そして思ったのは、色々とペラいでした。……いや本当にどこからつっこんでいいのやらです。
その「うわぁ……」って気持ちを払拭するという気概で書いたので、どこかしこに粗があるやもしれませんので、何かあれば報告お願いします。気づかないうちにやらかしていることもあるかもしれませんので、読者の方からのツッコミとか指摘は本当にありがたいです。
フランスのとある街外れ、山と街の中間地点よりもどちらかと言えば山よりの場所にある大きな建物。その建物は時代の先駆けを意識したデザインとなっており、自然の中に建つにしてはひどく浮いた風景となっていた。
その建物――――デュノア社の屋上に近い一室では一人の男が大きな個人用デスクに座っていた。
その日、珍しく長時間雨が降っていたことにより、普段はからりとした空気がジトリとした不快な感触を肌に伝えてくる外と比べ、その部屋は快適そのものと言っても過言ではない。
しかし、その体感はその部屋にいる男を見ると錯覚ではないのかと思ってしまう。何故ならその男は表情を歪め、眉間には皺がより、その額には脂汗が傍目から見てもわかり易い程に目立っていた。
「…………これは脅迫か?」
その男、デュノア社の社長であるアルベール・デュノアはその脂汗の原因を“造った”自身の持つ電話の受話器の向こう側にいる人物へ震えを押さえつけるように低い声を向けた。
『先に仕掛けておいてやり返されただけで脅迫っていうのは、随分と虫のいい話じゃねーか?』
受話器のスピーカーから若い青年の声が聞こえてくる。
その声に集中しつつも、アルベールはその部屋の一面になっている外観の見えるガラス張りの壁を見る。
その壁は長方形のガラスを横に八枚程並べ、晴れた日には大きなパノラマにもなる密かに彼が気に入っていた部屋の特徴の一つであった。
その八枚の内の一枚に彼の視線はクギ付けとなっている。何故ならその内の一枚は無粋なことにひび割れているのだから。
普段であれば憤慨していたであろうそれはしかし、彼にとっては肝を冷やす要因にしかならない。何故なら、そのガラスは“一点を中心に蜘蛛の巣状”にひび割れているのだから。
「やり返された?……貴様は誰だ?」
『その疑問の答えはあと十分もすればわかるさ』
それだけを言い残し、唐突に通話が切れる。
突然の窓の破損――――狙撃とそれに合わせたタイミングでの電話。そのいきなりの事態に彼は内心で動揺していた。
しかし、動揺していたにしろ、彼の冷静さは適切な処置を下すように身体を動かす。
「――――……私だ。今は社長室にいるのだが、つい数分前に狙撃された。…………あぁ、幸い防弾ガラスが破られることはなかったが、まだ狙撃犯がいる可能性がある。事前に調べておいたポイントを虱潰しに探し、もし犯人がいるようなら確保しろ。ISの使用も許可する」
机に置かれた内線から、社内の警備部に指示を飛ばすアルベール。
デュノア社は今現在、世界で最も普及しているISの第二世代機であるラファール・リヴァイヴを生産している会社である。その為、その会社の重要度は社会的にも高く防犯関係はしっかりとしたものであった。
襲撃された際のマニュアルもあり、特に重要度の高い箇所には外からの狙撃ポイントの割り出しなどもあらかじめ行っていたりする。
「……狙撃?この天気で?」
指示を出し終え、受話器を置いた瞬間、窓の外で降りしきる雨を見つめながら湧き出た疑問が口から付いて出た。
一方で、窓ガラスを割るという字面にするとただの子供の悪戯のようことを実行した人間は、その実行のために使ったライフルを担ぎながら、移動をしていた。
「いやぁ!雨の中でも意外とどうにかなるもんだな、おい!」
「あまり騒がないでシノ。最新モデルとはいえ、阿頼耶識ありきのライフルでどんな弊害があるのかはわからないし」
はしゃぐような声を出すのが、その実行犯であるノルバ・シノであった。
雨の中、背の低めの林の中を駆ける彼のすぐ後ろには、タブレットを抱くようにして持って同じく走っている少年――――ヤマギ・ギルマトンの姿もある。
今回、デュノア社の社長室に対しての狙撃を行うということをやりきったのは、鉄華団所属のこの二人であった。
そして、悪天候である雨の中、約一キロ離れたポイントからの狙撃という離れ業をやってのけたのは、今現在シノが担いでいるライフルの性能によるところが大きかった。
彼の後ろを走るヤマギの言葉通り、そのライフルはシノの首筋にある阿頼耶識専用のコネクターからケーブルを通して接続されていた。
このライフルは、鉄華団がISやEOS以外にも装備を整えるという一環で、試作された武装の一つであった。通常のライフルと比べ、大きな違いは内蔵されたシステムに照準補正用の機構が組み込まれ、多少なりともライフルが大型になっていることである。
とはいえ、そのシステムと機構が合わさってはいるが、センサー類などはそのライフルには付いていなかった。というよりも、そのライフルのセンサーの役割をするのが、シノ自身なのだ。
風、気候、湿度等など、狙撃の際に必要とされる外部情報はかなり多岐にわたる。それらの情報を汲み取り、銃の飛距離や弾頭の種類、そして自らの経験や勘といった部分を加味した上で、狙撃という一種の曲芸じみた技能は成功を見せる。
それらの細かい部分、実際に狙撃手が五感で無意識に把握している情報をダイレクトに伝達させ、ライフル内である程度の補正を行ってしまうというのが、その阿頼耶識搭載型のライフルであった。
これはEOSを使うことによって、阿頼耶識のナノマシンがその戦闘記録と経験を蓄積したものがあるが故であり、長年そのシステムを使ってきた鉄華団の団員であればこそ使える装備あった。
「お?始まったか?」
雨音が聞こえる中、その鉄同士がぶつかる硬質な音や砲撃音が遠くから響いてくる。
その戦闘音が聞こえてくると、シノはその音のする方をどこか好戦的な表情を向けた。
その視線の先、雨の降る中交戦しているのは、デュノア社からの命令で狙撃犯の確保を命じられた、会社専属の操縦者であるショコラデ・ショコラータの駆るラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡと、先日ISコアと融合してから再び機体の調整をやり直したばかりのグシオンを操縦する昭弘であった。
「男がISを?!」
「ここから先は行かせねえ!」
真っ直ぐに狙撃ポイントに向かっていたラファールに対し、昭弘が行ったのは奇襲であった。
メインのアームとグシオンの最大の特徴である背部のサブアームの合計四本の腕が、試作リニアライフルを装備し、その火力を一機に対して集中砲火するという相手にとって無視しきれない攻撃によって、昭弘は相手の機体を引きつけたのだ。
そして、ある程度ISの操縦時間が平均的なIS学園の生徒よりも多いはずの相手も、ISを男が操縦していることに動揺し、とっさの対処が遅れてしまう。
そういった要素が絡み合い、その二人の攻防は昭弘がことを有利に進めていた。
しかし、昭弘はその状態が長く続かないことを自覚している。何故なら、EOSによる陸戦ならともかく、ISでの空戦というどちらもほとんど経験のない昭弘にとって今の状況は奇襲くらいしか有利な要素がないのだ。
その為、長期戦になればなるほど平静を取り戻す相手が有利となってしまう。だから、昭弘はより強く想う。
(団長!早いところケリをつけてくれよ!)
そう願いながら、昭弘はセンサーが寄越してくる視界の端に映るデュノア社の本社に向かう車を一瞥するのであった。
ところは戻り、デュノア社の社長室には再び内線からの連絡を受けていた。
「面会だと?」
『はい。なんでも先ほどの件について話に来たと言っていますが……』
受付からの連絡は困惑の声音であった。しかしそれも無理はない。外部から直接社長室に備え付けの内線に連絡を取るという、普通に考えればありえないことをされたなどと、受付嬢が知るはずもないのだから。
「……いや、それは私の個人的な客だ。いますぐに応接室の方に通しなさい」
それだけ指示を出すと、通話を切り、彼は社長室をあとにする。
そして、先に言った応接室の方に向かいながら、プライベート用の携帯電話を取り出し、登録されている番号をコールした。
「私だ。アレに戦闘配備をさせて待機させておけ。武装の方は試合用ではなく戦闘用のものに換装させておけ」
それだけ指示をだすと、彼は通話を切ると同時に腹をくくる。
目的の応接室はすぐ目の前に迫っていた。
今回のカチコミはあと二話程続くと思います。
それとシノをスナイパーにしたのはフラウロスの出番がないので、その分どこで活躍させればいいのだろうと考えた結果、ああなりました。
そして最後に十巻と十一巻を読み終えて一言。
一夏は何様というか、どうして自分は全部を背負っていると思っているのでしょう?