学生はまだ冬休みか…。
あの頃に戻りたいです…。
それは、次の日の朝の事だった。
私はいつものように起床し、皆と一緒に朝食を食べていた。
私が焼き魚を箸で解して、口に入れた時だった。
『奏者よ!遂に出来たぞ!』
いきなり、食卓にネロの声が響いた。
「何が出来たんだにゃ?」
『決まっておる!奏者に相応しい禁手の姿だ!』
あぁ~…そう言えば、そんな事を言ってたっけ。
『ずっと前に言ったであろう?奏者が強すぎるが故に、我等が奏者に相応しい禁手の姿を思案していると。それがようやく纏まったのだ!』
「確か、二年前くらいに言ってましたね」
『我等が考えている間も、奏者はどんどん強くなってくものでな、思った以上に時間が掛かってしまった。だが、もう大丈夫だ!』
そっか……遂に切り札解放か。
ちょっと楽しみかも。
「で、どんなヤツなんだ?」
『うむ。下手に姿を固定すると、却って力が制限されかねないからな。結局、使う力に応じて我等が生前に着ていた衣装に赤龍帝の鎧を加えた感じの物を使い分ける事にしたのだ』
「ちょっと想像しにくいにゃ」
『こればっかりは、見てからのお楽しみとしか言えんな。楽しみに待っているがよい!決して期待は裏切らぬぞ!』
どうやら、ネロは自分の禁手の姿に自信満々みたいだな。
「機会があれば、遠慮なく使わせてもらう」
『うむ!その時を待っておるぞ!』
言う事だけを言って、ネロは引っ込んだ。
朝から賑やかだったな…。
その後、ちょっと遅れそうになった為、急いで朝食を済ませて家を出た。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
学校に行き、教室に着くや否や、速攻で朱乃が私の事にやってきた。
「お姉ちゃん!リアスから聞きましたわ!昨日、公園で見知らぬ(堕天使の)女の子と抱き合っていたと!どういう事ですの!?」
その瞬間、教室全体の空気が凍った。
「リアス……」
「ごめんなさい…。一応、朱乃にも知らせなきゃと思って…」
それは分かるけど…こうなる事が予測出来なかったのかな…。
「そ…そんな…!」
「まさか……学園外でもフラグを建てるとは…!」
「流石はミス駒王!私達に出来ない事を平気でやってのける!」
「そこに痺れる!憧れるぅぅぅぅっ!!」
教室内もなんか騒がしくなってきたし…。
「あ…朱乃。その事はちゃんと放課後に部室で説明するから…。ここは引いてくれないか…?」
「本当ですわね!?」
「ああ。本当だ」
「……分かりましたわ。お姉ちゃんを信じます」
よ…良かった…。
一瞬、本気でビビったからな…。
冗談抜きで焦ったよ…。
しかし、この事はあっという間に学園中に知れ渡り、私は名実共に『一級フラグ建築士』の称号を得たのであった。
これ以降、今まで以上に学園中の有名人になってしまった…。
私が一体何をした…?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
放課後、オカルト研究部の部室。
私は約束通りに、リアス達に昨日の事情を説明した。
買い物帰りに公園を通ろうとした時に、彼女の襲撃を受けた事。
けど、彼女の攻撃は私には通用せずに、掻き消えた事。
その直後、ザイゴートが出現し、咄嗟にレイナーレを庇ってアラガミを倒した事。
その際に、意図せずして彼女を抱きしめるような形になってしまった事。
全てを話した。
「ほっ……。そうだったんですのね…。ちょっと安心しましたわ」
「私も。…と言いたいけど、あの子、満更でもない表情してたわよ?」
「「「え?」」」
おい、やっと全てが丸く収まろうとしてるのに、余計な事を言わない。
「ど…どういう事ですか?先輩」
「私は去り際しか見てないけど、あの堕天使の子、顔を真っ赤にして去って行ったわ」
「顔が……」
「真っ赤に……」
「それって……」
ん?なんで私に注目する?
「「「はぁ……」」」
おい!?なんでそこで溜息を吐く!?
「お姉ちゃん。いくら自分よりも弱いとはいえ、自分を襲ってきた者にまでフラグを建てるのはいかがなものと思いますわよ?」
「先輩らしいと言えば、それまでなんですけどね」
「アーチャーさんからも聞きましたけど、明らかに建ってますね…」
「これで無自覚なんだから、質が悪いわよねぇ~…」
ちょっと!?どうして哀れみの目で見るの!?
「けど、まさかこの町に堕天使が入り込んでいるとはね…」
「気が付きませんでしたわ…」
「今のところ、目立った被害は出ていないようですけど…」
「油断は禁物ね」
あ、話題が変わった。
やっと解放されたか…。
「お姉ちゃん。あの子は何か言ってなかった?」
「そう言えば……」
あの時、確かあの子は……
「『計画を成就させる為に、不確定要素は排除したい』と言っていたな…」
「計画?」
「何かを企んでいる…と言う事でしょうか?」
「言葉だけを聞けば、そんな感じね…」
あの子は何をしようとしてるんだろうか…。
碌でもない事じゃないといいけど…。
「出来れば、なんとかして見つけ出して、その上で阻止したいけど…」
「下手に堕天使に手を出してしまえば、悪魔と堕天使との間に大きな溝が出来かねませんわ」
「それが一番の問題ですね…」
う~む…。
なんか話について行けないでいるが、色々と大変なんだな~。
半ば他人事のように話を聞きながら、朱乃が入れてくれた紅茶を飲んでいると、私の携帯に着信が来た。
「すまない」
「気にしてないわ」
私は部室から出て、廊下に出てから電話に出た。
「もしもし?」
『あ~…俺だ。アザゼルだ』
「アザゼルさん?」
珍しいな。
あれ以来、時々愚痴を吐くために私に電話をしてくるしかしなかったのに。
こんな昼間に掛けてくるなんて。
「どうしたんですか?」
『いやな。昨日、お前さんがうちの下っ端に襲撃されていたって聞いてな』
情報が早いな。
ま、堕天使の総督ともなれば、こんなもんなのかもしれない。
『お嬢ちゃんの事だから、怪我とかは無いと思うがな』
「御見通しで」
『俺等と同格か、それ以上の実力を持つ奴が、今更下級堕天使の攻撃でどうこうなるとは思えねぇからな』
私を高く買ってるなぁ~。
『一応、俺の方でもちょっと調べたんだがな、あれはあいつを始めとした一部の連中の独断らしい』
「独断…」
組織に属する者が、そんな事をしていいのか?
下手すれば、離反者と言われても仕方ないぞ?
『でな、お前さんにちょっと頼みがあるんだわ』
「頼み?」
なんとなく想像出来るけど。
『分かっているとは思うが、お前さんが今住んでいるのは悪魔が管理している地だ。俺としても、可能な限りは悪魔に借りは作りたくねぇ。だから…』
その次の言葉は、もう分かっている。
『嬢ちゃんの手で、なんとか解決してくれねぇか?』
そう言うと思ったよ。
『この件は俺等とは完全に無関係だが、かといって、悪魔共にそんな理屈が通用するかは分からねぇ。今回の件を穏便に済ませるには、どの勢力にも属していなくて、尚且つ、かなりの実力がある嬢ちゃんにしか頼めねぇ』
話だけを聞いてると、堕天使の総督って胃に穴が開きそうな立場だな…。
組織のトップって皆こんななのかな…?
『勿論、唯とは言わねぇ。解決してくれたら、ちゃんと礼をするつもりだ』
「礼?」
『ああ。俺の研究成果をお前さんにくれてやるよ。お前さんなら、きっと有効に活用してくれるだろうぜ』
研究成果…ねぇ。
ちょっと見てみたいかも。
「あの…この件は…」
『ああ。確か、サーゼクスの妹と同じクラスだったな?確か、バラキエルの娘も眷属で、同じクラスだったよな?』
バラキエル?
もしかして、朱乃のお父さんの名前か?
姿は知ってるけど、名前は初めて聞いたな。
『まぁ…最終的にお前さんが解決してくれれば、多少は話しても大丈夫だろう。遅かれ早かれ判明するだろうしな』
「どっちみちバレるのなら、早めに話した方がいい…と?」
『そう言うこった。んじゃ、頼んだぜ』
「あ……」
まだ、するとは言ってないのに…。
まぁ…言われなくてもやるけどさ。
携帯をポケットに入れてから、部室に戻った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
部室に戻った私は、先程の電話の事をリアス達に話した。
解決の際の礼の事は敢えて言わなかったが。
「ア…アザゼル!?それって、堕天使達の総督のアザゼルの事!?」
「どのアザゼルさんの事を言っているかは知らないが、その通りだ」
「どうしてアザゼルがお姉ちゃんの電話に…」
「その前に、どこでお知り合いに?」
あれは確か……
「初めて会ったのは、今から一年ぐらい前だ。私自身はうろ覚えだったが、向こうの方が覚えていてな。その時に番号交換したんだ」
「そうか……先輩はあの戦争にも介入してるから…」
「向こうとしては印象深かったんでしょうね…」
私は殆ど覚えてなかったけどね。
「にしても、まさかこの町にアザゼルがいたなんて…」
「知らなかったのか?」
「ええ。お兄様にも聞かされてないわ」
サーゼクスさんの目をも誤魔化していたのか…。
唯のアダルトなおじさまじゃなかったのね。
「白音は知っていたの?」
「はい。マユさんに教えて貰ってましたから」
「知らなかったのは私達だけって事ね…」
あ、落ち込んじゃった。
「お姉ちゃん!何かされてない!?主にセクハラ的な事を!」
「い…いや…。時々電話で話す程度だが…」
「それって殆どイメクラじゃない!」
そこまで言いますか。
って言うか、よくイメクラとか知ってたな。
「それにしても、まさか独断で動いているなんてね…」
「水面下では、未だに三大勢力同士で衝突はしていますからね。先輩に頼むのも当然かもしれません」
「だが、最終的に私が解決すればいいだけで、その過程については何も言われなかった。だから、リアス達が情報収集したりすることは何も問題無いと思う」
「そうね…。なら、今回はお姉ちゃんを手伝う形で解決することにしましょう。私としては堕天使に借りを作っておくのも悪くはないと思うけど、後々の事を考えると、ちょっと躊躇してしまうわね」
リアスも長い目線で物事を考えてるんだな…。
やっぱりサーゼクスさんの妹だよ。
「私もやれる範囲で協力します」
「白音……」
「私や姉様は動物達と話せますから、情報収集ぐらいは出来ます」
マジか……。
動物と話せるって、ちょっと羨ましいな。
私も話してみたいよ。
主にカピバラとか。
「それは嬉しいが、無理だけはするなよ?」
「分かってます。って言うか、そのセリフはそのままマユさんに返します」
「うぐ……」
それを言われると、ぐうの音も出ない…。
その日は、他にも情報交換してから解散した。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
リアス達と校門まで行き、そこで裕斗と別れようとしたら、道の向こうから誰かが走ってきた。
「ん?あれは……」
見た事が無い制服の女子生徒がこっちにやって来ている。
その手には何かを持っているようだ。
「あの制服は、隣町の高校ね」
「誰かしら…?」
女の子は私の所まで来ると、顔を赤らめた状態で私を見つめた。
「あ!貴女はあの時の!」
「げ!あの時の悪魔!」
この顔、羽とかは無いけど、間違いなくレイナーレだ。
なんで制服なんか着てるんだ?
「って!アンタには用は無いのよ!」
「じゃあ、なんだっていうのかしら?」
「そ…それは……」
急にモジモジし始めたレイナーレ。
「きょ…今日はアンタに用があって来たのよ」
「私に?」
何の用だろう?
「その前に!どうやってお姉ちゃんがここの生徒だって知ったのよ!」
「登校時間を見計らって、そっと付けたのよ!そうでもしないと見つけられそうにないし!」
逆切れだよ…。
「とうとうストーカーまで現れるなんて…」
「先輩、これからは登下校も僕が守ります!」
ストーカーって…。
そこまで言わなくてもよくない?
「こ…これ!」
意を決したのか、レイナーレはその手に持っていた小さな袋を私に渡してきた。
「これは?」
「わ…私は…借りは作らない主義なのよ!こんなのでお礼になるとは思ってないけど…でも!何もしないのはもっと嫌だったから!だから…それあげるわ!」
それだけ言うと、レイナーレは元来た道を走って行こうとした。
「って!余りにもいきなりすぎて、普通に話しちゃったわ!」
「そうでしたわ!捕まえないと!」
「あの子は……!?」
「あそこです」
既にレイナーレは結構な距離まで行っていた。
「下級でも堕天使ですわね…」
「これじゃあ、いくら僕でも追いつくのは難しいですね…」
「完全にミスったわ…」
「仕方ないですよ。まさか、人間に化けて向こうから来るなんて、誰も思いませんから」
「その通りだ。次に会った時に事情を聞くなりすればいい」
「そこで『捕まえる』って言わない辺りが、なんともお姉ちゃんらしいわね」
「そうか?」
普通だと思うけど。
対話で解決できるなら、それに越したことは無いと思うけど。
「それで、彼女が渡してきた物ってなんなの?」
「これだが…」
私は、彼女から渡された袋を見せた。
「綺麗にラッピングされた袋ですわね」
「リボンもついてます」
「中身はなんなんでしょうね?」
「開けてみよう」
「ちょっ!罠かもしれないわよ!?」
リアスが注意を促すが、その時には既に袋は開けてしまっていた。
「……何にもないぞ?」
「あれ?私の取り越し苦労?」
「みたいですね」
「中に入っているのは……」
「クッキー?」
そう、袋の中身は上手に作られたクッキーだった。
「ふむ……」
試しにパクリ。
「あ……美味しい」
実に見事なクッキーだ。
これなら普通にお店に置いててもおかしくないレベルだ。
「わ…私も一口いいかしら?」
「出来れば私も…」
「なら、私もいいですか?」
リアス、朱乃、白音にそれぞれクッキーを一枚ずつ渡す。
まだまだ入ってるから大丈夫だ。
「う……確かに美味しいわ…!」
「別に変な魔術が仕掛けてあるわけでもない…。とても美味しいクッキーですわ…」
「……姉様に教えて貰おうかな…」
どうやら、大丈夫だと分かって貰えたようだ。
白音は何か言ってたけど。
「先輩はお菓子が好き…か。勉強してみるか…」
裕斗は何かを決意した目をしてる。
何をする気かは知らないが、新しい事をするのはいいことだ。
結局、その日は何も進展が無いまま、家に帰ることにした。
リアス達はレイナーレを逃がした事とは別の事で悔しそうにしていたけど。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
白音と帰り道を歩いていると、ふと、何かが頭上を通り過ぎようとした。
私は反射的にそれをキャッチした。
「どうしたんですか?」
「これが飛んできた」
私の手の中にあったのは、綺麗なヴェールだった。
「どこから来たんでしょうか?」
ヴェールの事を訝しんでいると、私達の前を歩いていた女の子がいきなりこけた。
「もしかして……」
「あの子の…か?」
私達は早足で彼女の元に急いだ。
よく見ると、その女の子はシスターの格好をしていた。
「はぅぅぅぅぅ……。なんでこうもこけてしまうんでしょうか…?」
どうやらドジっ子のようだ。
ドジっ子シスター…か。
世の大きなお友達が好きそうな女の子だな。
「大丈夫か?」
私が彼女に手を差し伸べると、その手を取ってこちらを見ながら立ち上がった。
「すみません…。ご迷惑をお掛けしてしまって…」
「いや……これぐらいは…」
私が起き上がらせたのは、美しいブロンドの髪が眩しい美少女だった。
なんだか、レイナーレがキャラ崩壊しつつありますね…。
けど、お陰でレイナーレに愛着が尽きつつあります。
もう殆ど、彼女の今後は決定したも同然ですね。
そして、ようやく金髪シスター登場です。
勿論、フラグは立ちます。
では、次回。