お陰で、話を考えるのも一苦労です。
家に帰り、私は今日あった出来事…教会から来た二人組とコカビエルの事を話した。
皆で夕食と食べながら、私は話を進めていく。
「あの方が…ねぇ…」
「レイナーレ、知ってるの?」
「名前ぐらいはね。私みたいな下っ端堕天使なんかじゃ、幹部に会う事すらできないわよ」
堕天使達も上下関係が大変なんだなぁ…。
「でも、噂ぐらいなら聞いたことがあるわ」
「どんな噂にゃ?」
「すっごい戦争好きの戦闘狂だって。あの大戦の時は一番張り切っていたらしいわ」
「そんな危険思想の奴がこの町にいるんですか…」
レイナーレの話を聞いて、私は一段階、警戒心を上げた。
「しかも、聖剣『擬きだ』…を盗むなんてね…」
レイナーレの言葉にギルが割り込んだ。
結構、気にしてるのね。
「けど、今日の貴方の話は目から鱗だったわ」
「冷静に考えれば、聖剣が壊れるとか有り得ないですもんね」
そう簡単に破壊されちゃ、聖剣の名が廃るでしょ。
「でも、ギルの言う事、正しい」
「そうだな。私も聖剣が破壊されたなんて聞いたことが無い」
「偽の聖剣を作った奴は、よっぽど聖剣が好きだったんだろうな」
「聖剣マニア…ね」
困った奴がいたもんだ。
「そう言えば、今日部室を訪れたお二人は、何処で寝泊まりをしてるんでしょうか?」
「ホテルじゃないか?」
「そこら辺は流石に教会側で手配とかしてるでしょ」
「まさか、以前私達が根城にしていた壊れた教会を使ってる……訳は無いか」
「それは幾らなんでもあり得ないにゃ~」
「そうですよ。あそこはマユさんとアラガミとの戦いで、完全に廃墟になってますから」
天井とかぶっ壊れてるからねぇ~。
今頃はきっと、野生動物の巣になっているだろう。
「いい加減にあそこもなんとかしないとね。あのままじゃ、何も知らない人か近づいて、怪我とかするかもしれないわ」
「具体的にはどうする気だ?」
「まずは完全に解体するべきでしょうね。その後で、また新しい教会を建設するか、別の施設を建てるかはお兄様に相談しなきゃいけないけど…」
土地の管理者も大変だな。
手伝えることがあれば、いつでも手を貸すんだけど…。
(こればっかりは…なぁ…)
私に出来るのは戦う事だけ。
管理者としてのスキルは全然無い。
「分かっているとは思うけど、事件が一段落するまでは、外出の際は必要以上に警戒をしていてほしい」
私が真剣な表情で言うと、皆は同時に頷いた。
その後は、何気ない会話をしながら食事を続けた。
話をしながらも、私は頭の片隅で裕斗の事を考えていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
次の日の休日。
今日は丁度いいことに土曜日だったので、朝食を食べ終えてから外に出てみる事にした。
白音も一緒についてくると言って来たので、共に街を一通り練り歩いてみた。
白音は妙に嬉しそうだったが。
リアスは朝から用事があるとかで、どこかに出かけてしまった。
多分、悪魔としての用事だろう。
念の為、他の皆はお留守番。
因みに、今日の私の格好は、白音の強いリクエストによって、なんでか『ナイトメア・ゴシック』の上下セットだ。
確かに半袖だが、私みたいな大女にはゴスロリは似合わないだろう。
ぶっちゃけ、すげー恥ずかしい。
でも、なんでか皆からは絶賛だった。
そうやって町の様子を見ながら散策していると、ファミレスの近くであの二人を見つけた。
まるでホームレスのように地面に座り込んでいて、道行く人たちが少し離れながら一瞥していく。
「はぁ…お腹が空いたな…」
「言わないでよ…余計に空腹になるじゃない…」
何をしてるんだ…あの二人は…。
「まさか、例の教会が廃墟になっているとはな…」
「あれじゃあ雨風すらもしのげないじゃない…」
昨日レイナーレが言っていたことが現実になってた。
自分達が泊まる予定の場所ぐらい調査しようよ…。
「……不憫ですね…」
「だな……」
知り合いがホームレス擬きになっているのを見て、放置出来るほど私は非情じゃない。
っていうか、下手にあの状態で話しかけられたら、こっちが恥をかく。
だったら、こっちから密かに接触した方がいい。
「……何をしている」
「「あ!」」
大声を上げないでよ。
「色々と言いたい事はあるが…一先ずは…」
「ファミレスに行きましょう」
まずは、ゼノヴィアとイリナのお腹の虫をなんとかする事にした。
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・・・・
・・・
・・
・
「う…美味い!これが日本の食事なのか!」
「あ!ウェイトレスさん!これもお願い!」
凄い勢いで目の前に置かれた食事が二人の胃の中へと消えていく。
この二人もフードファイターなのか?
私と白音は静かにジュースを飲みながら、ゼノヴィア達の食事を見ていた。
「感謝するぞ!赤龍女帝殿!やはり貴女は救世主だ!」
「ホントね!またまた借りが出来ちゃったわね!」
「そう思うなら、まずは名前で呼んでくれ」
「そうだな!ありがとう!マユ殿!」
『殿』は取らないのね…。
暫くして、ようやく満足したのか、二人は箸を置いて自分のお腹をさすった。
「食べた食べた…」
「満足だわ…」
そんだけ食えばね。
食後のコーヒーを飲みながら、二人がこっちを向いた。
「で?なんであんな場所にいたんだ?」
「それはこっちのセリフなんだがな…」
ま、代々の事情はさっきの会話で分かったけど。
「回りくどい言い方は嫌いだから、結論だけを言う。…私にも君達の任務を手伝わせてくれ」
「そんな事だろうと思ってました」
あれ?ばれてた?
「ふむ……」
ゼノヴィアが顎に手を当てて考える仕草をする。
「…まさか、そちらからそんな事を言いだすとはな」
「…なんだと?」
そちらから…とな?
「実は、昨日は言うのを忘れていたんだが、可能であれば赤龍女帝の助力を得てから事に当たれと言われていたんだ」
なんと…!
彼女達がたった二人で来たのは、それが最大の理由か…!
仮に戦力が二人しかいなくても、私が協力すればなんとかなるって思ったのか…。
どうやら、彼女達にとっての『切り札』とは私の事だったようだ。
「今だから言うが、正直言って私達二人だけじゃコカビエルはおろか盗難に遭った三本の剣を一本も取り戻せないと思っている」
「元々のスペックが違い過ぎるもの。幾ら特殊な剣を持っていても、それだけじゃ戦力差が埋まるわけじゃない」
昨日の話を聞いて『聖剣』じゃなくて『剣』って呼ぶようにしたのか。
まぁ、そうした方がエミヤやギルの逆鱗に触れないで済むから、こっちとしても助かるけど。
「だが、貴女が協力してくれたら話は別だ」
「伝説に謳われる最強の赤龍女帝。これ以上に心強い存在は無いわ」
教会の連中は私の事をそこまで過大評価してるのか…。
改めて聞くと凄いな…。
「それに、貴女は悪魔じゃない。なら、昨日の協定にも触れないだろう」
そこまで考えていたか。
「なら、私も手伝います」
「貴女も?」
「はい。私は悪魔じゃなくて妖怪です。問題は無い筈です」
そう言うと、白音は一瞬だけ猫耳を出して引っ込めた。
「そうか……君は日本の妖怪の『ネコマタ』か」
「いいんじゃないかしら?地の利は向こうにあるんだし」
「そうだな。人員は少しでも多い方がいい」
「任せてください。こう見えても、人口神器を三つも持ってますから」
「それは心強いな…」
「それなら戦力としても数えられるわね」
実際、白音はこの短期間でメキメキと実力をつけてきている。
もしも神機使いだったら、かなりの実力者になっているだろう。
「ならば、もうちょっとだけ人手を増やしてもいいか?」
「誰ですか?」
「見れば分かるさ」
白音の頭を撫でながら、私はスマホで『彼等』に連絡を取った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
電話をしてから十数分。
その人物達はやって来た。
「…そう言う事なら…」
来たのは裕斗と匙君。
裕斗は当事者だから、匙君は別の理由で来てもらった。
二人が来てから、さっきまでの話を伝えたら、少し考えた後に裕斗は頷いてくれた。
「複雑な心境でありますが、先輩の御好意を無駄にはしたくはありませんしね」
「そう言ってくれると思った」
なんか、善意に付け込んだ気がしないまでも無いが、今はそんな事を言っている場合じゃない。
「ところで、君達は『その剣』を持っているという事は、当時の関係者の事も知っているのかい?」
「直接は知らないが、こちらに来る際に教えて貰ったよ」
「そうか……」
ま、この二人だってそこまで知らされてないだろうね。
上だって情報漏洩は避けたいだろうし。
「当時の『計画』の責任者にして、処分の命令を言い渡した人物…そいつの名前は『バルパー・ガリレイ』。今では堕天使側…正確にはコカビエル側に寝返って異端の烙印を押されている」
「バルパー・ガリレイ…!そいつこそが…僕が真に討つべき相手…!」
復讐相手をハッキリと認識した裕斗は、拳を握りしめて歯を食いしばっていた。
「実は僕も一人、コカビエルの協力者を知っているよ」
「それは誰だ?」
「フリード・セルゼン」
「それは…!」
「あの時…教会でマユさんに斬りかかってきた神父…」
あの全身真っ白男か…。
「会ったのは球技大会の後で、どうやらこの町で邪魔な神父を殺していたようです」
「あの男は…!」
まだそんな事をしてたのか…!
「しかも、奴はその時に奪われた筈の聖剣擬きを所持していた」
「なんだって?」
アイツが聖剣を…ね。
似合わねぇ~!
「私達も噂ぐらいなら聞いたことがある。剣士としての実力は天才的だったが、性格が余りにも酷過ぎた為、数回の任務の後にすぐさま異端者となったらしい」
「その時の光景が速攻で浮かびます」
サイコパスって怖いなぁ~。
「でも、いくら擬きとは言え、聖剣って誰にでも使えるものなんですか?」
「いえ、そんな事は無いわ。使用が出来るのは一部の素養を持った人間に限られるわ」
「ならば、フリードは素質を持っていた?」
「いや、そんな話は聞いたことは無いな」
そうなると……。
「必然的に、誰かが後天的に彼に素質を埋め込んだって事になるな」
「十中八九バルパーだろうな。情報では、聖剣計画の資料を全て持ち去ったと聞いているから、それぐらいは可能だろう」
偽物とは言え、ちょっと厄介かもな…。
「あの~…さっきからずっと空気な俺なんですけど、なんでここに呼ばれたんですか?話を聞く限りでは、明らかに俺ってば部外者なんじゃ…」
「君を呼んだのにはちゃんとした理由がある」
「なんですか?」
「今回の事件はリアスだけではなくソーナの耳にも入っている筈だ。出来れば直接会って情報交換したいところだが、余程忙しいのか連絡が取りずらい。だから、彼女の眷属である匙君に来て貰って、話を聞いて貰おうと思ったわけだ」
「匙先輩は生徒会の書記ですもんね。適任じゃないんですか?」
役職上、こういった事は得意だろうと思って呼んだんだが…。
「迷惑だったか?」
「い…いえ!そんな事なら喜んで手伝いますよ!」
「そうか…よかった」
なんか顔が赤いけど、そんなに外は暑かったかな?
取り敢えず、匙君にも今回の簡単なあらましを教えた。
「マジっすか…!そんな大物がこの町に…!」
「ああ。多分、近日中にでもソーナからも聞かされるだろうが、知っておいて損は無いからな」
情報の共有は大事だ。
これが出来る事と出来ないとでは大違いだ。
「にしても、噂の聖剣がパチもんだったとはねぇ~…。コカビエルの件と同じぐらいに驚いたっスよ」
「それは私達も同じよ」
「だが、だからと言って任務を放棄していい理由にはならない」
「そうね。特殊な力を持っている剣である事には違いないんだし」
「それが悪用される事だけは、絶対に避けなくては…」
偽物とは言え、聖剣の名を冠する剣が悪用されたと知ったら、草葉の陰でアーサー王が悲しむよ。
「分かりました。俺の方から会長には伝えておきます」
「頼む」
「うっす」
力強く頷く匙君。
なんとも頼もしい限りだ。
「やっぱり匙君は…」
「ん?どうした?」
「いや…なんでもないよ」
なんで裕斗はライバルに向けるような目で匙君を見る?
「取り敢えずの話は終わったな。では、解散しようか」
「「「はい」」」
私の声に従うようにして、皆が立ち上がる。
因みに、食事代は私が全部支払った。
偶には先輩らしいことをしないとね。
教会組の二人は凄くバツが悪そうにしていたけど。
ファミレスから出て、それぞれに分かれようとしたが、そこで気になったことがあったので二人を引き留めた。
「ちょっと待ってくれ。二人は今夜、どこで寝泊まりをする気だ?」
「「そ…それは…」」
「まさか…」
また、あの教会と言う名の廃墟に戻る気じゃあるまいな?
「はぁ……仕方がない。二人共、ついて来てくれ」
「「?」」
私はゼノヴィアとイリナを連れて、付近にあったカプセルホテルに向かった。
白音達も一緒について来たけど。
受付で私は二人が数日間程泊まれるぐらいの料金を支払った。
「これでよしっと。これで少なくともホームレスのような真似はしなくて済むだろう」
「あ…貴女は女神か…!?」
「なんて慈悲深いの…!伝説の英雄は伊達じゃないのね…」
そこ、お願いだから、私の事を崇めないで。
私は神仏じゃありません。
寧ろ、それらを狩る側の人間ですから。
「いいんスか?こんなにも払っちゃって…」
「大丈夫だ。問題無い」
実は、リアスが一緒に住むようになってから月500万だった入金が、倍の1000万になったのだ。
これぐらいは余裕余裕。
「これで屋根のある場所で寝られる…」
「やっと心から熟睡出来るわね…」
「こいつ等…今までどんな生活をしてたんだよ…」
こらこら、呆れた目で見ない。
彼女達にも色々と事情があるんだよ。
「では、ここらで」
「何から何まで、本当にありがとう!このご恩は一生忘れない!」
「この事は絶対に後世まで伝えるわ!」
「そこまでしなくていい」
気持ちは解るが、大げさすぎるわ!!
「やっぱ…先輩ってスゲーわ…」
この日から匙君の私を見る目が変わった。
なんか、会う度に気持ちのいい挨拶をしてくるのだ。
彼の中で私に対する好感度でも上がったかな?
マユは皆のお姉ちゃん(確定)
もう完全に世話焼きなお姉ちゃんキャラになりつつありますね。
そして、匙フラグが建った?
では、次回。