IS~鉄の華~   作:レスト00

52 / 57
更新です。
今回は少し短めです。話の展開的に、都合のいいところで切りました。


四十七話

 

 

 観客のほぼいないアリーナ内で、火花が爆ぜる。

 二度、三度…………何度も続き、数えるのが億劫になってくる頃、空気を裂き、叩くような音が鳴り、再び火花が爆ぜ、硬質な音が響く。

 試合――――というよりは、私闘といった方がしっくりくるその戦いは、始まってから既に十分ほどの時間が過ぎていた。

 

「どういうつもりだ、アミダ!」

 

 声を張り上げながらも、自身が乗っている機体――――打鉄・カスタムパック装備の操縦は怠らない千冬。むしろそれぐらいできなければブリュンヒルデどころか、IS操縦者としては落第点だ。

 

「さっき言っただろうに!アンタの情けない面を引っぱたくってさ!」

 

 千冬が、カスタムパックの装備である鞘付きの日本刀を納刀し、半身に構える。

 それを視認した瞬間、アミダは迷わず、自機である百錬のブースターに火を入れ、正面から突貫した。

 千冬の事を知っている人間であれば、それを見た瞬間アミダの正気を疑うであろう光景。しかし、生憎とアミダも普通とは言い辛いほどの操縦者の一角に居た。

 

「あの頃の強気なアンタじゃなければさあ!」

 

 どこか楽しそうに大声を張り上げ、突貫するアミダは、間合いに入った瞬間、ブースターとスラスター、そして各部アポジモーターの操作に全神経を集中させる。

 細かく、そして一方向に向け噴射のタイミングを合わせる。

 すると、ハイパーセンサーと集中力がスローに見せてくる最速の居合い切りを、彼女は紙一重の距離で悠々と避けた。

 

「踏み込みがあまいじゃないのさ!」

 

 すれ違うようになった機体を即座に振り向かせ、同じように距離を詰める二人。

 居合いからの二の太刀を片刃式ブレードで受け止めつつ、距離を詰め、アサルトライフルの銃口をがら空きになった千冬の胴体に押し付けるアミダ。

 引き金を引くのに躊躇いは無い。

 

「ぐぅっ」

 

 痛みはともかく、衝撃が身体を抜ける感覚に苦悶の声が漏れた。

 だが、それでも千冬は受け止められた刀を引き切る。

 火花と異音が散り、片刃式ブレードを断ち切り、そのまま機体の方まで切ろうとするが、その時には既にアミダは刀の間合いから離脱していた。

 

「失ったシールドエネルギーと奪った武装のつり合いが取れていないなっ」

 

 歯噛みしながら、開いた距離を活かし即座に回避軌道を取る千冬。そして、改めて対戦相手に目を向けると、その顔には笑みが刻まれていた。

 

「さっきよりはいい顔になったじゃないか。でもまだ足りないね!」

 

 アサルトライフルの弾をバラまきながら、距離を詰めようとするアミダ。彼女の軌道をハイパーセンサーを通し意識で追いながら、千冬は今回の試合を何故彼女が行おうとしているのかを必死に考えていた。

 何せ、千冬にとっては、アミダと試合する心当たりなど、“たった一つ”しかない。だが、それが理由だとするのであれば、こんな清々しい顔で彼女が試合をしているわけがないのだ。

 

「アミダ!恨みで戦ってないとしたら、この試合は一体なんだ?!」

 

「一々、聞いてくるなんてガキかアンタは!」

 

 元々考えることが得意な方ではないと自覚している千冬は、素直に疑問を吐き出す。生憎と、それの返答は怒声と輪胴式グレネードランチャーの弾であったが。

 

「分からんものは分からん!そもそもお前と戦う理由が、その傷以外に何がある!」

 

 弾幕を抜け、弾頭を切り捨て、持っていた鞘でアミダの携帯火器を両方とも叩き落す。

 アミダが格納領域から新しい得物を取り出すのと、千冬が納刀し居合いの構えを取るのはほぼ同時であった。

 

「それを抱え込んでいるのはアンタだけさね!アンタがアタシを不幸にしたとでも思っているのなら自惚れもいいところだ!」

 

 先ほどよりも鋭く、速い斬撃が走った。

 甲高い音と共に、刃が百錬の装甲に食い込み、断ち切られた装甲の残骸がアリーナの芝生に向かって落ちていく。

 

(切れない?!)

 

 カスタムパックの刀は、学園が支給しているブレードと比べ遥かに切れ味は上だ。もちろん零落白夜を発動した雪片には劣るが、十分に業物と言っていいものである。

 それを使って、刃を食い込ませることしかできなかったことに、千冬は少なからず動揺した。

 

「コレはそうそう切れるもんじゃないよ!」

 

 アミダが展開したのは武装というには、余りにもISというものには不似合いの代物であった。表面が丸みを帯びたガントレット。それが彼女が左腕に展開したものであり、千冬の居合い切りを止めた原因である。

 

「坊やたちじゃないけどさあ!」

 

 千冬の一瞬の動揺の内に、アミダは右腕に同じガントレットを装備し、振りかぶっていた。

 

「――――」

 

 それを認識した瞬間、千冬の手は動き始めていた。

 片手で刀の柄頭を叩き、力任せに刃を滑らせる。すると、食い込んでいた部分が切れ、刀が百錬の装甲から外れた。

 あとは離脱するだけであったが、それよりも振り下ろされた拳の方が早い。

 

「この傷は私が背負ったモノだ!それをアンタにくれてやるつもりは無いさ!」

 

 千冬の頬に拳が叩き込まれ、姿勢が崩れた。

 

「っ、ふざけるな!その傷を!――――お前の子供を奪ったのは間違いなく私の罪だろう!それを気にするなとでもいうつもりか?!お前は私を命を軽んじる化け物にでもしたいのか!」

 

 千冬が吼えた。

 彼女の言うように、アミダの腹部に走る大きな傷。それは二人が選手としてISの操縦者をしていたころの試合でできたものであった。

 そして、その怪我により、アミダはお腹の中にいた名瀬との子供を失うこととなったのだ。

 妊娠が発覚し、引退を決めてすぐの事であった。

 

「それを言い訳に、アンタはできることをしなくなったのかい!」

 

 追撃で拳を更に振るうアミダであったが、千冬が刀を捨て絡めとるように腕を取り、百錬の推力を誘導するように体勢を入れ替え、放り投げたことで二機の距離が開く。

 

「鉄華団のあの子たちがここに来てから、アンタがやってきた事はそれなりに聞いたよ。IS学園の教師としては立派にやってると思うよ。だがね!」

 

 捨てられた刀を拾うと、それを千冬に向けて投げる。

 だが、それは投げつけるというよりも、投げ渡すようで千冬はそれを掴んで止めた。

 

「どうして襲撃の時にISに乗らない?何故、委員会や各国のお偉方に自分の名を使って牽制をしない?」

 

「それは――――」

 

 “実質的な権力を持っているわけではない”とは言葉にできなかった。

 そして、そのことを千冬は自覚していたのだ。“どうして、自分から動かないのだ?”と。

 彼女は自身のブリュンヒルデとしての功績や力を他人に振るうのを嫌っている節がある。それは自身の感性が権力を笠に着て、その力を振るうことが悪いことであると思っているからだ。

 それは間違っていないが、それは言い訳にしかならない。

 何故なら、彼女はかつて、“守りたいモノの為に地位と力を求めた”のだから。

 

「アンタは怖くなったんだ。自身が持つ力とそれが起こす影響力が」

 

 図星であった。

 自分が必死に見ようとせず、綺麗な言葉で塗り固めた言い訳で隠した自身の弱さを曝される。そう思うと、恥ずかしさが込み上げた。

 

「それを悪いとは言わないけどね。でも、ならどうして、アンタは此処に……IS学園にいる?何故、あの時、あの子たちを助けることを手伝うのを了承した?」

 

 投げかけられる言葉が身を切り、自身の足場が脆くなる錯覚を千冬は覚える。

 

「どうしてアンタは逃げなかった?」

 

 喋ることが難しいと感じたのは、生まれて初めての経験であった。

 

 

 

 

 

 





ということで、二人の試合でした。
生身はともかく、操縦者としての技量は二人ともどっこいどっこいです。


作者の見解になってしまいますが、千冬というキャラクターは『超人に見せようとして背伸びをしている女性』というイメージが強いです。相方が天災だったというのと、周りからそうであることを求めた結果そうなってしまったという印象があるんですね。
なので、一回でも挫折を経験すると、変な方向に拗らせるかなと思って今回のような展開にしました。
これまでの騒動で、どうして学園の最高戦力である彼女が指揮を他の教員に任せなかったのかとか、そのあたりの彼女の心情を次回書く予定です。
説得力があるかはわかりませんが、読めるように頑張らせていただきます。


今更ながら、生々しい感情の描写って難しいですね(笑)



没案(?)

「なんのつもりだアミダ!」

「貴様らは正しいのか?」

「何?!」

「貴様らは正しいのかと訊いている!!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。