IS~鉄の華~   作:レスト00

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皆さま明けましておめでとうございます。
昨年はもう一話上げるといっておきながら、既に二月になってしまいました。
ぶっちゃけ、飲食店(ちょっと高級な食事処)の新年会と忘年会の忙しさ舐めてました。


今回は少し強引な展開ですけど、この試合は絶対行いたかったので入れておきます。


四十二話

 

 一年の部が決勝を終え、残りは二年と三年のトーナメントが終わるのを待つばかりとなる筈であったアリーナ。しかし、そこにはまだはち切れんばかりの満員の観客たちがひしめき合っていた。

 その光景をアリーナに併設されている格納庫兼整備室でぼんやりと眺める三日月の姿があった。

 その、いつも通りマイペースな姿に苦笑を零しそうなビスケットは、整備用の電子タブレットで機体のチェックをしつつ、弾薬の補給や微調整のためにバルバトスの装甲を展開させていく。

 

「でもまさか、ボーデヴィッヒさんがあんな演説をぶつなんて思いもしなかったなぁ……」

 

 愚痴とも感想ともとれるそんな言葉がビスケットの口から零れる。

 事態はほんの数十分前に遡る。

 決勝の勝敗が着き、アリーナから各選手が退場する段階で、ラウラが突然機体の外部スピーカーを使い、声を張り上げたのだ。

 

「お集まり頂いている皆様方にお願いがあります!」

 

 突然の事に試合後の興奮もそこそこに観客たちはラウラの方に視線を集中させた。

 

「決勝を終え、一年団の試合はすべて消化されました。しかし他の学年と比べ、試合数も試合時間も短く、閉会式まで時間的な猶予はかなりある今、自分はある提案をさせて頂きたい」

 

 そこまで言うと、ラウラは未だにアリーナ内に残っていたバルバトスを纏う三日月の方に視線を向けた。

 

「優勝した我らがペアの一対一のエキシビションマッチをすることを許可頂きたい!」

 

「……ん?」

 

 そこまで言われても、三日月は自分に水が向けられていることを理解するのに少し時間が掛かった。

 

「無論、これは私の個人的な我儘であることは重々承知の上での発言。そして、祖国であるドイツにも迷惑をかけることも理解した上での行動です。しかし――――」

 

 一旦そこで言葉を切るとラウラは深呼吸をしてから、ハッキリと次の言葉を吐き出した。

 

「それでも、私は彼――――三日月・オーガスと戦いたい!」

 

 言いたいことの全てではないが、伝えるべきことを全て言い切ったラウラは待つ。自身の我儘に対する反応を。

 そしてその結果はすぐに出る。

 返答は先ほどの試合終了後に起こった歓声に負けず劣らずの拍手の嵐であった。

 しかも、それは興奮した生徒のその場のノリや勢いのモノだけではなく、ゲストで訪れていた各国の要人も賛同するようにその拍手に参加していたのだ。

 最後に、ハッキリとした答えを告げるように管制室から放送が流れ始める。

 

『えー…………いきなりの宣言に対する明確な回答をするために放送します。両選手の所属団体の責任者と各国から訪れたゲストの方々からも許可を頂き、運営委員会と学園側からのタイムスケジュールを確認した結果、今から一時間後に行うのであれば、その試合を認めるということにします。何かご意見はありますか?』

 

 学園の教師の一人が少し戸惑いながらもその旨を伝えてきた。その内容に再び会場が沸く。

 

「ありがとうございます!」

 

「責任者…………オルガが良いって言うなら」

 

 こうして、優勝ペアの二人が試合を行う事態になり、未だに三日月はバルバトスと共にアリーナの方に居るのであった。

 

「三日月、言われたとおりに武装は絞っておいたけど、本当にこれでいいの?」

 

「ごちゃごちゃしてるのは嫌いだし、あっても使わない」

 

 整備されたバルバトスの腰のハードポイントには今まで積んでいたソードメイスが外され、近接用の武装は二振りのショートメイスのみとなっていた。

 室内に設置されている時計をちらりと見て、試合の時間までもう間もなくであることを確認した三日月は、右手の甲で右頬を持ち上げるように擦りながらバルバトスに乗り込もうとする。

 

「…………うん。やっぱりこっちのほうがよく見える」

 

 阿頼耶識システムが起動し、ケーブルから送られてくる情報を馴染ませるように二度三度と瞬きをすると、三日月はそんな言葉を呟いた。

 

「――――え?」

 

「三日月・オーガス、バルバトスルプス。出るよ」

 

 ビスケットがその言葉を理解し、疑問を投げかける前に格納庫から白い機影が飛び出していく。

 

「三日月?」

 

 その違和感にビスケットは自分が酷い見落としをしている感覚を覚えた。

 そんなビスケットの不安などいざ知らず、アリーナの中央で件の二人は向かい合う。

 

「オーガス、今回の急な話を受けてくれて感謝する」

 

「ん?……あぁー……別にやることもなかったし、いいよ」

 

 試合開始までのほんの少しの合間。ラウラの口から出てきたのは、感謝の言葉であった。

 そして、数秒の電子音のカウントダウンが刻まれると同時に試合開始の合図が告げられる。

 

「お前には思うところがある」

 

 試合が開始されると同時にラウラは即座に行動を起こす。しかしそれは三日月に向かうとか距離を取るとかではない。

 むしろその行動自体は彼女の正気を疑うものであった。

 

「あの時、辛酸をなめ、誇りや矜持など紙くずと同じだと教え込まれたようであった」

 

 ラウラがしたのはシュヴァルツェア・レーゲンに装備されたレールカノンの投棄であったのだ。

 長大なそれがアリーナに落ちると地面を少し抉ることとなった。

 

「だが、それもここまでだ。今の私には誰かに与えられたものではなく、自身が――――私たちが積み上げてきたモノがある」

 

 そして、彼女は機体の拡張領域から二本の肉厚なナイフを取り出す。

 

「それが確かなモノである証明として、貴様に挑ませてもらうぞ、オーガス」

 

 その装備と姿は、かつてラウラが初めてISに乗り、そして三日月たちと交戦した時と同じであった。

 ラウラは立ち向かう。かつての自分を乗り越えるように。自身の弱さを切り捨てるように。

 本当の意味での試合開始の合図は、ナイフとショートメイスの散らす火花によって告げられた。

 

 

 




少し短いですけどいったん切ります。
次回はガッツリ戦闘パートです。


正直、今回書いてて、主人公がラウラにしか思えなくなってた自分がいました(笑)

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