IS~鉄の華~   作:レスト00

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大変お待たせして申し訳ありませんでした。

なんとか書き上げたので、アップしておきます。
年内にできればもう一回くらいは上げたいです。
クロスレイズのおかげで書く意欲は全然あるので、このまま書いていければと思います。


四十一話

 

 

 三日月は今回の試合に少なからず期待を抱いていた。

 それはEOSからバルバトスに乗り換えてから、自身の思った通りに敵を倒せないことがフラストレーションになっていた事がその要因の発端となる。

 しかし、そのフラストレーションもデュノア社の一件から学園に戻り、ダリルとフォルテの二人と試合をしてからは徐々に取り除かれていく。

 二対一。そして、相手がISの中でも特殊兵装を使用する第三世代機という最新鋭機であること。

 そういう、自身が不利な環境の試合の中で、三日月は確かに掴んだものがあったのだ。

 学園という何かを学ぶ場所で、そういった戦うことで自らの糧となる部分があることに三日月は少なからず歓心を得る。

 そして、これからも学園内で行われる試合は自身にとってプラスになると考えるようになる。

 流石に相手が自身よりも弱いと察したときは、そういった期待はなかったが今回の試合相手が二機とも専用機であることで、三日月はそれなりに期待をしていたのだ。

 

(……なんか、つまんないな)

 

 しかし、蓋を開けてみればその内容は期待外れであった。

 鈴音の方はともかく、一夏の方は試合中の進歩を感じることが三日月にはできないのだ。

 そして、一対二ではなく二対二という数の上での対等の条件が、相手を焦らせるだけで三日月たちに有利になってしまうことでそのつまらなさを助長してしまう。

 

「……………なんで――――」

 

 そんな中、零れるような小さな呟きが三日月の耳に届く。

 

「なんで、そんなに強いのに、こっちを――――俺を見ないんだ?」

 

 これまでの攻防で、ショートメイスや拳でしこたま殴られ、地面に何度も転がった一夏はボロボロになっていた。

 機体の方も元々の綺麗な白い装甲は汚れていない部分などないし、絶対防御越しに通った衝撃が脳を揺らしでもしたのか、一夏自身の表情もどこか虚ろであった。

 そして、そんな状況だからこそ、彼は本心を包み隠さず吐き出していく。

 

「試合が始まっても、俺と相対しても、余裕な表情を見せずにただ淡々と、なんでそんなに無表情に武器を振るえるんだ?」

 

 その問いかけに三日月は首を傾げるしかない。

 それはなにも三日月が一夏の質問が理解できないからではない。理解できたからこそ、三日月にはわからなかったのだ。

 

「当たり前じゃん。戦うのに一々悲しんだり喜んだりする必要ないでしょ」

 

 それが偽ることない三日月の本音であった。

 

「…………変だよ、それ」

 

「いい加減、終わらせていい?」

 

 朦朧とし始めた意識の中、最後に零したその感想は、三日月の耳には届かなかった。

 三日月は踏み込みとスラスターの加速で距離を詰め、ショートメイスを振るう。

 身体に覚えこませていた成果か、あやふやな意識の中でも構えを解いていなかった一夏の握る青龍刀が吹き飛ばされる。

 そして、間髪入れずに突き出した拳が一夏の身体を捉えた。

 

「――――」

 

 飛ばされ、地面を跳ね、止まった先にあったのは、グリップのみとなった雪片弐型。

 途切れそうになる意識の中、自然とそれを握る一夏。

 握り慣れ始めて間もないその感触に従い、一夏は身体を動かす。

 

「まだ、動くんだ」

 

 立ち上がり、構え、そして見据える。

 重くなった身体が諦めてしまえと訴えてくる中、ほぼ無心に近い状態で、一夏はその時を待つ。

 刀身のない武器を構える一夏に対し、先ほどと同じように三日月は踏み込む。

 

「――――っ」

 

 そして、ショートメイスの間合いに入った瞬間、三日月は“それ”を見た。

 一夏の握るグリップの断面から僅かに伸びる青白い光を。

 それが視界に入った瞬間、三日月はショートメイスを手放し、宙返りの要領で一夏の頭上を飛び越えた。

 

「何?今の…………」

 

 着地し、振り返るとそこにあったのは、シールドエネルギーが尽き待機形態になったことで生身になり倒れ伏した一夏の姿があった。

 そしてその彼の前には“切れ込みの入った”ショートメイスが地面に横たわっていた。

 そんな世界初と、世界で二番目の男性操縦者同士の戦いが幕引きを見せるころ、中国とドイツの代表候補生同士の戦いも佳境に入り込む。

 

「よく粘る。中国の機体はどれも燃費がいいと聞くが、際だってきているな」

 

「一方的に追い込んできてるくせに褒めんな!」

 

 お互いに機体の損傷は見られるもののその差は歴然であった。鈴音の方には、浅い傷が機体のそこら中についているし、一部の装甲は罅割れ始めていたりとまさに見た目から満身創痍といった様子だ。

 それに対し、ラウラの方は浅い傷こそついているが、それだけなのだ。

 そして、アリーナに設置されている大型スクリーンに映し出されている四本のゲージ――――試合に参加している各機体のシールドエネルギー残量がそれを証明するようにはっきりと映し出されていた。

 一本は既に黒く染まっており、それは脱落した白式のもの。そして、ほぼ満タンなバルバトス。“残り二割を切りそうな”甲龍と“二割も減っていない”シュヴァルツェアレーゲンという内訳となっていた。

 

(っ、悔しいけど、試合の勝ちはもう無い……でも!)

 

 内心で歯噛みしながらも、鈴音の操縦に淀みはない。

 連結していた双天牙月を切り離し、二本をそれぞれブーメランのようにラウラに向かって投擲する。それと同時に機体のスラスターを吹かし、相手との相対距離を詰めに掛かる。

 

「何人も蹴落としてここに居んのよ!それを忘れるな凰鈴音!」

 

 自身を叱咤しつつ、格納領域から両手を覆う装甲を展開、装備すると本国で教官から文字通り叩き込まれた構えを取る。

 

「中国のCQCか。確か、受け流しと狭い間合いからでも繰り出せるコンパクトな動きが特徴的であったか?」

 

 二方向から来る刃の片方を手慣れたバトンを受け止めるように、クルリと片手で受け止め、そしてもう片方を地面に弾き落とすという離れ技をアッサリとやってのけるラウラ。

 これまでであれば、そのことに悪態の一つでも吐く鈴音であったが、既に間合いに入った時点でそんな余分な感情も視覚情報も切り捨てる。

 

「――――」

 

 拳を突き出す。

 機体――――というよりも、搭乗者であるラウラの身体の中心を捉えたその拳はしかし、シュヴァルツェア・レーゲンの黒い装甲に優しく受け止められる。

 

「終わらせるぞ」

 

 ラウラの取った“回避”方法は単純だ。甲龍の腕が伸び切る間合いを見切り、機体をそのギリギリに後退させたのだ。相手が当てることを確信し、より踏み込んでこないようにするために。

 

「ええ、私の負けよ…………でも、その片腕は持っていくわ」

 

 浸透勁という技術がある。

 簡単に言えば、打撃の衝撃波を打ち込んだ物体の向こう側に通すというものだ。それが鈴音が教官に叩き込まれた技の正体であった。

 そして、中国拳法の中には“相手に触れた状態から攻撃できる打撃”が存在する。

 

「っ!」

 

 ラウラの表情に苦悶が滲む。

 打ち込まれた腕の装甲内で、生身の腕が痛みを訴えてきたのだ。

 そして、それと同時に背後から衝撃が来る。その衝撃は、この試合で幾度か受けた攻撃、衝撃砲のそれであった。

 

「――――素晴らしい」

 

 口から感嘆の言葉が漏れる。

 試合中指摘した衝撃砲の欠点である砲身の起点。それを鈴音は機体から離れた位置から射出してきたのだ。

 元々のカタログスペックでそういったことができたのかどうかは知らないが、この試合中にできるようになったことに違いはない。

 その成長にラウラは内心の興奮を隠せなかった。

 しかし、その衝撃砲も致命傷にはならず、機体の姿勢を崩す程度にしかならない。

 姿勢制御をしつつ、ありったけの集中力を使い、今にも気を失いそうな鈴音にレールガンの砲身を向ける。

 そして、その数瞬後、決着のブザーがアリーナ内に響き、それを超える称賛の歓声と拍手がその空間を埋め尽くした。

 

 

 

 





ということで決勝戦終了です。
ラウラと鈴音が強くしすぎた感がすごい…………

次回はある意味エキシビションです。そろそろリミッター解除が火を噴きます。

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