神を喰らう転生者   作:とんこつラーメン

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ここから一気に盛り上がります。

そして、遂に真の聖剣が…?


第49話 無限の剣製

 ケルベロスの撃破をしている間に聖剣(偽)の融合が完了してしまった。

しかも、あと20分でコカビエルを倒さなくてはいけないというおまけ付きで。

 

くそ…!冗談じゃない!!

 

「20分……これじゃあお兄様は……」

「どう足掻いても間に合いそうにはありませんわね……」

 

もしかしたら、コカビエルはそれすらも見越していたのかもしれない。

だとしたら、中々の策士だな……って、なんで感心してるんだろう。

 

「フリード!来い!」

「へいへい」

 

コカビエルに呼ばれて、暗闇の中からフリードが出現した。

 

「陣にあるエクスカリバーを使用しろ。一本に統合された聖剣の力を見せてみろ」

「はぁ……りょーかい」

 

ん?なんかやる気が感じられないぞ?

 

ダルそうにしながらも、フリードは魔法陣の中に入り剣を取る。

 

「ま、そんな訳だから、いっちょ俺様と戦って貰うぜ?」

 

フリードは剣を肩に担ぎながらこっちに話しかける。

だが、彼からは全くと言っていい程に闘気も殺気も感じられない。

 

(本気でどうした?いつものアイツらしくないぞ…)

 

なにか心境の変化でもあったのだろうか?

だが、敵対者の心境なんて気にしている場合じゃない。

今は時間が無いのだから。

 

「………裕斗」

「はい」

 

私が目配せをすると、裕斗は迷わず頷き、フリードの前に立った。

 

「君の相手は僕だ」

「そうかい。今にして思えば、お前と俺は色々と因縁があったな」

「そうだね」

「ここらでいい加減、マジで決着をつけるか?」

「奇遇だね。僕も丁度、同じ事を言おうと思っていたところさ」

 

裕斗は少しだけ笑みを浮かべると、いつものように風刃剣を構えた。

 

「待ってくれ」

「ん?」

 

これからと言う時に、ゼノヴィアが裕斗の隣に立った。

 

「私も一緒に戦わせてもらう。元々、あの剣の回収、または破壊が私の任務だからな」

「それは……」

「そちらに事情があるのは百も承知だ。だが、こちらにもこちらの事情がある事を理解して欲しい」

「……分かった」

 

ま、彼女は仕事で来てるんだしね。

共同戦線を依頼した以上、ここで無下には出来ない。

 

「戦う前に少し言いたいことがある」

「なんだよ?」

 

裕斗はバルパーの方を向いて睨み付けた。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は嘗て貴様が参加した聖剣計画の唯一の生き残りだ。あの研究所から脱出した後に、僕は彼女に……赤龍女帝に命を救われた」

「あの計画の……。道理で先程から私の事をずっと睨み続けている筈だ」

 

分かってたのか…。

 

「まぁ……確かに紆余曲折があったりはしたが、最終的にはお前達のお陰で計画は無事に完遂することが出来た。鬼畜にも劣る実験体にもようやく価値が生まれたな」

「どういう意味だ…!お前達はあの時、確かに僕達を失敗作として処分しようとしたじゃないか!!」

「確かにその通りだ。だが、世の中にはこんな言葉もある。『失敗は成功の母』とな」

 

その言葉……まさか!?

 

「あれからも我々は研究に研究を重ね、あの『聖剣』を扱うには『因子』の存在が必須なのが判明した。実験体連中の中にも因子を所持している者はいたが…どいつもこいつもが聖剣を扱いきれるほどの力を有していなかった。だが……」

「塵も積もれば山となる……か?」

「そう!その通りだ!流石は赤龍女帝。聡明な頭脳だ!」

 

なんて事を考えつくんだ……コイツは!

 

「彼女が言った通り、因子が小さくとも、それをいくつも集積して一つにすれば、聖剣を扱うには充分なほどの数値に達する事が出来る。我等はそれを繰り返していき、徐々に聖剣を扱える人間を増やしていったのだよ」

『外道が……!』

 

エミヤが周囲を気にせずに毒づくが、私も激しく同感だった為、気にしないであげた。

 

「ま…まさか……聖剣使いが祝福を受ける際に体に入れられるのは……!」

「そう。複数の因子を一つに纏め、結晶体にしたものだ」

 

嬉しそうにしながら、バルパーは懐から怪しく光る球体を取り出した。

恐らく、あれが聖剣の因子とやらを結晶体にしたものだろう。

 

「お陰で私の研究は驚くほどに進んでいった。だが、教会に巣食う分からず屋共は私の事を異端者として排除した。自分達だって五十歩百歩だと言うのにな」

 

言葉から察するに、こいつも教会の『闇』を知っているようだな。

 

「バルパー……お前と言う男は何処まで人間の命を玩具にすれば気が済むんだ…!」

「さぁ?私が満足するまでじゃないのかな?ははははは!!」

 

バルパーは手に持っていた因子の結晶体を地面に投げ落とした。

 

「これも何かの縁だ。それはお前にくれてやろう。因みにその結晶体はお前の同期の連中から抜き取った代物だ。遠慮しなくてもいいぞ?今では材料とちゃんとした機器さえあればいくらでも量産は可能だしな」

 

結晶体はそのまま裕斗の足元まで転がっていった。

まるで、意思を持つかのように。

 

裕斗はその場に膝をつき、その結晶体を丁寧に拾い上げた。

 

彼の瞳から涙が流れ、結晶体に落ちた。

 

すると、その瞬間に結晶体から淡い光が発せられて、それは校庭全体を覆いつくすほどに拡大した。

 

光が広がり、裕斗の傍にいくつもの半透明な人影が見えた。

 

「そうか……あの子達が…」

『そのようだな……』

 

彼等は一様に何かを話そうとしている。

けど、その口から声は発せられない。

 

私は彼等の口の動きの注目して、それで言葉を読み取ろうとした。

 

「ジ・ブ・ン・タ・チ・ノ・コ・ト・ハ……」

 

自分達の事はもういいから、これからは自分の為に生きてくれ。

 

その言葉はちゃんと裕斗にも届いたようで、一気に彼の目から涙が溢れだした。

 

「僕は…僕は…いつも思っていた…。僕以上に夢を持った子がいた。僕以上に生きたいと願った子がいた。それなのに、僕だけがのうのうと生きていてよかったのかと……」

 

裕斗の積年の想いを聞いて、彼等は口元を緩めた。

 

そして、彼等の口が規則正しく動き出した。

 

「あれは……」

「聖歌……」

「歌っているの…?」

 

どうやらアーシアには分かったようで、それを聞いて私達も納得した。

 

彼等の歌に合わせて、裕斗も口を動かしている。

 

「多分…あの聖歌は彼等にとって、過酷な環境でも生きる力を失わない為の唯一の希望だったんだろう……」

『希望……か』

 

すると、彼等から光が発せられて、裕斗を優しく包み込んだ。

 

彼等は言っている。

 

自分達だけでは駄目だった。

 

けど、皆の力を合わせれば、

 

きっと、なんだって出来る。

 

だって、僕達はもう一人じゃない。

 

僕達は……

 

「一つだ……」

 

彼等の魂が一つに重なり大きな光になった後、裕斗の体を覆いつくした。

 

「この感じは……」

『ふっ……木場祐斗。遂に君も至った(・・・)ようだな』

 

そうか……これが……

 

「彼の禁手(バランス・ブレイク)…か」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 裕斗を禁手に導いた光。

それは未だに存在し続けて、また収束し始めた。

 

「こ…今度はなんだ?」

「皆は…一体何を……」

 

裕斗本人も分からないようで、目を見開いていた。

 

収束した光は人型になって、私の方を向いている。

 

段々と姿が鮮明になっていって…それは……

 

「ま…まさか……!?」

 

……シオの姿になった。

 

まるで、ノヴァを討伐する為に東奔西走していた時に何回も見た『白い少女』の様に…。

 

『りーだー』

「シオ……なのか……?」

『うん!シオだよ~!』

 

シオは私の方にやって来て、ドンッ!と抱き着いてきた。

 

『えへへ……。きちゃった』

「なんで…ここに……?」

 

シオは月にいる筈じゃ……。

 

『あのこたちにきょーりょくしてもらった』

 

シオが後ろを向くので、私も同じ方を向く。

そこには先程の彼等が立っていた。

 

『ここまでつれてきてくれて、ありがとね。ありがと~!』

 

彼等は嬉しそうに頷いた後、今度こそ本当にいなくなった。

 

「先輩……その子は……」

「私が……嘗て、救えなかった子だ……」

「え?」

 

涙が溢れるのを止められない。

 

私は涙を流しながら、シオに抱き着いた。

 

「ゴメン……ゴメンね……。私が弱かったせいで……君を救えなかった……守ってあげられなかった……」

 

シオも私の体に手を伸ばして抱きしめてくれた。

 

「もっと皆と遊びたかったよね……もっとお話したかったよね……」

 

私は……彼女に何もしてあげられなかった。

シオの事を絶対に護ると誓っておきながら、結局は何も出来なかった。

私は……無力だった。

 

『だいじょうぶ』

「シオ……?」

『シオね、リーダーにいろんなことをいっぱいおしえてもらった。ほんとうに…ほんとうに……ありがとね』

 

シオは私から離れて、魔法陣の方に向かった。

 

『シオは…リーダーに……ソーマに……みんなにすくってもらった。だから、おんがえし…するね?』

「シオ……何を……」

 

シオは先程までバルパーがいた魔法陣の中央まで歩いて行って、祈るようなポーズをした。

 

「あの小娘……何をする気だ?」

「いいではないか。余興として見てやろうではないか」

 

ここであいつ等の声を聴くと、全てが台無しに感じる。

 

そっと目を瞑り……シオは静かに歌いだした。

 

嘗てソーマと一緒に聴いたという……あの歌を…。

 

「綺麗な歌声……」

「まるで……神の讃美歌のようですわ……」

「涙が…止まりません……」

「こんなにも美しい歌が……この世にあるんですね……」

 

他の皆も泣いているようで、私もさっき以上に涙が流れていた。

 

歌と共にシオの体が眩しく光り出し、魔法陣の光を相殺していく。

 

「なっ!?」

「ば…バカな!?あの魔法陣が消えていくだと!?」

 

シオが歌い終わると、魔法陣は跡形もなく消えていた。

 

「シオ……お前は……」

『シオ、えらいか?』

「うん……凄く…偉いよ…」

 

シオは嬉しそうにしながらこっちにやって来て、私に微笑みかけてくれた。

 

「また……助けられたね……」

 

私は静かに彼女の頭を撫でた。

 

『奏者よ!エミヤよ!ドライグよ!何をしておる!!』

「ネ…ネロ?」

 

いきなりどうした?

 

『これ程の『愛』を!『優しさ』を!『祈り』を目の当たりにしながら、なんで何もしようとしない!?今こそ、この少女の想いに全力で応えるべきではないか!?』

 

そうだ……その通りだ……!

 

「エミヤ……ドライグ……!」

『皆まで言うな、相棒』

『私の…いや、俺の力の全てを君に託そう!俺が戦いの果てに得た極地。今こそ解き放て!!』

「ああ!!」

 

赤龍帝の籠手が深紅に輝き出す。

 

「この光は……!」

「お姉ちゃんも!?」

 

皆が驚く中、私は籠手を前方に突き出した。

 

【Welsh Dragon Archer Balahce Bleakr!!】

 

私の体が深紅の光に包まれる。

 

その光は一瞬で収束し、消えた後には格好が変わった私がいた。

 

嘗て記憶の中で見たエミヤ……アーチャーと同じ赤い外套を纏い、下には黒いインナーを着ているが、隠れているのは胸の部分のみでおへそは丸見えである。

そして、下半身は真っ黒なミニスカートを着ていて、中には同じく黒いホットパンツを着用。

太腿まで伸びた黒いロングブーツを履いていて、動きやすさ重視と言った感じ。

 

「これが……錬鉄の英雄と呼ばれたアーチャーさんの力を解放した姿……」

 

今までとは違い、実に良識的な格好だ。

これなら羞恥心に捉われる事も無い。

 

「ほぅ…?それが貴様の禁手か。面白い……」

 

魔法陣が消されたと言うのに、未だに余裕ぶっているコカビエル。

けど、今からすることで、そのニヤケ面を消してやるよ。

 

「これだけで終わると思ったら大間違いだ」

「なに?」

「アーチャー。早速であれだが、切り札を使うぞ」

『構わん。俺もアイツの顔は見飽きて来た所だ』

 

はい、本人の了解を得ました。

 

「ならば…遠慮なく行こうか!」

 

私は自分の胸に手を当てて、極限まで精神を集中させた。

 

「『I am the bone of sword.(体は剣で出来ている)』」

 

私とエミヤの声が重なり、『詠唱』が始まる。

 

「『Steel is my body.and fire is my blood.(血潮は鉄で 心は硝子)』」

 

私の周囲に何本かの『剣』が精製されていく。

 

「『I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を超えて不敗)』」

 

剣の数が増えていき、段々と『世界』が書き換えられていく。

 

「『Unknown to Death.(ただの一度も敗走はなく)』」

 

私の脳裏に『ある光景』が思い浮かべられていた。

 

「『Nor known to Life.(ただの一度も理解されない)』」

 

それは、無数の剣が乱立する荒野で一人佇む男の姿。

 

「『Have withstood pain to create many weapons(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う)』」

 

とても力強く、そして悲しい姿だった。

 

「『Yet.those hands will never hold anything(故に、生涯に意味はなく)』」

 

けど、その姿を私は……とても美しいと感じた。

 

「『So as l pray.unlimited blade works.(その体は、きっと剣で出来ていた)』」

 

詠唱が終わると同時に、文字通り『世界』が『書き換えられた』。

 

あっという間に周囲の風景が校庭から、無数の剣が地面に突き刺さっている荒野へと変貌した。

 

「な…なんだ!?これはっ!?」

「これはまさか……!」

 

バルパーは狼狽えているが、コカビエルはすぐに察したようだ。

 

「貴様……固有結界を発動させたのか!?」

「その通り。ここは嘗て、『世界』と契約し、その魂すらも世界の平和と正義の為に捧げた、一人の男の心象風景だ」

 

固有結界。

 

使用者の心象風景を具現化する魔術の奥義にして、禁忌の大魔術。

これは湯水のごとく魔力を消費する為、通常は五分もてばいい方だ。

だが、今の私はドライグの魔力を利用している為、一時間は余裕で展開可能だ。

 

「こ…これがアーチャーさんの切り札…!」

「世界そのものを変えてしまうなんて…」

「スケールが大きすぎますわ……」

 

エミヤの人生そのものと言っても過言じゃない力だからね。

これぐらいは当然だよ。

 

「裕斗。ここなら思う存分暴れても大丈夫だ。遠慮せず全力で行け!」

「はい!」

 

いい返事だ。

 

「ここにあるのは全てが偽物だ!だが、偽物が本物に敵わないと言う道理は何処にもない!」

 

私は今も猶、空中でふんぞり返っているコカビエルに叫んだ。

 

「時は来た!お前の運命の没する時だ!!」

「面白い!面白いぞ!赤龍女帝!!こうでなくては俺がここまで来た意味が無い!!」

 

コカビエルは楽しそうに地面に降りてきた。

その顔は今まで以上に笑っていて、心から闘争を…戦争を楽しもうとしているのを感じた。

 

私はコカビエルを、裕斗はフリードを見続けている。

 

こうして、戦いは終局に向けて走り出した。

 

そんな中、無数の剣の中で一本だけ、黄金に光り輝く剣があったのを、その時の私は見落としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




無限の剣製の詠唱の部分が大変だったよぉ~!

あれを易々とやっている皆さんって本当に凄いですね…。

マジで尊敬しちゃいます。

さて、ここで無限の剣製が来たら、次は……?

では、次回。

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