多分、その後にマユの事を語る事になるでしょう。
遂に、三大勢力の会談が始まった。
今更ながらに、私って本当にここにいてもいいのかな?
すんごい場違い感があるんですけど。
それは、黒歌や白音達も同じようで、さっきから超目が泳いでいる。
「では、話し合う前に、まずはそれぞれに聞きたいことがあるだろう」
「俺達の事……だな」
「はい…」
全員の視線がルシファーさんとヤハウェに向き、同時に二人は立ち上がった。
「お聞かせ願いたい。どうして貴方方二人は我々の目の前から姿を消したのですが?」
「そうだな。そろそろ話すべきか」
「そうだね」
二人は互いに頷き合って、真剣な顔つきになってサーゼクスさん達を見た。
「俺達がいなくなった理由……それはな」
「君達に『親離れ』をして欲しかったからさ」
「「「親離れ?」」」
サーゼクスさん、ミカエルさん、アザゼルさんが同時に小首を傾げる。
私も同じように頭の中で疑問符を浮かべる。
「サーゼクス、お前に一つ訪ねたい」
「なんでしょうか?」
「この会談の一件。もしも今でも俺が冥界にいたら、どうしていた?」
「勿論、真っ先に貴方に相談して、その決定に従って……」
「そこだ」
あぁ……なんとなく分かった。
「こんな言い方はあまり好きじゃねぇが……お前等、俺等に対して少し依存しすぎなんじゃねぇか?」
「『困った時の神頼み』って言葉があるけど、僕だってそこまで万能じゃないんだよ?」
そりゃそうだ。
幾ら神でも、こうして肉体を持っている以上はどこかで必ず限界がやって来る。
その点においては、神も悪魔も天使も堕天使も…そして人間も大差ないと思う。
「ミカエル。君だって僕が未だに天界にいたら、絶対に僕の所に来ていたでしょう?」
「それは当然です」
「ほらね。別に相談するのは一向に構わないけど、全ての決定権を僕らに委ねるのは間違ってる」
「俺等だけの意思だけじゃねぇ。こう言うのは、全員でよく話し合って、その上で決めるのが普通だろう」
「けど、君達は僕等と言う『トップ』が白い物を『黒』と言えば、迷う事無く白を黒に染めようとする」
言われてみれば、確かにそれは異常だ。
まるで、トップ以外の存在が全て奴隷のような感じになってる。
「だから、僕らは君らの前から姿を消したのさ。君達が自分の意思で歩いていけるように。そう信じて…ね」
「ま、これが正しい方法とは思っちゃいないけどな。自分達がやった事が相当に身勝手で荒療治であることは、俺達自身がよく理解してる」
「その事に関しては素直に謝るよ。本当にごめんなさい」
「済まなかったな」
なんと……二人はその場で皆に向かって頭を下げたじゃないか。
この二人にとって、自分のプライドなんてあってないようなものなんだろうか?
「あ…頭をお上げください!」
「そうです!お二人が謝られる事はありません!」
慌ててサーゼクスさんとミカエルさんが立ち上がって、二人を宥める。
それを見て、ルシファーさん達は頭を上げた。
「確かに、我々が貴方がたに頼りきりだったのは、紛れもない事実。もしも、あのままだったら、僕達は自分で考える事すら放棄していたかもしれません」
「万物の創造主である神にとって、我等のような被造物は皆、等しく我が子。子が親から巣立っていくのは自然の摂理でしょう。ですが、我等はお二人がいなくならなかったら、そのような考えにすら至らなかったでしょう…」
「『可愛い子には旅をさせよ』って言葉だってあるぐらいだしな」
ミカエルさんとサーゼクスさんは悲痛な面持ちで俯き、アザゼルさんはしたり顔で頷いている。
「それを分かってくれただけで充分だよ」
「贅沢を言えば、もうちょっと早く和平に漕ぎ着けて欲しかったけどな」
だろうな。
彼等からすれば、三大勢力が争っている事は相当に辛い事だろうし。
「それは……」
「考えても見てくれ。さっきミカエルが言った通り、このヤハウェは聖書において万物の創造主と言われている。それが本当かは取り敢えず置いといて。『万物』って事は、天使は当然の事、悪魔だって神の被造物って事になる」
「「「!!!」」」
その瞬間、サーゼクスさんとグレイフィアさん、レヴィアタンさんが目を見開いて驚いた。
「自分の生み出した子供達が殺し合いをしてるんだぜ?それがどれだけ辛い事か、親であるサーゼクスならよく分かるだろう?」
「そう……ですね……」
自分で想像してしまったのか、目を瞑って眉間に皺を寄せている。
「今まで積み重なってきた互いの遺恨がそう簡単に消えない事は理解している」
「でも、だからこそ、本当なら戦争が終わった直後にこうして会談を開いて和平をするべきだったんじゃないのかな?」
まるで、親に諭されている子供のように、二人は各勢力の方々に語り掛けている。
「返す言葉もありません…」
「お二人の仰る通りです…」
「だから、俺はあれ程『もうそろそろいがみ合いをやめにしようぜ』って言ったんだ」
「そういうお前だって、部下の躾がなってねぇじゃねぇか」
「うぐっ…!それを言われちまうと、何も言えねぇ……」
あぁ……コカビエルの事ね。
「それと、今回の会談についてもう一つだけ言いたいことがある」
「まだあるのかよ…」
呆れ顔になりながら、アザゼルさんが紅茶を一気飲みする。
「なんで、この会談には『人間勢力の代表者』がいない?」
「「「え?」」」
人間の代表?
どゆこと?
「お前等が会談をしているこの場所は人間達の世界だ。お前等はこの地上に人間の許可なしにやって来た挙句、勝手に会談を開いてやがる。少しはこの事を考えたのか?」
「「「ゔ……」」」
実に正論だ。
言われてみれば確かに、今まではスルーしてきたけど、ちゃんと許可は取っているのかな?
「し…しかし……急にそんな事を言われても……」
「人間達の中に我々の事を知っている者達は非常に少ないです。いきなり代表者と言われても……」
「いるじゃねぇか、ここに」
「「「「はぁ?」」」」
いきなり私の頭をポンポンと叩くルシファーさん。
うん、嫌な予感しかしません。
「三大勢力の全てに大きな借りを持ち、しかも、最強の実力を持つ『人間』が」
「ま…まさか……」
「それは……」
「おいおい……マジかよ……」
心の中で必死に祈るけど、多分、無駄。
「そう、俺達の娘にして、歴代最強の赤龍帝…闇里マユがな」
一瞬の静寂の後……
「「「「「「「「「「えぇ~~~~~~~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」
会議室に皆の叫び声が響き渡った。
私も思わず叫んじゃった。
「な…なんで彼女が!?」
「そうです!幾らなんでも荷が重すぎるのでは…」
「親バカもここまで来れば、もう勲章ものだな」
凄い言われよう。
「そこまで言うか。じゃあ教えてやる。実はな、世界各地で被害が出ているはぐれ悪魔な、その殆どをマユがなんとかしてたんだぜ」
正確には、アラガミ討伐に行った時に、なんでか毎度のようにはぐれ悪魔と遭遇して、悪い奴は自分の手で倒して、黒歌のようにやむを得ない理由ではぐれになってアラガミに襲われていた場合、私の手で助けた。
どうして、アラガミとはぐれ悪魔ってセットで出現するんだろう?
今にして思えば、黒歌と白音と会った時もコンゴウに襲われていたし。
「そ…そうなんですか……?」
「近年になって、急にはぐれ悪魔の被害が少なくなったと思っていたら……」
「お嬢ちゃんの仕業だったのかよ……」
そんな顔でこっちも見ないでよ!
私だって好きではぐれ悪魔に会ってる訳じゃないんだよ!?
「それにな、今だから言うけど、各国政府の連中はとっくの昔に三大勢力の事を認知しているんだぜ?」
「「「「「えええっ!?」」」」」
この会談は驚きまくりだな。
お陰で耳が鍛えられる。
主に騒音に対して。
「勿論、お偉方はマユが自分達の国を救ってくれていることも知っている」
「そ…そうなんですか?」
私は思わずルシファーさんに問いただした。
「おう。今の内閣総理大臣も、本当なら、お前には大々的に感謝状を贈呈したいって言っていたぜ?」
「あふ……」
総理大臣に私の事が知られてるとは……。
私的には、これが今回で一番の驚きだよ。
「ちゃんと僕達が彼等と話して、許可は取ってきてるから」
「きょ…許可?」
「うん。マユちゃん、君を中心とした人類勢力の組織を立ち上げる許可だよ」
「組織って……」
嫌な予感、再び。
さっきから冷や汗が止まりません。
「君の夢……それをここで形にするんだよ」
「お姉ちゃんの夢……?」
「ああ。その名も……」
「人類独立支援組織…『クレイドル』」
「クレイドル……」
第一部隊が中心となって立ち上げられた、独立支援部隊…。
その正式な創設者は…ソーマとアリサ……そして、闇里マユ…。
「ゆりかご……か」
まさか、ここでその名を聞くとは思わなかった。
「一体、いつの間にそんな準備を……」
「それは秘密」
だろうね。
「このクレイドルはそれぞれの勢力の協和の証として、お前等三大勢力の他に人間をも含めた『四大勢力』で構成された組織にする予定だ」
「よ…四大勢力……ですか?」
「そう。僕等的には、各勢力からそれぞれ数名ずつ派遣して欲しい…かな?」
「ま、それに関しては問題は無いだろうな?」
あ、こっち見た。
「ルシファー様。それは……」
「もう、マユの周りには頼りになる『仲間』が付いてるからな」
「それって……」
「私達の事…?」
リアスが自分の事を指差す。
その顔はポカーンとしている。
「少なくとも、悪魔達からはそれで問題無いだろうな?一番重要なのは本人達の意思だけど」
「サーゼクス君の意見は?」
皆がサーゼクスさんに注目する。
「そう…ですね。この数年でマユ君と絆を育んできたリアス達なら問題無いでしょう。僕としてもクレイドルの様な組織の発足は大歓迎です」
「だとよ。お前等はどうだ?」
「はい!私も参加したいです!朱乃達はどう?」
「言うまでも無いですわ。勿論、私も参加します。お父様たちも喜ぶと思います」
「僕もです。先輩には沢山の恩があります。クレイドルに参加して、それを少しでも返せれば嬉しいです」
皆……。
「も…勿論、私達も参加するにゃ!」
「私もです!」
「私も……いいんでしょうか?」
「私は言うまでもないな。うん!」
「当たり前だ。お前等はマユの『家族』なんだぞ?それが参加しなくてどうするよ」
言うじゃん。
ちょっと見直した。
「なら、堕天使からはレイナーレで決定だな」
「わ…私ですか!?」
「たりめーだろ。お前は今、マユの嬢ちゃんの『従者』なんだぞ?」
「そうですが……」
「はい決定!嬢ちゃんもそれでいいな?」
「私は異論はないですが……」
なんとなく、そんな気はしていたが……。
なんか、シェムハザさんとか言う人が胃薬を多用する気持ちが分かった気がする…。
トップにしてはアザゼルさんってフランク過ぎない?
「天使達はどうする?ミカエル君」
「我々は……」
少しだけ考える仕草をした後、ミカエルさんは顔を上げた。
「ガブリエル。頼めますか?」
「私で良ければ。マユさんのお手伝いが出来るのは光栄の極みです」
ガブリエルさんがこっちに来て、私の傍に立った。
「と…言う事ですので、これからよろしくお願いします。マユ様」
「ど…どうも。こちらこそ…よろしく…」
なんとも丁寧な物腰。
私も自然と丁寧語になっちゃったよ。
「順番が逆になったけど、それぞれに使者を送ったって事は、お前等三大勢力はクレイドルの創立を認めるってことでいいんだな?」
各勢力のトップの方々は同時に頷いた。
「ならば、少数精鋭とは言え、クレイドルはこれで立派な組織になった。つまり、立場上はマユはお前等と同じになった訳だ」
「頑張ってね。人類代表」
「そう言われても……」
私が人類代表って……かなりのプレッシャーなんですけど…。
「大丈夫よ。私達が付いてるわ」
「その通りですわ。微力かもしれませんが、一人で出来ない事も皆ならば出来ます」
「僕達は仲間じゃないですか。いつでも頼ってください」
「勿論、私達もにゃ!」
「マユさんは私が支えます」
「わ…私もです!」
「ふっ……今更だな」
「ま…まぁ…アザゼル様の直々のご使命だし?私も出来る事はやってやるわよ…」
あぁ……そうだった…。
私はもう……一人じゃなかったんだった…。
「皆……私に力を貸してくれるか?」
「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」
ヤバいな……嬉しくて泣きそうだよ…。
「決まったようだね」
「ああ。皆さん、これからご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
「わかないことがあれば、いつでも聞いてください」
「俺の場合は今更だな。嬢ちゃんとは結構付き合いも長いし」
「そうですね」
ほんと……ぶれないなぁ~…。
「なんだか長くなってしまいましたが、次の議題に移ってもいいでしょうか?」
「そうだな。結構重要な話だから、つい話が長くなっちまった」
ようやくルシファーさんとヤハウェは座った。
随分と長い話だったな…。
「ねぇ…次の議題に移る前に、ちょっといいかな?」
「なんだい?セラフォルー」
「そもそもの疑問だけど、マユちゃんって何者なの?」
あ、とうとうそれを聞きますか…。
「そうか。それも話さなきゃいけなかったな。どうする?」
「そうだねぇ~…」
流石に、そのまま伝えるわけにはいかないし……。
一応、黒歌と白音、オーフィスちゃんには簡単に伝えてあるけど。
「ふわぁ~……」
「我……眠い……」
「うぅ……」
あらら……子供達(?)がおねむのようだ。
「おや……やはり、あの子達にはこの時間はきつかったかな?」
「子供達はもうとっくに眠っている時間帯ですしね」
「世界に名立たる龍神も、マユの嬢ちゃんにかかっちまえば単なる子供…か。微笑ましくていいじゃねぇか」
そうだな。
この子達の為なら、どんな事も頑張ろうって気になるよ。
「けど、どうしましょうか?ここで家に帰すわけにもいかないですし…」
「ふむ……グレイフィア、頼めるかな?」
「お任せを」
グレイフィアさんはレドの所に行き、優しく抱きあげて、両手で包み込んだ。
その状態で椅子に座って、頭をゆっくりと撫でている。
「よしよし…」
「すぴ~……」
完全に眠ったようだ。
なんとも穏やかな寝顔だ。
「ならば、こちらの金髪の子は私が」
次はガブリエルさんがティアの元に行って同じように抱き上げる。
その眩い翼でティアの事を包んだ。
「いい子ですね……」
「むにゃむにゃ……」
ティアも眠ったようだ。
「じゃあ、オーフィスは私が」
レイナーレもオーフィスの所に行き、いつものように抱きしめる。
「す~…す~…」
「寝ちゃったわ」
もうすっかりと慣れたな。
完全に様になってる。
「すげー……俺じゃ絶対に無理だわ…」
「こう言う時って、種族に関わらず男は無力だよな……」
「ですね…」
母は偉大…ってか?
いや、レイナーレとガブリエルさんは母じゃなかったか。
「って、話が逸れちまったな」
「こればっかりは仕方ないよ」
子供には誰も勝てない……か。
「俺としては、下手に説明するよりは、実際に見た方が早いって思うんだが?」
「そうかもね」
「み…見せる?」
何を?
「お前の『過去』さ」
「私の過去って……」
まさか……『闇里マユ』の戦いの記憶…か?
「でも、どうやって?」
「簡単だ。お前の持つ感応能力を俺とヤハウェの力で増幅すれば、この場にいる連中に『見せる』ことも出来るだろう」
「そうか……!」
確かに、それなら皆にも感応現象を発現出来るだろう。
「か…感応能力?彼女はそのような力も所持しているのですか?」
「一応な」
正確には、第2世代以降の神機使いは殆ど持っているけどね。
アリサも感応現象は起こせるし。
「マユちゃん。赤龍帝の籠手を出して」
「分かった」
私は自分の左手に籠手を出す。
それに、ヤハウェとルシファーさんがその手を添える。
「いくぞ」
「うん」
二人の力が籠手に流れてくる。
すると、籠手の宝玉が眩く光り輝く。
「こ…これは……!?」
「お前等に見せてやるよ。嘗て、仲間達と一緒に幾度となく世界と人類を救い続けた、一人の少女の戦いの軌跡を」
光はやがて、部屋全体を包み込み、私を含めた全員の意識を彼方へと飛ばした。
そして、私は闇里マユの『過去』と対峙する。
次回が一番書きたかったシーンだったりします。
ここまで本当に長かった……(疲)