IS~鉄の華~   作:レスト00

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更新遅れてすいませんでした。
色々と忙しくて執筆できる時間が少なく、そして内容がめんどくさい部分なのでなんとも筆のノリが悪かったです…………


二十八話

 

 

(何で……)

 

 両手に握っていた銃が、一瞬でバラバラにされる。

 

(何で)

 

 常に後退するように移動しているというのに、即座に間合いを詰められる。

 

(何でっ)

 

 相手の持つ武器――――ショートメイスを弾いたと思えば、揃えられた五指が自機の機体の装甲を抉る。

 

(何で!)

 

 手も足も出ないうちに、自身の視界は暗転していた。

 その濁流のような記憶の映像が終わると、彼女――――シャルロットはデュノア社内にある医務室で目を覚ました。

 

「データがない?」

 

「うん。社内のデータバンクには彼女の登録データはなかったし、人事関係の人たちに話を聞いてみたけど、全員口を揃えたように知らないって」

 

「フランス政府に確認はしたのか?」

 

「してみたけど、すぐに返事はできないから、確認が取れてから連絡するって」

 

 覚醒した意識が未だにぼやけていて、すぐ近くから聞こえてくる会話を彼女はしっかりと聞き取ることができなかった。

 

(…………同年代の子の知り合いっていないなぁ)

 

 その声が若いというよりも幼いといえるものである事に彼女はそんな感想を持った。

 

「あ。オルガ、起きたみたいだよ」

 

「……」

 

 会話が止み、自分に意識が向けられたことを察したシャルロットは、その心地よいベッドの感触を惜しみながらも上体を起こした。

 

「…………君たちは、だれ?」

 

 ボヤける意識がどこか見覚えのある二人を思い出そうとする。しかし、意識がはっきりとする前に、彼女のベッドの傍に立っている二人のうちの一人が声をかけてきた。

 

「えっと、僕たちは鉄華団と言って――」

 

「アンタが銃を向けた相手って言えばわかるか?」

 

「…………っ」

 

 その声をかけた方――――ビスケットの言葉に被せるようにもう一人の方――――オルガがハッキリとそう告げた。

 その物騒な物言いに、眉を顰めそうになるシャルロットであったが、そのおかげか意識が鮮明となり、目の前の二人が自身が殺そうとした人間であることを思い出し、その身を強ばらせた。

 

「思い出したか?まぁ、今となっちゃそれはどうでもいいし、その事についての落とし前はここの社長にとらせた」

 

 そのオルガの言葉にシャルロットは全てが終わったことを察する。文字通り、“全て”が。

 

「……僕はどうなるのかな?」

 

「えっと、貴方のこれからを説明するためにも、質問してもいいですか?」

 

 内心で『拒否権なんてないくせに』とどこか自暴自棄気味にそんな愚痴を漏らした。

 

「まずは現状の説明として、デュノア社はある理由から会社を解体することを決定しました」

 

 先の抗争とも取れる鉄華団とデュノア社との一件の後、アルベール・デュノアは表向きにはIS事業における業績不振を理由に会社を畳むことを公式見解で発表することとなった。

 そしてそれに伴い、デュノア社の不況を公的な理由として社を畳むことを決定された。

 そこまでが表向きの情報である。

 会社を畳んだアルベールは今回の一連の事件の関与の責任云々を取るために、フランス政府にその身柄を預けることとなる。

 

「まぁ、デュノア社の社員の方たちは、IS関連以外の事業で他社と合併、もしくは吸収された方に移籍する人もいますし、会社に残っていた資金を退職金として受け取って、実家に戻った人も大勢います」

 

「じゃあ、僕も……」

 

 そこまでの説明を聞いたシャルロットは、あまり関心を寄せる情報がなかったが、最後に添えるように付けられたビスケットの説明に食いつく。

 どういった経緯であれ、自身が自由になれると思えたのだから。

 

「……一応確認しますけど、貴女はデュノア社に所属していますよね?」

 

「――――はい」

 

 ビスケットの質問に不穏な空気が混じる。

 それに気付かないふりをしつつ、シャルロットは答えた。自身の察しの良さを恨めしく思いながら。

 

「先ほど確認したところ、会社内のデータバンクには貴女のデータが登録されていませんでした。人事関係の社員の方たちも貴女のことは知らないと言っていて、取り敢えず今は政府の方に貴女の身元だけでも問い合わせているのですけど……」

 

 そこまで説明されたシャルロットの顔色は真っ青になっていた。それは自身の状況が悪いこともそうであるが、その原因に心当たりがあるからだ。

 

「――――あぁ、わかった。手間を取らせてすんません……ビスケット、コイツの戸籍データは無かったそうだ。最近になって改竄された跡があるから恐らくそれだろう、だとよ」

 

 これまで、ビスケットの後ろに控えていたオルガがいつの間にか使っていた携帯の通話を切ると簡潔に結果だけを口にする。

 それは決定的なものであった。

 

「えっと……その、もう一度聞きますね――――貴女は誰ですか?」

 

 その言葉にシャルロットの表情が死ぬ。

 彼女の思考は自身の待遇を良い方向に持っていく手段が浮かばなかった。

 退職金を貰おうにも、会社に登録データがなければそれを受け取ることはできない。そして、戸籍がなければこの時代まともな生活を送ることも難しい。

 目の前の二人に縋りつき、その問題をどうにかしてもらうという選択肢はあれど、生憎とそれをする義理は二人にはない。もちろん、“表沙汰にしたくない不正を働いた男の妾の子”である自分の戸籍データを元に戻すことも国はしないだろう。それにはデメリットこそあれ、メリットなどないのだから。

 だから、ビスケットの問いにシャルロットは簡潔に、そして単調に返すことしかできなかった。

 

「…………もう、どうでもいいでしょ」

 

 一言声に出せば、そこからはするすると言葉が出てくる。

 

「君たちにとってはもうどうでもいい僕のことなんかほっとけばいいでしょ。僕にはもう何もない。構っても何も得られないでしょ。いてもいなくても支障なんてないし。それとも邪魔になる?ならもう――――」

 

「オルガ!」

 

 自然に動く口を止めたのは部屋に響く叱責と、頭に感じた冷たく硬い感触であった。

 

「――――ここで死んでもいいって事だな?」

 

 頭には安っぽい拳銃が突きつけられていた。

 それをどこか他人ごとのように見つめる。ある意味でそれは救いでもあった。死ぬ瞬間の恐怖を感じずに死ねるのであれば、それは幸せなのだと彼女は思う。

 

「――――――…………?」

 

 しかし、いくら待ってもその時は来ない。訝しむようにオルガに視線を向けるシャルロットに、彼は問いを投げた。

 

「おい…………死んでもいいのなら、何でアンタは泣いてんだ?」

 

「え?」

 

 頬に手をやる。そこには線のような水の跡があり、その部分だけやけに暖かく感じた。

 

「もういっぺん聞くぞ、アンタは誰だ?」

 

「…………」

 

「本当は何がしたい?」

 

 彼女の表情に生気が少しだけ戻った。

 

「本当に死にたいだけか?」

 

「――――――ぃ」

 

「言いたいことも言えないその口は飾りか?」

 

 その問いかけの返事は、言葉ではなく頬を張る乾いた音であった。

 

「そんなわけないっ」

 

 絞り出すような掠れた声が、彼女の口から漏れた。

 

「……何か言ったか?」

 

「生きたいに決まってるっ」

 

 先ほどよりも声が大きくなる。

 

「聞こえねえぞ」

 

「当たり前に笑っていたいっ」

 

 悲鳴のように絞り出すような彼女の声にしかし、オルガはまだ足りないと怒声をあげた。

 

「まだ、足りねえぞ。お前の気持ちはそんなもんか!」

 

「死にたくない!笑っていたい!生きたい!…………助けて…………」

 

 これまで流されるように生きてきたシャルロットにとって、それは産声であった。

 

「そんだけ言えれば十分だ。保証はしてやれねえが、手助けくらいはしてやる」

 

 オルガはそれだけ言うと、泣き始めたシャルロットをビスケットに預け、医務室をあとにした。

 一方その頃、社内のIS用の整備区画に置かれたバルバトスの前に三日月は座り込んでいた。

 機体と向き合うように座る三日月は、ボンヤリと機体を眺める。その目はどこか機体に対して思うところがあるような視線であった。

 

「どうした、三日月?」

 

 その姿が珍しかったのか、単純に興味を示されたのかは定かではないが、バルバトスの隣に設置されたグシオンを整備している雪之丞に声をかけられた。

 

「……おやっさん。俺、弱くなった?」

 

「はぁ?」

 

 質問に対して質問を返され、そしてその内容が内容だけに雪之丞は素っ頓狂な声を漏らすしかなかった。

 

「ここは学校じゃないから、全力でやったのに……あいつ生きてたし」

 

 言葉を吐き出しながら、自然と三日月の視線がその格納庫の一角に移っていく。

 その視線を追うと、そこにはボロボロの装甲が辛うじてフレームに張り付いていると言った風体のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの姿があった。もっとも、ボロボロなのは装甲だけでなく、剥き出しになったフレーム部分も同様で、その姿は凄惨の一言に尽きた。

 

「…………あんなスクラップをこさえておいて、言うことがそれか?」

 

「こっちもあっちも同じISを使ってるのに、なんで死んでないのかなって」

 

 三日月としては、今回の戦闘で相手を殺す気で挑んだが、結果的に搭乗者が軽傷で済んだことが不満だったらしい。もちろん、相手を殺せなかったことではなく、自分が考えているよりも相手にダメージを負わせられなかったことが不満の原因である。

 

「それはあれだ、三日月。ISの競技用リミッターってやつだ」

 

 雪之丞の見解は国際的に決められているISの出力リミッターの存在が、三日月の機体への懸念の答えであるというもであった。

 ISのコアや搭載ジェネレーターは競技用の機体としては高すぎるものであった。その為、機体に搭載されている武装や火器を競技用の物にし、パーツやフレームもそれに合わせたものとなり、それを運用するに足るだけの出力設定のためのリミッターが現存する全ての機体に設けられているのだ。

 

「バルバトスにもあるの、それ?」

 

「いや、オメェのバルバトスと昭弘のグシオンは例外だ」

 

 説明を聞いた限り、全力を出せない邪魔なものとでも認識したのか、三日月は眉を顰めながらそんなことを聞いてきた。

 しかしそれに対する雪之丞の返答はあっさりとした否である。

 

「ISとEOSのミックスだから機体強度的にはそのリミッターが不可欠なんだがなぁ。機体側じゃなくて、コア側から出力制限を行ってやがる。まるで、お前さんたちに合わせようとするようにな」

 

 「ま、競技用とそこまで出力は変わっちゃいねぇがな」と言い残し、雪之丞はグシオンの整備作業に戻っていく。

 そして、三日月は再び機体を眺め始めるとポツリと呟く。

 

「――――なら、まだヤレルな。お前」

 

 その呟きに返答を返すモノは居なかった。

 

 

 

 

 





というわけで、ここで一旦デュノア社関係は終了で、次回からはタッグマッチ戦です。
ここで言っておくと、作者はブラックラビッ党です。
それと先に言っておくと、うちのラウラは原作よりも常識人です(ネタバレ)


毎度のご指摘とご感想本当にありがとうございます。更新は不定期かもしれませんが、これからも頑張っていこうと思います。取り敢えず今年中にもう1話ぐらいあげるようにします。

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