IS~鉄の華~   作:レスト00

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久方ぶりの投稿です。
早く戦闘シーンを書きたいです。


一話

 

 

 天井や壁のある場所で動くのは、やけに狭苦しく感じる。

 それが三日月の忌憚のない感想であった。

 大型輸送船の中にある、大きめなグラウンドよりも広い空間で三日月は整備と微調整を繰り返す、自身の機体の試験運転を行っていた。

 これまでEOSで行っていた地表での二次元的な機動から、IS特有の三次元機動まで多種多様な動きを行っていく三日月。

 限定的な空間であることに対してストレスがないといえば嘘になるが、日々改修されていく機体への不満が少しずつ無くなっていくことに達成感がないといえばそれもまた嘘になる。

 これまで兵士として生きてきた三日月にとって、それは生まれて初めての向上心と成果に対する満足感を得ることのできる作業であった。

 機体の改修を始めてから、その機体も姿を変えていく。

 最初はEOSとISのパーツをツギハギされ、無理矢理纏められていた印象を受けるのに対し、今は曲面と直線で構成されデザインを調和された一つの作品という印象を受ける外観となっていた。

 ハード面が調整されていくと同時に、ソフト面も余分なデータを削ったり圧縮したりすることで阿頼耶識による三日月への負担は減っていく。すると、そこからは阿頼耶識システムの本領発揮であった。

 これまで感覚的に動かすことが当たり前であった三日月にとって、違和感のない機体はEOSと同じかそれ以上に馴染んだのだ。機体スペックの違いはあったが、それは慣熟のための操縦を続けるだけでアジャストさせることができるため、あとは時間の問題であった。

 

「坊やは今日もやっているのかい?」

 

「アミダさん」

 

 三日月の慣熟操縦のデータ取りをしているモニタリング室で、その作業を行っていたビスケットは入室し、声をかけてきた褐色肌の女性――――アミダ・アルカの方に向き直った。

 

「活きがイイね。うちの若い連中も触発されてたよ」

 

「それはなんていうか…………あのぅ」

 

 あまり女性と話した経験のないビスケットは彼女の世間話になんと答えればいいのか分からずに苦笑いをするしかなかった。

 それから何拍か開けると、ビスケットは意を決したようにアミダに話しかける。それでも言葉は尻すぼみになってしまったが。

 

「ん?」

 

「えっと、僕たちの都合に合わせてくださって本当にありがとうございます」

 

 そう言ってビスケットはトレードマークの帽子を脱いでから頭を下げる。

 まだ子供らしさが抜けきれていない少年が、大人を真似して礼儀正しく頭を下げるその姿は率直に言ってアンバランスであった。

 だが、その精一杯の背伸びがどこか可愛らしくもあり、アミダはその頬を緩める。

 

「お礼を言う相手を間違っているよ。今回のことはアンタたちの頭であるオルガ・イツカと私たちの頭である名瀬・タービンが話し合った結果だ。お礼を言うのならそのどっちかに言うべきだね」

 

「それでも、僕たちはここの人たちに良くしてもらっています。それにオルガの提案通り、三日月を含めた学園組と、タービンズに残るメンバー、それとそれ以外の人たちの預け先も融通してもらっていますし……」

 

 アミダはそのビスケットの言葉で先の格納庫でのオルガと名瀬とのやり取りを思い出す。

 あの、三日月が目覚めた時に行った、オルガと名瀬の話し合いの結果、保護されたメンバーは独立できるまでの保護をタービンズが行い、そして世間にその存在を知られてしまった三日月は、その特異な機体とともにIS学園で最低でも三年間を過ごすこととなったのだ。

 もちろん、保護した子供を全て引き受ける余裕はタービンズにはないため、幾らかのグループに分けタービンズに繋がりのある団体や個人に預けられることにはなってしまったが、交渉材料が三日月とIS擬きしかないオルガたちにとってこれは破格の交渉の成果と言えた。

 そして、三日月一人でIS学園に行くには不安が残ったため、三日月と一緒にビスケットと保護された中で数少ない女の子であるアトラやビスケットの妹であるクッキーとクラッカ、そして整備関係で雪之丞が付いていくことになっていた。

 

「まぁ、ウチは子供からゆするほど金に困っちゃいないからね。それに恩義を感じているのなら、早く一人前になって恩返しをしてご覧な」

 

 そう言うと、アミダはビスケットの肩を二、三度叩いてやると、モニターに映されている三日月の様子を改めて見やる。

 

『舐めんなあ!』

 

『仕掛けたのはアンタだ』

 

 そこには、いつの間にか乱入した自身の教え子であり娘のような家族が、タービンズの保有する二機のISの内の一機に乗り込み、三日月と白熱したチャンバラを演じている姿があった。

 そんな一幕があった同時刻、三日月たちの目的地であるIS学園では色々と騒がしくなりそうな新学期に向け様々な準備に追われていた。

 新学期に向け、学生はよりはっきりとした進路や活動のために制約の多い学園の規則を守りつつ、知識や技術、技量を溜め込む作業を行っていく。

 そして長期休暇である春休みであるにもかかわらず、平日と同じ活気を生み出す学生以上に忙しいのは教師である。

 先の某国でのISを使用した紛争についての問い合わせが、IS事業に関する対外的な最高機関であるはずのIS委員会だけではなく、何故かここIS学園にも来ているのである。

 そして、それの対応に加え、先日まで行方不明扱いであり、各国が血眼になって探していたIS擬きを操縦する男性の安否と居場所、更には学園への入学という余計なおまけまでつけてハッキリしたその情報に、教師陣は誰に向ければいいのかも分からない殺気を滾らせることになった。

 元々、“今年見つかった、世界初のISの男性操縦者”についての対応で既にきりきり舞いであったのに、降って湧いたようなその事態にIS学園の教師陣は新しい就職先を見つける方がいいかもしれないと思い始めていたりする。

 そして、どこかおちゃらけた雰囲気で、二人目の男の入学についての報告をしてきた生徒会長は元世界最強に制裁を加えられたとか。

 

閑話休題

 

 とにもかくにも、尽きることがないと思われた書類の山を何とか崩しきり、後は入学式の設営などの準備のみという状況までこぎ着け、一日二日の猶予を自分たちの手で掴み取った教師陣は、打ち上げもそこそこに個人個人で数少ない休暇を過ごすこととなった。

 その教師の中で、自身の家には戻らず、IS学園の寮での自室でゆっくり過ごす一人の女性がいた。

 それは、IS学園の中で最も著名な人物であり、この時代で色々な意味で影響力の強い人間のうちの一人である織斑千冬であった。

 精神的な疲労と寝不足から、いつもより鈍化した舌が好物のビールを美味く感じさせないことを残念に思いながら、さっさと寝てしまおうと寝床に移動しようとする。そうして、腰をあげようとしたちょうどその時、着信を告げる電子音が卓上に置いておいた液晶端末から流れ始めた。

 

「……誰だ?」

 

 学園関係の人間からであれば、部屋に備え付けの外線から連絡が来るので、その着信の相手が自身のプライベートアドレスを知っているということになる。

 そして、この時期に電話をかけてくる相手は、自身の知り合いの中に誰かいたか?と自問自答する千冬。

 真っ先に思い浮かんだのは兎耳を付けている腐れ縁の幼馴染であるが、先日わざわざ向こうから一度かけてきているため、こんなに短いスパンでかけてくる事はないと切り捨てる。

 

「……もしもし?」

 

 とにかくでなければ話にならんと結論付け、彼女は受信のボタンを押す。

 そして、応答したあとに日本語が通じる相手なのか?と思いもしたが、向こうからかけてきたのだから、こちらに合わせるのが当然かと考える。

 

『久しぶりになるかい?チフユ。元気のあるような声には聞こえないけれど、今大丈夫かい?』

 

「――――」

 

 声を出すことができなかった。

 先程まで感じていた疲れや眠気は吹き飛び、液晶に映し出されたその女性から目を離せなくなる。

 

「……なん、で」

 

 凍ったように硬くなった口を無理やり動かして声を出す。ここまで緊張したのはこのIS学園で初めての経験であった。

 何故なら、画面の向こう側に映るのは、彼女にとって一番話したくて、そして最も顔を合わせることのできない人物であったのだから。

 

「――――アミダ」

 

 液晶に映し出されたのは、今現在三日月たちと行動を共にしているタービンズのメンバーであり、織斑千冬にとっての旧知の間柄である褐色の肌が特徴的な女性であった。

 名前を読んだ千冬は、液晶に映し出されたアミダの顔から下の部分を自然と視線を移してしまう。

 そこにあったのは胸から下腹部にかけて伸びる傷跡。液晶に映し出されているのはあくまでバストアップ画像であるため、その下腹部までは見えないが、その傷がどのような形なのか、千冬はありありと想像できてしまう。

 何故ならその傷は、千冬がアミダに負わせ、そして奪ったモノである証なのだから。

 

『チフユ、今あんたIS学園に居るんだろ?』

 

「あ?ええ、まぁ」

 

 千冬の視線に気付かないふりをしつつ、アミダは話を切り出す。

 その気遣いに千冬は不甲斐なさや申し訳なさ、そして気恥かしさを覚えつつ返答を返す。

 

『少しアンタに報告とお願いがあってね』

 

 その言葉を皮切りにアミダはその“お願い”を切り出す。

 その内容を聞き、千冬は個人的な厄介事を抱えることになるが、昼間に行っていた学園の仕事とは比べ物にならないやりがいを覚えることになるのを、今の彼女は知らなかった。

 

 

 

 

 





ちなみにタービンズの保有する二機のISは百錬と辟邪

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