予めご了承ください。
この話では独自解釈と暴言もしくは暴論が出るかもしれません。
別に必読ではないので、読みたくないと判断したのなら、別に見て頂けなくても結構です。
そこには何も無かった。
上下左右、天も地も真っ白で、正真正銘の虚無だった。
そんな、本来なら何にも存在しない筈の場所の一角に、明らかな違和感が存在した。
畳が十畳程敷き詰められていて、その上の中央には丸いちゃぶ台が置かれていた。
ちゃぶ台の周りには座布団が二枚置いてあって、他には箪笥、電気ケトル、大型液晶テレビにブルーレイレコーダー、本棚に様々なゲーム機とソフト、携帯電話があって、なんとも生活感に溢れていた。
そこに、一人の少女が座っていた。
彼女は黒い座椅子に座っていて、その前には小さな机、その上には一台のパソコンが設置してあった。
「ふふふ……あれからもう二年か…。本当に時が過ぎるのは早いよねぇ~」
金色のセミロングの髪を靡かせ、純白のワンピースを着ている。
誰もが認める美少女だが、胡坐をかいている為、色々と残念な事になっていた。
「マユちゃんは楽しい学生生活を満喫してるみたいだし、日常生活にも問題は無いみたい。
うん。良きかな良きかな」
少女は嬉しそうにパソコンを操作しながら頷く。
手を伸ばして、ちゃぶ台の上に置いてある器を傍に持ってきて、中に入っている煎餅を一枚頬張る。
バリバリと音を立てながら食べて、その後に傍に置いてあるお茶を飲む。
「ぷは~♡この組み合わせは最強だね~!」
見た目に反して、やっている事は完全にヒキニートである。
そんな彼女の傍に、いきなり人影が出現する。
上下に黒いジャケットを着て、首元にはシルバーのネックレス。
浅黒い肌と白髪をしており、胸元を開けているせいか、男性特有の魅力を演出している。
「全く……いい加減にしないと、本気で太るぞ?ヤっちゃん」
「ぶ~ぶ~!女の子にそんな事を言っちゃいけないんだぞ~!ルー君?」
ヤっちゃんと呼ばれた少女は頬を膨らませて怒っている風を演出しているが、明らかに本気ではない。
そして、ルー君と呼ばれた男は、本気で呆れながら座布団の上に座る。
ルー君は何もない空間から焼酎の入った一升瓶を召喚し、同時にコップも出した。
「あ~!お昼からお酒なんていけないんだ~!」
「俺は魔王だからいいんだよ」
「なにそれズルい!だったら僕もぐうたらする~!何故なら、僕は神様だから!」
「神ならもうちょっと神らしくしろよ…」
ジト目でヤっちゃんを見ながら焼酎をコップに入れ、一口飲む。
「…で?『向こう』の様子はどうなんだ?」
「今のところは問題無いよ。マユちゃんは皆と楽しく暮らしてるし、アラガミも順調に倒している」
「そうか。ま、何も無いに越したことは無いわな」
嬉しそうに微笑みながら、もう一回飲む。
「……なぁ…ヤっちゃん。前々から聞きたいことがあったんだが…」
「ん?なになに~?」
「まず……なんで『英霊』を赤龍帝に選んだ?」
「あ~……それね」
ヤっちゃんは虚空を眺めながらお茶を飲む。
「ルー君なら解ってるとは思うけど、『あの世界』にいる以上、戦うのは決してアラガミだけじゃない」
「まぁな。馬鹿な考えを持つ悪魔や堕天使、神々とも戦うことになるだろうな。それがどうかしたのか?」
「どうやらマユちゃんは僕が想像している以上に堅物みたいでね。…あの子は、アラガミ以外の敵には決して神機を使おうとはしない」
「何?」
そこでルー君の顔が険しくなる。
「あの子はかなり生真面目だからねぇ…。そこら辺の所はきっちりとしたいんだろうね」
「馬鹿な事を…。あれを使えばどんな敵だろうと楽勝だろうに」
ルー君は呆れと怒りを含ませた表情になる。
「だから、神機以外の強力な戦闘手段が必要だった」
「それが英霊の力だと?」
「その通り!」
ヤっちゃんはルー君と同様に虚空からカップ麺を出した。
既にお湯が注がれており、後は3分待つだけだった。
「言いたいことは分かるが、それで連中の歴史を大なり小なり歪ませてしまうとはな…」
「そこは仕方がないんじゃないかな?必要悪ってヤツだよ、きっと」
「どうして、そこまであっさりと言い切れる?」
「神だから!」
「…それさえ言えば全て丸く収まるとか思ってないだろうな?」
「…………テヘペロ♡」
「はぁ……」
頭を抱えながら溜息を吐き、ストレスを解消する為に酒を煽るルー君。
その背中には哀愁が漂っていた。
「で?英霊の選考基準はなんなんだ?」
「基本的には僕の独断と偏見なんだけど……」
「他にもあるのか?」
「将来的な有用性……かな?」
「将来……?」
ヤっちゃんとは違い、ルー君には未来が見えていない為、話の筋が見えない。
「まず、ネロちゃんは単純にトータルバランスが優れているから。これはデカいよ」
「理解は出来る。が、他にも優秀な剣士はいくらでもいると思うが?円卓の騎士とかが最たる例だろう」
「それも分かるけど、彼等は有名すぎる上に切り札がバレバレだ。その気になれば聖剣対策なんていくらでも出来るしね」
「う…うむ…」
「それに、生真面目すぎてマユちゃんには合わないでしょ?多少はフランクなぐらいが丁度いいって」
「そんなもんか…?」
腕組をしながら首を捻るルー君。
「ならば、玉藻の前はなんで選んだ?あいつは人間ですらないぞ?」
「ああ。そこにはちゃんとした理由があるんだよ」
「ほぅ?どんな?」
少しだけ真剣な顔になると、ヤっちゃんは座り直して正座になった。
「知ってるとは思うけど、悪魔、天使、堕天使の連中の殆どは西洋魔術を駆使する。僕達だって例外じゃないしね」
「だな」
「けど、彼女が使用するのは魔術では無くて『呪術』。読んで字の如く『呪い』の『術』だ」
「呪い…か」
「そこにある物を組み替えるの術が『魔術』で、自身の身体を素材にして組み替える術が『呪術』。似てるようで、この二つは根本的に違うんだよ。だからこそ、この力が重要になってくる」
「具体的には?」
「アホな上級悪魔や上級堕天使なんかは、呆れるほどに自尊心の塊だ。連中は相手が呪術を使うなんて思いもしないだろうね。だから、玉藻ちゃんの力はそんな連中に対する強力なカウンターパンチになるんだよ」
「そこまで考えているとはな…」
普段はおちゃらけているヤっちゃんの真面目な一面を見て、珍しく感心してしまった。
「では、李書文とフランシス・ドレイクはなんでだ?」
「アサシン先生は単純に強いから。同じ枠で佐々木小次郎も考えたんだけど、一応あの人って架空の人物じゃない?流石に架空の存在は無いかなって」
「なら、ドレイクは?」
「外見が好きだから」
「それだけ!?」
「それだけ~」
少しでも感心した自分がバカバカしくなったルー君だった。
「な…ならばエリザベート・バートリーは!?あいつは完全に悪人だろう!」
「え?だって可愛いじゃん」
「また見た目か!?」
「いやいやいや。流石にそれだけじゃないよ」
「ならなんだ?」
途端にヤっちゃんの顔がにやけた。
「あ、出来た」
「カップ麺はいいから、早く説明してくれ!」
「わかったよ~。ちょっとだけ待ってよ」
ずるずると麺を啜るヤっちゃん。
その顔はとても幸せそうだった。
「一杯150円のカップ麺で幸せを噛み締める神って…」
「真昼間から飲酒する魔王に言われたくはありませんよ~だ」
可愛らしく舌を出しながら顔を赤らめるヤっちゃん。
完全に『リア充爆発しろ』状態である。
「あの子の力…正確には宝具が必ず必要になる局面が出てくるんだよ。その時の為さ」
「よくは分からんが……ちゃんとした理由はあるんだな?」
「勿論!」
「そうか…。同じ槍使いなら、どうしてクー・フーリンとかディルムッド・オディナとかヴラドⅢ世とかを選ばなかったのか疑問だったが…」
「いや、いくら強くてもさ、最終的に自害しちゃ意味無いじゃん。アイツ等基本的に運無いし」
「それが本音か!?運が無いのは李書文も同じだろ!?」
「あの人はいいの!」
「なんつー我儘な神だ…」
空になったコップに焼酎を注ぎ直すルー君。
それを、そのまま一気に飲み干す。
「ならば、ヴラドⅢ世は…」
「髭はいりません」
「偏見!?」
まさかの髭発言にツッコミせずにはいられなかったルー君だった。
「一応聞いておくが…呂布は?ヘラクレスやランスロットじゃ駄目なのか?」
「五月蠅いマッチョと静かなマッチョなら、静かな方を選ぶでしょ?後、根暗な騎士はお帰り下さい」
「お前今、確実に円卓の騎士のファンを全員敵に回したぞ!?」
「そんなの気にしてちゃ、神なんて出来ないって」
「どこまでフリーダムなんだ…」
ツッコみ疲れたのか、ルー君は虚空からつまみである枝豆を出してつまみ出した。
「もう言うもの疲れたが…エミヤとギルガメッシュは……」
「転生者のお約束特典と言えば、やっぱり『
「そんな事だと思ったわ!」
はぁ…はぁ…と肩で息をするルー君。
その額には少しだけ汗が見えた。
「根本的な事を聞くが…どうしてあの転生者を赤龍帝にした?」
「転生者はチートやってなんぼでしょ?」
「神機使いである時点で充分過ぎるぐらいにチートだと思うがな…」
「念には念を入れて…だよ。さっきも言ったけど、敵はアラガミだけとは限らないんだからさ」
「それはそうだが……」
理解はしても納得はしていない、そんな感じだった。
「にしても…どうしていきなりアラガミなんて連中が出現したんだろうな…」
「そこはまだ調査中。詳しい事は分からない。分かってるのは、あいつ等が別世界…つまり、アラガミ達が本来いる世界から来ているって事ぐらいかな?」
「だからこそ、俺達は向こうの世界を歪めない為に転生者を使ったんだったな」
「うん。下手にあの世界から誰かを連れてくれば、それだけで大きな歪みになるからね。それだけは絶対に避けないと」
「そうだな」
二人は互いに納得するように頷いた。
「ま、悪い事ばかりじゃなかったけどね」
「と言うと?」
「どさくさに紛れて、こうして隠居出来たじゃない」
「そうだな」
二人は寄り添うように座り直した。
「まさか、あの子達も夢にも思わないだろうね。本来なら敵対関係にある筈の『神』と『魔王』が実は相思相愛だったなんて」
「あの頃は表向きは敵視しなければいけなかったからな。あれは辛かった…」
「僕もだよ。けど、もうそんなことは無い」
「ああ……」
ヤっちゃんはルー君の肩に頭を乗せる。
「にしても困るよね~。僕達が密かに和平を進めてきたって言うのに、コカビエルを始めとした一部の馬鹿な堕天使達や戦争肯定派の悪魔達のせいで、しなくてもいい戦争になるんだから」
「そのせいで二天龍に襲われ、その上アラガミの乱入まで許してしまった」
「その辺りはマユちゃんがなんとかしてくれたけどね?」
「そこら辺は感謝だな。だからこそ、その働きに俺達は全力で応えなくてはいけない」
「分かってるって」
可愛らしくウィンクするヤっちゃん。
思わずドキッとしてしまうルー君だった。
「そう言えば、どうして自分の事を『足長おじさん』なんて名乗ったんだ?お前は女だろう」
「その方がなんとなく謎っぽく見えるかなって。それに……」
「それに?」
「こうして協力関係にある以上、お互いに下手な疑いは無い方がいいじゃない?」
「バインドスペル…か?」
「さぁね?」
ヤっちゃんはルー君から離れて、再びパソコンの前に座った。
「次は何をするんだ?」
「取り敢えずは、白音ちゃんの入学手続きかな?」
「あの猫姉妹の妹の方か」
「いくらあそこが平行世界とは言え、可能な限りは『
「もうかなり違っているがな」
「別にいいじゃない。それが
「メタ発言はよせ」
「それが出来るのも、神の特権だよ」
ヤっちゃんの笑顔を見て、徐にルー君は立ち上がった。
「あんまり無理はするなよ?いくら神とは言え、疲れが溜まらない訳じゃないんだからな?」
「わかってま~す」
ヤっちゃんは陽気に答える。
そんな彼女にルー君は近づき、その額にキスをした。
「……っ!」
「んじゃ、俺はひと眠りするわ」
「う…うん…」
ルー君は畳から降りて歩いて行くと、次の瞬間に姿を消した。
「さて…と。私もお仕事しないと…」
ヤっちゃんはパソコンに向き合って、また作業を開始した。
こうして、誰も知らない場所で人知れず世界は回っていく。
それがどこに向かうかは、誰にも分からない。
勿論、この二人にも……。
ある意味、ネタバレ祭りでしたね。
一応、補完の意味も兼ねていたんですが…。
これで良かったのかは全く分かりません。
私の拙い頭で考えた事ですので、絶対にどこかに矛盾や穴があるに違いないでしょう。
その場合は、オブラートに包んで教えて欲しいです。
次からはようやく原作開始の予定です。
では、次回。