試合まで行きたかったですが、前フリは重要かなと思ってそこそこしっかり書いたのでそれは次回です。
時間は三日月たちがフランスに出払っている頃まで遡る。
三日月たちが鉄華団としての活動のためにIS学園を離れる際、学園に残ることになったアトラとクッキー、クラッカの三人。
彼女たちは学園では一般教養等を真耶や手空きの教師が教えることになっているが、正式な生徒ではないため、学生たちよりも暇な時間が多い。
そしてその空き時間や特定の時間、アトラは主に食堂の手伝いや、寮で出るリネン関係の仕事をしていたりする。
一方、クッキーやクラッカもアトラと一緒に手伝いをしていることが多いのだが、この二人は本来であればジュニアスクールに通っている年齢であるため、学園側の職員も彼女たちをあまり働かせようとはしていなかった。
しかし、保護という名目で学園にいることと先日の誘拐事件や襲撃事件などの所為で、あまり学外に出ることもできない二人は暇を持て余していた。
そんな中、三日月が出かける前にあることを二人に頼み込む。
「頼んどいた土が来るから、もし来たら種を植えてくれる?」
千冬からの紹介で園芸部に仮入部をし、部が保有する土地の一部を借り受け、家庭菜園のレベルであるが野菜作りを始めていた三日月。
彼が留守の間に、学園から近い業者から腐葉土や関東ロームなどの買い付けた土類がくる手筈になっていた。そして、それの受け取りと、前もって用意しておいた種を植える作業を三日月は双子にお願いしていた。
やることのない二人はこの三日月のお願いを快く引き受ける。
そして、土が届く当日。学園の荷物搬入を管理する裏門付近で、前もって用意されていた資材申込用紙の控えと物品である土を交換し、二人は意気揚々と目的地である畑の方に向かうのであった。
もっともその意気も長続きしなかったが。
「お、重い~~……」
「あ、そっちが落ちそうだよ、クラッカ」
あらかじめ借りていた台車に載せはしたものの、総重量数十キロの土嚢を運ぶには二人は非力で体も小さかった。
「あ、あぶなっ!」
「こける!」
案の定、整備された道の段差に台車の車輪が取られ、バランスを崩しそうになる二人。
荷物の重さを支えきれず、重力に従いそのまま転けそうになる。しかし、二人に訪れたのは、地面にぶつかる衝撃でも上からのしかかる荷物の重みでもなかった。
「おいおい。ガキンチョ二人が運ぶにしては重いもんを運んでんなぁ」
「……それを軽々と片手で支えてるあたり、先輩は乙女から程遠い感じっすね」
そんな軽口の押収が頭の上から聞こえてくる。
転けそうになった時に反射的に瞑った目を開き、声の方を見るとそこには女性にしては大柄な先輩と、双子と同じくらいの体格の凸凹な見た目の二人の女生徒がいた。
「「誰?」」
「お、綺麗なハモリ。見た目からして双子だからか?」
「お二人さん、その質問は最もだけど、まずはお礼を先に言ったほうが良いっすよ?」
大柄な女生徒の方が台車に崩れた荷物を載せ直し、小柄な女生徒の方が双子の乱れた服装を簡単にだが整えてやる。
そして、一息ついてから二人は改めて名乗った。
「そんじゃ、自己紹介か?ダリル・ケイシーだ。好きに呼びな」
「フォルテ・サファイア。今度からは誰かに手伝ってもらうといいっす」
大柄な女生徒――ダリルは台車を押す手摺りに手をかけながら、そして小柄な女生徒――フォルテはアドバイスとも注意とも取れる事を言いながら自己紹介をした。
「「え、えっと、ありがとうございます」」
「素直なガキンチョたちだな。間違っても俺らのようにはなるなよ」
「……一緒くたにしないで欲しいっす。授業の始まる直前に、『サボろうぜ!』って教室に突撃かまして、拉致してきたくせに」
目の前で繰り広げられる漫才のようなやり取りに、置いてきぼりをくらっていた双子であったが、自己紹介をされたのであれば、自分たちも自己紹介をするのが礼儀であると、兄と先生に習った二人はそのままダリルとフォルテに名前を教えた。
「そんで、これはどこに運べばいいんだ?暇だし手伝ってやるぞ?」
「間違っても授業サボってる人間のセリフじゃないっすね。……まぁ、手伝うのは賛成っすけど」
最初はその提案に申し訳ないと思った双子は遠慮しようとしたのだが、ダリルの強引ではあるが不快ではない申し出と、フォルテの柔らかい言い方の指摘から結局は、畑の方に土を運んでもらうのであった。
その後、食堂などの仕事が一段落したアトラも合流し、その五人で三日月が始めた畑の世話をし始める。
「なんかこんなの日本のバラエティ番組でやってたな………『走れ!アイアンアームズ』だっけ?」
「小麦色した先輩の肌にはよく似合うっすね、畑仕事」
などと軽口を叩きながらも、力仕事に慣れていないアトラたちと比べ、不慣れではあるがそこそこスピーディーに作業を進める二人であった。
その日以降、時々畑仕事を手伝いに来る二人が、フランスから帰ってきた三日月たちと顔を合わせるのは自然な流れである。
「三日月、この二人がよく手伝ってくれたダリルさんとフォルテさん」
「へぇー……ありがと」
そんな感じの邂逅を果たし、ダリルは三日月にこう切り出したのだ。
「なぁ、後輩。もし本当に感謝してんなら、ちょいと俺の頼み聞いてくれるか?」
そしてその頼みが三日月との試合であった。
同じ学園に通っているとは言え、学年が違えば中々そういった機会を設けることが難しくなる。
さらに言えば、今年は公式行事に襲撃が起こるなどといったこともあり、少し先に予定されている専用機持ちが参加するタッグマッチも何かしらの横槍が入っても不思議ではないのだ。
「…………双子の手伝いしたのはそれが理由?」
「いんや?そっちは完全に偶然だ。まぁ、お前さんと会えればいいなと思ったことはあったけどな」
「そう…………俺は別にいいよ」
その疑問だけは譲れなかったのか、三日月はその確認だけすると気軽に了承の意を返した。そのあと三日月が楯無との試合でアリーナをお釈迦にしたことから、それを避けるために時間制限を設けたり、ダリルが自身の全力はフォルテとペアを組んだ時という理由から一対二でやることを了承したりと、細かい部分を決めつつ試合を行う運びになったのだ。
そして日を改め、試合の少し前、今回ある意味巻き込まれる形になったフォルテがふと思いついた疑問をダリルに投げかける。
「そう言えば、どうして三日月の方を選んだっすか?」
「あん?」
「男性操縦者のデータ目的の試合ならもう一人いるじゃないっすか。聞こえてくる噂的にはそっちのほうが取り入り安かったんじゃないっすか?」
試合前の機体セッティングを行いつつ投げられた問い。その問いの答えは簡単に返ってくる。
「噂……噂ねぇ」
「?」
「その噂で判断したんだがな、俺は」
「どういう?」
「織斑一夏の噂ってのは『見た目がいい』『織斑千冬の弟』『専用機を持っている』『人当たりがいい』……まぁ、大きく分類すりゃこんなところだろ」
そのダリルの言葉に作業の手を止め、ダリルの方に顔を向けたフォルテが頷くことで肯定の意を示す。
「そんな上っ面だけの噂なんかで興味なんか湧くわけないだろ。それに比べて三日月の方の噂は色々と尾ひれが付いてるかもしれねぇが『強い』って事に終着する。ならどっちとヤリたいのかなんて決まってる」
この時点では昭弘も入学はしていたが、学園内での試合を行った事がなく、また襲撃の際の戦闘は箝口令が敷かれているために話題に上ることすらなかった。
「………………」
自身の中の疑問が氷解したのは良しとして、フォルテはその返答が気に入らなかった。
それを言ってしまうのも、態度に出すのも悔しく、そして情けないと思ったために、身体の向きを戻し機体セッティングを再開する。
だが、それはいつの間にか背後に立ち、後ろから包むように抱きついてきたダリルの所為で中断せざるを得なかったが。
「せ、先輩?」
「ヤキモチやくなよ?お前以上に欲しいもんなんて今の俺には無いんだからな」
見透かされていたこと、歯の浮くようなセリフの気恥かしさ、そして何よりもその言葉に嬉しさを覚えているフォルテは赤面するのを抑えられなかった。
「今回、俺のワガママに付き合ってくれた礼は後でたっぷりしてやるよ」
その言葉と共に片手で顎を挙げられ、ダリルの顔の正面に向かされるフォルテ。
そして二人の距離は零になる。
“それ”の味は甘く、熱く、そしてどこまでも刺激的であった。
「これは前払い。続きは終わった後だ」
そう言い残し、自機の方に戻っていくダリル。
(ズルイ)
その後ろ姿を眺めながら、フォルテはそんなことを思った。
そして時間は過ぎ、三日月たちとの試合の開始時間となる。
「試合の後の方が色々と燃えるしな」
「色々と台無しっす。私のトキメキを返せコノヤロー」
てな感じで次回です。
今回最後の方で、甘い展開にしたのですがうまく書けていない可能性が大です。
自分戦闘シーンを書くのは好きなのですが(旨いとは言えない)、恋愛描写は割と苦手だったりします。(←なぜにISを書いてんだ?)
なので、これから精進していこうかなと思います。
因みに一番書きたいのが、千冬とゴニョゴニョの絡みとラウラとゴニョゴニョの絡みです。…………ビスケットと真耶の絡みは割と楽だったりするのですがね……
では次回は試合です。