もしかしたら、風邪を引きかけているのかもしれません。
季節の変わり目故に、体調を崩しやすくなっているのかもしれません。
皆さんも気を付けてくださいね。
『…と言う訳だから、偏食因子の投与については何も心配はないよ』
「分かった…!」
私は、一階に設置されているトレーニングルーム(私が勝手に言っているだけで、実際にはルームと言う程の広さは無い)で筋トレ(指立て伏せ)をしていた。
傍には、スマホをスピーカーモードにしてから、足長おじさんと会話していた。
『他にも何か聞きたいことがあったら、いつでも連絡してきていいからね』
「了…解…した…!」
通話が切れて、私はトレーニングに集中する。
「8071…8072…8073…」
目標は一万回。
神機使いとなった以上、これぐらいは出来なくては。
今の格好は、白のタンクトップにパンツのみ。
汗を掻くことを前提とした格好の為、多少は露出が多くても気にしない。
って言うか、私一人しかいない家で遠慮なんてする必要は無いだろう。
『おい…相棒?』
「な…に…?」
『色々と言いたいことがあるんだが…』
「言い…たい…こと…?」
この状況で言いますか。
『別に訓練をするなとは言わん。寧ろ、そう言った姿勢は非常に好感が持てる』
「そ…う…」
なら、一体何なのさ?
『だがな、その恰好はどうかと思うぞ?』
「どう…して…?」
『お前は年頃の女だろう。せめてもうちょっと露出を控えめにしてだな…』
「汗で…べたついて…集中…出来…ない…!」
どっちみち汗を掻くんなら、薄着でしたうえで洗濯物は少ない方がいいだろう。
これも一種の生活の知恵なのだよ、ドライグ君。
『それに、腕立て伏せならともかく、指立て伏せってどうなんだ?いくらなんでもちょっとハードなんじゃないか?』
「普通の…腕立て…伏せ…では…意味が…無い…!」
『いや!充分すぎるほどに意味あるだろ!』
何言ってるのさ。
こちとら、普通じゃない連中と戦うんだぞ?
だったら、こっちも普通じゃない筋トレをしなきゃ駄目でしょ。
丁度、今日はアラガミが出現しないって足長おじさんも言ってたし。
今日は一日、筋トレに費やすぞ!
あ、後でランニングついでに夕飯の買い物に行かなくちゃ。
ホント、一人暮らしは大変だ。
もう慣れたけど。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
日本にある、とある町にある、とある神社。
夕闇に包まれつつある神社にて、一組の親子が危機に陥っていた。
着物を着た母親が、自分の娘を庇うように抱きかかえている。
二人の周囲には、黒いスーツを着た男達の死体が散乱していた。
死体の背中には黒い翼が生えており、彼等が人外…堕天使であることが分かる。
実は、この堕天使達は親子の命を狙ってここにやって来たのだ。
何故、彼女達が襲われるのか。
実は彼女はとある堕天使と恋に落ち、その堕天使との子供を産んだのだ。
堕天使達は、その無駄に高いプライド故にそれがどうしても許せず、こうして堕天使と人間のハーフである娘の抹殺に来たのだ。
事実、先程まで親子は絶体絶命の危機に陥っていたが、それはとあるイレギュラーの出現にて覆される。
地面から突然、石畳を貫いて出現したミノムシのような謎の怪物…コクーンメイデン。
コクーンメイデンは5体の群れで出現し、現れたと同時に堕天使達に攻撃を仕掛けた。
謎の存在に完全に虚を突かれた堕天使達の一人は、次の瞬間にはコクーンメイデンの身体から生えた無数の針にて串刺しにされ、一瞬で殺されてしまった。
それによって我に返った堕天使達は、一斉にコクーンメイデン達に攻撃を仕掛けるが、堕天使の総督であるアザゼルでさえまともにダメージを与えられなかったのだ。
実力的に相当に劣る彼らの攻撃が通用するわけがない。
彼等の放つ光の槍は、コクーンメイデンに傷一つつけられず、逆にコクーンメイデンの頭部から放たれる追尾型のレーザーの反撃を受け返り討ちに遭ってしまう。
コクーンメイデンがその場から動けないことを見破った堕天使達は、空中に退避するが、追尾するレーザーからは逃げる事は出来ず、結局はレーザーに貫かれて、全滅してしまう。
堕天使達を皆殺しにしたコクーンメイデン達は、次は親子に標的を変える。
二人の命の危機は、全く去ってはいなかった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「な…何なの…一体…!」
いきなりの出来事に、理解が追い付かない着物の女性…姫島朱璃。
あっという間に堕天使達を葬ったコクーンメイデンの群れを見て、一瞬で次は自分達であると悟る。
彼女は、腕の中にいる最愛の娘…朱乃を先程以上に抱きしめる。
「お母さん…!」
「大丈夫よ…朱乃は私が守るから…!」
脅えながらも、その目には母親としての確たる覚悟があった。
己の命を犠牲にしてでも、娘を護ると言う覚悟が。
コクーンメイデンの一体の頭部が展開し、レーザーの発射体勢に入る。
「せめて…この子だけは…!」
本能的にギュッと目を瞑り、死の恐怖に耐えようとする。
だが、その覚悟は予想外の形で無駄になった。
いきなり、上空から一筋のレーザーが降って来て、今まさに攻撃をしようとしたコクーンメイデンを貫き、破壊したのだ。
「これ…は…?」
未だに自分の命がある事を信じられない朱璃は、呆けたように目を見開く。
すると、彼女の目の前に、赤い腕輪を右手に填めて、その左手には深紅の籠手を装着した赤い大きな武器を携えた少女が降り立った。
「なんとか…」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
数日振りにアラガミが出現したと言うので、いつものようにドライグと出撃すると、私達はある場所に放り出された。
「はぁ…。ドライグ」
『なんだ?』
「問題。この状況で一言」
『もう絶対に、お前とは一緒に空を飛ばない』
「一本」
そう、最初にドライグと出会った時のように、また私は上空のド真ん中に降ろされたのだ。
因みに、今回の格好はジェネラルアーミーの上下セット。
スカートだけど、下にもちゃんとズボンを穿いてるから大丈夫…だよね?
「まさか…人生で二度もパラシュート無しのスカイダイビングを経験するとはな…」
『俺は別に空自体は普通だが、何の抵抗もなく落下すると言うのも、存外悪くはないな』
「ドラゴンのセリフじゃない…」
自由落下を楽しむドラゴンなんて初めて聞いたわ。
ホント…ドライグと一緒にいると、色んな意味で私の中のドラゴンに対する印象が変わっていくよ。
『しかし相棒よ。そんな事を言う割には、お前の方も意外と平気そうに見えるが?』
「うん。なんか知らないけど、大丈夫」
いやね?
別にこの変化が嫌な訳じゃないよ?
寧ろ、長年の悩みだった高所恐怖症が克服出来たことが普通に嬉しいぐらいだし。
けど…
「これは…克服と言うんだろうか…?」
なんか違うような気がする…。
別に気にしないけど。
そんな事を考えながら、呑気にスカイダイビング(笑)を楽しんでいると、下の状況が段々と見えてきた。
「あ…。なんかいる」
『あれは…堕天使だな。何をやっている?』
なんか…空に飛んで逃げ回っているように見えるけど。
一体、何から逃げてるんだ?
「あれは…」
『レーザー…か?』
追尾型のレーザー…。
と、言う事は……
『相棒!あの地面から突き出ているのは…』
「コクーンメイデン…」
その場から全く動けない代わりに、高い射撃能力と近接戦闘用の針をその体の中に無数に持っている小型アラガミ。
私的には雑魚に違いないのだが、それはあくまでも私達神機使いの話。
アラガミに対する対抗手段を持たない連中にとっては、あんな奴でも大きな脅威になる。
『…やるか?』
「そうしたいのは山々だけど…」
ここからでは、一番射程が長いスナイパーでも届かない。
もう少し近づく…もとい、落下しなくては攻撃出来ない。
「だが、準備はしておくに越したことは無いだろう」
『ならば…?』
「ドライグ、銃身をスナイパーに変更」
【Sniper!】
いつものように、ドライグの音声と共に、神機の銃身がショットガンのカストルポルクスから、スナイパーのオヴェリスクに換装された。
同時に、神機を銃形態に変形、いつでも撃てるように構えた。
『相棒。最後の堕天使が倒されたぞ』
「そう…」
間に合わなかったか…。
けど、不思議と悲壮感は無い。
寧ろ、仕方が無いとさえ思っている自分がいる。
なんか…精神状態が外道になってませんか?
『ふん…。堕天使風情がアラガミに敵うわけが無かろうて』
「ドライグ」
『事実だろう?』
そうだけど…死者に対してそれは無いと思うよ?
心の中で呟くと、スナイパーの射程距離に入った。
『どうやら、次はあの親子に狙いを定めたようだぞ。恐らく、あの堕天使達はアイツ等を始末するために来たんだろう』
はぁ…そんな事を聞いちゃうと、死んだ堕天使達に哀悼の意を示せなくなっちゃうじゃん。
『コクーンメイデンの一体が攻撃態勢に入ったぞ』
「分かってる…!」
くそ…!急加速で急降下しているせいか、狙いが定めにくい…!
こうなったら…!
「これで…!」
私は腕力で無理矢理銃身を動かし、狙いを合わせた。
「よし…!」
標準は合わせた…!
これなら…
「……いけっ!」
命中すると確信した瞬間、一気に引き金を引く。
銃口から一筋のレーザーが放たれる。
それは真っ直ぐに伸びていき、攻撃直前のコクーンメイデンを貫いた。
「よし…!」
ぶっちゃけ、この風の中で当たるかどうかは微妙だったけど、当たってよかった。
後は…
「ドライグ」
『任せろ』
ドライグは私の意を呼んでくれたのか、私の足元に赤い魔法陣を展開した。
私はその魔法陣を蹴って、落下位置を少しだけ前に変えた。
目標は、コクーンメイデンの群れの中央だ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
少々無理矢理な感じで進路変更したおかげで、狙い通りの場所へと降りることが出来た。
あの親子は無事だった。
せめて、この人達だけでも救いたい。
残りのコクーンメイデンは4体。
これぐらいなら、どうにでもなる。
「あ…貴女は一体…?」
あ、滅茶苦茶驚いてる。
無理もないか。
いきなり空から人間(笑)が落ちてきたんだから。
誰だって同じようなリアクションをするわな。
本当は今すぐにでも逃げて欲しいけど、なんか腰が抜けちゃってる上に、下手に動かれるとこいつらのヘイト値を集める可能性が高い。
今は私がいるお陰で、コクーンメイデンのターゲットは私に集中しているが、いつ変わるか分かったもんじゃない。
だから、速やかにこいつらを始末しよう。
「そこから出来るだけ動かないで。そして、可能ならば目と耳を塞いでいた方がいい」
「え…え…?」
「早く」
「わ…分かったわ…」
私の忠告を聞き入れてくれた母親らしき人は、娘さんを抱えながら自分の目と耳を手で塞ぐ。
娘さんの方は……
「怖くない…怖くない…!」
既にどっちも塞いでいるか。
ま、子供なら当然かもな。
出来れば、攻撃の音とかは聞かせたくないからね。
かなりグロテスクだし。
「ドライグ。一気に片付ける。ヴァリアントサイズに」
【SCYTHE!】
さっきと同じように、ドライグの音声と同時に近接武器がロングブレードのディテクターからヴァリアントサイズのプラキディアに変更された。
そして、神機を銃形態から近接形態へと変形させる。
長いポール型の持ち手を思いっきり握りしめる。
「咬刃展開」
ヴァリアントサイズの根元から、黒い刃が付いた部分が伸びる。
腰を低くして、全力で腰を捻る。
「切り裂く…!」
私はその場で素早く一回転し、周囲にいるコクーンメイデンを全て真一文字に切り裂いた!
元の位置に戻ってきた瞬間、一斉にコクーンメイデン達の胴体が真っ二つになって、血飛沫が上がる。
刃を元に戻し、神機を肩に担ぐ。
「状況終了…」
なんか…こいつ等を片付けるよりも、空中にいた時間の方が長かったような気がするよ…。
やっぱり、ヴァリアントサイズにしたのが正解だったな。
「もう…大丈夫」
「ほ…ホント?」
「ああ」
私は親子に話しかけて、もう大丈夫な事を知らせる。
アフターケアはちゃんとしないとね。
「す…凄い…。全部倒されてる…」
「お母さん……、あのお姉ちゃんは…誰…?」
「あの人は…」
なんか、考えるような仕草をする女性。
どうしたのかな?
やっぱり、怪しく見えちゃったかな?
「このお姉ちゃんが、怖いものをやっつけてくれたのよ」
「え…?」
女性が目の前のコクーンメイデンの死骸を指差す。
って、そんな事をして大丈夫……
「あ…本当だ…」
慌てて後ろを振り向くと、コクーンメイデンの死骸は霧散していく途中で、あんまりグロさは無かった。
よかった…あの女の子のトラウマとかになったらどうしようかと思ったよ。
「お姉ちゃん…ありがとう…」
女の子は、控えめにお礼を言ってきた。
まだ、さっきの恐怖から完全に抜け出せていないんだろう。
ま、ゆっくりでいいさ。
慌てる必要はどこにも無い。
色んな意味で安心していると、女の子の方からキュウ…と言う音が聞こえた。
「あ……」
顔が真っ赤になってる。
きっと、恐怖から解放されて一気にお腹が減ってしまったんだろう。
こういう時は…えっと……確かポケットの中に何か入ってた気が…
「…あった」
見つかった、見つかった。
非常食のレーション(メイプルシロップ味)。
これをあの子にあげよう。
「これを…」
「…くれるの?」
「うん」
私は座り込んで、女の子の視線に合わせた状態でレーションをあげた。
「いいの?」
「家に帰れば、いくつでもある」
主に、段ボールの中とかにね。
まだまだ、色んな味がありますぜ?
「ありがと…お姉ちゃん…」
女の子は袋を開けて、レーションを口に入れた。
「美味しい…」
「よかった」
プリン味は不味いけど、このメイプルシロップ味は結構美味いんだよね。
私も大好きだ。
「おーい!朱璃ー!朱乃ー!」
「あなた!」
「お父さん!」
後ろの空からお髭のおじさまが飛んできた。
黒い羽って事は、あの人も堕天使か。
そう言えば、さっき『あなた』とか『お父さん』とかって言ってなかった?
女の人と女の子が堕天使のおじさまに向かって走って行く。
「大丈夫か!?馬鹿な連中がここを襲撃したうえに、例の攻撃の効かない化け物共が出現した聞いて急いで駆けつけたんだが…!」
「大丈夫よ、あなた。堕天使達は怪物に倒されたし、その怪物達は彼女が退治してくれたわ」
「彼女…?」
おじさまが怪訝な顔で私の身体を全体的に見る。
すると、その目が驚いたように見開いた。
「お…お前は…いや、貴女様は…!」
あ…貴女様?
「その赤い腕輪…赤龍帝の証である深紅の籠手。そして、身の丈程にもなる巨大な武器…。間違いない…異形の怪物共を狩る、伝説の戦士!ゴッドイーター!!」
「えっ!?この子があなたがいつも言っていた、神出鬼没の謎の女戦士!?」
「お姉ちゃん…すごい…」
女性は驚きを隠せない様子だし、女の子に至っては私の事を、まるでヒーローでも見るかのように目をキラキラさせている。
やめて!そんな視線で見ないで!
凄く恥かしいから!
そんな私の願いが通じたのか、足元にいつもの魔法陣が現れて、帰宅の時間がやって来た。
「行かれるのですね…」
「ああ」
「心から感謝致します。妻と娘を救ってくれて、本当にありがとう」
「うん」
真っ直ぐに感謝されるのは、なんか慣れないな…。
「ま…待って!」
ん?どうしたのかな?
「私は姫島朱璃!この子は朱乃!貴女の名前を教えて!」
「私は……」
今度こそ名前が言えると思い、口を開こうとすると、実に絶妙なタイミングで私の身体は転移した。
ああ…また言えなかった。
一応、戸籍上はアバターの名前を登録してるから、それを言おうと思ってたのに…。
ま、人助けが出来ただけでも良しとしますか。
後悔だけは…したくは無いからね…。
と、言う訳で、今回は朱乃との初めての出会いの話でした。
出番は少なかったですが…。
リアス、朱乃と来たら、次に主人公が助けるのは…?
では、次回。