これからマユとギャスパーはどんな絡みをしていくのでしょうか?
ギャスパー君……君?君でいいのかな?
ま、こんな格好をしていても一応性別は『男』なのだから、君でいいか。
ギャスパー君を脱引きこもり(?)をさせてから、私達は部室にていつものようにお茶をしている……が、そこに明らかな違和感があった。
それは……
「あぁ~……ここは落ち着きますぅ~…」
ソファーに座っている私の隣に鎮座している中ぐらいの段ボールがあるからだ。
時折ブルブルと震えていることから、中に誰かがいるのが分かる。
「はぁ……。たとえ部屋から出ても、そうしていたら何の意味も無いじゃない…」
「ま…まぁ…こうして部室にいるだけでも前進したんじゃないか?」
「それはそうかもしれないけど……」
一応のフォローはしておいたけど、部長として、なにより主としては複雑なんだろう。
「けど…どこからそんな段ボールを持って来たんだい?ギャスパー君」
「こんな事もあろうかと、荷物入れに使っていた段ボールを密かに保管していたんです~」
そう、この中にいるのは件のギャスパー君なのだ。
部屋から出て部室に入った途端、いきなり何処からともなく段ボールを取り出して、私の隣に来て入ってしまった。
それからずっと、動く様子はない。
「……ギャスパー。一つだけ聞いていいか?」
「なんですか?」
「君はもしかして……ソリッドでメタルなギアのゲームが好きだったりするか?」
「はい。一応、全シリーズはコンプしてますけど……」
「やはりか……」
段ボールに入る姿が妙に様になっていたから、もしかしてとは思ったが……。
「けど、まだまだ『蛇』さんには程遠いですね。もうちょっと気配を消さないと」
「頑張りますぅ~」
そういや、白音もあのゲームが好きだったっけ。
「けど、思ったよりもすんなりと出てきてくれましたわね」
「全てはお姉ちゃんのお陰ね。……お姉ちゃんにここまで懐くのは予想外だったけど…」
「ん?」
最後の方…なんて言った?
「リアス部長、純粋な疑問なのだが、ここまで強力な神器を宿す彼をよく眷属に出来たな。普通に考えれば少々難しいように思えるのだが…」
それは私も同じ事を考えていた。
ゼノヴィアが言わなければ私が質問していただろう。
「当然の質問ね。実は、この子には特殊な駒…『
「変異の駒…?」
「ええ。通常の駒とは違い、複数の駒が必要な存在でも一個の駒の消費で済んでしまう特殊な駒なの。最初は悪魔の駒を開発する過程で偶然の産物として生み出された物らしいんだけど、詳しく解析をした結果、利用価値があると判断されて、そのまま使われることになったのよ」
「変異の駒は上級悪魔の10人に1人ぐらいに割合で所持しているのですわ」
「結構なレアアイテムなんですね」
確かにな。
10分の1とかって結構な確率だぞ。
リアスって何気に凄かったんだな。
「けど、最大の問題はギャスパーの才能が大きいのよ」
「才能?」
「ギャスパーは無意識のうちに神器の力を高めていくようで、リアルタイムで日々、力が増大していってるのよ。このままいけば禁手に至るのも時間の問題と言われているの」
「マジか……」
私の隣にいる、この段ボール星人がそれ程の実力を秘めていたとは…。
人も悪魔も吸血鬼も、見かけにはよらないんだな。
そうそう。
さっきリアスに聞いたのだが、彼…ギャスパーは吸血鬼と人間との間に生まれた、所謂『ハーフヴァンパイア』と呼ばれる存在らしく、更にその中でも日中でも行動が可能な『デイウォーカー』と言う稀有な子らしい。
本人曰く、苦手ではあるが行動に支障は無いとの事。
吸血衝動もそこまで酷くなくて、10日に1回ぐらいの頻度で輸血パックを一つ摂取すれば問題無いようだ。
だが、当の本人は……
「生臭いのは駄目なんですぅ~!レバーや血とか絶対に口に入れたくないですぅ~!!」
と言っている。
これでいいのかと言いたくなるが、鉄分の摂取はほうれん草などでも代用は可能なようで、今のところはこれと言った問題は出ていないようだ。
「へたれ吸血鬼。いえ、HE・TA・RE・ヴァンパイアですね」
「うぐっ!?」
結構グサッとくる一言を言いますね、白音さん。
『ははははははははは!!着実に愉悦の道を究めつつあるな!白音よ!ここまま行けば、免許皆伝の日も近いぞ!!』
「感謝の極みです」
そして、無駄にギルが喜ぶ…と。
ほんと、この二人って仲がいいよね。
「と…とにかく、今のギャスパーに必要なのは自分自身に対する自信だ。神器の制御が出来るようになれば、少しは自信もつくだろう。私も可能な限りは協力するから、頑張ろう」
「が…頑張りますぅ~…」
語尾にまだ力が無いが、この言葉が出るだけでも今は充分だ。
本人にやる気がある証拠だしな。
「思った以上にお姉ちゃんに懐いているようだし、ギャスパーの事は任せてもいいかしら?」
「ああ、任された」
後輩の指導は経験があるから大丈夫だ。
「私と朱乃は今から今度ある会談の会場の打ち合わせに行ってくるから、戻ってくるまでギャスパーに色々と教えてあげて欲しいのだけれど……」
「大丈夫だ、問題無い」
『マスター、それはフラグだ』
「え?」
なんでそんな事をエミヤが知ってるの?
「それと裕斗。貴方の禁手についてお兄様が聞きたいことがあるらしいから、一緒に来てくれるかしら?」
「分かりました」
あれは私から見てもかなり特殊だったしな。
魔王の立場としても聞きたいことは山ほどあるだろう。
「他の皆も協力してあげてね」
「はい」
「私で出来る事があるなら…」
「了解だ。任せてくれ」
ま、これだけ人数がいれば何とかなるだろう。
そんな訳で、私達によるギャスパーの特訓?が始まった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
リアス達が仕事に向かってから、軽く自己紹介をした後に、早速ギャスパーの特訓が始まった。
今いるのは、旧校舎の前にある少しだけ開けた場所。
そこで、ギャスパーが悲鳴を上げながら走り回っている。
「デイウォーカーと言うならば、日中でも問題無い筈だ!さぁ、走れ走れ!!」
「うわぁ~ん!!刃物を振り回すのはやめてくださぁ~い!!」
ギャスパーの後ろからはゼノヴィアがデュランダルを振り回しながら追いかけている。
あんな使い方をしていいんだろうか…。
『マスターもエクスカリバーを持って追いかけますか?』
「いや……いい」
デュランダルにエクスカリバーも加わっては流石に彼が不憫だ。
今の状態でも充分に不憫だけど。
ゼノヴィア曰く、『健全な精神は健全な肉体と健全な魂に宿る』…らしい。
一体どこでそんな言葉を覚えてきたのか…。
「ギャー君。ニンニクを食べて健康的な体になりましょう」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?ニンニク臭いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
そんでもって、そんなゼノヴィアの横を白音がニンニクを持って追いかけている。
幾らハーフとは言え、吸血鬼にニンニクは駄目でしょ…。
『次から次へとこうも連続で…!雑種よ!白音は近年稀に見る愉悦の才能の持ち主かもしれんぞ!!あやつの数年後が実に楽しみだな!!』
「ソーデスカ」
白音が段々とギルガメッシュ色に染められていく…。
お願いだから、あんな性格にだけはならないでね?
「だ…大丈夫なんでしょうか…?」
「多分…」
あの二人も、加減ぐらいは分かっている筈……だよね?
自分で言っておきながら、少しだけ不安になりかけた時、首に掛けたタオルで汗を拭きながら匙君が現れた。
「お、相変わらず精が出てるっすね」
「匙君か」
「こんにちわ」
まずは挨拶。
これは常識だからね。
「どもっす。今まで引き籠もっていた眷属が出てきたって聞いたんで、ちょっと見に来ました」
「もう知っているのか」
「情報のソースは会長ですけどね」
成る程。
きっと、リアスがソーナに話したんだろう。
「で?どの子っすか?」
「あそこで先頭を走っている子だ」
「へぇ~…あれって苛めなんじゃ?…って、金髪美少女!?」
「そう言うと思っていたよ。だが、君の予想は外れだ」
「へ?」
「ギャスパーさんは男の子なんですよ」
「なんですとっ!?」
きっと、これが普通の反応なんだろうな…。
一目見ただけで性別を見抜いてしまった私が異常なのかもしれない。
「女装癖で引きこもりって……属性を付加すればいいもんじゃないだろうに…」
「言いたいことは分かる」
こればっかりは慣れるしかない。
私もまだ慣れてないし。
「ところで匙君。その手に握っているシャベルを見る限り、花壇の整備でもしていたのか?」
「あ、やっぱり分かりますか?」
「鼻の所に汚れがついてるからな」
「おっと」
慌てて鼻の汚れを袖で拭く匙君は、なんだか微笑ましかった。
「先輩のご察しの通りです。1週間ぐらい前から会長から言われてまして。近々会談をしに三大勢力のお偉いさんが来ますから、それに備えて少しでも学園を綺麗にしておくのも生徒会の立派な仕事ですから」
「そうか…本当に偉いな。何か手伝える事があるならいつでもなんでも言ってくれ。喜んで力になる」
「ありがとうございます。でも、そんな事を先輩にさせたら俺が会長に叱られますよ」
「え?なんで?」
やっぱ、私が部外者だからかな?
「うわぁ~ん!!マユさぁ~ん!!」
遂に限界が来たのか、ギャスパー君が泣き喚きながらこっちに走ってきて、そのまま私の胸に飛び込んできた。
「「「「あっ!?」」」」
なんでそこで匙君を含めた皆がギャスパー君を睨む?
「よしよし。よく頑張ったね」
「マユ殿。そいつをこちらに。まだ特訓は終わってはいません」
「マユさんの胸に飛び込むなんて……なんて羨ま…ゴホン。破廉恥な事を…」
ゼノヴィア、特訓以前にその殺気を引っ込めような。
白音も、何気に本音が漏れてるぞ。
「同じ男でもこの差って…。世の中って不公平だ…」
匙君もなんで嘆くの?
「ううぅぅ……。マユさぁ~ん……」
アーシアも今にも泣きそうにならないで。
こっちが反応に困るから。
なんか特訓が有耶無耶になりつつあった時、この場にいきなり意外な訪問者が現れた。
「お?随分と賑やかじゃねぇか」
「貴方は……」
黒い着物を着たちょいワル親父……アザゼルさんが来たのだ。
なんともフレンドリーな感じで。
「お久し振りです。こうして直接会うのは何時振りでしょうか?」
「さぁな。いつも電話で声を聴いてるから、久し振りって感じはしねぇよ」
「そんなもんですか?」
ここら辺はよく分からない感覚だ。
私がまだ『人間』だからだろうか?
「あ…あの、先輩?お知り合いっスか?」
「ああ、皆はまだ知らなかったか。この人が堕天使の総督のアザゼルさんだ。個人的に色々とお世話になってるんだ」
「「「「ええっ!?」」」」
またまた皆が驚く。
今度はギャスパー君も。
白音は違ったけど。
すぐに匙君が神器を出して、ゼノヴィアもデュランダルを構えた。
白音は意外と大人しくしていたけど。
「やめとけ、やめとけ。お前等じゃ俺には勝てねぇよ」
「「うぐっ……」」
「ま、勝てるとしたら、そこにいるマユのお嬢ちゃんだけだろうな」
「私?」
「ああ。お前さんの秘めている力を全て解放すれば、俺ぐらい楽に倒せるだろう?」
「それは……」
否…と言いたいが、やろうと思えば出来そうだから嫌だ。
「で?こんな場所まで何をしに?まさか、散歩…なんて訳じゃないでしょう?」
「半分はマジで散歩だよ。そして、もう半分は聖魔剣使いを見に来たんだよ。どこにいるんだ?」
「彼なら今、サーゼクスさんの所に行っています」
「マジかよ」
残念そうに肩を竦めるが、心の底からの表情じゃない。
「ところで、お前さんに抱き着いている羨ましい奴は『停止世界の邪眼』の使い手だろ?」
「分かるんですか?」
「一応な。それを使いこなせないのはちっとばっかしヤバいな。神器の補助具とかで何とか出来れば、それに越したことはねぇんだけどな。悪魔達はまだそこまで神器の研究が進んでいなかった筈だし…」
そこでアザゼルさんは匙君の腕についている神器を見た。
「おい。そこの男子生徒。お前が付けているのは『黒い龍脈』だろ?それを使えば少しはマシになると思うぞ」
「俺の神器で?」
「こいつをこのガキに接続してから余分な力を吸収しつつ邪眼を発動すれば、少しは暴走を回避出来る筈だ」
「「おぉ~…」」
詳しいなぁ~。
伊達に人工神器なんて物を造ってないんだな。
「猫又の嬢ちゃん。俺がやった人工神器の使い勝手はどうだった?」
「凄く良かったです。とても助かりました」
「そうかそうか!」
高笑いしながら白音の頭を撫でるその姿は、堕天使じゃなくて、どこにでもいる普通のおじさんだった。
「因みに、どれが一番使い勝手が良かった?参考までに聞かせてくれ」
「そうですね…。やっぱり、シンプルに力を向上させてくれる『土星の輪』が一番使えましたね」
「成る程な。確かにあれは能力が単純故に汎用性が高い。しかも、他の人工神器と組み合わせても大きな効果が期待できる」
すぐに研究者の顔になったアザゼルさん。
まるでサカキ博士を彷彿とさせる。
「あ、そうだ。さっき言った以上に邪眼を抑えるのに手っ取り早いのは、赤龍帝の血を直接口内摂取することだ。別に赤龍帝じゃなくても、血を飲むだけで吸血鬼って種族は力が増すからな」
「そ…それは……」
流石に私の血は飲ませられない。
だって、血の中にもオラクル細胞が入っているから。
そんな事をすれば、ギャスパー君にもオラクル細胞が入ってしまう。
それに……
「僕は……嫌です……」
彼自身が血を飲むことを拒んでいる。
無理矢理には飲ませられない。
「そっか。じゃ、ここからは自分達で何とかしてみせな」
そう言うと、アザゼルさんは踵を返そうとした…が、途中で止まってこっちを見た。
「そういや、お前さんに言わなきゃいけない事があるんだった」
「私に?」
「ウチのバカ娘が世話になったな。根は悪い奴じゃないんだが、どうにも自信過剰な所があるって言うか…」
「気にしてませんよ。私としても、彼女と話せて良かったと思いますし」
「そう言って貰えるだけでも有難いぜ。アイツもお前さんと話せて、自分がまだまだ戦士として未熟者だって自覚したようだしな」
「そうなんですか?」
「帰って来た時、アイツは凄く悔しそうにしてやがった。アイツのあんな顔を見たのは初めてだった。今まではずっと白龍皇としてのプライドが全てを締めていたからな。その宿命のライバルとも言うべき赤龍帝が自分よりも遥かに強大な実力を持っている事実を中々に認められないんだろうさ」
強い力を秘めたライバル…か。
そう言われても、余り実感は無い。
私自身、まだ自分が『強い』という自信は無い。
「多分、これからもアイツは嬢ちゃんにちょっかいを出してくるかもしれないが、その時はあのアホにお灸を据えてやってくれ」
「お灸って…」
この言い方……まるで父親みたいだな。
「分かりました。私に出来るのならば」
「頼んだぜ」
ニッコリと笑った後、アザゼルさんは手を振りながら去って行った。
「行ってしまった…」
「お…驚いた…」
「まさか、堕天使のトップが直接来るとは……」
「き…緊張しました……」
彼と初めて会った面々は、凄く体を強張らせていた。
私と白音はそこまで驚きはしなかったけど。
「し…しかし、マユ殿は一体どこでアザゼルと知り合ったのですか?」
「初めて会ったのは三大勢力の戦争の時。その後に改めて会ったのは、今から1年ぐらい前にレドとオーフィスと一緒に買い物に出かけた時だな」
「最初の時はともかく、二回目は結構普通に会ってるんスね…。買い物の途中にって…」
「あの時はお互いにプライベートだったしな」
めっちゃラフな格好してたもんね。
マジで普通の近所のおじさんだったよ。
「話には聞いてたけど、マユ先輩の交友関係ってめっちゃ広いんスね…」
「最近になってちょっと自覚し始めてる」
携帯のアドレスも沢山埋まってるしね。
半分以上が年上だけど。
「取り敢えず、まずはさっきアザゼルさんが言っていた方法を試してみないか?」
「そうですね。物は試しです」
という訳で、ギャスパー君の腕に匙君が黒い触手を巻いて、余分な力を吸いだした。
すると、驚くほどに力のコントロールが上手くいった。
それから試しに色々な特訓をしてみた。
彼に向かって投げたボールの時を止めて空中静止させたりして。
時々私以外の時を間違って止めたりもしていたが、それ以外は比較的順調に進んでいた。
そして、途中で戻ってきたリアスがサンドイッチを差し入れてくれた。
朱乃と裕斗の姿が見えない所を見ると、まだサーゼクスさんの所にいるんだろう。
私達はアザゼルさんがさっきまで来訪していた事を伝えると、流石に驚きを隠せないでいた。
その後、匙君は自分の仕事に戻り、その代わりにリアスが特訓に付き合ってくれた。
特訓は夜まで続き、ギャスパー君はくたくたに疲れていたが、それでもリアスや私の応援を糧に頑張っていた。
因みに、リアスが差し入れてくれたサンドイッチはとても美味しかったです。
毎度の如く、こちらの予想を裏切って長くなってしまう始末…。
いざ書き始めると、自然と文章が浮き出てくるんですよね。
お陰でこっちの予定がいい意味で滅茶苦茶に…。
では、次回。