一月中に間に合わずすいませんでした。
ISABを始めたのですが、ストーリーはともかく新キャラの尽くが一夏に惚れていくのを見るのが辛い…………
その日、ラウラは朝から機嫌が良かった。
物資輸送の護衛というエリート部隊が行うには地味な任務を請け負ったことや、最近になって尊敬すべき教官が帰国してしまったことなどを差し引いても上機嫌であった。
何故なら、その日はドイツの第三世代機であるIS、シュヴァルツェア・レーゲンの操縦士としてラウラが選ばれ、調整のために非武装ではあるがその機体が彼女に与えられたのだから。
とはいえ、元々実験機であり、その時点では試作機でもあったその機体は第三世代機になる“予定”であるため、固有の武装の代わりに準備資金をあまり必要としないEOSの武器を用意されていた。しかし、EOS自体も安いものではないため、どちらにしろ多くの資金が注ぎ込まれていることに変わりはないが。
そして、数機のEOSと彼女のシュヴァルツェア・レーゲンを合わせた混成部隊は、ドイツの国境を越え、紛争地帯の付近に流れ着く避難民に対する救援物資を詰め込んだコンテナ類の輸送任務につくこととなる。
任務の合間に、ISに慣れるために出来るだけ機体に乗り込み、訓練で使用していたEOSとの違和感を払拭しつつ、任務は恙無く進行していく。
特に派手な戦闘などもなく、物資を運び終え、避難民に対して救援物資の一部である風土病に対するワクチンを投与するため、同行していた医師たちが仮設テントを用意し始める。
その間、周辺警戒をしているときに“彼ら”は来た。
「――――センサーに反応多数?……この速度は歩兵とEOSか!」
それに気づいたとき、ラウラは反射的に部隊内通信で声を張り上げていた。
しかし、部隊が迅速な対応をするよりも、仮設テント付近に榴弾を打ち込まれる方が早かった。
「っ!EOS部隊は迎撃を開始しろ!ほかの人員は避難民とスタッフの避難を最優先!私はその護衛につく!」
相手が避難民の有無に関わらず撃ってきた事に歯噛みしつつ、ラウラは最速で指示を飛ばす。ハイパーセンサーを搭載されていることによる視界の広さと、防衛目的とは言え率先してISを他国の領土で派手に暴れさせるわけにはいかないが故の判断であった。
そして状況は怒涛のごとく過ぎていく。
混戦の様相を呈してきながらも、確実に物資を詰め込んだコンテナの方に向かってくる敵部隊。そして、お互いに損害を出しているはずなのに、その速度は緩まるどころかむしろ速くなってきている。
「死兵だとでも言うのか?!」
ハイパーセンサーの所為で嫌でも把握してしまう戦況に、思わずラウラはそう零す。
そして、とうとう敵部隊がコンテナに到達するのと、非戦闘員を全て戦域外に誘導し終えるのはほぼ同時であった。
それを確認するとラウラは真っ先にコンテナの元に向かう。機体のスラスターに火を入れ、自身にできる最速で現場に戻る。
その際、彼女の頭の中では戦闘にISを極力関わらせないという考えなどは既にない。その時彼女を突き動かしていたのは、戦場に未だに残っている自身の部下たちの安否を確認することだけだった。
「っ!邪魔だ!」
進行方向から榴弾が迫ってくるのをセンサーが捉える。
よほど集中しているのか、本来不適合のために使うことがほとんど出来ていなかった彼女の特殊な左目、“越界の瞳”を無意識に使用し、自身に迫る榴弾を回避する。
その一発を避けてから、相手も過剰に反応してくる。
榴弾だけでなく、弾幕が小規模ではあるが自身に迫ってくる。普通であれば迂回して回避するのが正解であるのだが、ラウラは“その程度”の障害で減速する事を嫌った。
集中力が一段階上に行く。
視界が余分な情報を排し、相対速度的に視認が困難な弾丸を視界に収める。
その視界を頼りに、弾丸の隙間に自らの身体を、機体を滑り込ませていく。
そして気が付けば、ラウラは目と鼻の先に目的の戦場を前にしていた。
「――――――」
たどり着いた先にあったのは、自分の部下たちがEOSを纏ったまま倒れ伏す光景。
先程と同じように、ラウラの頭の中で余分なモノがこそぎ落ちていく。しかし、それは集中力故の高度な領域に精神を放り込む所謂“ゾーン”のようなものではない。
それは単純な怒りだ。
「貴様らああああ!!」
咆哮を上げる。
激発しそうな感情に従い、体を本能のままに動かそうとするラウラ。普通であれば、このあとに待っているのは一方的な蹂躙である。それがISというものが戦場で齎らす常識だ。
しかし、ラウラがそうであるように、相手の部隊の人間は普通でも常識的でもなかった。
「昭弘、そっちからよろしく」
「簡単に言いやがって!」
弾丸ではなく、再び榴弾がラウラを襲う。
集中力が切れていたため、先ほどのような回避はできず、携行していた飛び道具を潰される。その為、残った近接武装であるコンバットナイフを抜刀し、陸戦を挑むことを余儀なくされる。
陸上に機体を下ろし、一旦センサーを確認すると、既に敵部隊の大半は撤退を開始していた。
その中の例外。部隊の後詰めを請け負っていると思われる二機のEOS。それが先ほどラウラの射撃兵装を潰し、そして今現在IS学園に通っている三日月と昭弘の乗った機体である。
例えばこれが一対一のタイマンであれば、ラウラの勝ちは揺らがない。しかし、二対一という状況と、お互いのカバーを行うことによる遅延戦闘さえこなせばいいというアドヴァンテージにより、ラウラは相手の機体に損傷を負わせることはできても、捕縛はもちろんのこと、撃破もできずに、結果的に二人の撤退を許してしまった。
追撃はできなかった。
先の“ゾーン”や使用になれていない“越界の瞳”の使用による、体力の消耗が激しかった事がその要因である。
そして何より、倒れふしている部下たちが“未だに生きている”状態であった為、そちらの救助を最優先にしなければならなかったためでもあった。
その後、惨憺たる結果に終わったその任務を終え、祖国に戻ったラウラたちはしかし、世間からも軍上層部からも同情的な見方をされる。
客観的に見れば彼女たちは「負傷者を出しながらも、命懸けで非戦闘員と民間人を守った軍人」であるのだ。それも事前通告がなく、一方的に戦闘を開始させられたという事実がその事に拍車をかけていた。
もっともドイツの一部の人間たちからすれば、“他国の避難民を利用したナノマシンの人体実験”が邪魔されたことで憤慨ものであったのだが、その事が露見せず、世間的にはドイツの国の評価にも繋がった為、あまり大げさに騒ぐこともできなかった。
因みに何故三日月たちが、山賊のような事をしていたのかというと、コンテナ内にあった風土病に対するワクチンが目的であった。
当時、流行病にかかっていたのは主に子供であり、それは三日月たち鉄華団のメンバーのうちの何人かもかかっていたため、ドイツからの救援物資の中にそのワクチンがあることを情報として知ったオルガたちがその一部を強奪することを強行したのだ。
普通であれば国家間の戦争にも繋がる行動であるが、彼らの戸籍が無く、そして正規部隊とは言えない彼らが、どこの国の所属かすらわからなかった為、この事件はうやむやのまま終わりを迎えた。
「皆、すまなかった」
一方で、ラウラたちの部隊――――通称“黒兎部隊”は、国や軍からも評価を受けることになったが、それは屈辱以外の何物でもなかった。
戦場で大した働きも功績もできず、相手の目的を達成させておいて、よくやったと言われる。これほど惨めなことはないとラウラは歯噛みする。
そして、身が切れるほどの怒りを飲み込み、ラウラは謝罪する。仲間に、部下に、戦友に。
自身の無力さに腹が立つ。
自身の至らなさに殺意がわく。
そして、これから仲間と共に進むための覚悟を決める。
ここからラウラの黒兎部隊は変わっていく。後にドイツ軍最強部隊と言われる程に。
「――――――というわけだ」
「それどこの世界の話?」
「む?国のことなら軍機だ」
食堂で夕食を取りながら、ラウラと本音、そして本音の幼馴染である簪の三人は談笑をしていた。
そして、話題になったラウラと三日月たちの関係を聞いた本音は、別世界すぎるその話をネタのような返答をしてしまう。
となりで「……本音が染まっているのって、私のせい?」とか簪が呟いているが、特に重要なことでもないと判断されたのか、ラウラと本音はスルーしていた。
ラウラが話した内容は、所々聴かせることのできない部分は端折ってあり、それが聞き手側には作り話に聞こえたようだ。
「そう言えば、今度のトーナメンとはタッグマッチになったみたいだけど、ラウラウは誰と組むの?」
食事が進み、自然と話題は近日行われる学年別トーナメントの話題になる。
前回のクラス代表トーナメントの際に起こった襲撃により、各国はピリピリとしていた。世界でも上から数えたほうが早い程の場所に襲撃が行われ、その内部に複数の敵が侵入したというのはそれだけ大きな影響を与える。
普通であれば、しばらくはイベントなどを中止するのが妥当なのだが、ISの開発に各国は血眼になっており、それに使用される資金も多額になる。その為、下手に中止し、国が研究の遅延などの言い掛かりを行い、多額の損害賠償を払うことになった場合、目も当てられない額になるため、中止になることはなかった。
世知辛い理由になるが、最先端を行くには何事にも金が必要になるのが今の世であった。
「ふむ……本音はどうするのだ?」
「私?私は選手じゃなくて、整備員として参加するつもりだよ?ラウラウのセコンドしようか?」
「私の機体は機密が多い。色々と誓約書を書いてもらう事になるのと、兵装には触らせることはできないがそれでもいいか?」
「いいよぉ~!むしろやること減って、私はハッピーかな?」
(……オーガスにはなんと言えばいいのだろうか?)
ある意味学生的な発想に、ラウラも苦笑いを零した。そして、改めてタッグの相手を考え、脳裏に浮かんだ相手を誘うために何を言うのかを考え始めるラウラであった。
ところ変わって、ラウラの脳裏に浮かんだ当人は、ある意味で修羅場を迎えていた。
「ハ!活きがいいじゃねえか!」
「ちょ、毎回顔面狙うのやめて欲しいっス!」
「……熱くて、寒い」
何故なら、学園内で最強を誇るタッグと一対二の試合を行っていたりするのだから。
要望のあったラウラと三日月の因縁的なものを明らかにした本話でした。
てな感じで次回です。
どうして三日月が二人と戦っているのかはまた次回です。ちょっとしたネタバレとしては、学園に残っていた組と二人が絡んでいたからです。……悪い関係ではないです。