ちゃんと休んでいるつもりなんですけどねぇ~…。
散々な目に遭ったプール掃除から数日が経ち、授業参観まで後少しまで来たある日。
私は毎日の日課である夜中の町内ジョギングをしていた。
体を動かすため、動きやすいハルシオン高体操着の上下を着ている。
「ふ…ふ…ふ…ふ…」
呼吸を一定に保ちながら走っていると、前方に自動販売機が見えた。
『相棒。そろそろ少し休憩したらどうだ?』
「そうだね」
ゆっくりとスピードを落としていき、自販機の所で足を止めた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
呼吸を整えてから、私はポケットから財布を出した。
「スポドリ…だよな」
てな訳で、水分補給を重視してア○エ○ア○を購入した。
お金を入れてから、ボタンを押す。
ガコンと言う音と共に目的の品が落ちてきた。
ドリンクを取ってから、蓋を開けて一口。
冷たい感覚が喉を通っていき、体に水分が満ちるのが分かる。
「…………」
…どうしよう……ツッコむべきかな?
「……いつまでそこにいるんだ?」
なんかこのままなのも気まずいので、取り敢えず話しかける事にした。
「出てこないなら、このまま行くぞ」
そう言うと流石に焦ったようで、ゆっくりと電信柱の影から人影が出てきた。
「はぁ……どうしてバレたのかしら?」
溜息交じりに出てきたのは、夜中なのに眩しい程に輝いている金髪の少女だった。
白いTシャツにダメージジーンズと言ったラフな格好をしている。
「いや……そりゃ、バレるでしょ……白龍皇」
速攻で正体を言い当てたのに、驚いた様子が無い。
ちょっとショック。
「あら?なんで分かったのかしら?前に会った時は顔を見せなかった筈だけど?」
「それ…本気で言ってるのか?」
「え?」
もしかして……この子って天然?
「まず、声が一緒だった。それに、こんなにも近くにいれば嫌でも
「流石に貴女には隠せない…か」
ようやく観念したのか、彼女は私の目の前にまで来た。
「でも、どうして私の場所が分かったの?一応、気配は完璧に消していた筈だけど?」
「…確かに気配は消えていた。だからこそ分かったんだ」
「……どういう事?」
おや、本当に分からない?
仕方が無いなぁ~。
ここは優しいマユお姉さんが丁寧に教えてあげよう。
「気配と言うのは、天地万物森羅万象の全てに存在する。特に、この日本ではその傾向が顕著なんだ。日本には八百万の神々の概念があるからな」
「…………」
「この壁、自販機、ペットボトル、草木は勿論のこと、路上に転がる小石に至るまで、全ての存在に神が宿っている。我々が着ている衣服すらも例外じゃない」
この体になってから、常に色んな場所から気配を感じるようになった。
夢の中で玉藻に聞いたり、私なりに色々と調べた結果、こういう結論に至った。
「分かるか?至る所に気配があるのに、ある一点にだけ気配が
「成る程ね…。気配を完璧に隠し過ぎたって訳ね」
「正解。私に気付かれないように近づきたいなら……」
はい、ここで先生から習った『圏境』を発動。
お粗末な出来だけどね。
「なっ!?消えた!?」
そっと彼女の後ろに回ってから『圏境』を解除。
「こんな風に…周囲の気配と一体化でもするんだな」
「……っ!?」
慌ててこっちを向いて、驚いた様子で後ずさる。
その顔には冷や汗も見えた。
「い…いつの間に…!」
「私は普通に君の後ろに回っただけだ」
圏境を使った状態でね。
「ア…アルビオン……。今、彼女の気配を少しでも感じた…?」
『い…いや…全く分からなかった…』
おお~…アルビオンにも分からなかったか。
私の圏境も中々の域になったな。
『腕を上げたな、マスターよ。儂の全てを授ける日も近いな』
「ありがとう、先生」
史上最強の格闘家にそう言われると、年甲斐も無く嬉しくなってしまうよ。
「それで?ここまで何をしに来たんだ?」
「いえね。会談前に貴女と素顔の状態で会っておきたいと思ったんだけど…」
「本当か?」
「…………」
「最初に見た時から感じていた。お前は何処までも純粋な戦闘狂だ。戦いだけをどこまでも求めている」
「その通り。私は戦いたいの。戦って戦って戦い抜いて、この世で最強の存在となる。それが私の目的であり、人生そのものよ」
「最強…ね」
……なんて言うか…。
「くだらない」
「なんですって?」
「くだらないと言ったんだ」
「貴女…!」
この程度で怒るか。
なんとも沸点が低い事。
「私は生まれてから、そんな事は一度も考えたことはない」
「そんな筈は無いわ。貴女の強さは既にこの世界でも十指に入るほどに至っている。そんな強者が最強を目指さない?ふざけないで」
「ふざけてなどいない」
険悪なムードになって、互いに睨み合う。
「じゃあ、なんで貴女はそんなにも自分を鍛えているの?それこそ、自分を強くする為でしょう?」
「確かに、強くなるために鍛えてはいる。だが、それはあくまでも目的に至る手段に過ぎない」
「目的?最強以外に目的があると?」
「ある」
こればっかりはハッキリと言える。
「私の目的…それは、全ての生き物が当然のように持っている尊厳を守る為だ」
「尊厳?」
「皆で一緒に生きる事。それが私の目的だ」
「生きる事…ですって……」
『あの世界』で生きた者として、これ以上に強くなる理由は無い。
ある意味、生物の根源的目的とも言えるだろう。
「お前…名前は?」
「……ヴァーリよ」
「そうか。ヴァーリ、お前は一度でも心から何かに飢えた事はあるのか?」
「飢えた事…?」
「そうだ。私は常に飢えている。生きると言う行為に飢えている」
「生きる事に飢える……」
より正確に言うと、私は怖いのだ。
皆が死ぬことが、私が死んで皆と同じ時間を生きる事が出来なくなってしまうのが。
だから私は、生きる事に必死になる。
石に嚙り付いても、泥水を啜っても、絶対に生き延びる。
その為なら、どこまでも強くなってやる。
「別に私はお前の強くなりたいと言う想いを否定する気はない。だがな、それ自身を目的にするな。真の意味で強くなりたいと思うのなら、その先を見ろ」
「強さの先……」
う~ん…どうも説教みたいになってしまう。
最上級生であるが故の性か。
「そうでなければ、お前は何時か必ずどこかで袋小路に至ってしまう」
「そんな事は…!」
「絶対に無い…と言いきれるのか?」
「くっ…!」
今のこいつは、よくある『レベルさえ上げて物理で殴ればオールオッケー』と考える典型的なタイプだ。
李書文先生だって、最強に至るまでは鍛錬や戦いだけじゃなくて、色んな事を勉強したんだぞ?
「……不思議ね。悔しいと思っている反面、貴女の言う事が正しいと思っている自分もいる。どうして貴女の言葉はこんなにも心に響くのかしら?」
『それは、相棒が文字通りの弱肉強食の世界を生き抜いてきたからだ』
『弱肉強食だと?』
『ほんの一瞬でも油断すれば、次の瞬間には命を落とす。僅かな隙も許されない。荒ぶる神々と人間との生存競争。相棒はそんな世界を仲間達と共に生き抜いてきたのだ。ハッキリ言って、生存欲と言うものに関して、相棒以上に飢えている人間はいまい』
それが、アラガミと人間との闘争の歴史だからね。
「己の経験から来ているから、言葉の一つ一つに言い知れない重さがあるのね。納得だわ」
「そうか…」
そういや、さっきからドリンクをシカトしてました。
てなわけで、ゴクッと一口。
「どうやら、実力以前に精神面で貴女に劣っていたようね。これでもそれなりに強いと自負していたつもりだけど、まだまだ私は『井の中の蛙大海を知らず』だったようね」
「よく、そんな言葉を知っているな…」
来た時とは違い、スッキリとした顔つきでヴァーリは踵を返した。
「本当は、貴女に宣戦布告でもしておこうかと思ったんだけど、逆に私が色々と教えられる結果になっちゃったわね」
「宣戦布告って……」
こんな夜中に物騒な事を考えるなぁ~。
「そろそろ行くわ。じゃあ、トレーニング頑張ってね。会談でまた会いましょう」
それだけ言うと、彼女は宵闇に紛れるようにして消えていった。
「ふぅ……」
き…緊張したぁ~!
めっちゃドキドキしたよぉ~!
『相棒、見事な言葉だった。改めて、お前が現代の赤龍帝で良かったと思ったぞ』
「ドライグ…」
『私も同感だ。さっきの君の言葉を昔の私にも聞かせてやりたいよ』
「エミヤまで…」
思った事を言っただけでここまで褒められるって…。
「私も行くか。家までダッシュだな」
休憩しすぎたからな。
ここは全速力で行きますか!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
はい、やって来ました。
(転生してから)人生初めての授業参観。
教室にて私とリアスは何とも言えない面持ちでいた。
「「はぁ……」」
「あらあら、二人揃ってどうしましたの?」
「言わなくても分かるでしょ…?」
「もしかして、授業参観の事ですの?」
「その『もしかして』…だよ」
授業参観ともなれば、間違いなくあの二人が来るだろう。
あのイベント好きのヤハウェが来ない訳が無い。
「朱乃はご両親が来るのか?」
「はい。二人共、お姉ちゃんに会いたがっていましたわ」
「そうか…」
昔見た感じじゃ、朱乃の両親は比較的常識人のような印象だった。
やって来るであろう我が両親も普通の格好で大人しくしていてくれると助かるけど…。
(ルシファーさんはともかく、ヤハウェにそれを期待していいものか…)
因みに、白音の所には黒歌が、アーシアとゼノヴィアの場所にはレイナーレが行くことになっている。
黒歌は白音の姉として当然かもしれないが、レイナーレは以前に迷惑を掛けた詫びとして来ることにしたらしい。
「お姉ちゃん…ここはお互いに何も起こらない事を祈りましょう…」
「だな……」
けど、こういった会話こそがフラグだったりするから、世の中って怖いのよね~。
………本当にフラグにならないよね?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
現在、授業中。
授業自体は恙無く進んでいる。
でも、その事自体が逆に怖い。
教室の後ろには参観に来た生徒の親族が来ている。
その中で特に目立つのが、彼等だ。
まずはリアスの兄であるサーゼクスさんと、その隣に立っている素敵なお髭を蓄えたおじ様だ。
多分、あれがリアスのお父さんだろう。
美青年と美少女の父親は、ナイスミドルな渋いおじ様だったようだ。
次は、朱乃のご両親。
二人共、前に見た時と全く姿が変わっていない。
お父上は堕天使だから納得できるけど、人間である朱璃さんが昔のままの若さを保っているのはどう言う事?
なにか凄いアンチエイジングでもしてるのか?
そして、それらに交じって目立っているのが、我が両親であるルシファーさんとヤハウェ。
ルシファーさんはいつもと同じ黒いジャケットを胸元を開けた状態で着ていて、首元にはシルバーのネックレスを付けている。
それが、なんとも言えない男性の色気を醸し出している。
お陰で、他の女子生徒達がルシファーさんの事をチラチラと見ている。
ヤハウェはと言うと、純白のワンピースに薄いピンクのカーディガン。
見た目は完全に十代の女の子だ。
こっちは逆に男子生徒がチラチラと見ている。
その度にルシファーさんが睨みを付けているけど。
(あの褐色肌のイケメンって誰?めっちゃカッコいいんだけど!?)
(闇里さんのお父さんだって!流石はミス駒王の父親ね!あのお父さんなら彼女のイケメンさも納得だわ!)
はいそこ、授業中にひそひそ話をしない。
(あれが闇里さんの母親!?本人に負けず劣らずの超絶美少女じゃねぇか!あれで18の子供がいるとか、反則だろ!)
(いや、もっとよく見ろ。傍に小さな女の子が三人いる。あれも多分、あの夫婦の子供だ)
(マジで!?)
そう、今回は家の大人が完全にいなくなるため、流石に子供だけには出来ないから、ルシファーさん達がオーフィスちゃん達三人を特別に連れてきたのだ。
三人共、ちゃんと大人しくしている。
その目は好奇心に満ち溢れているけど。
(さっき聞いたんだけど、あの子達って闇里さんの妹なんだってさ)
(美少女の妹は揃って美幼女…か。血って怖いな)
なんじゃそりゃ。
いいから授業に集中しようよ。
ふと、机の中から極少の魔力を感じた。
目線だけで見てみると、小さなメモ紙が机の中に転移してきた。
この魔法陣はリアスか。
一体どうした?
試しに開いて見てみると、そこには……
【お互いに大変ね。大丈夫?】
……うん。
気持ちはすっごい分かります。
一応、リアスの方を向いて頷いておく。
そ~っと後ろの様子を見てみる。
すると、三組の親達が楽しそうに話していた。
既に見知っているサーゼクスさんはともかく、よくリアスと朱乃のお父さんは緊張してないな。
サーゼクスさんなんて、初めて会った時は滅茶苦茶動揺してたのに。
「いやはや…まさか、こんな形で貴方様とまた出会えるとは思えませんでした」
「それはこっちもだよ。で、どうだ?俺の自慢の娘達はよ」
「四人共実に素晴らしい。そして、彼女が噂に名高い赤龍女帝…ですか。サーゼクスに聞いた通り、誠実そうな良い少女のようだ」
「だろ?俺達の愛の結晶だからな」
「もう…ルー君…じゃなかった、セッ君たら…」
こんな場所でイチャイチャしないでよ!
こっちの身にもなってくれ!
「あらら…。久し振りに会ったと思ったら、随分とラブラブな御両親がいらしたのね」
「しかも、母親があのヤハウェ様とはな…。ならば、彼女が伝説となるのも納得できるが…」
「僕達は本当に何もしてないよ。全てはあの子の功績さ」
色々とヤバい会話をしてるけど、他の人達は自分の子供を見るのに夢中で聞いていない。
これが授業参観なのが幸いしたか。
「ここが高校か…」
「お姉ちゃん、勉強してる」
「ちょっと探検したいな…」
三人としては、未知の場所を見て回りたいと言う気持ちが大きいのは当然かも。
放課後にでも案内してあげようかな?
こんな感じで、授業参観は進んでいった。
授業参観は午前中だけなので、午後は通常授業になる。
午後からは参観に来た親族は帰ってもいいし、そのまま校内を見学してもいい事になっている。
私の所は放課後までいる事になっている。
多分、それはサーゼクスさん達も同じだろう。
このまま、今日はなにもトラブルが無いといいけど…。
なんて言ってたら、絶対に何かが起こるんだよなぁ~。
もう、お約束の展開だからね…。
(はっはっはっ!お前も気苦労が絶えないな!雑種よ!)
うっさい!ギルガメッシュ!
原作ではヴァーリに圧倒されるシーンでしたが、ここでは逆に圧倒しちゃうことに。
ある意味、この結果は当然かも。
そして、授業参観はとんでもないメンバーが揃う事に。
知っている連中が見たら卒倒しちゃいますね。
では、次回。