神を喰らう転生者   作:とんこつラーメン

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やっと『彼』のご登場です。

随分と時間が掛かりました…。






第58話 僧侶の駒の吸血鬼

 授業参観が終わり、私達は羞恥心に悶えながらも、なんとかして家に帰ったが、本当の試練はそれからだった。

 

何故なら、流れでサーゼクスさん達を私の家に招くことになったのだ。

 

黒歌、レイナーレ、そしてグレイフィアさんが作ってくれた夕食を美味しく食べた後、なんでかリビングにて鑑賞会が始まった。

 

最初は何の鑑賞会かと思ったら、そこに映っていたのは授業参観中の私達の教室だった。

 

一体いつの間に撮影なんていていたのか、私とリアス、朱乃の後姿がバッチリと映っていた。

 

「綺麗に映ってるにゃ」

「そうね。こんな風だったんだ…」

 

黒歌とレイナーレはまだいい。

けど、問題は親バカ連中の方だ。

 

「やっぱり、俺等のマユは頭がいいなぁ!な?ヤーちゃん!」

「そうだね!僕達の自慢の娘だもん!」

 

このバカップルは…!

 

「お姉ちゃん、頭いい?」

「特訓だけじゃなくて、勉強もいつも頑張っているからな!」

「私達にも色々と教えてくれるしな!」

 

学校は難しくても、勉強をしておいて損は無いと思うので、時々私がオーフィスちゃん達に簡単な算数などを教えたりしている。

流石は伝説の龍神。

呑み込みは非常にいい。

 

「ウチのリーアも負けてませんよ!ほら、ここ!」

「完全な羞恥プレイよ…」

 

その気持ちは痛い程分かる。

サーゼクスさんも興奮しすぎ。

グレイフィアさんがめっちゃ呆れてますよ。

 

「健やかに育ってくれていれば、それだけでいい…」

「そうね」

 

朱乃の御両親が一番まともだった。

魔王よりも常識人な堕天使って……。

 

ここ最近は毎日が賑やかな気がする。

 

でも、こんな日々も悪くないと思っている自分がいる。

 

恥かしいのは絶対に嫌だけど。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 また一つ、人生の黒歴史に新たな1ページが刻まれた授業参観の次の日。

 

私はリアス達と一緒に旧校舎の1階にある皆から『開かずの間』と呼ばれている場所の前に来ていた。

 

扉自体は物理的に封印されていて、至る所に刑事ドラマに登場する黄色いテープが張られている。

 

「リアス…ここは?」

「ここには私の眷属の子がいるの」

「眷属が?」

 

初耳だ。

一体どんな子なんだろうか?

 

「駒はなんですか?」

僧侶(ビショップ)ですわ」

 

僧侶か…。

なら、少なくとも前に出て戦うようなタイプじゃないな。

 

「けど、なんでこんな場所にいらっしゃるんですか?」

「ここにいる子の能力は非常に強力で、本人もまだ自分の力で制御しきれていないんだ。本人の希望もあって、半ばここに幽閉するような形になってしまったのさ」

 

御しきれない力…か。

その点で言えば、私も人の事は言えないけど。

 

リアス曰く、今までの戦いを鑑みて、今のリアスなら問題無いと四大魔王や他のお偉方達が判断し、彼(?)の封印を解くことになったらしい。

 

「お姉ちゃん達の存在も大きいけどね」

「私達が?」

 

何かしたっけかな?

 

「伝説の戦士であるお姉ちゃんは勿論のこと、白音も3つの人口神器を自在に使いこなす技量が評価されて、高い回復能力と今時稀に見る清純さを併せ持つアーシア、赤龍女帝の従者となった教会の聖剣使いのゼノヴィアの存在。これだけの人材がいればいざと言う時も大丈夫だと思ったらしいの」

「ず…随分と高評価なんだな…」

「何だか恥ずかしいです…」

「悪魔とは言え、誰かに褒められると言うのも悪くは無いな」

 

そこまで期待されているのならば、なんとかするしかないな。

どんな子かにもよるけど。

 

「でも、こんな場所で悪魔の仕事である『契約』は取れるんですか?」

「その点は大丈夫ですわ。ここにいる子はパソコンを介したネットを通じて数多くの契約を取ってますの。何気に、私達の中では一番の稼ぎ頭だったりするんですのよ」

「マジか……」

 

つまり、典型的なヒッキーなんだな。

恐るべし現代っ子…ってやつか。

 

「それじゃ、このテープを取るの手伝ってくれない?」

「分かった」

 

皆の手でテープを取る。

人数が多いせいか、あっという間に片付いた。

取ったテープはゴミ箱にポ~イ。

 

「じゃあ……開けるわね」

 

リアスがゆっくりと扉に手を掛けて、静かに開ける。

 

ギィィィィ……と言う音と共に扉が開かれ、暗い室内に光が入る。

その瞬間……

 

「イ…イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!?」

 

甲高い悲鳴がその場に響き渡った。

 

まさか、いきなり悲鳴が聞こえてくるとは予想していなかった私を始めとしたリアス眷属以外の人間は、思わずビクッと体を強張らせてしまった。

 

「ひ…悲鳴?」

「なんなんでしょうか…?」

「う…五月蠅い…!」

 

ゼノヴィア、気持ちは分かるがイライラするな。

 

だが、リアスは特に気にした様子も無く、朱乃は溜息と共に中に入っていった。

私達もそれに続くようにして入っていった。

 

「久し振り。元気そうで良かったわ」

「な…な…な…なんなんですかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「封印を解く許可が出たんですのよ。もうここにいる必要は無く、お外に出られるのよ。さぁ、一緒に行きましょう?」

「イヤイヤイヤイヤイヤですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!お外になんか絶対に出たくないですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!誰かに会うなんて嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

人見知りで引きこもりって……。

 

「見事なまでに、典型的な不登校児の主張ですね」

 

言ってやるなって。

 

室内の窓は全て閉め切っていて、その上にカーテンが掛けられている。

その為、部屋の中はうっすらと薄暗い。

よく見ると、室内の装飾は年頃の女の子の様な可愛らしい飾りで一杯で、所々にはぬいぐるみもある。

でも、その中で違和感を放っているのが、部屋の端の方にある西洋風の重厚な棺桶だった。

 

「あの声のトーン……僧侶の方は女の子なんでしょうか?」

「そのようだが……」

 

声だけでは判断は出来ない。

世の中には女性のように声の高い男性も少なからずいる。

 

そっと奥を覗くようにして件の人物を見てみると、そこには……

 

「ひくっ……ひくっ……」

 

綺麗な金色の髪と紅い瞳を併せ持った、駒王学園の女子制服に身を包んだ『男の子』がいた。

 

「……なんで、男なのに女子の制服を着ているんだ?」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

 

な…なに?

そんなに驚くような事を言った?

 

「お…お姉ちゃん…この子が男だって分かったの?」

「いや、どう見ても男だろう?」

「驚きですわ……」

 

朱乃も目を見開いて驚いちゃって。

マジで皆どうしたの?

 

「どっからどう見ても女にしか見えないんだが……」

「同感です…」

 

そっか、確かに見た目は女の子みたいにしてるもんね。

 

「参考までに聞いていいですか?どうして先輩は彼が人目で男性だと分かったんですか?」

「簡単だ。まず、全身の骨格が完全に男の物だ。そして、女子高校生にしては胸のふくらみが無さすぎる。故に、彼は男だと言う結論に至った」

「「「おぉ~…」」」

 

リアス眷属は驚きの目でこっちを見て、他は……

 

「マユさん……一回見ただけでそこまで……」

「流石は赤龍女帝。素晴らしい観察眼だ」

 

で、白音は……

 

「胸の大きさ……」

 

なんでか自分の胸と私の胸を何回も見比べている。

私の胸がどうかしたのか?

 

「彼がリアスの僧侶なのか?」

「ええ、そうよ」

「ふむ…」

 

まずは挨拶でもしようか。

 

そう思って彼に近づこうとすると……

 

「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

あらら……脅えられてしまった。

 

ちょっとショックを受けていると、なんだか妙な感覚に襲われた。

 

「ん?」

『ほぅ?これはまた……』

 

ギルが珍しく感心している。

 

すると、急に周囲が静かになった事に気が付いた。

ふと後ろを見てみると……

 

「え?」

 

そこでは、リアスが完全に『停止』していた。

いや、リアスだけじゃなく、皆の動きが完全に止まっていた。

 

「これは……?」

『心配せずともよい。単に時が止まったにすぎん』

「はぁ?」

 

時が…止まった?

なんだよ、その状況は?

 

内心混乱していると、先程の男の子が四つん這いになってどこかに行こうとしていた。

私以外に彼が動けるという事は……

 

「ちょっと待って」

「ひぃぃぃ!?」

 

少し脅えすぎじゃない?

 

「この時間停止現象は…君の仕業なのか?」

「ご…ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!って…あれ!?なんで貴女は動けるんですかぁぁぁぁぁぁっ!?」

「なんでと言われてもな……」

 

こっちが知りたいわ。

 

(単純に、相棒の力がコイツの力を上回っているだけだろう)

 

え?そうなの?

 

「うお?」

 

何かが動き出すような感覚を感じた。

それと同時に、後ろからも気配が復活した。

 

「お姉ちゃん……もしかして、動けたの?」

「え?あ…ああ……」

 

この様子……止まっている間は認識できていないようだな。

 

『恐らく、この女装男の神器は『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』だ。目と一体化した神器で、視界に入ったあらゆる物質を一定時間停止させる代物だ』

「視界に入った物を停止させる……」

 

話だけ聞けばかなりのチートだな。

そして、相も変わらずギルは物知りだ。

 

「だが、私は普通に動けていたが……」

「だから驚いていたの。お姉ちゃんの強さが原因かしら…?」

『その線が濃厚だ。相棒ならば何が起きても不思議じゃない』

「それはそれでちょっと複雑な気持ち……」

 

単純な強さで神器の力を無効化するって……。

 

「君…名前は?」

「ひぅっ!?」

 

あ、後ずさってしまった。

 

「お姉ちゃん、この子は…」

「大丈夫」

 

これはきっと、他人から聞いちゃ駄目な事だ。

私は彼の口から直接聞きたい。

 

「教えて…くれる?」

 

そっと彼の頭に手を乗せて、可能な限り優しく話しかけた。

すると、彼は少しずつではあるが大人しくなって、落ち着くまで待った。

 

「ギャ…ギャスパー・ヴラディ……です……」

「良く言えました」

 

手を動かして彼の頭を撫でた。

さっきまでの脅えはもう無く、彼の震えはもう止まっていた。

 

「ギャスパー、彼女は怖い人じゃないわ」

「え?」

「この人は貴方が最も憧れている人物よ」

「それは……」

「そう、彼女こそが伝説の赤龍女帝よ」

「えええっ!?」

 

やっぱりここでもその名が出るか……。

何気に万能だな、赤龍女帝。

 

「闇里マユ。ここの三年生だ」

「あ…闇里先輩……ですかぁぁぁ…?」

「名前でいいよ」

「じゃあ……マユ先輩……?」

「うん」

 

なんだ。こうして接すると、結構素直でいい子じゃないか。

でも、こんなにも脅えているという事は……

 

「君は…過去に辛い目に遭ったんだな……」

「僕……は……」

「別に無理して言わなくてもいい。だから、今から少しだけ質問をする。イエスなら首を縦に、ノーなら首を横に振ってくれ」

「はい……」

 

よし。ならば……

 

「まず一つ目。君がそんなにも怖がっているのは、過去に誰かに酷い目に遭わされたから?」

「…………(コクン)」

 

イエス……か。

 

「なら二つ目。君は自分の持つ能力が怖い?」

「…………(コクン)」

 

これもイエス…と。

 

制御出来ない自分の能力で己の意思とは関係無く誰かを傷つけてしまい、それが原因で迫害に近い目に遭ってきた……ってところか。

 

彼を見ていると……不思議とソーマを思い出す。

 

己の強大な力故に、徹底的に他人から離れ、いつも孤独だった彼の事を……。

 

「……私の仲間にも…君のように、力が強すぎるが故にいつも独りぼっちだった奴がいたよ」

「そ…そうなんですか?」

「ああ。いつも自分以外の仲間が全員死んでしまい、彼は周囲の連中から『死神』なんて言われていた。彼自身もそれを否定しようとしないで、いつも自分から他人を引き離していたよ」

「……………」

 

形は違うように見えるが、根本的なところは同じように思える。

常に孤独でいようとするのは、逆に言えば他人の事を自分以上に気遣っている事になる。

彼が本当に怖がっているのは、自分の能力じゃなくて、その能力で誰かを傷つける事に違いない。

ソーマも同じ感じだったし。

 

「その人は……どうしたんですか?」

「最初は思いっきりピリピリした雰囲気だったよ。私なんて出合頭に剣を突き付けられたし」

「け…剣を!?」

 

あの時は本気で驚いたなぁ~。

後になってそれも彼なりの優しさだって気付いたけど。

 

「『お前はどんな覚悟を持って『ここ』に来た?』……そう言われたよ」

「覚悟……」

 

今にして思えば、凄く深い言葉だよな。

あの頃は何をするにしても必死だったから、覚悟も何も無かったけど。

 

「でも、最終的には皆と仲良くなっていったよ。今では色んな人に慕われて、死んでしまったお父さんとお母さんの意思を継ごうと頑張ってる」

 

『背中を預けるぞ』。『力を貸してくれ』。

彼からその言葉を聞いた時、私は涙が出そうになるぐらいに嬉しかった。

ソーマが本当の意味で心を開いてくれたって思ったから。

 

「別にギャスパーにも同じ事を求めようとは思わない。けど、自分の中の力を向き合う努力をすべきじゃないかな?」

「でも……僕がいると、皆が止まってしまうんですよ!?」

「私は止まらない」

「え?」

「私は絶対に止まらない。つまり、君はもう一人じゃないってことだ」

「一人じゃ……ない……?」

 

再びギャスパーは震え出した。

けど、これは恐怖による震えじゃない。

 

「私も…ここにいる皆も、君に酷い事は決してしない。そして、君の事を怖がったりしない。だから…大丈夫」

「僕は……僕は……」

 

私はそっとギャスパーの事を抱きしめた。

 

「君も男の子なら、勇気を持って外に出よう」

「……怖くないですか?」

「怖くなんかないよ。一人じゃないからね。だから……」

 

彼の手を持って立ち上がらせた。

背の関係で見下ろすような形になったけど。

 

「一緒に行こう……ギャスパー」

「はい………」

 

ようやくギャスパーは笑ってくれた。

 

涙を流しながらの笑顔だったが、それはとても眩しく見えた。

 

まるで、本当の女の子のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ギャスパーフラグは建った……かな?

自然とソーマの事を思い出す辺り、ソーマに対してマユフラグが建っているのかもしれませんね。

では、次回。

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