神を喰らう転生者   作:とんこつラーメン

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な…なんか妙に評価が上がってるんですけど…。

これは夢なのかしらん?






第61話 真実の一端

 ミカエルさんとの話が終わった後、私は朱乃と共に神社の縁側に座っていた。

 

「お疲れさまでした。どうぞ、お茶です」

「ありがとう」

 

彼女から熱々のお茶を受け取って、一口飲む。

 

「うん、美味しい」

「うふふ……」

 

こんな風にのんびりと日向ぼっこするのも、偶にはいいな…。

 

「朱乃は、ご家族と仲良くやっているようだな」

「ええ、お陰さまで。あの時、お姉ちゃんが私達親子を救ってくれたから、こうして家族で過ごす事が出来るんです」

「そっか……」

 

そんな事は無い……と言いたいところだけど、時には肯定するべきかもしれない。

あまりにも遠慮深いと、却って嫌味になるからな。

 

「私は堕天使と人間のハーフ…。そんな私でも普通に家族と暮らして、学校にも行けている…。お姉ちゃんがいなかったら、そんな当たり前の事すら出来ずに終わっていましたわ…」

「家族の仲がいい事は素晴らしい事だ」

「私もそう思います」

 

お茶をちびちびと飲みながら、朱乃と何気ない話をする。

そう言えば、こんな風に彼女と二人っきりで話のは初めてかもしれない。

 

「嘗ては一部の堕天使達が私の事を『呪いの子』なんて揶揄していましたけど、今ではこの黒い翼を持つことを誇りに思ってますわ」

 

流し目で少しだけ目線を後ろに向けると、朱乃の背中に堕天使の象徴とも言うべき黒い翼が現れた。

 

「これは…種族なんて関係無く愛し合えるという…何よりの証拠ですから…」

「そうだな……」

 

案外、悪魔とか天使とか堕天使とか人間とか、些細な問題なのかもしれないな。

好き合っていれば、そんなの関係無いって思えるもの。

 

「その……不躾な質問をしてもいいかしら?」

「なんだ?」

「えっと……お姉ちゃんの御両親……正確には生みの親は……どうしてるんですの?」

「私の親……か」

 

それを聞いて真っ先に思いつくのは、前世での親の事だが、昔の事はもう殆ど記憶に無い。

私の魂はもう、この体に完全に定着しつつある。

故に、ここで話すべき事は『俺』の親ではなくて『闇里マユ』の親についてだろう。

ま、正直言って話していいのか分からないぐらいにヘビーな話なんだけど。

頭にある『記憶』を頼りに話してみるか。

 

「私は……ちゃんとした親から生まれてないんだ」

「どう言う事ですの…?」

「私からすれば、朱乃よりも私の方が『呪いの子』と呼ばれるに相応しいと思う」

「そんな事は…!」

「あるんだよ。私は……『忌み子』なんだ」

「忌み子…?」

「そう…。私はね……近親相姦によって生まれたんだ」

「!!!!」

 

いつの世も、最も禁忌であり、忌み嫌われる行為。

それこそが近親相姦。

しかも、闇里マユの場合はそこに愛すらも無かった。

 

「これは後で知った事なんだが……私には父と姉がいた」

「お姉さん…?」

「ああ。母は私が生まれる前に亡くなっていて、それを境にして父の様子が変わっていったらしい」

「と…言うと…?」

「精神不安定になって、暇さえあれば酒に溺れる日々。お世辞にもいい父とは言えなかった」

「…………」

「そんなある日、とうとう父の精神の不安定さはピークになって、人として…いや、親として絶対にしてはいけない事をした」

「まさか……」

「彼は……自分の娘である私の姉とも言うべき少女を強姦したんだ」

「………っ!?」

 

私の言葉に朱乃は絶句した。

無理も無い。

こんな話を聞かされれば、誰だってそうなるだろう。

 

「その結果、彼女は一人の子供を身籠った。それが……」

「お姉ちゃん……なんですの?」

「そうだ。私は歪な形で生を受けたんだ」

 

これ程までに『呪いの子』と言う言葉が相応しい人間もいないだろう。

自分でもこれは無いと思ってるし。

 

「私は実の姉とも言うべき女性から生まれたんだ。しかも、それだけじゃ終わらなかった」

「え……?」

「もう殆ど覚えていないが、少なくとも私が5歳ぐらいまでは意外と普通に暮らしていた。貧乏ではあっても、これと言って不自由な事は感じなかったし。父は相変わらず酒浸りだったが、かといって私に暴力を振るったり…なんてことは無かった。姉…いや、私にとっては母か?ま、どっちでもいいか。とにかく、彼女は私の事をとても大事に育ててくれていた事だけはよく覚えている」

 

今でも時折、頭の中に思い浮かぶことがある。

見た事のない顔……でも、不思議と安心する、その笑顔…。

それが『彼女』だと、私は不思議と理解していた。

 

「だが、そんなある日。私達家族を惨劇が襲った」

「惨劇……!?」

「何の前触れも無く、強盗が私の家に入り込んで、父と彼女を殺害して、私の事を傷つけた。理由は不明だが、私だけは辛うじて生き延びていた。瀕死の重傷は負っていたけどな」

 

完全に雰囲気は暗くなっているが、もうここまで来たら止まらない。

キリのいい所まで話そう。

 

「その後、偶然通りがかった人達によって私は救出された。速攻で病院に運び込まれて一命を取り留めた……らしい」

 

記憶の中にあっても、どうもその時の事は朧気だ。

多分、その時の状況が影響しているんだろう。

 

「その…犯人はどうしたんですの?」

「分からない。噂では、何処かで誰にも知られないまま野垂れ死んだ…と聞いた」

 

これに関しては本気で分からない。

情報が少ない上に、それ以上に大変な事件が沢山あって、事件自体が埋もれてしまうから。

 

「……こんな所だな。その後、私は数年間入院し、必死のリハビリの末になんとか体を回復させる事に成功した。そして……」

「神機使いになったのですか…?」

「ああ。あの時私を救ってくれた人達のように、私も誰かを救いたいと思ったんだ」

 

どこまでやれているかは微妙だけどね。

いつも必死に戦っているだけで、後で知る事の方が多いから。

 

「少なくとも、私達はお姉ちゃんに救われてますわ」

「朱乃……?」

 

朱乃が急に私の方をジッと見る。

その目はなんだか、いつもとは違って潤っているように見える。

 

「ごめんなさい…。そんな事とは知らないで、お姉ちゃんの過去の事を聞いてしまって…」

「気にするな。もう終わった事だ」

 

そう思わないとやってられないって言うのが本音だけどな。

 

「でも、同時に嬉しくも思いますわ。お姉ちゃんの秘密を私に明かしてくれて…」

「朱乃だからな」

「まぁ…お上手」

 

お茶はすっかり冷えてしまっていたが、一気に飲み干した。

 

「「う…うぅぅ……」」

「「ん?」」

 

なんか…すすり泣くような声が聞こえたような……。

 

「「あ」」

 

少し離れた場所で、朱璃さんとバラキエルさんが涙を流しながらこっちを見ていた。

 

「うぅぅぅぅ~…。まさか、マユちゃんにそんな過去があったなんて~……」

「哀しみを背負いながらも、平和の為に戦い続ける…。やはり、君こそが真の勇者だ!!」

 

なんか言ってるけど、まずは涙を鼻水を拭きましょう。

 

「マユちゃん!いつでも遊びに来ていいからね!」

「その通りだ!君は絶対に幸せになるべきだ!」

「はぁ……」

 

二人の中で私の話が大きくなっている気がする。

ここで下手に何か言っても逆効果な気がするし……

 

(ほっとくか)

 

それがいい。

いや、そうしよう。

 

その後も姫島一家に色々と労って貰い、楽しい(?)時間を過ごすことが出来た。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 帰り道。

洗って貰った制服を着て石段をゆっくりと降りていく。

あと、なんでか着ていた巫女服まで貰ってしまい、紙袋に入れて持っている。

 

『……マスター…』

「どうした?エミヤ」

『君に…あんな過去があったとは知らなかったよ…』

「話した事も無かったしな」

 

話す理由も無いし、誰にも聞かれなかったしな。

 

『あの夫婦も言っていたが…君には幸せになる資格がある。いや、幸せになるべきだ』

「それは…『正義の味方』としてのセリフか?」

『……!知っていたのか…』

「この間、アルトリアとギルが面白そうに話してくれた」

『あの二人は……!』

 

特にギルが楽しそうに話していたっけ。

あんなギルを見たのは初めてかもしれない。

 

「言っておくが、私は今でも充分過ぎる程に幸せなつもりだよ」

『マスター……』

「黒歌がいて、白音がいて、アーシアにリアス、レイナーレにゼノヴィア。それにオーフィスやレド、ティアもいる。しかも、私の両親に名乗りを上げてくれたのが、あの聖書の神と初代魔王だ。これだけ色んな人達に巡り合えて、幸せじゃないなんて言ったら罰が当たる」

『君と言う人間は……』

 

あれ?笑ってる?

 

『君に力を貸すと決めた事は…間違いじゃなかった。きっと、他の連中もそう思っているだろう』

「そうか……」

 

夕方になって人気が少なくなったこともあり、私は帰る間ずっとエミヤと話し続けていた。

 

それは、とても有意義な時間だった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 遂にやって来た、会談の日。

私はリアス達と一旦別れて、オカルト研究部とは別に家族で集合した。

 

会場になっている職員会議室へと向かう中、なんとも言えない緊張感が私達を包み込む。

 

各陣営のトップの方々は既に別室にて待機しているらしい。

 

学園全体は強力な結界が張られていて、外部からの侵入者を一切拒み、同時に会談が終了するまで誰も外に出す事も無い。

 

更に、結界の外には三大勢力の精鋭である天使と堕天使と悪魔達が、万が一に備えて警備をしている。

 

「うぅぅ……本当に私達も一緒に行っていいのかにゃ?」

「当然じゃん。君達はマユちゃんの家族であり、僕等にとって大事な子供に等しいんだよ?」

「そーゆーこった。緊張するのは勝手だが、そう気張る必要はねぇよ」

「わ…分かったにゃ…」

 

黒歌を始めとした家族と言う名の同居人達と一緒に廊下を歩く。

私や白音、ゼノヴィアなどはあんまり緊張していないが、黒歌やレイナーレと言ったメンバーは緊張を隠しきれないでいた。

そして、龍神っ子達は…。

 

「夜の学校……我、ワクワクする」

「な…何もでないよな…?」

「だ…だだだだ大丈夫…だと思うぞ…?」

 

えぇ~…?

オーフィスちゃんはともかくとして、どうしてレドとティアはお化けを怖がるの?

二人の方が圧倒的に強いでしょ?

 

「ところでマユさん。その恰好はなんですか?」

「え?変かな?」

「いえ…変と言うか…」

「まるで軍服のようだな」

 

私が今着ているのは、フェンリルの制服とも言うべきF制式上衣(グリーン)とF略式下衣(グリーン)だ。

 

「一応、ちゃんとした場だから、それっぽいのを着て来たつもりなんだが…」

「下がタイトスカートになってるから、かなりセクシーだな」

「ルー君?」

「あはは……悪い悪い。ヤーちゃんが一番だよ」

 

はいそこ、イチャイチャしない。

オーフィスちゃん達の情操教育に悪いでしょ。

 

「あぁ……急にブラックコーヒーが飲みたくなったにゃ」

「奇遇ですね。私もです」

「あら、私もよ」

 

実は私も飲みたい。

緊張感もこの二人にかかったら台無しになるな。

 

職員会議室の前には既にリアス達が集合していた。

 

「あ、お姉ちゃん」

「待たせたか?」

「いいえ。僕達も今来た所です」

 

それなら大丈夫か。

 

「あれ?ギャー君は来てないんですか?」

「ええ。外には出れたけど、流石にまだギャスパーには今回の会場は難易度が高いから」

 

だろうな。

引き籠もりや人見知りじゃなくても、こんな場は積極的に来たいとは思わないだろう。

 

「オーフィスちゃん達は大丈夫かしら?眠たくない?」

「我、大丈夫」

「私もだ!」

「無論、私もな」

 

なんて言ってるけど、さっきから何回も欠伸してたよね。

 

「もうお兄様たちは入室していらっしゃるらしいわ」

「ならば、私達も入ろうか」

 

全員が無言で頷く。

それを見て、私は扉をノックする。

 

『どうぞ』

 

返事を聞いてから、私とリアスとで扉をゆっくりと開ける。

 

室内にはどこから用意したのか、豪華絢爛な円卓が中央付近に鎮座しており、それを囲むようにして各勢力のトップの方々が座っていた。

 

悪魔勢力からはサーゼクスさんとセラフォルーさんがいて、傍に給仕係としているのか、グレイフィアさんが紅茶セットを乗せた台車を脇に寄せている。

 

堕天使側からはアザゼルさんと、以前に会ったヴァーリが窓際にいた。

ヴァーリがずっとルシファーさんの事を睨んでるけど、どうしたんだろうか?

レイナーレの話では、彼の腹心的な人がいるって聞いたけど、今日は来ていないのかな?

流石にドレスコードを分かっているのか、いつものラフな格好では無くて、儀礼用と思われる装飾が施された黒いローブを纏っていた。

 

そして、天使側からは先日会ったミカエルさんと、始めて見た綺麗な女性天使がいた。

 

「よっ!この間振りだな」

「なんですか?その挨拶」

「別にいいじゃねぇか。レイナーレ、ちゃんと『ご奉仕』してっか~?」

「ご…ご奉仕!?」

 

あ、顔が真っ赤になった。

 

「……その様子だと、問題は無いみたいだな」

 

お察しがよろしいことで。

 

「あのお方が噂に名高い赤龍女帝様ですか…?」

「ええ。気高さと力強さ、そして…美しさを備えた女性です」

 

ミカエルさん、褒め過ぎです。

 

「そちらの人は……?」

「ああ…彼女と会うのは初めてでしたね。ガブリエル、自己紹介を」

 

ミカエルさんの隣の女性が立って、挨拶をする。

 

「初めまして。赤龍女帝、闇里マユ様。私はガブリエルと申します」

「あ…どうも。初めまして…闇里マユです」

 

丁寧な物腰に思わず私もお辞儀をしてしまう。

天使の女性って皆こんな感じなのか?

 

「マユちゃ~ん♡」

「あはは……」

 

セラフォルーさんはセラフォルーさんでこっちに向かって無邪気に手を振ってるし…。

今から大事な会談をする雰囲気じゃないよね?

 

「気にすんな。これぐらいの空気の方がお前も気楽だろう?」

「それは…まぁ……」

 

変に緊張するよりかはマシだけどさ…。

 

「え~…ゴホン。そろそろいいかな?」

 

サーゼクスさんが纏めてくれた。

やっと、この何とも言えない空気から脱することが出来る。

 

「そこにいるのが、私の妹とその眷属だ。そして……」

「もうご存知の方々も多いと思いますが、彼女こそが現代の赤龍帝である闇里マユ様と、そのご家族の方々です」

 

グレイフィアさんの言葉に合わせて、私達は挨拶をする。

 

「で、俺等の事は今更、紹介する必要は無いよな?」

「勿論でございます。初代魔王ルシファー様」

「神ヤハウェ。こうして話し合えることを光栄に思います」

「ん~…よきにはからえ?」

 

ちゃんと意味を分かってて言ってる?

 

「彼女達は、先日のコカビエルの一件で活躍しました。特にマユ様は」

「報告は聞いています。マユ様が聖剣エクスカリバーの正式な使い手となり、コカビエルを見事倒したと」

「本当にありがとうございます。それだけお礼を言っても言い尽くせません」

「いえ、私は当然の事をしたまでです」

「その謙虚な心…素晴らしいの一言に尽きます」

 

それが日本人だからな。

いや…私の場合は極東人と言うべきか?

 

「あ~…あの時はマジで済まなかったな。ウチのアホの暴走に付き合わせちまって」

「いえ。確かに大変ではありましたが、それで得たものもあります。だから、気にしないでください」

「相変わらずだな、嬢ちゃんは……」

 

ちょっと呆れられてしまった。

なんで?

 

またまた会話が終わりそうにない空気が流れたので、サーゼクスさんがさっきと同じように中断させた。

 

我々は彼に言われて、予め壁際に設置された椅子に腰かけた。

因みに、ルシファーさんとヤハウェは別に用意された席に着席した。

既に私達の近くにはソーナが腰かけていた。

 

「では、これより三大勢力の会談を始める」

 

こうして、様々な思惑を孕んだ会談が始まった。

 

ここで私は、己の『過去』と対峙する羽目になるとは、この時は私は想像もしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




てなわけで、会談自体は次回に持ち越し。

これはあくまで予想ですが、もしかしたら会談の話はかなり長引くかもしれません。

では、次回。

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