正直言って、我が目を疑いました。
こ…これは、期待をされているのか…?
ゔ…胃が……。
第1話 赤い龍と魔王
遠い昔、天使と悪魔、堕天使の三大勢力は、果ての無い戦いを続けていた。
悠久の昔から続いている戦いの発端はなんだったのか。
それを記憶している存在は、最早いない。
唯一つ確かなのは、このままの状況が継続したならば、犠牲者は増える一方で、確実に三者とも絶滅を免れないと言う事実だけだった。
そんな中、三大勢力の戦争にある転機が訪れた。
戦場に突然、赤い龍と白い龍が乱入し、互いに戦いを始めてしまったのだ。
その強大さから、二天龍と呼ばれた二匹の龍……ドライグとアルビオン。
二匹の戦いの余波は、それぞれの勢力に甚大な被害を与えた。
流石にこの状況を静観出来るほど、三大勢力も愚かではなかった。
彼らはすぐさま、即席の停戦協定を結んで、二天龍を食い止めるために行動を開始した。
だが、そんな彼らの決意は、本来なら居ない筈の第4の勢力の出現によって覆される。
突如として戦場に出現した謎の存在。
三大勢力の戦士達だけのみならず、二天龍にも無差別に襲い掛かる異形の怪物。
これによって、彼らの戦場は未だ嘗て無いほどに混乱していくのであった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「くそっ!本当に何なんだよ!?」
攻撃を仕掛けながら、堕天使の総督であるアザゼルは悪態をつく。
彼の放つ光の槍は、眼前にいる異形……ザイゴートに命中するが、全く効いていなかった。
それもその筈。
細胞結合が非常に強固なアラガミに、通常の攻撃が効くはずがない。
それは、例え人外の攻撃であっても例外では無かった。
反撃と言わんばかりに、アザゼルに向かって空気の弾を放つザイゴート。
それを避けて、少し距離をとるアザゼル。
「そっちはどうだ?サーゼクス」
「駄目だ…!最初はなんとか倒せたが、二回目以降は何故か僕の『滅びの魔力』も通用しなくなってしまった…」
全てを文字通り消滅させる『滅びの魔力』。
だが、アラガミ達はそれすらも学習し、それに対する耐性を付けてしまった。
もう…彼の力は通用しない。
「ミカエル…そちらは?」
「こちらも被害が甚大です…!しかも……」
黄金の翼を背に持つ大天使『ミカエル』。
彼の背後には、二天龍の一角である赤龍帝『ドライグ』がいた。
ドライグは、その龍爪の一振りで天使達を一掃し、そのテイルアタックで大地を吹き飛ばした。
「畜生…!『前門の虎、後門の狼』とはよく言ったもんだぜ…!」
「全くだね…!」
苦い顔で冷や汗を掻くサーゼクス。
その顔には焦燥が浮かんでおり、内心で焦っているのを感じさせた。
複数存在ししているザイゴート達は、彼らを包囲して、攻撃態勢に入ろうとする。
その時だった。
「着地成功」
全身黒ずくめの、歪な形の剣を持った少女が、あろうことかドライグの頭の上に降り立ったのだ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
魔法陣に入った直後、私はいつの間にか何故か空の上にいた。
現在絶賛落下中。
風でちょー髪が逆立ってます。
そんな中、相変わらず冷静な頭で、色んな事が気になっていた。
まず一つ。
「空……紫だ」
どう考えても普通じゃない。
一体ここはどこやねん。
そして…
「いつの間にか靴…履いてる」
下らないとか言わない。
私的には気になってるんだから。
魔法陣に入ったのは室内。
勿論、靴なんて履いてない。
なのに、気が付けば私の足には靴が装着されていた。
ヒールが高い黒い靴。
なんとも女性的だ。
細かい所にも気を使う。
何気に私の中で足長おじさんに対する好感度が上がった。
最後に、私にとって一番重要な事。それは…
「全然…怖くない……」
そう。
実は私、超がつくほどの高所恐怖症なのだ。
脚立に乗っただけでも足が震えるほどで、こんな状況は、いつもの私なら顔から涙と鼻水、涎を全部出して喚き散らす筈なのだ。
なのに、今の私は全然恐怖心を感じない。
不思議なぐらいに無表情だ。
呑気にそんな事を考えていると、段々と地表が見えてきた。
見えたのは、宙に浮いている人型の何か。
背中に色んな羽が生えている事から、どうやら人間では無い様だ。
って……それに対して何か言うことは無いのか?私……
その近くには白と赤の大きな龍?…みたいな奴がいた。
あれ…龍だよね?
なんか大暴れしてるけど。
そして、その周囲には見た事のあるような姿が見えた。
あれは……
「ザイゴート…」
神機使いにはお馴染みの、序盤の雑魚キャラだ。
けど、腐ってもアラガミ。
通常戦力では到底太刀打ち出来ない。
見た感じ、あの人達は苦戦しているみたいだ。
このままじゃヤバいかもしれない。
内心ちょっとだけ焦っていると、いきなり突風が吹いた。
「あ」
その影響で、私の身体は大きく落下位置を変えて、赤い龍の方へと向かって行った。
このままではぶつかってしまう。
「着地……出来るかな?」
って言うか、やらなきゃヤバいでしょ。
ドンドンと龍が迫って来る。
私はなんとか空中で体勢を整えて、着地の準備をする。
チャンスは一瞬だ…!
龍の頭部に最大まで近づいた瞬間、私は両足を上手く曲げて、落下の衝撃を最小限に止めることに成功した。
着地したのは、赤い龍の頭だった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
着地に成功した私は、まず状況を確認した。
眼前にはザイゴートが10体。
蝙蝠のような羽を持つ人達と、黒い羽根を持つ人達、白い羽を持つ人達(一人だけ金色の羽を持つ人がいるけど)が大勢。
そんでもって、私の足元には赤い龍がいて、その隣には白い龍がいる。
「…………ナニコレ?」
思わず呟いてしまった私は悪くないはずだ。
「それはこちらのセリフだ!!」
お?なんか下から声がするぞ?
「もしかして…」
今喋ったのって、この赤い龍か?
「貴様が何者かは知らんが……我々の邪魔をすると言うのであれば、容赦はせんぞ!!」
そう言うと、赤い龍はその大きな手をこちらに向けてきた。
このまま私を潰す気か?
「潰れてしまえ!人間!!」
キャータスケテー。
なんて言う訳ないだろ。
って言うか、喋るんだね。
「に…逃げるんだ!!!」
蝙蝠の羽を生やした赤い髪のお兄さんが叫ぶが、気にせず私は目の前の龍の手に向き合う。
私は自分の『左腕』を振り上げて、その大きな手を受け止めた。
その際、『ズーン!』と言う擬音が聞こえたような気がしたけど。
「ば…バカな!?俺の手を受け止めだと!?」
「そ…そんな事が……」
あ、なんか皆がちょー驚いてる。
そっか、今の私ってば神機使いになってるから、これぐらいはもう楽勝なんだ。
ある意味、私も立派な人外なんだなぁ~…。
「はぁ……。これ…邪魔」
龍の手を受け止めている左腕を一旦引いて、その後に全力でグーパンチを叩きつける。
するとどうでしょう。
「ぐあっ!?」
龍の手は勢いよく飛んでいき、私の視界から消えたではありませんか。
これでスッキリ。
「俺の手を一撃で払いのけるとは……」
「この人間は…何者だ…?」
なんか二匹の龍が大人しくなったぞ?
さっきの大暴れはどうした?
ま、私的には都合がいいけど。
「おい…赤い龍」
「ドライグだ」
「…え?」
「俺はドライグ。こいつらは赤龍帝と呼んでいる」
「ふ~ん…」
ドライグ…ね。
どっかで聞いたことがあるような…。
別にいいか。
「今からあの宙に浮いている丸い奴を仕留めるから、ちょっとだけジッとしてて」
「なんだと?貴様…あれがなんなのか知っているのか?」
「一応」
説明したいのは山々だけど、今は急いでこいつらをなんとかしたい。
私は神機を肩に担ぐと、ドライグの鼻先まで歩いて行った。
すると、ザイゴートに囲まれている人達が叫びだした。
「おい!お前が何者かは知らねぇが、今はそこでじっとしてろ!」
「それより、早く彼女をあそこから降ろさなければ!」
「だが…このままでは身動きが出来ない…!」
あ、やっぱりピンチなのね。
けど、アラガミ相手に神機使いでもないのによく持った方だよ。
いや、マジで。
「大丈夫」
「「「え?」」」
初めての戦闘で、まさかの空中戦だけど、なんとかなるでしょ。
実際、やるしかないんだし。
私の出現に、ザイゴート達は一斉に私の方を向いた。
どうやら、何にもしていないにも関わらず、私にヘイト値が集中しているようだ。
これは都合がいい。
「…よし」
大きく足を曲げて、跳躍の体勢をとる。
今更ながら、ちょっとだけ助走をした方が良かったかも、なんて思ったりもしたが、なんかカッコ悪いため、そのまま飛ぶことにした。
「はぁっ!!」
「「「と…飛んだ!?」」」
全力で大きくジャンプ。
目指すは一番近くにいるザイゴート。
オラクル細胞によって大幅に強化された私の脚力は、想像以上のジャンプ力を見せてくれた。
かなりの距離があった筈だが、なんとかギリギリでザイゴートに届いた。
そのままザイゴートにしがみつき、神機を全力で突き刺す!
「消えろ」
血飛沫と共にザイゴートは獣のような断末魔を上げ、息絶えた。
「た…倒した!?」
「んなバカな!?俺等がどんだけ攻撃しても碌にダメージを与えられなかったんだぞ!」
「それを…たったの一撃で…!」
なんか言ってるけど、今は無視無視。
「まずは一体」
次のターゲットを視界に入れて、ザイゴートの死骸を足場にして再び飛ぶ。
その直後にザイゴートが空気弾を撃ってきたが、ジャンプ直後だった為、丁度いいタイミングで回避出来た。
「くらえ」
次は着地もせずに、そのまま両手持ちで斬撃を浴びせる。
再び血飛沫が私の身体にかかる。
「二体目」
死骸が消え去る前に、また足場代わりにして、次の目標へと飛ぶ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
サーゼクスSide
突如、空から降ってきた謎の少女。
気配から人間であることは分かるが、それにしては異常な力だった。
ドライグの掌底を片手で受け止めるだけではなく、その手を拳の一撃で払いのけた。
しかも、信じられないような跳躍力で飛んで、我々が倒せなかった謎の怪物を、その手に握った歪な形の青い剣の一撃で仕留めてみせた。
彼女の全長と同じぐらいの大きさの剣を、まるで手足のように扱うその姿は、最早私の知っている人間から完全にかけ離れていた。
少しでも足を滑らせれば、地面に叩きつけられて確実に死ぬ。
なのに、彼女は全く怯むことなく敵へと向かって行く。
その姿が、僕には何故か美しく見えてしまった。
「なんなんだよ……あの嬢ちゃんはよ…」
「まさか…天から遣わされた戦士とでも言うのでしょうか……」
アザゼルとミカエルも驚きを隠せないでいるようだ。
僕と同様に、その目は大きく見開かれていて、気が付けば戦場にいる全員が彼女の勇姿に魅了されていた。
そう…あの二天龍すらも。
「あの小娘は……」
「何者だ……」
先程から、二天龍はピクリとも動かない。
本来ならば、またとないチャンスの筈なのに、何故か彼女の方を見続けていた。
その時だった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
いきなり、悲鳴が聞こえた。
それは、同じ悪魔の友人であるセラフォルーのものだった。
彼女は、先程から少女が倒している化け物の一体に襲われてた。
なんとか反撃をしてはいるが、全くと言っていいほど通用していない。
その時だった。
少女がセラフォルーを襲っている奴へと向かって行き、見事に仕留めてみせたのだ。
一瞬だけセラフォルーの方を見たが、すぐさま次の獲物に飛んでいった。
僕は急いで彼女の元へと駆けつける。
「大丈夫だったかい?」
「う…うん…」
「…?どうした?」
「あの子…私の横を飛んでいく時に一言言ったの…」
「え?」
「『よかった』って…」
セラフォルーは茫然としていて、何故か目の焦点が合っていない。
まさか…?
そんな事を考えている間にも、彼女は次々と仕留めていく。
そして、遂に最後の一体になった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
危なかった~。
なんか魔法少女のコスプレをしている女の子がザイゴートに襲われそうになってて、咄嗟に進路を変えて駆けつけたけど、間に合ってよかった。
正直なところ、実は不安だった空中戦だが、思ったよりも順調で、とうとうラスト一体になった。
ま、小型のアラガミならこんなもんだろう。
最後のザイゴートに組み付き、神機で叩き斬る。
急所に当たったのか、大量の血を噴き出して尽きた。
その時、私は重要な事を思い出した。
(戻る時の事をすっかり忘れてた…)
ザイゴートの死骸はすぐさま落下を開始する。
ドライグまではかなりの距離がある。
どうする?ダメ元で飛んでみるか?
てか、それしかないじゃん。
「よし」
沈みゆく体に気合いを入れて、思いっきりジャンプする。
けど……
「あ…」
案の定、届きませんでした。
う~ん…上手い事着地出来れば何とかなるか?
頭を切り替えて、すぐに次の事を考える。
すると…
「え?」
誰かに空中で抱きかかえられた。
なんでかお姫様抱っこだったけど。
見てみると、さっきの赤い髪のイケメンのお兄さんだった。
「ありがとう」
「それはこちらのセリフだよ」
お兄さんは爽やかな笑顔で微笑みかけた。
これは…そこらの女の子ならイチコロだな。
ってゆーか、私の身体、血塗れなんですけど…いいの?
「君のお陰で我々は助かった。もし君が来てくれなかったら、僕達は全滅していたかもしれない」
「そう」
あ、なんか気にしてないっぽい。
本人が気にしてないなら、それでいいけど。
帰ったらシャワー浴びないとな。
「ところで、君は一体…」
「私は…」
名前を言おうとしたが、咄嗟に思いとどまる。
安易に名前を言っていいのか?
そもそも、なんて名乗ればいい?
前世の名前か?
いやいや…流石にそれは無いだろう。
ちゃんと転生したのだから、生まれ変わったと言う意味も込めて、別の名前を名乗るのが筋ってヤツだ。
けど、なんて名前にしよう?
やっぱり、アバターの名前をそのまま名乗るか?
ある意味、戦いの時以上に頭を巡らせていると、いきなり私の身体が光り出した。
何なのかと思っていると、私の足元に来た時と同じ魔法陣が形成されていた。
「こ…これはっ!?」
「もう時間か…」
「時間!?もしかして、行ってしまうのかい!?」
「ああ」
こればっかりは仕方がない。
どうやら、ミッションは無事にクリアーしたみたいだし。
「せめて…せめて名前を教えてくれ!」
そんな事言ってもな…。
もうすぐ消えちゃうし…。
心の中で慌てた私は、咄嗟にこう名乗った。
「私は…
「ゴッド…イーター…」
つい名乗ってしまったが、これって個人名じゃなくて職業名じゃね?
ま、いいか。
どうせ、もう会うことなんてないんだろうし。
「…さよなら」
最後に一言だけ挨拶をしてから、私の身体はその場から消えて、元の場所へと戻っていった。
あ、そう言えば、あのお兄さんの名前を聞いてない。
一期一会なら、せめて聞いておけばよかったかな?
思考錯誤しながらの執筆でしたが、これで本当に良かったのかな…?
なんか、不安で一杯です…。
まだまだ原作前の話は続きます。
では、次回。