IS~鉄の華~   作:レスト00

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無事生還できました。
お盆は地獄だったです。八月の休日が三日か四日くらいしかなく、書く暇なかったです。本当にすいません。
でもなんとか書き上げたんでどうぞ。


追記
活動報告を書きました。皆さんの意見が欲しいのでもしよろしければ書き込みをお願いします


三十四話

 

 タッグマッチトーナメント。

 基本的に試合形式が一対一のサシが多いISの試合に置いて、いつもとは形式の違うそのトーナメントが行われることに、学園内の生徒間の話は自然とそう言った方向に流れていく。

 ある生徒のグループでは、誰が誰と組み、そして誰がバックアップをするかを話し合ったり、他方では連携を取る事に適した装備や機体調整についての話をしていたりと、会話内容も千差万別であった。

 会話は何も生徒間だけではない。試合運営やそれこそISのことについて教員と話している生徒も多くいる。

 そんな中で周りの人間と話していない生徒もいた。

 それは学校に来て間もなく、話し相手も特にいない三人目の男性操縦者である昭弘である。

 

「…………専用機持ちは極力参加、か…………団長もこういうのには出るように言われているが」

 

 タッグトーナメントについて纏められたプリントを片手にそんな事を昭弘は呟く。

 因みに、しばらくはアメリカで過ごす予定であった彼は、未だに日本語を覚えきれておらず、それを知っていたビスケットと真耶に英訳された手書きのプリントを読んでいたりする。

 

「三日月とはもう組めない……どうするか……」

 

 昭弘のぼやき通り、三日月は既にラウラとペアを組んでいた。

 ダリルとフォルテの試合のあと、ラウラが直接三日月にタッグの事を話し、了承を得ていたのだ。

 

「………………………………………考えても埒があかない」

 

 色々と悩んだ末、昭弘は問題を先送りにし、自身の機体のある整備室の方に足を向けた。

 グシオンはバルバトスと同じく、普通のISの専用機と違い待機形態を取れず、普段はバルバトスと同じ整備室に配置されることとなっている。

 学び舎を出て、IS用のパーツや武装の保管庫を横切り、アリーナ内にある整備室に向かう。

 

「……危なくないか?」

 

 あともう少しで整備室に着くというところで、昭弘はあるものを目にし、そんな感想のような疑問を漏らした。

 彼の視線の先には、廊下にある段差の前で、四つのコンテナを積んだ台車を押す小柄な女子生徒の姿があった。

 その四つのコンテナは大きさがまちまちであり、それを無理に積んでいるため見た目通りアンバランスである。それを押している本人も理解しているのか、段差を無理に超えることもできないため立ち往生している様子であった。

 その姿を見て、昭弘は自然と足を向ける方向を整備室から変える。

 

「これだけ持てば行けるか?」

 

「え?」

 

 上に乗っている二つのコンテナを両手にそれぞれ抱えるように持つと、昭弘はその少女――――簪に問いかけた。

 いきなりの昭弘の登場に簪は二度三度と目をパチクリさせる。そして、状況を把握すると表情を戻し口を開いた。

 

「その、ありがとう……でも迷惑だと思うから手伝わなくても…………」

 

「困っているのを助けるのが、なんで迷惑なんだ?」

 

 彼女の物言いに、首を傾げ昭弘は思ったことをそのまま口にした。その返答が意外だったのか、再び目をパチクリさせる簪。

 

「これはどこに運べばいい?アッチか?」

 

「あ、第七整備室に」

 

「運ぶぞ」

 

 簪のそんな反応に内心で首を傾げつつも、昭弘は歩を進める。

 昭弘の問いに反射的に答えた簪はハッとすると、彼においていかれないようにその大きな背中を足早に追った。

 整備室に到着し、コンテナを運び終えると、昭弘はその整備室全体を改めて一瞥する。

 その整備室の一角には、バルバトスやグシオンと同じく鎮座するISがあった。事前に待機形態のことやIS学園の保有する訓練機などが一括管理され、厳重な扱いを受けている事を知っていた昭弘は、この場にISがあることに首を傾げた。

 

「それ……打鉄弐式は今私が組んでいるISなの」

 

 昭弘の様子から、色々と察したのか、簪は説明するように口を開く。普段の彼女であればあまり自分から他人に話しかけることもしないのだが、手伝ってもらった相手に冷たい態度をとるほど彼女は冷酷でも恥知らずでもない。

 

「アンタがISを造ってんのか?」

 

 今度は昭弘が驚く番であった。

 昭弘も三日月と同じく簡単な整備程度は出来るとは言え、自分と同年代の少女がISを造っていると聞かされればそれなりに驚く程にそれが難しいと理解していた。

 

「スゲーんだな、アンタ」

 

「…………私はアンタじゃなくて、簪って名前がある」

 

 先ほどコンテナを持ち上げていたときに感じた頼りがいのある姿を見たあとに、子供のような反応をしてくる昭弘に対する印象のギャップがすごい。内心でそんな事を考え、頬が緩みそうになる簪であったが、一個だけ気に食わない事があったために眉間に皺を寄せつつ、指摘の言葉を返す。

 もっとも普段の彼女を知る人間がこの場にいれば、その表情が不機嫌さではなくどこか楽しんでいる柔らかいものであると言うであろうが。

 

「あぁ、悪かったな簪…………じゃあ、さっきのコンテナはコイツを作るためのパーツか?」

 

「半分正解で、半分は不正解……かな?」

 

 彼女の雰囲気から邪険に扱われているわけではないことを察した昭弘は、少しだけ突っ込んだ質問を投げかける。しかしその返答は、どこかあやふやであった。

 

「今度のタッグトーナメントでは、この子の完成は間に合わないから、幾つかの機能を凍結させて訓練機以上、専用機未満の性能で一旦使えるように仕上げようと思って」

 

 その事を語る簪の表情は憂いを帯びる。それは自身の不甲斐なさであり、完成させられない不完全な状態で一旦とは言え仕上げてしまう専用機への申し訳無さ故であった。

 

「スラスター周りを純正品のカタログスペック通りの出力にしちゃうと、今のこの子じゃ耐えられない。だからその代わりに学園でモスポールして放置されていた試作品があったからそっちを使えば、出力を抑えられて機体性能をある程度纏められる。だからそれの交換のために運んでもらったのが、さっきのコンテナの中身」

 

 滑らかに口が動き、昭弘が知りたかった内容を説明する簪。その説明をしながら彼女はオリーブ色の作業用のコートを羽織ると、手には絶縁タイプの軍手をつける。そして、自身が口にした作業を開始するために、未来の相棒となる機体に向き合うのであった。

 それを先ほどと同じく感嘆の表情をしながら、昭弘は見聞きに徹する。

 しばらく簪の作業を眺めていると、ふとした疑問が昭弘の中に生まれる。彼女の作業を中断させるのはどこか気が引けた昭弘であったが、ここ数日の勉強による知的好奇心が刺激されていたため、我慢できずに思い切って口を開く。

 

「今度のタッグトーナメントに出るためにそこまでやっているのはわかったが……完成させる事を優先させないのか?試合自体は強制じゃないはずだ」

 

 その疑問に一瞬だけ簪の手が止まる。だがそれはほんの一瞬だけであった。

 澱みなく動かしている手をそのままに、再び彼女は口を開く。

 

「……さっきこの子の完成は間に合わないから他の試作品のスラスターを付けるって言ったけど、本当はそれをしなくてもある程度機体を仕上げることはできるの」

 

「?」

 

 疑問の返事としては腑に落ちない返答。それなら今彼女がしている部品の交換はなんだというのか。

 

「でもそれをするには機体の各パーツのステータスを操縦しながらアジャストさせて、操縦者が機体制御をシステム側からの補助なしにしなきゃならないの…………悔しいけど、今の私にそんな技量はない」

 

 一般的なISには、PICやFCSを始めとした機体制御に関するシステムがOSとして積まれており、操縦者が機体を動かす際にそれらの細かい制御を機体側からの補助により合わせている。

 そうすることにより、操縦者の操縦の際の負担が減り、戦闘やそれ以外の作業などでも効率的に機体制御ができるようになる。

 しかし、それはあくまでハード面が十全な場合の話だ。

 フレームや装甲などの機体強度、各部関節に使われているモーター類の出力、PICや飛行時に使用するスラスターやアポジモーター類の排熱等など挙げれば切りのない様々な項目を、纏まった状態で仕上げなければシステム側の制御に機体が追いつかないことが起こる。

 簪が言ったのは、そのシステム側の制御を切り、パイロットである彼女自身がそれを調整することで、機体スペックを下げることなく打鉄弐式を使うことはできるということだ。

 だが、そんな状態で戦闘機動が出来るかと問われれば、答えは否である。

 

「システムの補助なしで使用しても私は勝つことができない。でも私は――――やるからには勝ちたい」

 

 最後の言葉は彼女の意志の強さが篭っていた。

 

「この子が強くても私が弱ければ意味がない。でも乗らないことにはIS操縦者としての向上には繋がらない。だから、この子には申し訳ないけれど、未完成な状態で今度のトーナメントには出させてもらう」

 

 そこまで言い切ると、簪はハッとする。

 初対面の人間に自身の気持ちを赤裸々に語った事を今更ながら彼女は自覚する。これが幼馴染や身内に聞かれるのであればまだ気恥ずかしいだけで済んだのだが、生憎とそれを聞いていたのはほとんど彼女の接したことのない同年代の異性であった。

 

「で、でも、大会はタッグだから……まずは、パートナー………を探さないと……なんだ、け……ど………」

 

 照れ隠しなのか、その場しのぎの言葉を紡ぐ。最後の方は消え入りそうなか細い声となってしまったが。

 

「ぅ、うぅ……」

 

「俺も、丁度パートナーを探していたんだが」

 

「――――え?」

 

 絞り出したような言い訳の言葉に返事をした昭弘の言葉に簪は、ゆっくりとその顔を彼の方に向けた。

 

「アンタが……簪が勝ちたいのはよくわかった。俺もやるからには勝ちてえ。だから、よければ俺と組まないか?」

 

 そう言い、握手を求めるように簪に手を差し出す昭弘。

 その手を見つめつつ簪は混乱しつつも、ほんの少しの嬉しさを感じていた。

 昭弘は茶化さなかった。真剣な簪に対し、無謀だとか、頑張れとか、無責任な言葉を使わなかった。ただ賞賛し、彼女を理解しようとし、その上で自分と組んでくれと言ってきた。それが堪らなく嬉しいと簪は思う。

 それはある意味で彼女がしてきたことを評価してくれた事と同じなのだから。

 そして先ほどの昭弘のセリフを思い出す。

 

『困っているのを助けるのが、なんで迷惑なんだ?』

 

 彼女が好きで憧れるヒーロー――――とは少し違うかもしれないが、頼らせてくれる暖かさを簪は昭弘に感じていた。

 

「こんな私でもいいですか?」

 

 自然と言葉が口から出てきた。

 

「簪だから頼みたい。そこまで真剣に向き合っている簪と」

 

 彼女は恐る恐るではあるが軍手を脱ぎ、確かにその大きな手を握った。

 

(硬い手………お父さんみたい)

 

(握ったら壊れちまいそうだ)

 

 お互いに手を握った感触からそんなことを思っていた。

 

 

 

 

 




今回の話は三日月の試合から二三日後です。

次回で残りの専用機持ちのペア発表ですかね。ワンサマとモッピーとセッシーとリンリンの。
タッグトーナメントの試合まであと少しです。




今回の話でたっちゃんが暴走しないかって?彼女は前回の三日月とのいざこざで自制心が効くようになってます。彼女も成長するのですよ…………影で血涙流してるけども

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