IS~鉄の華~   作:レスト00

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随分お待たせして本当にすいません。
リアルが忙しかったのと、ダリルとフォルテの戦闘が本当に描写が難しくて……ハイスイマセン、単に作者の技量の問題です。


三十二話

 

 

 バキバキと足元からの氷を踏み散らかす音が、嫌でも耳に残っていく。その音が途切れると今度は茹だるような熱気が三日月とバルバトスの皮膚と装甲をそれぞれ焼いていく。

 

「足が止まってんぞ!ミカヅキ!」

 

 叫び声とともに“熱気の塊”が突貫してくる。

 その姿を先程から微細な誤差を生み出しているセンサーで拾った瞬間、三日月は反射的に両手にそれぞれ持っていたショートメイスをの片方を投げつけていた。

 

「緩い!」

 

 突貫してくる速度はそのままに、熱気の塊となっているダリルが投げられたメイスを蹴りつける。すると、蹴られたメイスは“凍っているグラウンド”の一画に突き刺さり、その動きを止めた。

 そのショートメイスは全体が飴のように歪んでおり、蹴られた部分にはダリルの機体―――ヘルハウンドver2.5の足の跡がくっきりと残っていた。

 

「……これどうやって直すんすかね?」

 

 自身の近くに鎮座したそのショートメイスを、自らの機体――――コールドブラッドのハイパーセンサーで視認しつつ、操縦士でありこの試合に参加している三人目であるフォルテはそんなセリフを零した。

 その脱力しつつ、どこか無防備な仕草をするフォルテを三日月が見逃す訳もなく、ダリルの猛攻を回避しつつ、腕部に外付けで装備された滑腔砲を向けた。

 

「甘いっすよ」

 

 発砲音とは別に、フォルテの言葉をバルバトスのセンサーが聞き分けた。

 フォルテの顔面に直撃コースで放たれた弾丸は寸分違わずフォルテの眉間に向かっていたが、当たる直前に中空に生成された氷塊により阻まれる。

 

「鬱陶しいな、アレ」

 

「浮気か?焼けるじゃねーか!」

 

 率直な感想を述べると、ダリルの咆哮が再び放たれた。

 そんな中、この試合をアリーナのシールド越し、またはモニター越しに見ている生徒や教員は実は多く存在していたりする。

 良くも悪くも、戦闘面に関して噂になりがちな三日月が上級生でも有名なダリルとフォルテの二人と試合をするというのは、娯楽に飢えがちな生徒でなくても興味を惹かれるのは当然であった。

 今回の試合において、その観客とも言える生徒たちの反応は二極に分かれていた。

 片方はこれまで公の試合で異質な強さを誇った三日月が、追い詰められている事に驚いている者。そしてもう片方は、ダリルとフォルテの優勢に当然と思っている者である。

 因みに前者が一年生。後者は二、三年生が主である。

 二、三年生としてはISの試合に置いて重要な、“相手の機体が何をできるのか”を知らない三日月が劣勢になるのは当然と思っているからこその反応であった。

 そしてそれは、試合を観戦している教員の一部である千冬と真耶も同じ見解であった。

 

「……思った以上に三日月くんは困っていますね」

 

「あぁ、第三世代機の思考制御によるワンオフアビリティーの代替機能をうまく理解していないからでしょう」

 

 アリーナの管制室で、モニターに映る三日月の表情を読み取りながら、千冬はそんな印象を零した。

 

「確かに三日月・オーガスのIS操縦者としての技量はEOSでの経験を考慮しても目を見張るものがある。だが一方では、それに慣れすぎている節がある」

 

 三日月の操縦技術は実際のところ、IS学園の中では上から数えたほうが早いくらいには高いレベルではある。それは教員を入れたとしてもだ。

 しかし、それがISでの試合でも強いという事柄とイコールで結び付く訳ではない。

 

「状況判断以上に、相手に合わせた適切な行動をとるという柔軟な発想が第三世代機の登場により必要となってきた……先輩は、三日月くんはそれだけの柔軟さがないと思いますか?」

 

 教科書に書いてある事柄を朗読するように喋りながら、最後はどこか不安そうな質問を真耶は口にした。

 

「柔軟な発想はできる方だろう。むしろ常識に囚われないという意味では私たちよりも彼らの方が上だとも思う」

 

「――――っ」

 

 千冬の返答に真耶は意識的に唇を引き締めた。

 そうでもしなければ差別的な発言に取れなくもないその言葉に、胸中に浮かんだ嫌な感覚をそのまま吐き出してしまいそうになったのだから。

 しかし、それは千冬も理解しており、その事を腫れ物扱いする事が“彼ら”に対する礼を失していることも理解している真耶は、小さく深呼吸してから会話を続けるために口を開いた。

 

「今の三日月くんは、その柔軟な発想を出していく基盤である知識が足りていないと?」

 

「少なくとも、化学的な機能を操るあの二人の対処は、これまでに経験してきたことのない不安が今のオーガスにはあるだろうな」

 

 そんな外部からの感想を知るはずもなく、試合は進んでいく。

 防戦一方な三日月に対し、果敢に攻めるダリルと彼女のサポートに徹するフォルテ。

 そのある意味で膠着状態の中、焦りを見せているのは攻めに徹している二人の方であった。

 

(おいおいおいおいおいおい!なんだコイツ?!ここまで攻められて、ここまで封殺されておいて、どうして攻めきれない?!)

 

(なんで、あそこまでされるがままなのに、冷静さを失わずに、視野も狭くならずに、こっちにまで攻撃を向けられるっすか?三日月は)

 

 三日月の今現在の最大の持ち味は、高レベルの操縦技術と、一撃が重い高威力の打撃だ。

 その操縦について行く事ができ、攻撃を凌ぐことのできる二人だからこそ、拮抗し、むしろ追い詰めている試合運びをしているのだが、いまだに試合が“膠着状態のまま”でいることに内心では驚き果てていた。

 

(……思ったように戦えないのって、イライラするな)

 

 その試合を見ている様々な人々が色々と思考を働かせている中、三日月は目の前の試合に集中しつつ、内心で自問をする。

 

(そう言えば、この前の時もそうだっけ。相手を倒せても自分が思ったようにはできなかった)

 

 三日月の脳裏に、仕留めきれなかったオレンジ色の装甲と、今ではオルガの補佐や鉄華団のチビ達の相手をしている少女の顔が浮かぶ。

 

(これから先、そんなのが続く?)

 

 思考にノイズのような不安が走った。

 

(俺はオルガや鉄華団の皆と行くべきところに行かなきゃならない)

 

 そのノイズが機体の操縦の邪魔をしたのか、ダリルの攻撃がバルバトスの装甲を軽く焼いた。

 

(だから、俺は勝たなきゃならない)

 

 その隙を見逃すはずもなく、ダリルは追撃のために更に肉薄してくる。

 

(だから、このままじゃダメだ)

 

 その目の前に迫る脅威に対し、三日月は――――

 

「――――邪魔だな、お前」

 

 敵意の視線を投げかけた。

 その瞬間を見ていたダリルは、突然視界から消えた三日月とバルバトスの変化を確かに確認していた。

 改装され、以前よりも丸みを帯びていた装甲の一部が展開され、それが合図のように三日月の動きが変化する。

 

「――――嘘だろ」

 

 肉薄し、至近距離から視界の外――――とはいえ、ハイパーセンサーにより辛うじて機影を捉えることはできていたが――――すり抜けるようにして、自身の間合いから離脱した事実に、ダリルは信じられないという意味の呟きを溢す。

 そしてそれは、自身の間合いから抜けたこともそうであるか、その際に“自機の非固定浮遊ユニットの片方を潰されたこと”により一層拍車をかける。

 

「はや――――」

 

 遠巻きに見ていたフォルテは、ダリルから離脱し、そのままこちらに突っ込んでくる三日月のその異常な速度に、感嘆の声を漏らしながらも対応のために機体を操作する。

 自機と三日月との間に氷塊を生成。その時間稼ぎによりダリルの復帰とフォーメーションの再構築を狙う。

 しかし、その程度のものが“今の”三日月に通じるはずもない。

 

「邪魔」

 

 その声は氷越しでも届いた。

 生成された氷塊の中心。その部分に罅が入ったと認識した瞬間、その氷は粉々に砕けた。

 

「無茶苦茶っすよ!」

 

 反射的に妨害ではなく、防御のための氷を生成するフォルテ。

 それを見た瞬間、三日月はバルバトスの左右の腰部に装備されているスラスターユニットの片方を引きちぎった。

 

「はぁ?!」

 

 いきなりの自傷行為にその試合を観戦していた全員が驚く。いや、このたった数秒間で起きた事で既に驚いていたため、ある意味では息つく暇もないが正しいのかもしれない。

 引きちぎったスラスターユニットを力任せにフォルテに投げつける。

 当然それは生成された氷にぶつかることになるが、それで終わりのはずがない。

 腕部に装備された滑腔砲が投げつけられたスラスターユニットを捉えていた。

 

「――――」

 

 推進剤が収められているユニットの爆発は、IS一機程度であれば飲み込める程の爆発を起こす。

 引き起こされた爆発により、瞬間的に三日月を見失うフォルテ。しかし、三日月にとってはその一瞬で十二分であった。

 視界に投影されるデータが接近警報をがなり立て、ハイパーセンサーが背後から抜き手を突き込もうとするバルバトスのアームを捉える。

 だが、見えているのと、対処ができるのは別問題だ。反射的に動いたことで、体の正面に三日月が来るように振り向く。しかし、振り向いたところでその五指が機体か、若しくは自身の身体を貫徹するのは確定的だと嫌な確信を彼女は持っていた。

 

「させるかああああああ!!」

 

 先ほどの好戦的な咆哮ではなく、必死さがにじみ出ている叫びが届く。

 それと同時に瞬時加速で突っ込んでくるダリルが、体当たりの要領で三日月と団子になりながら、フォルテのそばを離れる。

 

「だから、邪魔だって」

 

 フォルテとの距離を稼ぎ、離脱を試みる瞬間とバルバトスの五指がヘルハウンドの残った非固定浮遊ユニットを貫くのはほぼ同時となった。

 

「ハァ……ハァ……クソッ」

 

 やっと三日月との距離を稼げた事に安堵しつつ、視界に映し出される機体ステータスが赤く染まっていることに悪態をつくダリル。

 荒くなる自身の息遣いと、心音を鬱陶しく感じながらも、三日月の一挙手一投足を逃すまいと必死に集中を続ける。

 だが、数秒後の彼女を救ったのは、彼女自身の集中ではなく、便りにする相方の絶叫混じりの警告となる。

 

『背後!頭狙い!』

 

 プライベートチャンネルからの声を、思考が理解する前に本能が身体を動かした。

 PICの操作で背面を地面ギリギリに付けるように身体を反らせる。すると、ダリルの視界には右手を抜き手にして伸ばし切り、左手に握り込むショートメイスをいつでも突き出せる体勢のバルバトスを纏う三日月の姿が映り込む。

 

「ガッ――――」

 

 視界に映ったそのメイスに気を取られたのか、ダリルは無防備な横っ腹を蹴飛ばされ、そのまま地面を転がった。

 

「ヤバっ」

 

 ダリルの機体のシールドエネルギーが尽きた事をアリーナの電光掲示板が伝えてくる。

 それを認識した瞬間、フォルテは咄嗟に機体の操る冷気を霧散させる。

 これまで自由自在に熱と冷気を操っていた二人であったが、それはお互いの存在があるが故であった。

 それぞれ試合においてISにダメージを与えることのできるほどの熱や冷気を操れていたのは、片方が機体の冷却を担当し、もう片方が搭乗者の体温などの維持を担当していたからである。

 そのお互いをフォローがあってこその高度なコンビネーションと力は片方が欠けるだけで、戦力が半減以下となってしまう。そして、現状、片方が欠けるというのは試合の決着が着くのと同義である。

 

「待っ――――」

 

 フォルテがギブアップ宣告をするために、静止をしてもらう言葉を発するのと、バルバトスの五指がフォルテを捉えて振り抜かれるのと――――――

 

「――――――終わり?」

 

 ――――――試合のタイムアップの合図であるブザーがなるのはほぼ同じタイミングであった。

 バルバトスの五指は文字通り、フォルテの目前で止まっていた。

 

 

 

 




作者の技量ではこれが限界でした。
因みに書き上げるまでに、三度ほど書き直しました。
どうしてもこの二人を相手にすると、クレバーな動きをしないと無理じゃね?っていう作者の思い込みがありまして、その度にこれ三日月の戦いじゃねーよというセルフツッコミが続きました。
…………というか、原作読み返して、ダリルとフォルテのイージスの説明が気温差による相転移で相手の攻撃を運動エネルギーを無くす的な説明となっていたのですが……自分の理解が足りないのか、それで風の槍は無効化無理じゃね?むしろ気温差による空気の壁を生成するとか気流を発生させるとかの方が防げそう?と思ってしまいました。
誰か詳しい方教えてください。そして、原作者、もっと設定詳しく書いて……(泣)


次回からやっとトーナメント関係を本腰入れて書いていきます。まぁ、その前に日常編を入れますが。こんな作者ですが、また次回。

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