IS~鉄の華~   作:レスト00

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また空いてしまい本当に申し訳ないです。
最近バイト(週六のフル勤務をバイトと言っていいのかは不明ですが)が忙しく書いてる暇がないです。
飲食店なので、これからも忙しくなると思いますが、なんとか更新は頑張ります。



……ところで今回の話はR15でセーフなのでしょうか?


三十三話

 

 

 機械類――――特にISのような人の乗り込む精密機械の整備は工芸品や美術品を作るのと同じくらいに精度の高い作業を必要とされる。

 安全性はもちろんのこと、機体のスペックを搭乗者の意図に合わせ引き出せるようにしなければならないからだ。

 そしてそれは機体に使われている部品や機構が常に最大限稼働している状態にする――――というわけではない。機体やパーツの耐久値を理解し、乗り手の癖や扱い方を把握し、その上で複数ある機構をうまく噛み合わせる。そこまで漕ぎ着けて、やっと初期段階が終了するのである。

 そこからは機体が使用される環境や、乗り手の気分、調子に合わせた微調整等をしていかなければならい。

 ここまでつらつらと説明をした上で言えることがある。

 

「…………困ったなぁ」

 

 それは簡単な整備が出来るとは言え、新品のスラスターユニットを一から調整するのは三日月にはできないということである。

 学園のハンガー内の一画で、首を傾げている三日月。その彼の目の前には装甲が外され、配線類がむき出しになっているバルバトスのスラスターユニットの一つがあった。

 

「装甲の一部が融解してやがる……こりゃあ一度全部ばらすしかねぇか。ナノラミネートアーマーの排熱でもおっつかねーっていうのはどんな熱量だってんだ?」

 

「センサー類は一応無事みたいだけど、あんな局地状態での使用を想定してないから、全部一からチェックし直したほうがいいか……指の部分も頑丈にできているはずだけど、罅が入っていたし各関節と一緒に調整と強化は必須かなぁ」

 

 先の試合で無茶をした罰として、雪之丞とビスケットの二人がバルバトス本体の整備をしている間、引きちぎり爆散させたスラスターユニットの予備の調整を一人でするように言いつけられた三日月。

 しかし、慣れない作業に遅々としてそれは進まず、気が滅入り助けを求めようにも、雪之丞とビスケットの二人には頼めるような雰囲気ではないため再び首を傾げる作業に戻るというのを繰り返すしかなかった。

 そして、そんな三日月の姿を後ろ目に確認した二人は、手持ちのタブレットでこっそりと文字による会話を始める。

 

『そんで、バルバトスのデータログはどうなってた?』

 

『試合中、急に動きが良くなった時間とログで一致するのは阿頼耶識の接続深度が極端に跳ね上がったことくらいです』

 

『まぁ、他のISとの相違点と言えばそれぐれぇか。元々ついてるはずの機体のリミッターすらないからなコイツは』

 

 そこまで文章を打つと、雪之丞はチラリとバルバトスの方に視線を向ける。

 装甲を外され、内部フレームは剥き出しになり、ケーブル類も丸見えの状態になっている機体。普通であれば弱々しさや心許無さといったマイナスなイメージが連想されるはずのその姿はしかし、彼――――否、先の試合を見ていた誰であれそんなイメージを持つことができない。

 

『こんな議論をしたところで確認以上のことはできねぇか。阿頼耶識のブラックボックスなんてものは先進国ですら分かってないとか言われているからな、俺らにできるのは所詮、コイツを三日月の満足する状態に戻してやることだけだ』

 

 ガリガリと頭をかき、ため息を吐くと意識を切り替えるために雪之丞はビスケットに視線で作業に戻ることを伝える。

 だが、ビスケットの中にはまだ不安があったのか、タブレットには新たな文字が打ち込まれた。

 

『三日月に言わなくていいんでしょうか?』

 

(…………コイツはどうしてこうも)

 

 内心で呆れつつも、雪之丞は再びタブレットに指を這わせる。

 

『何を言うつもりだ?バルバトスに乗るのは危ない?阿頼耶識を使うな?それともこれ以上戦うな、か?』

 

 ビスケットからの返信は打ち込まれなかった。

 

『今更言って止まるようなタマか?全部引っ括めて進もうとするアイツ等に意見するのはお前の役目だとは思うが、それはオルガがいるときに言ってやんねーと意味はねぇぞ』

 

 そして二人は機体の整備に戻る。お互いに心に漠然とした不安を抱きながら。

 なんとなく三日月の方にビスケットが視線を向けると、右手の甲で頬を押し上げるように拭う姿があった。

 一方、三日月と対戦した二人――――ダリルとフォルテは試合が終わってから未だに控え室である更衣室から出てこなかった。

 序盤はともかく、終盤の展開がほとんど一方的な蹂躙に近かったため、同級生や教員も二人が落ち込んでいると思い、今はそっとしておくのがいいと判断し、二人を訪ねる人はいなかった。

 とはいえ――――――

 

「ハハハハハハハハハハハハ!!!最高だ!試合で死んだと思ったのは初めてだぞ、オイ!!」

 

「……元気っすね。こっちは試合後の“本番”でグロッキーなのに」

 

 ――――――他人の心配など知ったことかと騒ぐダリルと、備え付けのベンチにあられもない姿で横たわっているフォルテの姿を見れば、それが杞憂だというのは誰の目にも明らかであったが。

 

「ハハハ……――――なぁ、今から恥ずかしいこと言うぞ」

 

「?」

 

 いい加減部屋に篭った熱気と匂いが気恥ずかしくなったフォルテが空調を操作していると、一頻り笑い切りすっきりしたのかダリルがそんな前置きを零しながらセリフを続けた。

 

「あぁ、間違いなく、後で部屋のベッドに顔を突っ込ませて赤面しながら悶える。そんな事を言うぞ」

 

「??」

 

 やけに長い前置きにらしくないと思いつつ、フォルテはベンチに腰掛けていたダリルの方に顔を向けなおす。

 

「試合前に言った“お前以上に欲しいもんなんてない”ってやつな、あれ撤回するわ」

 

「――――――え?」

 

 先程まで火照っていた身体が嘘のように冷たく感じ、ふわふわした身体の感覚は鉛のように重く感じる。

 頭がその言葉を理解すると同時に、身体がそれに対する拒絶反応を見せる。しかし、それ以上の喪失感の方が今のフォルテには辛かった。

 

「さっきの試合で三日月が欲しくなった」

 

 聞きたくない言葉に膝が震えそうになる。耳を塞ぎたいのにそれさえできない自分が情けなくも悲しかった。

 

(捨てられる?)

 

「だけど、それはアイツの隣にいるだけじゃダメだ。アイツに勝たねーと意味がねー」

 

 小刻みに肩が震え始めるフォルテ。そんな彼女を知ってか知らずか、ダリルは言葉を続ける。

 

「だからさ、フォルテ。お前が欲しいなんて甘っちょろいことは言わねぇ。お前はもう俺のもんだ」

 

「………………ぇ」

 

 その一言に頭の中が真っ白になる。

 

「一人で勝てるなんて自惚れねぇ。お前がいないことなんて考えらんねぇ。だからさ――――」

 

 いつの間にか、壁際に立っていたフォルテの眼前にダリルの姿があった。

 

「お前を俺のもんにする」

 

 それだけ口にすると、ダリルは自身の欲求に従い目前の唇に自身のそれを重ねる。

 行為はそこで終わらない。申し訳程度に羽織っていた服をフォルテから剥ぎ取り、その幼くも綺麗な裸身を顕にさせる。

 キスを終え、少しだけ顔を離し、それを見たダリルは思う。

 「欲しい」と。

 

「先輩は……酷い人っす……酷くて、わがままで、それで――――ズルい」

 

 二度目のキスはフォルテからの方であった。

 上記の二人のように更衣室でしけこむ女生徒がいる中で、ある一人の女生徒は学園の応接室に向かっていた。

 その生徒――――箒は剣術や剣道に打ち込んでいたことから、歩く姿勢や動き方などがとても綺麗で映える。しかし、そんな彼女の表情はその動きに反し、どこか暗かった。

 

「――――失礼します」

 

 目的の部屋の前に着くと、深呼吸をしてからノック、入室する。

 部屋の中には向かい合うように置かれた二つのソファとその間に置かれたテーブルがあり、その片方のソファに二人の人間が座っていた。

 

「初めまして、篠ノ之さん。本日は不躾な訪問に答えていただきありがとうございます」

 

 箒が入室してくるやいなや、ソファに座っていた二人の男女が立ち上がり、頭を下げてくる。

 その対応に辟易とした表情になりそうになる箒であったが、元来表情を素直に出す方ではない彼女はそれをなんとか堪える。

 格式張った挨拶もそこそこに、その男女は箒をソファに座らせると早速本題を切り出した。

 

「打鉄の換装式強化ユニットのテスター……ですか?」

 

 テーブルの上に広げられた資料の説明をしながら持ちかけられたのが、その提案であった。

 箒の言葉に頷きながら、男性の方は言葉を補足していく。

 

「正確にはIS全機に適応できるPICユニットの補助機構と、それに合わせた武装のテスターですね。今回はそれを打鉄でさせていただくということです」

 

 その言葉を聞きながら、失礼を承知で箒は資料に目を通していく。

 箒はお世辞にも座学の成績が良い生徒とは言えない。そんな彼女が資料を食い入るように読み込んでいく。

 それは単に、その資料の出来が良いためだ。何度も添削し、畑違いの人間が読んでも概要やメリット、デメリットを把握できるように纏められている。

 その丁寧な仕事に箒は資料を読まされている状態なのだ。

 やがて、一段落着いたのか、箒が資料から向かいに座る二人に目を向ける。いくつか資料内で疑問に思った箇所を訪ねようと口を開く。

 しかし、それを一旦やめ、口を真一文字に引き結ぶと意を決したようにある問いを投げた。

 

「……どうして私なのでしょうか?」

 

 その問いには様々な意味が込められていた。より正確に言えば、受け取り手により様々な答えが返ってくる問いであった。

 

「私が――――篠ノ之だからですか?」

 

「バカにしないで貰いたい」

 

 箒の問いに答えたのはこれまでほとんど口を開かなかった女性であった。

 

「貴女がこの業界に置いてどれだけのネームバリューを持っているのかは嫌でも知っています。しかし、それを理由に特定の未成年を利用しなければならないほど、私たちが作ったものは如何わしいものでも、不確実なものでもありません」

 

 その意見には同意なのか、隣の男性は特になにも言わない。

 

「私たちが求めるのは、“ISの操縦期間が短く”、“武道の経験があり”、“次回の学年別トーナメントに参加する生徒”として貴女を推した。そして、学園側にも我社の製造したユニットを生徒で試すだけの価値があると見込んで今回の依頼の形を取ったのです」

 

 そこまで言われ、箒の顔に朱色が混じる。それは怒りではなく、羞恥の表れであった。

 

「貴女が篠ノ之であろうとなかろうと関係ない。私たちは貴女の腕を見込んでこの話を持ち込んだのです。それを踏まえて判断していただきたい」

 

 そこまで言うと、彼女は「失礼な発言をして申し訳ありませんでした」と頭を下げ、口を噤んだ。

 男性の方も言いたいことは全て言った後であったのだろう。一言「部下が申し訳ないことをした」と頭を下げながら謝罪し、「今回の話はなかった事にしてくださっても構いません」と述べる。

 そのままお開きになるかと思われる雰囲気。それを変えたのは箒の一言であった。

 

「よろじぐ……おねがいじます」

 

 ポロポロと涙を零しながらの了承――――というよりは懇願の言葉とお辞儀をする箒。

 その姿に先程までの屹然とした姿はどこへやら。二人の男女はオロオロしながら箒を宥めにかかるのであった。

 

「私を……見てくれて……ありがとう」

 

 途中で泣きながら箒はそんな言葉を漏らしていた。

 

 

 

 

 

 

 応接室のテーブルの上の資料の一枚にはこう書かれていた。

 『PIC改修案とそれに合わせた打鉄強化ユニットプラン“リベルテ”』

 そしてその言葉の下には社名として『月石社』と明記されていた。

 

 

 

 

 

 





おまけ

箒「ところで、どうして日本の会社で造られた打鉄の強化ユニットの名称がフランス語なのでしょうか?」

男「しょっぱい理由だよ?ウチには技術があったけど、それをなす生産工場が委託に頼るしかなくて、今回受けてくれたのがフランスの生産ラインだったってこと」

女「そして、製造してから商品の名称がフランス語の響きの方が世界的に発音しやすいという理由からそうなっただけですから」

箒(目逸らし)



おまけのおまけ

箒「因みに委託を受けたフランスの生産ラインというの……」

男「なんでも最近大手のラインが社の都合でこれまでの製品の製造を止めることになったから、外部からの仕事でも喉から手が出るほど欲しいとかなんとか」

某鉄の華の連中「「「「「「「「へックシ!」」」」」」」」

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