神を喰らう転生者   作:とんこつラーメン

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今回、本気で最後まで悩みましたが、結局は戦闘シーンを無しにしました。

その代わり、アラガミの強大さをリアス達が改めて感じる回にしようと思いました。

なんとなく、こっちの方かいいと思いましたので。



第23話 黒雷の帝王

「はぐれ悪魔…か」

 

私はその単語を聞いた途端、なんとも言えない気持ちになった。

はぐれ悪魔と言っても千差万別いるからだ。

 

黒歌のようにやむ負えない事情がある者もいれば、一年前に遭遇した己の欲求に負けた存在もいる。

今回のはどっちなのだろうか?

サーゼクスさん達が頑張っていると聞いているから、前者は無いと思うけど。

 

「朱乃……今回の奴はどんなヤツなんだ?」

「なんでも、殺人欲求に負けた挙句、異形の姿になってしまったらしいですわ」

「つまり……」

「残念ですが…もう……」

「そうか……」

 

人の心を失ってしまっている以上、話し合いの余地はない…か。

白音も少し俯いている。

 

「私だって無益な殺生はしたくはないわ。けど……」

「分かっている。私だってそこまで無知じゃないさ」

 

誰にだって事情はある。

私にも、リアス達にも。

 

「ま、安心してて頂戴。偶にはお姉ちゃんにいいところを見せないとね?」

「その通りですわ。本音は手伝ってほしいですけど…」

「これはこの土地の管理を任された私の役目。お姉ちゃんに余計な負担を与えるわけにはいかないわ」

 

別に気にはしてないんだけどなぁ~。

 

「大丈夫です先輩。明日にでも吉報をお届けしますよ」

「……分かった」

 

私は手に持ったティーカップに入っている紅茶を一気に飲み干して、傍に置いてあるカバンに手を伸ばす。

カバンを握った……その時だった。

 

「!!!?」

 

強烈なまでのオラクル波を感じると同時に、私の左腕が強烈に疼いた。

 

「こ……これは…!?」

『相棒……お前も感じたか?』

「ああ…!」

 

なんだ……この感じは…!?

この……遠くから感じる凄まじいまでの殺気は…!

それに…この左腕の疼きは…。

 

(これは…赤龍帝の籠手じゃない。私の『アラガミ化した左腕』が反応してるんだ!)

 

こんな事は初めてだ…!

 

「朱乃……」

「はい?」

「さっき言ったはぐれ悪魔は……どこに出現したんだ…?」

「えっと……確か、町外れの廃屋らしいですわ」

「町外れ……」

 

確かに、町外れなら遠くに感じるのも頷ける。

 

「…お姉ちゃん?どうしたの?」

「大丈夫ですか?」

「あ…ああ…」

 

なんだ……凄く嫌な予感がする…!

何故か、このままリアス達を行かせてはいけない気がする!

 

「リアス…」

「な…なに?」

「……今回のはぐれ悪魔退治、私も連れて行ってくれないか?」

「ええっ!?」

 

そりゃ驚くよな。

けど、今回ばかりは譲れない。

 

「い…いきなりどうしたの?」

「ちょっとな……」

 

まだ確信は無い。

この状態で無駄に恐怖心を煽る必要は無い。

 

「もしかして……何かを感じたの?」

「……!」

 

バレた!?

 

「はぁ……分かりやす過ぎよ。お姉ちゃんのそんなにも真剣な顔を見れば、嫌でも何かあったんじゃないかって思うわよ」

「先輩はポーカーフェイスであるが故に、反応が分かりやすいんですよ」

「ふふ……私にも分かりましたわ」

「勿論、私もです」

 

全員に御見通しってわけかい。

 

「いいわ。本当なら駄目だけど、お姉ちゃんは強いし、そんな顔をしたお姉ちゃんに嫌とは言えないもの」

「…すまん」

 

うぅ……分かっていても罪悪感が……。

 

「私も行きます」

「は?」

 

し…白音?

 

「私だって姉様と訓練はしてきています。仙術だって少しは使えるようになってます。足手纏いにはなりません」

「白音……」

 

そんな顔をされたら……ダメとは言えないじゃんか…。

 

「リアス」

「分かってるわ」

 

リアスが白音に向き合った。

 

「…いいのね?」

「はい。私だってマユさんの役に立ちたいんです」

「……分かったわ」

 

私自身は別に気にはしてないんだが、本人は何か思う所があったのだろう。

これからは、もうちょっと敏感にならないとな…。

 

「じゃあ、一旦解散して、準備をしてから深夜にここの校門に集合。いいわね?」

「わかりましたわ」

「はい」

「了解」

「分かりました」

 

こうして、私はリアス達のはぐれ悪魔退治に同行することになった。

 

私の嫌な予感が当たらなければいいんだけど……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 いったん家に帰った私達は、黒歌達に事情を話した。

私はともかく、白音が行くことには当初反対していたが、彼女の真剣な顔を見て、ある条件を飲むことで同行を許可してくれた。

それは、『私の言う事を絶対に聞く事』だ。

私としてもそれは言おうと思っていたので丁度良かった。

 

夕食とお風呂を終えた後、私と白音は待ち合わせ場所に急いだ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 家を出る前からオラクルの波動はすっと感じていたが、こうして夜の外に出るとより一層感じる。

さっきからずっと左腕の疼きは止まるどころか、増していっている。

 

待ち合わせ場所である駒王学園の校門で待っていると、リアス達がやってきた。

なんでか制服だった。

 

「もしかして、先に来ていたの?」

「こっちが無理を言って同行させて貰っているんだ。これぐらいは当然だ。な?」

「はい。その通りです」

「二人共真面目ね…」

 

それはそうと……

 

「何故に制服?」

「誰かに会った時に言い訳しやすいと思って…」

「そうか?」

 

却って怪しまれそうだけど…。

 

「先輩は……」

「随分とワイルドですわね」

 

今回、私は動きやすさ重視でティンバータンクとF偵察下衣グリーンを着ている。

白音は私服を着ている。

 

「それじゃあ、早速行きましょうか?」

「そうだな」

 

オカルト研究部一行は、はぐれ悪魔がいると言う町外れの廃屋へを向かうことにした。

と言っても、近くまでは転移魔法で行くけど。

リアス達と私達は別々に転移した。

別に目的地は一緒だから問題は無い。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 転移した直後に、私は今まで以上のオラクルを感じた。

移動場所は目的地である廃屋の近くの道路。

私達が転移し終えた直後にリアス達もやってきた。

 

「くっ…!」

 

左腕の疼きがとんでもない事になってる…!

もう『疼く』を通り越して『痛い』になってるよ!

 

思わず左腕を抑える。

 

「お…お姉ちゃん?大丈夫?」

「ああ……。問題無い」

 

なんとかして平気を装う。

その直後、赤龍帝の籠手が私の意思とは関係無く現れた。

 

『あ…相棒!なんだこのオラクルは!?』

「ど…どうしたんですの?」

『こんなにも凄まじいオラクルは感じた事も無い!今までの連中とは次元が違うぞ!』

 

やっぱり…感じているか…。

 

「リアス、皆。よく聞いて欲しい」

「な…なに?」

「今から行く場所には、最大限の警戒をして行ってほしい」

「警戒…ですか?」

 

白音以外の皆が怪訝な顔になる。

 

「気持ちは解るけど、ちょっと大げさじゃない?」

「そうかもしれない。けど、用心するに越したことは無いんだ」

「それは……そうですけど…」

 

まぁ…いきなりこんな事を言っても信じられないよな。

 

「とにかく、早く行こう」

「わ…分かったわ」

 

もう廃屋は目と鼻の先だ。

私達は歩いて廃屋に向かう。

あと5メートルという所まで行くと、急に私達全員を圧倒的なまでの殺気が襲う。

 

「「「「「!!!!!」」」」」

 

流石にリアス達も感じたのか、急に足を止める。

 

「な…なに…?これは……」

「て…手が震えて…」

「あ…汗が止まらない…!」

「こ…怖いです…」

 

白音に至っては泣きそうになっている。

私は咄嗟に彼女の手を握る。

 

「大丈夫。私がいるから」

「は…はい……」

 

なんとか平常心を装おうとしているが、無理をしているのは一発で分かった。

 

にしても……

 

(私は…知っている。この殺気を闇里マユ(わたし)知っている(・・・・・)!)

 

けど…本当にそうなのか?

実際にこの目で見るまでは……やっぱり……

 

私達は廃屋の入り口に立ち、そっと中の様子を伺う。

すると、中からは何かを食べるような音が聞こえた。

 

「こ…この音は…?」

「はぐれ悪魔…バイザーが何かを食べている…?」

 

私は気配を消しながら静かに入る。

その際、念の為に神機も出した。

組み合わせは野狐斬りとフォル・モーントと剛雷タワーだ。

 

「せ…先ぱ…!」

 

裕斗が声を挙げそうになったので、口に人差し指を当てて制した。

 

中に入ると、左腕の疼きは最高潮に達した。

私の足元に血だまりがあるのが分かった。

それを見た私は、咄嗟に白音の元まで急いで彼女を抱きしめて目を防いだ。

 

「白音!見ては駄目だ!」

 

廃屋の隙間から月明かりが入り、中の様子が明らかになる。

 

中にいたのは……

 

「あ…あいつは……!?」

 

漆黒の体躯に白い体毛、そして、金色のマント。

人の顔を模した顔面が不気味に存在している。

 

あれは……間違いない…!

 

「ディアウス・ピター…!」

 

闇里マユ(わたし)にとって因縁浅からぬ相手だった。

 

ピターの口の周りは血で汚れていて、何かを捕食していたのが分かる。

奴の足元には、妙に伸びた誰かの手が見えた。

だが、その先は存在していない。

 

「ま…まさか…!」

 

あいつ……はぐれ悪魔を喰ったのか!?

 

「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」

 

リアスと朱乃と白音の悲鳴に反応して、ピターがこちらを向いた。

 

「ちっ!祐斗!皆を頼む!」

「せ…先輩!?」

 

私は瞬時に前に出た。

 

「ドライグ!!」

『お…おう!』

【Boost!Boost!Boost!Boost!……】

 

隙が許す限り倍化をしておく。

他の奴ならいざ知らず、このディアウス・ピターはどれだけ対策しておいてもしすぎると言うことは無い。

同時に結界も張る。

 

正直言って、倒そうと思えば倒せる。

けど、誰かを守りながらとなれば話は別になってくる。

 

(皆を守りながらどこまでやれる…!?)

 

毎度の如く、ピターは私の方だけをジッと見ている。

神機を全力で握りしめ、いつでも斬りかかれるようにする。

 

すると、ピターはマントを立てて咆哮と共に周囲に雷撃を放った!

 

「くそっ!」

 

私は装甲を展開して皆の前に行く。

タワーシールドだから、私自身には一切ダメージは無い。

それは後ろにいる皆も同様で、少しだけ後ろを見ると、怪我は無いようだった。

 

すぐに前に向き直すと、そこにはピターの姿は無く、その代わりに先程の雷撃で消し炭と化したはぐれ悪魔の死骸があった。

 

「ど…どこに行った!?」

 

急いで周囲を見渡すと、朱乃が私の肩を叩く。

 

「お…お姉ちゃん!あそこに!!」

 

彼女が指差したのは、遠くに見えるビルで、そこの屋上にピターがジッと佇んでこちらを見ていた。

 

「い…いつの間に…!?」

 

私とピターの視線が交わる。

すると、大きな雲が月明かりを防ぎ、一時的にピターのいる場所が暗くなる。

雲が通り過ぎ、再び月が顔を出した時には、既にピターはいなくなっていた。

 

「な…なんだったんだ…?」

 

なんで何もせずに姿を消した?

いや、そもそもどうやってあそこまで移動して、消えたんだ?

 

「分からないことだらけだ……」

 

余りにも状況が不透明過ぎる。

私の頭の中も混乱している。

 

前からピターは不可解な行動をすることが多いが、今回は一番訳が分からん。

 

『あ…あれがディアウス・ピター…か…!なんと言う殺気だ…!見ただけでも分かる…!単純な戦闘能力だけなら、奴は本気の二天龍(俺達)に匹敵している!』

「ああ…!」

 

アイツの出鱈目な強さは私自身がよく分かっている…!

一体何回、ヤツに苦しめられたか…!

 

「「お姉ちゃん!!」」

「マユさん!」

 

後ろを振り向くと、リアスと朱乃、白音が駆け寄ってきて私に抱き着いた。

三人の目には涙が浮かんでいる。

 

「三人共……」

 

よっぽど怖かったんだろう。

無理も無い。

並の神機使いだって、戦場であいつと遭遇すれば真っ先に逃げる事を考える。

それをしないのは、あいつの討伐実績がある者だけだ。

 

「もうあいつはいない。大丈夫…大丈夫だから…」

 

安心させるために、私は三人を抱きしめる。

完全に手が回らないから、中途半端になってるけど。

 

「せ…先輩……」

 

裕斗はなんとか頑張っているが、その足は震えている。

気丈に振る舞っているだけでも、私的には充分に凄い。

流石は男の子だ。

 

「皆、今夜はもう帰ろう」

「け…けど…」

「……はぐれ悪魔は…もう死んでいる。文字通り消し炭になって…な」

 

一陣の風が吹く。

すると、廃屋の中にあるはぐれ悪魔の消し炭が砕け散り、風に乗って空に消えた。

 

「もうちょっと……もうちょっとだけ…このままでいさせて……」

「私も…お願いしますわ……」

「わ…私も……」

「……うん」

 

そのまま、私達は静かに抱き合っていた。

裕斗は地面に座り込んで、なんとかして精神を整えようとしていた。

 

その後、暫くしてから私達は解散した。

 

終始リアス達は落ち着かない様子で、白音もずっと私に抱き着いていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 家に帰ると、黒歌が起きて待っていてくれた。

玄関に入るや否や、すぐに私達の事を抱きしめた。

 

「無事で……無事でよかった……」

「姉様……」

 

ようやく安心したのか、白音は静かに泣き出した。

 

少しして落ち着いた白音は、気分転換の為にもう一回お風呂に入った。

ついでだから、私も一緒に入った。

今回の事は私にも堪えたから。

ちょっと高揚しかけた気分を落ち着かせたかった。

 

風呂から上がり、自分の部屋にて寝ようとしたら、私の部屋に白音がやってきた。

 

「あの…すみません。今夜だけでいいので、一緒に寝てもいいですか?」

「白音……」

「駄目…ですか?」

 

表面上は落ち着いたように見えるが、内心はまだ恐怖心があるんだろう。

気持ちは解るし、白音のそんな姿は見ていたくない。

だから、私の答えは決まっていた。

 

「いいよ。おいで」

「あ…ありがとうございます」

 

照れながら私のベットに沿って入る白音。

私も一緒に入ると、白音が私に抱き着いてきた。

 

「凄く……凄く…怖かったです……」

「そうか……」

「でも、それと同じくらいに…悔しかった…」

 

悔しかった…か。

 

「私は……マユさんの…お役に立ちたいんです…」

「白音……」

「マユさんは私と姉様を救ってくれた人だから……何より……」

「…………」

「マユさんの事が……好きなんです……」

 

白音……。

 

「だから……貴女の…隣に……立てるように………」

 

最後まで言葉を紡ぐ前に、白音は眠ってしまった。

 

(今のは…告白?)

 

って、そんな訳ないじゃん。

女同士だし。

なによりも、家族だしね。

 

(きっと、家族として好きって事なんだろうな)

 

うん。そう言う事なら、私も一言言おう。

 

「私も好きだよ……白音……」

 

その晩、私は白音を抱きしめながら眠りについた。

 

ピターのせいで悪夢でも見るかと思ったが、そんな事は無くて、いつも通り熟睡出来た。

これは、白音が一緒に寝たお陰かな?

 

リアス達は大丈夫だろうか?

ちゃんと寝れているといいけど…。

 

もしかしたら、明日は今回の事を話さなくてはいけないかもな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まさかのディアウス・ピター登場。

最初はピターではなくてヴァジュラを出して戦闘させようと思ったのですが、そうするとかなりの文字数になりそうと感じたので、今日急に思いついたこのネタにしました。

因みに、どっちが出てもバイザーさんはパクパクされる予定でした。

つまり、あの人(?)は最初から出番は無かったんですね。

お次はどうなる事やら。

では、次回。


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