IS~鉄の華~   作:レスト00

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読者の皆様お待たせして申し訳ありません。久方ぶりの投稿です。

今回もある意味で臨海学校の導入部になります。
この臨海学校編で、色々と伏線の回収をするつもりなのですが、文章を書く上で色々とチェックしつつの投稿なので、更新速度がかなり落ちます。
なので、申し訳ないのですが、気長にお待ちください。
ではどうぞ。


五十一話

 

 

 高校生のバス移動と言えば、どういった車内を想像するだろうか?

 一般的な高校であれば、遊んだり、おやつを食べたり、歌を歌ったりと、どこか騒がしい印象がある。だがしかし、IS学園のバス移動はあまり当てはまらない。

 そういった生徒がまったく居ないというわけではないが、普段の忙しい学生生活の疲れからか眠る者や、授業の復習をする者。そして、これから向かう先で行われる専用機の試作装備のカタログスペックをチェックする者など、騒がしさからは程遠い風景が大型のバスの中にはあった。

 

「それにしても良かったんですか?今回の臨海学校に僕たち兄妹も同行して?」

 

 車内の一角で、そんな質問を投げたのは女性だらけの車内で、数少ない二人の男性の内の一人であるビスケットである。彼の後ろの席には、言葉通り二人の妹が座っていた。とはいえ、久しぶりの外出ということで、前日にあまり眠れなかったのか、今は二人仲良く寝息を立てているが。

 

「気にしなくても大丈夫ですよ。ビスケットさんたちが普段は学園の事務仕事も行っていることは今の学年の皆さんは知っていますから、特に不満を持つ人はいませんよ」

 

 彼の問いを受け取り、返事をしたのは隣に座る真耶であった。

 彼らがバス移動をしているのは、IS学園の年間行事の一つである臨海学校のためである。普通の学校での臨海学校は、学校では習えない自然の中で過ごすことで必要な知識を、実体験を交えて学習するというものである。

 そしてもちろんであるが、IS学園はその限りではない。

 アリーナだけでなく、海などの特殊環境でのISの運用をどのように行うかを習う――――という名目での生徒たちのガス抜きが目的であったりする。

 正直な話、ISの運用を学習するのであれば、IS学園以上の場所など存在しないのである。海という特殊環境も、学園自体が人工島であるのですぐ横が海なので、移動すること事態がそもそも無意味であったりする。

 ならば何故、この行事があるのかと言えば、前述した通り生徒たちのガス抜きであった。

 IS学園という研究機関に近い教育機関に通う生徒は、一人残らずエリートと言っても差しさわりのない能力があり、人物によっては大人顔負けの技能を持っている人間もいる。しかし、能力があったとしても、実際の所彼女たちは未だ十代の少女なのだ。

 なので、時々は学園の外で活動させることで、溜まっている鬱憤を発散させ、学習効率を上げるというのが本音であった。

 

「それに今回のようにしっかりとした安全確保をしたうえでの外出の機会はそうそうありませんし……」

 

 以前の誘拐事件の事を匂わせる発言を敢えて自分から発言する真耶。前回の事件で、唯一肉体的被害を受けた彼女がそれを切り出すことで、その事について気遣うことをしなくても良いというサインをビスケットに送る。

 

「――ありがとうございます」

 

 そういった彼女の気遣いなどは、色々とビスケットには筒抜けであったが、その優しさに甘えると同時に、下手に気遣うのは逆に失礼と思い、それに乗っかることにした彼は感謝の言葉を返した。

 

(ふむ……ああいうのを日本ではオシドリ夫婦というのであったか?)

 

 少し離れた位置でその会話が聞こえていたラウラは、手元のタブレットの画面から目を離すことなくそんなことを思っていた。

 彼女がタブレットで閲覧しているのは、今回の臨海学校に合わせ、ドイツから送られてくる試作装備の概要と取り扱い説明を纏めたデータである。

 バスに乗るなり、そんなデータを見始めたラウラに隣に座った生徒はギョッとし、早々に狸寝入りを決め込んでいたりする。もっとも、ラウラからすれば機密の高いデータをこんな公の場で見るようなことはしていない。その辺りの分別はしっかりしているのだが、傍から見てそれを把握できるかどうかは別である。

 

「……鉄華団が世界に影響を与えているとは思っていたが、こんなものにまで関わってくるのか?」

 

 画面の中には『質量こそ正義だ』と言わんばかりの大剣が表示されており、武装名のところには『要塞殺し』と書かれていた。

 

「本国の連中はいったい何を考えているのやら……」

 

 ハイテクに頼った武装が脚光を浴びる中で、時代に逆行するような戦闘をするバルバトスやグシオンの映像は各国に様々な波紋を広げた。

 時代が一周したとはまだ言えないが、一昔前の武装が現代でも通用するというのは大きな意味を持つ。何せ、その武装一つ一つに掛かるコストが安く済むのだから。

 もちろん、それは一般人からすれば高額なのだが、最新鋭の装備と比べればその差は雲泥と言っても過言ではない。

 

「しかも、レーゲンのAICとPICの使用が前提だと?……ちょっとまて、そもそもコレはIS用なのか?」

 

 概要を読み進めていくうちに膨れ上がっていく疑問と疑念に、彼女は自然と口から言葉が漏れていく。

 

(あー……あー……聞こえな―い)

 

 クラスの中では搭乗者志望であり、普段からラウラとそれなりに意見交換をしている狸寝入り少女は内心で無関心を装うのに必死であった。学園生活では、軍隊生活とのギャップについてラウラに頼りにされることもある彼女であるが、ヤバい話に巻き込まれるのはごめん被りたかった。

 その顔色が青くなり始め、その事にラウラが気付き慌て始めるのは、目的地に到着する五分前の事である。彼女の苦難はもう少し続く。

 そんなあれやこれやが静かに起こりつつ、目的地である海沿いの旅館に到着し、荷物を下ろすころにビスケットに近づく人がいた。

 

「グリフォン君、今後のそちらの予定を一応確認したいのだがよろしいか?」

 

 それは今回の臨海学校における引率の代表である千冬であった。

 千冬は内心で、生徒ではないビスケットをどう呼ぶのかを考えたが、無難に苗字に君付けで呼ぶという結論がすぐに出た。しかし、普段の彼女のお堅く、厳しい態度しか知らない生徒からすれば、そんな千冬の言葉に只々驚いていたが。

 

「あ、わかりました。二人の荷物を置いてくるので、それまで待っていただいてもよろしいですか?」

 

「お兄ちゃん!荷物くらいなら、私たちが運ぶよ!」

 

「そうだよ!お仕事のお相手を待たせちゃ駄目だよ!」

 

 バスの中で寝たことで、年相応の元気を取り戻したクッキーとクラッカ。二人は片手でそれぞれの荷物を持ち、空いた方の手でビスケットの荷物を二人で持ち上げると、なかなか目にすることのない純和風な旅館に向けて駆けていく。

 

「ふ、二人とも!走ったら危ないですよ!」

 

 その後を真耶はまるで保護者のように付いていくのであった。

 

「ア、 アハハ……妹がすみません」

 

「いや、元気そうで何よりだ」

 

 その微笑ましい光景に、笑うしかない二人であった。

 

「予定の方は搬入班と三日月たちのことも纏めて確認しますので、できれば室内で話をさせてください」

 

 笑顔を引っ込め、仕事の意識に切り替えたビスケット。彼がまず行ったのは炎天下の駐車場からの移動の提案であった。

 今現在の日本は既に、海開きが終わっており、海で泳ぐには最適の環境になっているのだが、それは逆に言えば日射病や熱中症の危険もあるということであった。

 

「そうか……いや、すまんな。気が逸っているようだ」

 

 気恥ずかしいのか、彼の言葉に対し目線を逸らしながら千冬は、ビスケットを連れたって旅館に足を向けた。

 

「……あまり長々と話をするつもりは無い。早々に切り上げて、君も自由にしてくれて構わない」

 

 道中、沈黙に耐えきれなかったのか、千冬はビスケットに話しかける。

 その内容はこの後の彼の予定についてであった。

 臨海学校の初日は移動で午前中のほとんどを使うが、午後は基本的に自由時間となっている。これはISの運用について学習をする場合、長丁場になるため中途半端なことをさせるより、十分に休息を取らせ、翌日に長時間の活動してもらうという考えがあるからである。

 教員も下準備の期間を十分に取れ、且つ休息も取れるために言うことは特になかった。

 

「いつも、お気遣いありがとうございます」

 

「……感謝をするのであれば、その分妹たちと接してあげなさい」

 

 教員としてでは無く、血を分けた家族の居る年上のアドバイスとして、千冬は言葉を返す。その内容は、自分があまりできていなかった事であったからこそ出てきた言葉。それを自覚している彼女は、暗い雰囲気にならないように言葉を続ける。

 

「山田君も君を待っているだろう。やらなければならないことは早く済ませよう」

 

「ぶっ!?」

 

 思わず吹き出すビスケット。それも無理はない。何故なら、真耶と良い仲になりつつあることを千冬に言われるとは思わなかったのだ。

 そのビスケットの反応に、千冬は不思議そうに首を傾げた。

 

「君たちは付き合っていると聞いたのだが……違うのか?」

 

 唐変木と言われてきた一夏とは、また違った鈍感さを見せる千冬にビスケットは赤面し、口をパクパクと開閉させることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 





おまけ

~IS学園食堂~

虚「はぁ……どうして、授業そっちのけで生徒会の仕事をしているのでしょうか、私は……まぁ、カリキュラムはほぼ終わっていますけど……」

弾「あの」

虚「はい?」

弾「これ、良かったら」

虚「え?」

弾「試作で作った南瓜のプリンと緑茶です」

虚「どうして……」

弾「最近此処で書類整理していたのがよく見えたので。自分に対するご褒美だと思って受け取ってください」

虚「えっと、お代は」

弾「それは普段の貴女の頑張りってことで…………それだと足りなさそうなので、今度からは試作のデザートを作ったら受け取ってくださいますか?」

虚(え、優しい)



というわけで、臨海学校中の裏では、弾がしっかりラブコメしています。
弾がナンパっぽく見えますが、今回は下心ゼロで、心配度MAXです。だって、授業時間のはずなのに、食堂で一人書類作業をしている女生徒が疲れ切った顔していれば普通は心配しますよね?


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