因みに、フリードとの出会いは教会突入までお預けです。
放課後に白音と一緒に商店街で買い物をした帰りに、アーシアらしき人影を見つけた私達。
どうするか少しだけ話し合う事にした。
「どうしたんでしょうね?」
「何かを探しているように見えるが…」
困り顔で周囲を見ているアーシア。
本気でどうした?
「話しかけてみましょうか?」
「そうだな」
という訳で、レッツご~。
「アーシアさん」
「どうしたんだ?」
「え?」
話しかけた途端、呆けた顔になるアーシア。
まるで、信じられないモノを見ているような顔だ。
「マ…マユさんに白音さん?どうしてここに…」
「「それはこっちのセリフだ(です)」」
こんな街中に来そうな感じじゃなかったのだが、何か大事な用でもあるんだろうか?
「さっきから挙動不審に見えてたぞ」
「きょ…挙動不審!?」
「あれだけキョロキョロしてれば、嫌でもそう見えますよ」
「あぅ……」
やっと自覚したのか、急に顔が赤くなるアーシア。
「で?本気でどうした?」
「はい……実は……」
話を聞くと、なんてことは無かった。
なんでも、彼女はこういった都会に来るのが初めてで、一度でいいから街中を歩いてみたかったとの事。
そして、教会の人(とアーシアは言っているが、多分違う)に特別に許可を貰って、こうしてやって来たが、色んな物がありすぎてどこから行けばいいか困っていたらしい。
「なるほどな……」
携帯で時間を確認する。
まだまだ時間には余裕がある。
「白音」
「言わなくても分かってます」
流石は私の家族。
「アーシア。私達で良かったら、街を案内させて欲しい」
「え?いいんですか?」
「当然だ。だろ?」
「はい。困った時はお互い様です」
「マユさん…白音さん……」
おぅ……瞳がウルウルしてますがな。
そんなに嬉しかったか…。
「だ…大丈夫か?」
「は…はい。余りにも嬉しくて…」
嬉しいだけで、ここまでのリアクションを取りますか…。
一体どこまで純粋なんだ…。
思わず苦笑いをしながら、彼女の頭を撫でてしまった。
その時だった。
私の脳内に不可思議なビジョンが流れた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
一人の赤ん坊が教会の前に捨てられていた。
そこに、シスター服を着た女性がやって来て、赤ん坊を拾い上げて教会に中に入っていった。
赤ん坊は大きくなり、可愛らしい金髪の少女に成長した。
シスターとしての指導を受けながらも、穏やかに暮らしていく少女。
だが、ある時、彼女の運命は一変する。
彼女が、傷ついていた一匹の犬を不可思議な力で癒したのだ。
その光景を見ていた一人の神父が、彼女をバチカンにある本部に連れていき『聖女』として担ぎ上げだしたのだ。
そこで彼女は教会を訪れた様々な人々を癒し続けた。
彼女に不満は一切無かった。
誰かの助けになるのは純粋に嬉しいし、何よりも、皆が喜んでいる姿が彼女にとって心の癒しになっていたからだ。
だが、そうやって担ぎ上げられれば、必然的に周囲の人間は遠巻きになっていく。
結果として、彼女には同年代の友と言うべき存在は一人もいなかった。
しかも、一部の人々に至っては、彼女の存在を『傷を癒すことのできる【生物】』として見るようになっていったのだ。
だが、人を疑う事を知らない彼女は、そう言った人々の悪意に全く気が付かなかった。
そして、とうとう彼女に運命の転機が訪れた。
ある日、彼女の目の前に現れた傷ついた一人の悪魔の怪我を癒してしまったのだ。
しかも、その場面を教会の関係者に見られる始末。
結果として、彼女は『聖女』から、悪魔をも癒す『魔女』として教会を追放されてしまった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「はっ…!」
一瞬…気が遠くなってた…。
「今のは…?」
まさか……『感応現象』…か?
でも…なんでだ?
これは本来、第二世代型神機使い以上の存在同士でのみ起こる現象の筈だ。
一方的に起こる現象では無い筈だが…。
しかも今のは……アーシアの記憶…か?
「…?どうしました?」
「い…いや…なんでもない…」
「そうですか…」
ここで心配を掛けちゃいけないな。
よし、気分を入れ替えよう。
「それじゃあ、何処からい……」
こうか、と言おうとしたら、アーシアのお腹からグ~と言う音が鳴った。
「「「…………」」」
まず行く場所がほぼ確定したな……。
「白音……最初はあそこに行こうか」
「ですね」
「……?」
アーシアは小首を傾げているが、構わず彼女の手を握る。
「さ、行こう」
「え…えええっ!?」
「む~……」
私が歩き出そうとすると、ふくれっ面の白音が逆の手を握ってきた。
「私も……お願いします」
「ふふ……わかったよ」
カバンを手首に通してから、白音の手を握った。
「ならば、行くか」
こうして、私達は最初に行くべきと判断した場所に向かうことにした。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「あ…あの……これはどうしたら…」
「これはだな…」
私達が来たのは、某ハンバーガーショップ。
あの『スマイルなD氏』がいる店と言えば分かりやすいだろうか。
私達は比較的スタンダードなハンバーガーセットを頼んだ。
だが、どうやらハンバーガーを見るのは初めてのようで、アーシアはどうすればいいか困惑していた。
「こうして、包みを開けて……」
「こうやって食べるんです」
白音が試しにハンバーガーに齧り付く。
「成る程!分かりました!」
すぐに理解したアーシアは、すぐさま同じようにハンバーガーを食べる。
「どうだ?」
「お…美味しいです~!」
「そうか。よかったな」
「はい!」
ハンバーガー一つでここまで嬉しそうに…。
あの感応現象で見たのが真実なら、これもある意味当然の反応なんだろうか…。
彼女の嬉しそうな顔を見ながら、私もハンバーガーを食べる。
うん、美味い。
「あの……こうして連れて来てくれたのは大変感謝してるのですが…夕食前にこうして食べても大丈夫なんですか?」
「ああ…その事か」
それなら大丈夫なんだよなぁ~。
「私達は人より多く食べるからな、これぐらいなら問題無い」
ゴッドイーターは食べる事が仕事…と言うように、神機使いはすべからず大食いが多い。
特にリンドウさんが凄い。
最低でもコウタの三倍以上は食べるしな。
ま、私も人の事は言えないんだけど。
それよりも驚いたのは、白音の大食いっぷりだ。
黒歌曰く、これはどうやら昔かららしい。
白音は根っからのフードファイターだったという事か…!
私が思案に耽っていると、周囲から変な視線を感じた。
その視線は全て私達に向けられている。
シスター姿の金髪美少女が、こんなジャンクフードショップにいれば、そりゃ目立つか。
視線を無視しながら、私達はハンバーガーを食べ終えて、店を後にした。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その後も、色んな場所を見て回った。
余り時間を掛け過ぎると遅くなってしまう為、時間と相談しながら見て回った。
因みに、アーシアが一番興奮していたのは、意外にもゲームセンターだった。
本人に聞いた所、あんなにも煌びやかな場所に行ったのは初めてだったとの事。
そして、私達は夕日を背にしながら帰路についていた。
「また教会まで送ろうか?」
「だ…大丈夫です!もう道は覚えましたし、これ以上ご迷惑をお掛けするわけには…」
「気にしないでください。こっちは迷惑なんて思ってませんし…それに…」
「私達、友達だろう?」
「………え?」
ん?どうした?
別に変な事は言ってないぞ?
「お友達に……なってくれるんですか…?」
「いや、もう既に私達は友達のつもりだったのだが…」
「その通りです」
「う……うぅぅ……」
えっ!?ええっ!?
いきなりどうしたっ!?
なんか泣き出しちゃったんですけどっ!?
「う…嬉しいです…。初めて友達が出来ました…」
「アーシア……」
ゔゔ…!
中途半端に事情を知っていると、言葉の意味を深く受け取ってしまう…!
「あ!アンタ達!?」
「「「ん?」」」
いきなり聞き覚えのある声が聞こえてきた。
見てみると、そこには前と同じように、隣町の学校の制服姿のレイナーレがいた。
「帰りが遅いと思って試しに来てみれば……」
もしかして、アーシアを探しに来たのか?
ならば…やっぱりあの教会には……
「どうしてアーシアがこの子と一緒にいるのよ!?」
んん?
なんか話の方向が私の思っているのとは違うぞ?
「えと……これは……」
「アーシアが街中で困っていてな。そこに偶然通りがかった私達が街中を案内していたんだ」
「そ…そう…」
毒気が抜かれたように呆けるレイナーレ。
すると、こっちに近づいて来てアーシアの手を握って少し離れた場所に連れて行った。
「ちょっとこの子、借りるわよ」
「え?」
二人は何やらひそひそ話を始めた。
ここからはよく聞こえないけど。
(ちょっと!アンタあの子と一緒に何をしたの!?)
(えっと……お食事を御馳走になって、それから色んなお店を見て回って…)
(しょ…食事っ!?しかもウィンドウショッピングまでっ!?)
なんか…ああしてると、二人共何処にでもいる普通の女の子だな。
(な…なんて羨ましい…!私だって…私だって…!)
(レイナーレ様?)
なんか、レイナーレがプルプルしてるんですけど。
「ア…アーシア!今日はもう帰るわよ!」
「は…はい」
「それじゃ!そーゆー事で!」
「マユさん!白音さん!今日は本当にありがとうございました!」
去り際にアーシアがこっちを向いてお辞儀をする。
そして、彼女はレイナーレに手を引かれながら去って行った。
(帰ってから、色々と聞かせて貰うわよ…!)
(ええ~……)
意外にも、普通に歩いて行ってしまった。
私達も思わず手を振ってしまった。
「…って!」
「またやっちゃいましたね…」
またまたレイナーレを見送ってしまった…!
本当なら、ここで色々と事情を聞いたりしなければいけないのだが、余りにも普通に登場して、普通に去って行ってしまったから、そんな雰囲気ではなくなっていた。
「こうなったら、教会に直接行くしかないか?」
「それが良いかもですね。でも、その前に…」
「分かっている。リアス達に相談だな」
出来れば、こういうのは早い方がいい。
『思い立ったが吉日』とも言うしな。
けど、焦って行動した結果、何かあってはいけない。
このような場合こそ、逆に慎重になるべきかもしれない。
『急がば回れ』と言う言葉もあるしな。
その日は、そのまま大人しく家に帰った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
自宅に帰り、いつものように皆で一緒に夕食を食べながらテレビを見ていると、番組のコマーシャルの間に短いニュースが流れた。
『昨日、駒王町にある○○○○さん宅にて、一家全員の惨殺死体が発見されました』
駒王町で事件か…。
けど、今初めて聞いたな。
「物騒だにゃ…」
「そうですね…」
「「もきゅもきゅ」」
黒歌と白音は怪訝な顔でニュースを見ていて、オーフィスとレドはいつもと同じようにご飯を食べている。
「けど、そんな話は今まで出ませんでしたよね?」
「普通なら、学校とかで何かを言う筈にゃ」
「多分、警察の正式発表がされるまで、いう訳にはいかなかったんだろう」
多分…だけどね。
そう言った事情には疎いから。
「あと、この映像を見る限りは、ここは通学路とは真逆だ。私達が今まで知らなかったのも無理は無い」
「スーパーとも逆方向だにゃ。これじゃあ私も知りようがないにゃ」
しかし…この平和な街で殺人事件とはな…。
リアスもやりきれないだろうに。
『遺体はリビングに逆さまで太い釘で磔にされており、その上で切り刻まれていたとの事です』
なんて残酷な事を…!
人間がやる事じゃないぞ!
どう考えたって、犯人はサイコパスだな。
『猶、リビングの壁には遺体の血で文字が書かれていたとの事です。しかし、血が流れていてよく読むことが出来ず、解析の結果が待たれます』
「酷い事をするにゃ…!」
「いくらなんでも、限度と言うものがあるでしょうに…!」
「ある意味、アラガミよりも質が悪いな…!」
本能に従っている分、アラガミ共の方が対処はしやすい。
強さは遠く及ばないが、こういった連中は下手に知恵が働くから厄介だ。
『犯人は不明で、目撃者などもいないとの事です。犯行時刻は深夜と思われ、遺体が発見されたのは犯行時刻から数時間が経った早朝との事です。では、第一発見者の方のインタビューを聞いてみましょう』
犯人が分からず、目撃者もいない…か。
「皆、大丈夫だとは思うが、一応気を付けてくれ」
「分かってるにゃ」
「勿論です」
「もきゅもきゅ…ごくん。私も分かったぞ!」
「我も分かった」
念の為に皆に注意を促しておいた。
皆の実力は知ってはいるが、念には念を…だ。
『ククク…。此度の赤龍帝はなんとも心配性だな』
「家族を心配するのは当然の事」
『まぁ…他の輩ならいざ知らず、貴様ならば文句は言うまい。精々、頑張るがよい。雑種』
なんか、言うだけ言ってギルガメッシュが引っ込んでいったんですけど。
「な…なんだったのかにゃ?」
「さぁ……」
私にも分からん。
『はぁ……すまないな。アイツがあんな態度なのはいつもの事と思って割り切ってくれ』
「アーチャー…」
私も段々と慣れつつあるけどね。
『アイツも根は決して悪人ではないんだ。そこだけは分かってくれ』
「分かってるよ。ドライグ」
なんだかんだ言って、私にアドバイスをくれたりするしね。
『そう言ってくれると、アタシたちも助かるよ』
『奏者はなんと心が広いのだ!余は感動したぞ!』
『ご主人様……あの高飛車野郎にもその優しさ…。ご主人様は女神の生まれ変わりですか!?』
それは言い過ぎ。
その日は結局、歴代の皆と話しながら夕食を進める事になった。
途中、アーチャーから黒歌に対して料理のアドバイスがあったのが面白かった。
明日はリアス達に相談して、可能であれば教会に行きたいな。
今日、アーシアとレイナーレが一緒にいるのを見て、流石に気になった。
もう様子見は終わりだ。
行動に出るべき時が来たんだ。
次回、遂に教会突入?
果たしてアーシアとレイナーレはどうなるのでしょうか?
そして、マユはどうするのでしょうか?
では、次回。