最近またスランプ気味です。そのくせ、他にも書きたい作品などが思い浮かんでくるのが、自分にとっていいことなのか悪いことなのか……
とりあえず本編どうぞ。
フランスでの一件が終わり、フランス政府の個人的な尽力により世の中に大きな波紋を呼ぶこともなく、三日月とビスケットと雪之丞はIS学園に戻ってきていた。しかしそこには、その三人に加え以前までは学園とは無関係であった昭弘の姿もあった。
「……おい、三日月。学校って何をするんだ?」
「ん?……自分の知りたいことを先生に教えてもらえばいいんじゃない?」
これまで身体を鍛えるか戦争をするかしかしてこなかったせいか、年相応の場所に通うことに漠然とした不安があるのか、昭弘は硬たい声でそんな問いを投げた。
もっとも、問いかける相手も答えも合っているとは言い切れなかったが。
因みに今の時間帯は昼休みが終わり、午後の授業が始まって間もない頃であった。前日に鉄華団としての仕事を終え、学園に帰る旨を千冬に報告したところ、昭弘という転校生を紹介する必要もあるため、午後からでも授業に来るように言われていた二人であった。
本当であれば昼休み中には教室に行っておくべきであったのだが、機体搬入などの手続きに時間を取られ、少しの遅れを見せている二人であった。
元々時間にルーズな三日月たちがそれを気にするかといえばそうでもないのだが。
「……ここだよ」
三日月に連れられてやってきた一年一組の教室。その報告に昭弘は緊張からか息を呑む。
以前、授業中に教室に入るときは後ろの扉から入れと言われたことを覚えていた三日月は、黒板がある方とは逆の扉に手をかざす。
無駄に金をかけている自動ドアがいつもどおりに開く。
「遅れた……ました?」
一度注意されたことを言ったあとに思い出したのか、三日月は文字通り取って付けたような部分的な敬語を足した。
それを聞いて呆れたため息を吐きそうになっていたのは、教室の後ろで授業風景を観察していた千冬であった。因みに今授業を行っているのは真耶である。
「あー……山田先生、申し訳ないが一旦中断しよう。全員手を休め聞いてくれ」
教室の後ろに生徒全員の視線を集め、三日月と一緒に入ってきた昭弘の方にその視線を促す千冬。
「今朝の連絡事項で言っておいた、もう一人の転校生だ。アルトランド、挨拶を」
「昭弘・アルトランドだ…………よろしく頼む」
自己紹介などほとんどしたことのない昭弘は元々無口な性格も相まって、無難な挨拶で締める。授業中ということもあり、大きな声を張り上げるという醜態を曝す生徒こそいなかったが、誰しもが目を見開き驚いていた。
何故ならIS学園に三人目の男の生徒が転校してきたのだから。
「あの……織斑先生」
「何か質問か?」
「そのアルトランド君もISを?」
恐る恐ると言った姿勢のその質問はその場にいる女生徒たち全員の気持ちの代弁でもあった。
「そうだ。世間ではまだ公表されていないが、彼もオーガスと同じくある事情でISを動かせる事が発覚した……所謂“三人目”だ」
これには流石に我慢できなかったのか、教室のそこかしこからざわざわという声が聞こえ始める。
「――――……ねぇ、ねぇ、ラウラウ大丈夫?」
そんな中、ある一角だけ様子の違う少女が居た。
教室の中では前から数えたほうが早いぐらいには小柄であり、そして膝裏に届きそうなほどの銀髪と左目を隠す黒い眼帯が特徴的な少女。彼女は、千冬が昭弘に対して使ったもう一人の転校生という言葉通りに言えば、本日転校してきた一人目の転校生である。
もっとも、今日転校してきた昭弘はもちろん、一組の生徒の顔を半分も覚えていない三日月はその事に気付いてはいなかったが。
「ほ、本音、今すぐに逃げろっ、奴らはヤバイ」
「ん、んぅ〜〜?」
その少女――ラウラ・ボーデヴィッヒは引き攣る喉と、隠れていない右目に涙を溜めるほどに恐怖しながらクラスで一番に仲良くなった隣の席の布仏本音にそんなことを口走った。
そんなことを言われた本音も、生まれつきののんびりとした性格から間延びした返事を返すしかできなかった。
教室内で一人だけ、命の危機に曝されているかのような雰囲気に、自然と教室内で彼女だけ存在が浮いてしまう。
流石に訝しんだのか、ラウラに千冬が声をかけようとした瞬間、その叫びは教室内に響いた。
「奴らは私のいた黒兎部隊を壊滅寸前にまで追いやった傭兵部隊の人間だ!」
そのラウラの叫びが響いてから少しの間があった。
教室内の人間のほとんどは彼女が軍属にいたこと自体には驚かない。何故なら、彼女自身が転校の自己紹介の際にドイツの代表候補生であり、ドイツ軍に所属している事を言っていたためである。
「自分は軍人であり、同年代とはいえ元々は一般人であった人間の方が多いこの場所で、様々な部分で常識や認識の食い違いがあるとは思うがよろしく頼む」
というのが、彼女の自己紹介の際の言葉であり、その挨拶に身構えることなく普通に接したのが本音であった。
そして、これまで三日月たちが孤児であり、兵隊をしていたのは公にされている情報から知っていた生徒たちであったが、その部隊が“ISを保有するほどのエリート部隊を壊滅に近い状態にまでした”という成果を上げていると言われれば、また評価が変わってくる。
「ねぇねぇ……ミカミカのことはオリムーみたいに知らなかったの?」
本音は少々独特な感性を持っている少女であり、苗字はもちろん名前では他人を呼ばず、自分なりの愛称をつけてクラスメイトを呼ぶようにしていた。ミカミカは三日月のことで、オリムーとは一夏のことである。――――決して、某デスポエムで有名なある島の有人兵器に乗る少女でも、ポケットなモンスターでもないのであしからず。
「む……二人目の名前は知っているが顔まで確認する余裕はなかったな。最近はテロが活発化してきていて、その処理を行っていた為に入学が遅れたほどでもあるし……ん?まさか、彼らが?」
流石に周りの雰囲気から察したのか、ラウラは自身の焦りが的はずれであると思い始める。しかし、頭が冷静になると三日月たちがなぜここにいるのかを理解し、そして驚きの表情を見せた。
「そうだよ〜。ミカミカはうちのクラスの生徒だよ?でも、ラウラウ、オリムーの時は興味なさそうだったのに、ミカミカには興味津々だねぇ」
「織斑一夏は確かに織斑教官の弟ではあるが、本人は一般人であることを望んだのだろう?それは当たり前で、努力することを辞めるのも本人次第だ。そんな相手に一々興味など持たん」
「――――――」
「い、一夏?」
ある意味で純粋な言葉の斧が生徒の頭をかち割り、机に突っ伏してしまったが、今はその事は特に重要ではないので、その事に気付いたのはその生徒の幼馴染くらいであった。
「あぁー……ボーデヴィッヒ。彼らとどんな確執があったにせよ、今はお前と同じここの生徒だ。仲良くしろとは言わんが……」
「いえ……恥ずかしいところを見せました。大丈夫です……少しだけいいですか?」
どことなくぐだぐだとなってきた空気を払拭すべく、話を締めようとした千冬がラウラに声をかけると、彼女は心を落ち着かせてから許可を求める。
そのラウラに対し、頷くことで了承の意を述べる千冬。それを確認すると、ラウラは席を立ち、未だに昭弘の横に立っている三日月の前に進んだ。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。遺恨がないわけではないが、争いたいとは思っていない。これからよろしく頼む」
「ん?……あ、あぁ。うん」
挨拶と共に差し出される手。それが握手を求めるものだと察した三日月はその握手に応じるのであった。
もっとも――――
(昔…………コイツ誰だっけ?)
三日月の心境を聞けば台無しであったであろうが。
今回でやっと登場の本音とラウラです。この二人の絡みが個人的には結構好きだったりします。(本編ではなく、主に二次創作ですが)
一応、今作のラウラは常識人であり、軍人らしくもある感じで書けたらなと思います。色々とアンバランスなところも魅力といえば魅力なんですがね。
今年最後の投稿となります。来年もよろしくお願いします。