年越ししてからかなり忙しくて、休日はほとんど寝てました。
それと、昨年末の話は読み返して「無いわー」と思ったので、投稿しなおします。
試合の開始のブザーが鳴った瞬間、様子見というものをすっ飛ばし、昭弘と簪はお互いの持ちうる火力を盛大に放ち始めた。
グシオンは背部の副腕を含め、計四つの大型ライフルを抱えるようにして放ち、そして簪は本来の打鉄弐式に搭載される予定の荷電粒子砲の代わりに、リボルバー式のグレネードランチャーを景気よく消費していく。
「ぶ、ブレイク!」
そのいきなりの攻撃に面食らいつつ、セシリアが肉声と通信、双方で聞こえるほどの大声を放った。
それに従うように、箒とセシリアはそれぞれ反対方向へ散るように離れる。
そしてそれがまるで合図だったかのように、会場から一度音が消えた。
「「「「「――――――――」」」」」
試合開始直後のいきなりの派手なその展開に、観客一同は絶句する。滅多に見ることのできない、それこそISの試合か映画などの創作でしかお目にかかれない、その爆発に会場の全員が飲まれたのだ。
しかし、それを至近で受けることになった箒とセシリアの二人にとっては堪ったものではない。
「こんな――――」
「はあああああ!!」
文句の一つでも言ってやろうかと、自然と対戦相手の方に顔を向けた瞬間、箒の正面の視界に咆哮と共に迫る昭弘の顔が映りこむ。
開始直後に使用されたライフルは既に投棄され、今は予選でも使用されていた大型のハルバートを構え突っ込んでくるその姿は、箒の脳裏に『猪武者』という言葉を過らせた。
急な接近に対し、箒の思考は状況把握をしようと集中力を一瞬で引き上げる。
(セシリアは無事。更識は向こう。敵は眼前――――)
そこまで認識するのと、打鉄の刀を抜刀するのはほぼ同時であった。
「ならば!」
咆哮一閃。
気合の掛け声と共に放たれた居合いは、昭弘が振り下ろすハルバートの肉厚な刃をそぎ落とした。
「――――っ、マジかよ!」
目の前で起こったことを理解するのに数瞬の間を要した。
昭弘の過ごしたまだまだ短い人生の中での濃密な戦場での経験でも初めてのことだ。先に攻撃した筈であるのに“あとから攻撃した相手の方が早い”というのは。
それが他の生徒と比べ、戦うという状況に対する経験が群を抜いている三日月や昭弘が持っていなかった『技』というものであった。
「この機は逃さん!」
相手の気勢を削いだことから、そのまま畳みかけるようにその刃を振う箒。しかし、戦場で足を止めるということが死に直結することを知る昭弘は、無茶は承知で機体のブースターに火を入れる。
「させねえ!」
「くぅ!」
改修により、平均的なISの馬力を上回るグシオンに見合うように装備された推力は、同じく改修により小型になった打鉄・リベルテを簡単に押し出す。
(クソ、これじゃ、簪の作戦通りでも勝てるかわかんねえぞっ)
密着した状態で、お互いの相方である簪やセシリアから距離を取りつつ、昭弘は内心で歯噛みする。
昭弘と簪が今回の試合の為に考えた作戦――――というよりも方針はただ一つ。
“お互いのことを深く理解できていないのなら、個人プレーで勝つ”
そのタッグという試合形式を真っ向から否定するような方式を選んだことに、二人は特に後悔も何もなかった。
(……はっ、馬鹿か俺は。相手が自分よりも強いなんて――――)
一瞬でもネガティブな思考を持った自分を鼻で笑いながら、昭弘は十分に移動したところで機体に急制動をかけ、無理やり箒との距離をとる。
「――――そんなもん、いつものことだろうが!」
手持ちの武器が破損している?
「潤沢な装備があった時があったか?」
相手が自分よりも強い?
「不利な状況以外の戦場があったか?」
そんな中でも自分を信じた相方がいる。
「そんな奴がいたからここまで来れたんだろうが!」
昭弘が吼えた。
刃が無くなり、ただの鈍器に成り下がったハルバートを振りかぶり、全力で投げつける。
「そんなもので!」
その程度の奇襲で動揺する箒ではなかった。
体に馴染ませ、覚えこませ、そして無意識下でもできるほどになった篠ノ之流の動き。その動きでハルバートを真っ二つに両断し、凌ぐ。
“その場”で凌いでしまった。
「――――な」
切り払い開けた視界の向こうから、ベージュ色の塊が突っ込んできていた。
それはグシオンの持ち前のシールドを前面に構え突っ込んできたのだ。
「ぐぅっ!?」
一度刀を振り切った状態からでは返す刀も間に合うわけもない。
正面衝突が鈍い音を生み出す。
「はああああああ!」
シールドの向こうから咆哮が聞こえ、そして振りかぶった拳が徐々に振り下ろされる姿を箒のハイパーセンサーが捉える。
不意を突かれ、体勢を崩し普通であればそのまま昭弘の追撃を貰うところである。
しかし、生憎と箒も箒の乗る打鉄・リベルテも普通ではなかった。
「舐め、るなあああ!」
手を伸ばせば届きそうな距離で、相対する二人の視線が交差する。
片や力強く守り抜く意志の瞳、片や鋭く切れそうな雰囲気の瞳。
対照的なそれをお互いに覗いた瞬間、先に動いたのは箒の方であった。
「――――」
只でさえISの搭乗時間が短い一年生にとって、空中での姿勢を崩すことは、冷静さを奪い、試合の中では致命的な隙となる。
その為、『何もない空間を足場にしたような動き』を箒が行ったことは、昭弘はもちろんその状況を経験したことのある生徒全てを驚かせた。
刃が走る。
シールドの端とその向こうにある機体の一部をもろともに切り飛ばす。
(助かった!)
その打鉄の強化ユニット、リベルテの“特性”に箒は内心で感謝を零した。
「――――上手く作動しましたね」
「一応、我が社の自信作だからね」
その瞬間的な攻防をしっかりと理解していたのは、アリーナの一角で試合を観戦していた月石社の二人――――箒に機体の試乗を頼んだ二人であった。
「あそこまで漕ぎ着けるのに、かなり調整に手間取りましたからね」
リベルテの特性は言ってしまえば、たった一つの機能だけだ。
それはPICの調整により、どのような空間であれ機体に足場を作り、搭乗者にその足場に対する重力を感じさせることである。
この機能は空に“浮く”ことができることや、宇宙空間での活動をすることが目的の
IS本来の運用目的を前提に考えられたものであった。
「ISに装備されたスラスター類や重量を感じさせず、生身で地面に立つ感覚を伝え、操縦者に違和感を覚えさせないというのは大変だったねぇ」
「………データ取りとはいえ、工学系の企業よりも、スポーツ関係の企業や学校とのパイプが増えていったのは、今思えば笑い話ですね」
ISの運用において、操縦者が今のところ一番苦労しているのは、生身で空中に居ることである。意外に思われるかもしれないが、ISに絶対防御などが搭載されていても、人間は空中や水中、無重力空間のなかに放り出されてしまえば、足場の無いことから冷静さを失ってしまう。
それは例えISを纏っていたとしても、搭乗時間が短いルーキーたちであれば誰もが通る道であった。
そういった場合でも搭乗者の冷静さを守り、焦らせないための機能として搭乗者保護機能がもとからISには搭載されている。しかし、その機械的に無理やり脳波や脈を落ち着けることが違和感になる操縦者もそれなりにいる。
その搭乗者からの生の意見を耳にし、何とかできないかと考えたのが月石社の社員だ。
「それにしても、どんな時でも足場を作る。人間の動作範囲を邪魔しない装甲レイアウト。それに合わせた武装のシャープ化。それだけでもそれなりに成果を上げることができるもんだね」
「常務……それは言わないほうがいいです」
もっとも、今のセリフ通り、この機能は競技用のIS装備ではなく、ISを様々な場面で活躍させるために作ったものであったのだ。
そして、今回のトーナメントにおいて、ISの搭乗時間が短く、元来のISでは再現し辛い踏み込みや体捌きを利用する箒が、どれだけこの機体を違和感なく使えるのかを見るのが目的であった彼らにとって、専用機であり世間からも一目置かれる男性操縦者に土をつけた結果を残したこの試合は得るものが多かった。
昭弘らしさって何だろう…………ペンチ、出てくんな。これは対人戦じゃ。
次回も時間かかると思いますが、投稿頑張ります。