目はそのままに、鎖を蜘蛛の巣のように組み合わせるとは。貴様は応用力もあるのだな』
「これぐらいは普通だよ。…アラガミを相手にするには、相手に合わせた創意工夫がこっちにも求められるから」
『向こうは無限に変化する神…だからな。お前達『神機使い』にも様々な事が求められるのだな…』
そうか……彼女が強いのは、単純に強い相手と戦ってきたからじゃない。
マユの戦いには命のやり取り、そして、種の存続が掛かっている。
つまり、マユと仲間達の戦いには常に『絶対勝利』が求められているんだ。
どんなことがあっても、敗北も逃走も許されない。
彼女達こそが、人類の剣にして最後の盾。
その自覚があるからこそ、マユはどこまでも強くなれる。
それに比べて私は……
「私の求める『強さ』は……空っぽだ」
同じ二天龍なのに……どうしてマユと私はこうも違うの…?
私は……あの子と同じ領域には至れないの?
「ねぇ……アルビオン」
『なんだ』
「私も歴代の声が聞ければ、マユと同じ場所に立てるのかしら…?」
『さぁな。それは全てお前次第だ』
私次第……か。
そんな事を言われてしまったら、もう私の答えは決まったも同然じゃない!
「マユ!」
「ん?いきなりなんだ?」
「お願いがあるの!私と……」
私がマユに話しかけた瞬間、校舎の方…正確には私達が出てきた会議室から強大な魔力が出現した。
「これは?」
「この魔力は……」
もしかして……もう動き出したの!?
「ヴァーリ!!」
「分かってるわよ!」
あぁ~…もう!!
折角こっちが決意を固めたってのに!
どうしてこうもタイミングが悪いのよ!!
とことん、あいつ等と私との相性は悪いようね!
お蔭で、もう一つの決意もついちゃったわよ!
私とマユの邪魔をする者は、誰であっても許さないんだから!!
ヴァーリの処遇が私の中で固まり始めましたけど、そうなったせいでここからが大変なことに……。
明確な『敵』はもう決めてるんですが……。