ついこの間、連載開始したような感覚もあるんですけど、歳を取ったせいですかね…。
ギャスパー君と初めて出会った次の日。
私は朱乃に呼ばれて一人である場所へと向かっていた。
暫く歩いていくと、町外れに着く。
そこには長い石段と鳥居があった。
この二セットがあるってことは……
「神社か」
こういう場所を見ると、不思議と私の中にある『闇里マユとしての記憶』が刺激される。
『鎮魂の廃寺』で幾度となくアラガミと死闘を演じた。
それに、あそこで初めてシオと出会って、ノヴァに初めて負けて、そして……
『相棒?一体どうした?』
「あ……なんでもない」
少し呆けていたようだ。
ドライグの声で我に返ることが出来た。
改めて目の前にある石段を見る。
「……長いな」
『そうだな』
青春ドラマとかだと、こういった場所はよく基礎トレの場所として使われているけど…。
『マスター。また変な事を考えてはいないだろうな?』
「ゔ……」
す…鋭いな…。
流石は『心眼(偽)』を持っているエミヤだ。
『一応言っておくが、普通に歩いていけ。間違っても兎跳びで行こうとか考えるなよ。あれは身体に悪いからな』
「わ…わかった…」
ちぇ…。
丁度いい機会だから、少しだけやってみたかったんだけどな~。
仕方が無いので、私は渋々普通に歩いていくことにした。
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・・
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石段を登っていくと、段々と目的地である神社が見えてきた。
普通に上ってきたが、石段の段数自体が普通に多かったからか、これだけでも結構なトレーニングにはなった。
これから階段の走り込みもトレーニングに組み込もうかな?
今まで以上に足腰が鍛えられそうだ。
因みに、なんで今回は私だけかというと、神社を始めとした神仏が関係する場所は悪魔などは基本的に立ち入り禁止になっている。
掟などの問題もあるらしいが、それ以上に普通に入ることが出来ないらしい。
教会などと合わせて、悪魔御法度な場所という訳だ。
ま、理由は他にもあるんだけど。
それは後で分かるだろう。
今日は気温が高いせいか、地味に汗を掻き始めた。
着ている制服が肌について、ちょっとだけべたつく。
ポケットに忍ばせていたハンカチで汗を拭いながら足を進めていると、石段の終わり辺りに人影が見えた。
「ようこそいらっしゃいました、お姉ちゃん」
それは、いつもとは違う、巫女服に身を包んだ朱乃だった。
「あらあら……すっかり汗だくですわね」
「この気温だからな」
「このまま放って置いたら風邪を引きますわ。まずは着替えないと…」
「それはそうだが……着替えなんて無いぞ?」
「それなら大丈夫。ほら、行きましょう?」
「あ…ああ……」
朱乃に背中を押される形で、私は目的地である神社へと歩いていった。
因みに、汗を掻いて風邪を引くのは、汗が蒸発する際に体温を奪い、体が冷えてしまうかららしい。
だから、汗を掻いた時はこまめに汗を拭いて、水分補給を忘れないようにすればいい。
マユお姉ちゃんとの約束だぞ?
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「まずは軽く汗を流さないと。シャワーを浴びてくださいな」
「いいのか?」
「勿論」
神社はかなりの大きさを誇っていて、居住スペースもかなりの面積がある。
ここに姫島家は住んでいるらしく、私は本殿とは別の場所から中に入った。
住む際に色々とあったらしいが、そこら辺の諸々の事は全部アザゼルさんがなんとかしてくれたとの事。
何気に面倒見がいいよね、あの人って。
まずは朱乃の御両親に挨拶でもしたいと思っていたのだが、朱乃と彼女の母である朱璃さんがそれを許さなかった。
中に入った途端に姫島夫妻に出会ったのだが、そこで朱乃が朱璃さんに事情を説明。
すると、速攻で二人は意気投合して、私をシャワー室へと向かわせた。
通り過ぎる際に一応、バラキエルさんに挨拶はしておいたが、なんか苦笑いをされてしまった。
「制服は私が洗っておきますわ」
「じゃあ、私は着替えを用意しようかしら?」
「お願い。勿論……」
「分かってるって♡」
……嫌な予感しかしないけど……。
「はぁ……すいません」
「あはは……」
色々とツッコみたいこともあるけど、善意でしてくれている以上は何も言えない。
私は大人しくシャワーを浴びることにした。
余談だが、神社のシャワー室は綺麗な木製でした。
タイルのシャワー室とは違って、なんだか新鮮な気分だった。
左腕の腕袋はちゃんと取って置いて、上がると同時に再び装着した。
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軽くシャワーを浴びてスッキリして、用意されているバスタオルで身体を拭いた後に胸の辺りから体を覆うと、そこに着替えを持って来た朱璃さんがやって来た。
「あ、シャワーありがとうございました」
「別にいいのよ。これ、着替えね」
「何から何まで……本当にすいません」
「気にしないで。…………私も楽しんでやってるし」
「え?」
今…なんて言った?
「着替えは朱乃が洗ってから、今は乾燥機で乾かしてるわ」
「そうですか…」
そうじゃなきゃ帰れないもんな。
「んじゃ、ここに置いておくから」
「ありがとうございます」
籠に入った着替えを近くの棚に置いてくれる朱璃さん。
彼女が去ってから、何を持ってきてくれたのか確かめてみる。
「こ…これは!?」
ここは神社だし?こう来るのはある意味当然というか…。
あまり待たせるのもアレだと思って、私は生まれて初めて『ソレ』に袖を通した。
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・
「「可愛い!!」」
「うぅぅ………」
用意してくれた着替えとは…朱乃とお揃いの『巫女服』だった。
流石にサイズは少し大きくなってはいるが、それでもデザインは全くの同じだった。
着るのに苦労はしたが、玉藻に教えて貰いながらなんとか着ることが出来た。
玉藻に強く促されて、赤いリボンで後ろ髪を結んでいる。
「想像した通り!すっごく似合ってるわ!!」
「ええ!やっぱりお姉ちゃんは何を着ても似合いますわ!!」
そんなに褒めないでくれ……。
本気で恥ずかしい…。
って言うか、バラキエルさんもなんか言ってくださいよ!
「これは……なんとも……」
おいこら―――――――!!
妻と娘の前でなに女子高生の巫女姿に見惚れとんじゃ~~~~!!
「さっそく写真に撮って、後で皆にも見せないと…」
「あ!私にも頂戴ね!」
「はい!」
仲良さそうでいいですね。
でも、私をネタにするのはやめて欲しい。
「……ハッ!二人共、お客様を待たせているんだ。これぐらいにしておきなさい」
「「は~い」」
バラキエルさんが我に返ってくれて、やっと指摘してくれた…。
けど、お客様って?
「一応、事情は話しているが、あまり待たせるものじゃない」
「それもそうね。朱乃、マユちゃんを案内してあげて」
「分かりましたわ。お姉ちゃん、こちらです」
「うん…」
私は朱乃についていく形で歩いていった。
一体誰が待っているんだろう?
・・・・・
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・・・
・・
・
朱乃に案内されてついた場所は客間と思わしき部屋だった。
ピシッと襖が閉まっていて、心なしか緊張感が漂っているように見える。
「お待たせしました。闇里マユさんをお連れしました」
「はい。どうぞ」
廊下に座って朱乃が中にいる人物に了承を取る。
私も釣られるように隣に座っている。
朱乃が静かに襖を開ける。
そこには……
「あぁぁ………」
豪華絢爛な純白のローブに身を包んだ、金髪碧眼の美青年がいた。
その頭上には光り輝く輪っか……エンジェルハイロウがあった。
「う……う……う………」
う?なによ?
さっきから私を見て目を見開いてるけど…。
「美しい……」
はい?
「ミカエル様?」
「はっ…!私としたことが……」
ん?ミカエル?
それって……
「初めまして……ではありませんね。貴女とは過去に一度会っていますから」
「貴方は……」
この顔……え~っと……どこかで……
「あっ!?」
思い出した!
あの時……私の初陣の時にサーゼクスさんやアザゼルさんと一緒にいた、金色の翼を生やしていた人だ!!
「お久し振りです、赤龍女帝…闇里マユさん。私はミカエル。天使達の長を務めております。以後、お見知りおきを」
「えっと……闇里マユ…です」
おいおい……こんな大物が私を待ってたんかい!?
そうだと知っていれば、もうちょっとパパッとシャワーを終わらせてたよ!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
客間に入り、私はテーブル越しにミカエルさんと向かい合っている。
朱乃は私が室内に入った直後に去って行き、ここには私とミカエルさんしかいない。
「こうして貴女と話のは初めてですね」
「そ…そうですね」
めっちゃ緊張するんですけど!?
同じ三大勢力の長でも、緊張感がサーゼクスさんやアザゼルさんとが段違いだよ!?
「しかし……」
「え?」
「本当に美しい……。まるで、ヴィーナスの生まれ変わりのようだ…」
「あはは……」
アラガミとしてのヴィーナスを知っている身としては、微妙な評価だった。
「あのさ~…僕の大事な娘をナンパしないでくれるかな?」
「「えっ!?」」
いきなり私の背後に気配が現れた。
そこには、青いTシャツに白いミニスカートを着たヤハウェがいた。
「か…神ヤハウェ……!」
「やっほ~、ミー君」
「ミー君!?」
お前はこの人をそんな風に呼んでるのかよ!?
「全く……マユちゃんが可愛いのは分かるけど、親が見ている前で堂々とナンパするのはやめて欲しいなぁ~」
「い…いえ、私は決してそのような事は……」
急に焦り出すミカエルさん。
いきなり大人しくなってしまった。
「な~んて、冗談だよ。流石の僕だって、そこまで心は狭くないよ。それだけマユちゃんが人気者だって証だしね」
「はぁ……」
安心したのか、ミカエルさんは息を吐き出した。
「一応、僕も同席させて貰うよ?」
「そ…それは勿論!!」
「それじゃあ遠慮なく」
そう言うと、ヤハウェは私の隣に座った。
「それで、今回はなんでマユちゃんに会おうと思ったの?」
「はい。実は『この剣』を彼女に差し上げようと思いまして…」
ミカエルさんが両手を目の前に翳すと、そこに一本の剣が出現した。
エクスカリバーやデュランダルのように、豪華な装飾が施されていて、剣全体から聖なるオーラが溢れ出ているのが分かる。
「へぇ~…『アスカロン』かぁ~…」
「アスカロンって……」
『聖ジョージ…いや、ゲオルギウスの剣か。随分と懐かしい代物を持ってくる』
「ギル……知ってるのか?」
『まぁな』
いやはや……マジで物知りですこと。
「今のは…?」
「歴代の意思の一人、ギルガメッシュです」
「原初にして最古の英雄王……!」
ミカエルさんからもギルは驚きに値する存在らしい。
英雄王は伊達じゃない。
「君さ、彼女が聖剣エクスカリバーを持っていることを知ってこれを持って来たの?」
「はい。彼女にならば使いこなせると思いまして」
『しかし、これは確か一種のドラゴンスレイヤーの筈だ。大丈夫なのか?』
それもそうだ。
私に悪影響とかってないんだろうか?
「それならば心配ご無用です。これには特殊な儀礼を施しているので、マユさんでも問題無いかと」
「ふ~ん……。試しに持ってみなよ」
「わかった」
手を伸ばしてアスカロンを握ってみる。
手には凄く馴染んでいて、サイズや重さも大丈夫。
寧ろ、しっくりしているような気さえする。
「どうですか?」
「問題はないようです」
「よかった…」
毎度のように、アスカロンを籠手の中に仕舞った。
「その気になれば、エクスカリバーとアスカロンの二刀流とかも出来るかもね?」
「まだ私はその域には到達していないよ」
「そうですか?貴女ならば可能かと思われますが…」
そんな評価を貰うのは嬉しいけど、それは買いかぶりすぎだ。
「昔…聞いたことがあるんです。人の身で二刀の剣を扱うには…死を超える程の修練が必要となると」
何処で聞いたかは忘れたけど。
多分、もう記憶に無い前世なんだろう。
「しかし、己の魂と引き換えに得た刃は…いかなるものでさえも切り裂くとも聞きました。その相手が例え……神であったとしても…」
目の前にヤハウェがいるのに、この言葉はどうかと思うけどね。
「そう…。ま、君がそう思うのなら、別々に使うといいよ。私は何も言わない」
私に向かって微笑むその顔は、凄く綺麗で…慈愛に満ちていた。
「ところでさ~…今回の会談、ミー君はどう思っているのかな?」
それは私も気になるかな?
ちょっと意見は聞いてみたいかも。
「私は…此度の会談は三大勢力が手を取り合ういい機会だと考えています」
「と…言うと?」
「三大勢力の前から貴女様と初代魔王が姿を消した後、我々は長い間三すくみの状態が続いています。このままでは三大勢力の全てが疲弊していく一方ですし、いずれ遠からず滅びる事にもなりかねない。流石の我々もそんな事は望んではいませんし、堕天使の長であるアザゼルも前々から三大勢力間の戦争を否定していました。何故お二人がいなくなったのかは分かりませんが、それで疲弊が加速したのもまた事実。ですから、この機会に共に歩めればいいと……そう思ったのです」
互いに疲弊したから…か。
協定を結ぶ理由としては、人間と大して違いは無いな。
「………今更になって和平とか……ムシが良すぎるんだよ……!僕とルー君がどれだけ頑張っていたかも知らないで……!」
一瞬、ヤハウェの顔が凄く憤りに満ちた表情に見えたのは…気のせいだろうか?
「私は素晴らしいと思います。どんな理由であっても、争わないに越したことは無いと思うから…」
『あの世界』の人類も、アラガミという『共通の敵』が出現してから互いに手を取り合うようになっていった。
切欠はどうであれ、人類同士の争いが無くなるのはいい事だ。
「今回、貴女にアスカロンをお渡ししたのは、天界からの赤龍女帝への礼と、もう一つの意味があります」
「もう一つの意味?」
「はい。貴女は嘗て、二天龍の介入の際に私達の事を助けてくれました。貴女がいなければ三大勢力はあの時に絶滅していたかもしれない」
実際、神機使いが現れなければ人類も滅びていただろうしね。
その気持ちはよく分かる。
「ある意味、マユさんがこの会談の切欠を作ったと言っても過言ではないのです。そして、貴女の元には現在、様々な勢力の使者が揃っている」
言われてみれば……。
悪魔からはリアスが、堕天使達からはレイナーレが、教会からはアーシアとゼノヴィア。
妖怪勢力は猫又である黒歌と白音が。黒歌は転生悪魔だけど。
そして、無限と夢幻を司る龍神がいて、使い魔にはティアマット。
今更ながら、凄いメンバーだよ。
おまけに、両親は初代魔王と聖書の神ときた。
「貴女は既に我等、三大勢力が本来目指すべき形を体現しているのです。そんな貴女にこそ、聖剣は相応しい。貴女がエクスカリバーに選ばれたのも頷けます」
『ふふ……当然です!!』
アルトリアが偉そうにしてる。
そんな言葉を聞くと、年相応の少女に思える。
「……今回はそう言う事にしておこうか」
息を吐いてから、ヤハウェは徐に立ち上がった。
「もう聞いているとは思うけど、僕とルー君…魔王ルシファーも会談には参加する。理由は……分かるよね?」
「はい。御息女であるマユさんが参加するから…ですね?」
「正確には大事な家族が…だけどね」
ヤハウェの体が光り出す。
空間転移の前兆だろう。
「そうだ。君が最も知りたいと思っている…僕達が何故消えたのか…その理由は会談で教えてあげるよ」
「はい……分かりました」
「じゃ、僕はここで」
光と共にヤハウェは去って行った。
「ふぅ~……」
ミカエルさんが盛大に溜息を吐いた。
どうやら、想像以上に緊張していたようだ。
そりゃそうか。
自分達の創造主にして頂点に君臨していた存在と対面していたんだもんな。
緊張しない方がおかしい。
「まさか、ヤハウェ様と話すことになるとは……」
「今まで会話をしたことは無いんですか?」
「滅相も無い!あの方は我等にとって至高の御身。会話など恐れ多くて出来ませんでしたよ!」
「なら、これからは話す機会が増えるかもしれませんね」
「そう……かもしれませんね」
時間が経ったせいか、私もミカエルさんに対する緊張感が無くなっていた。
「しかし、こうして貴女と出会えたことは私にとってとてもいい刺激になりました。貴方の様な女性が赤龍帝に選ばれて本当に良かったと思います」
「そんな風に言われて、重畳の至りです」
私自身は、体内にオラクル細胞が入っている以外は何処にでもいる普通の女子高生のつもりなんだけどね。
私が知らない所で、どんどん私の評価が膨れ上がっていく。
「では、私もこの辺で失礼します。会談でまたお会いしましょう」
「はい。ミカエルさん、お気をつけて」
「ありがとうございます」
ニッコリと微笑んだ後、ミカエルさんもヤハウェと同じように去って行った。
部屋に残ったのは私一人。
「はぁ~……」
足を崩してから、畳の上に身体を投げ出した。
畳特有の匂いを鼻孔に吸い込んでから、少しだけ目を閉じた。
朱乃がやって来るまで、私はそうして心を落ち着かせていた。
ちょっとだけ、懐かしい気持ちになったのは、私だけの内緒。
なんでこんなにも長くなるのぉ~!?(泣)
本当はもうちょっと短くするつもりだったのにぃ~!!