IS~鉄の華~   作:レスト00

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お久しぶりです。
しばらく投稿が空いてしまいました。
リアルの方が忙しく、そこそこ書き直しもしていたので、あまり文章量も多くありませんが、ある意味でクラス対抗戦(無人機襲撃編)のエピローグにあたります。


二十五話

 

 

 数時間前まで轟音を響かせていたその場所は、見た目こそ荒れ果て、残骸が賑やかに自己主張をしているが、今はただ耳が痛いほどの静けさに満ちていた。

 だから、その足音はひどく大きく聞こえるが、生憎とそれを聞いているのはその足音を響かせる当人だけであった。

 

「……」

 

 足音の主――――千冬は大きく拡張された観客席の入口から、アリーナ内に入るとそのまま競技用グラウンドに足を踏み入れた。

 戦闘の被害で観客席からグラウンドまで物理的な道ができていたため、彼女の靴がパンプスであってもそれほど苦労することもなく足を踏み入れることができる。

 もっとも、例えハイヒールであろうと彼女であれば、苦もなく獣道ぐらいは歩けるかもしれないが。

 

「…………」

 

 グラウンド内に散乱するアリーナの残骸。それは観客席の一部であったり、アリーナの屋根の一部であったりと様々であるが、唯一敵機である無人機の残骸だけはなかった。

 敵機がISコアを搭載した無人機であることは既に学園側も把握している。その為、襲撃からまもなく、世界を動かしかねないその存在を即座に学園の地下施設に収容したのは当然の措置であった。

 千冬はグルリと辺りを見回し、その惨状とも言える光景を一瞥する。

 幸いにも今回の襲撃により怪我人こそ出たものの、死人は一人も出ることはなかった。不幸中の幸い、と言うには怪我人に対して失礼であるが、その事実だけは彼女も安心できた情報の筆頭であった。

 

「――――――っ」

 

 その惨状を見ることで脳裏を巡る今回の襲撃事件の顛末。それを思い出した瞬間、千冬は自身の拳を手近な残骸の一つに叩きつけていた。

 

『――――よくやった。学園を襲撃者から守ってくれた事に礼を言う』

 

 自身が発した言葉。

 襲撃後、即席の医療区画で纏めて治療されていた三日月たち鉄華団に言ってしまった事実。それが千冬の感情をささくれ立たせる。

 

「っ」

 

 拳を受け止めた残骸が崩れる。

 硬い物体同士がぶつかりながら落ちていく。それと共に拳の表面が浅く切れたのか、千冬の手の甲から赤い液体が滴った。

 

「――――――」

 

 三日月たちには『大人』として、言わなければならない言葉が他にあった。

 それは謝罪と叱責だ。自己防衛のためとはいえ、自ら率先して戦闘の渦中に行ったことは本来であれば諫めなければならないことだ。

 しかし、結果的に彼らの協力があったからこそ、学園の生徒たちは迅速に避難することができ、そして襲撃してきた無人機の半数以上を撃墜したのもまた三日月たちなのだ。

 それらの結果と、千冬の『学園の教師』としての立場が彼らに感謝の言葉のみを送ることになってしまった。何故なら、彼女にとっては鉄華団のメンバーはVIPではあるが、最も優先しなければならない生徒たちには含まれなかったのだから。

 

「情けないっ…………」

 

 子供でありながら、既に鉄華団という社会組織の一団に所属する彼らを生徒よりも優先して保護してしまえば、これから先有事の際は生徒よりも優先しなければならない人間が増えてしまう。そうなってしまえば、彼女は自身もその立場も許すことはできない存在に墜ちる。

 身を切るような言葉が彼女の喉から漏れた。それと同時に先ほどとは違う残骸に拳を叩きつける。

 今度はその残骸が崩れることはなかった。

 

「誰かと思えば織斑の嬢ちゃんか」

 

 軽い痛みによって冷えた頭が、そのかけられた言葉に沸騰しそうになる。

 先ほどの子供じみた八つ当たりを見られた事に対する羞恥が彼女の心に去来した。

 

「……雪之丞さん」

 

 内心を見透かされないようにするために、努めて冷静な振りをしつつ、声のした方に振り向くとそこには額に湿布を貼った雪之丞の姿があった。

 

「その怪我は……」

 

「ん?あぁ、これは昭弘のやつに文字通り放り込まれた時にちょっとな」

 

 言われて初めて気付いたように、雪之丞は額の湿布を撫でながらそんな言葉を吐き出した。

 しかし、千冬にとっては、その怪我も自分の至らなさが原因ではないのかと思ってしまう。それを知ってか知らずか、雪之丞は口を開く。

 

「警戒態勢やら、身体検査やらも終わって、いざウチの機体を整備しようと思ってな。そうしたら、三日月のバルバトスも昭弘のグシオンも一から調整をしなきゃならんほどになっててな。しかも、グシオンの方に至っては調整どころか機体整備も一からだ」

 

 雪之丞の言葉に千冬は報告書に書かれていた無視しきれない項目を思い出す。

 それは昭弘・アルトランドの搭乗していたグシオンが襲撃してきた無人ISの一機と融合を果たし、その機体特性がバルバトスと近いものに変質したという事実である。

 これには学園側も未だに対応を決め兼ねており、学園内で処理すべきか、それとも鉄華団との意見交換をした上で処理するか、等など手前勝手な意見から真っ当な意見まで色々と声が上がっている。

 最終的には、搭乗者である昭弘の意見が最も反映されることになると思われるが。何故なら、昭弘は成り行きとはいえ、『世界で三番目のIS搭乗者』となってしまったのだから。

 

「そう言えば……アルトランド君はあれから?」

 

「命に別状はないって聞いてるが、まだ起きてはねぇな。今は保護者になってるナターシャって嬢ちゃんが見てるさ」

 

 そう言いながら、雪之丞はアリーナ内の残骸を漁っていく。

 

「…………貴方は責めないのですか?」

 

 会話が途切れ、彼の作業をじっと見ているだけでは居心地が悪くなったためか、千冬はそんな言葉を漏らした。

 

「……何をだ?」

 

 残骸の下から、丸みを帯びたベージュの装甲板――――グシオンの割れた大型シールドを引っ張り出しながら、雪之丞は問いかけることで、彼女に言葉の先を促す。

 

「我々が、貴方がたを戦わせたこと。それに……多少なりとも今回の騒動で再び貴方がたは世界の矢面に立たされることになる」

 

 千冬の懸念は、このままズルズルと彼らが戦う世界にいることを容認してしまうこと。そして、三日月や昭弘のように阿頼耶識を介したISへの男性からのアプローチを再研究されることを世界が認めることだ。

 

「…………確かに子供のあいつらが背負うには大きすぎる事が、これからもゴロゴロとやってくるだろうな。こっちが呼んでもいないのに」

 

「それなら――――」

 

「だがな、それを嬢ちゃんや学園を責めたところで変わったりはしないさ」

 

「っ」

 

 それはある意味で残酷な言葉だ。

 大人の都合で子供を追い込むこの世の中で、世界を変えるだけの存在に携わっておきながら、お前たちには何もできないと言われているのと同義なのだから。

 

「それでもなぁ…………こんなろくでもない世の中で、アイツ等の味方をしてくれる大人ができたってだけで、アイツ等からすれば望外のものだ。だから、嬢ちゃんたちはそのままで居てやってくれ。理解者がいるだけで、アイツ等はこれからも進んでいける」

 

 そこまで話すと、雪之丞は見つけ出したグシオンのパーツを肩に担いで持っていく。その後ろ姿を見送りながら、千冬は自身の無力さを噛み締めた。

 その頃、携帯用タブレットにオルガからあるメールを受け取ったユージンは、まだ目覚めていない昭弘と真耶の看病で不在のビスケットに代わり、三日月に次の鉄華団の活動を伝えていた。

 

「――――見つかったって何が?」

 

「この前の誘拐事件。その時に人物の派遣や武器の提供をした会社の一つがタービンズの調べで特定できたって、オルガから報告があった。だから、機体の再調整に託つけて三日月も一旦こっちに戻って来いとさ」

 

 手に持ったタブレットの画面に、オルガからのメールを映し出し、三日月にそれを見せながらユージンは喋る。

 その口ぶりから、鉄華団が次に何をするのかをある程度の察しをつけた三日月は、オルガの英語で綴られた読めないメールを見つめていた。

 そのメールの中で、唯一大文字で書かれた名詞は日本語でこう読むことができた。

 

『デュノア』と。

 

 

 

 





ということで、次回から大きな原作ブレイクその一が始まります。
とはいえ、オリジナルの話はそこまでだらだら続けたりはするつもりはありません。早目に三日月たちを学園に戻せるように頑張りたいです。
ではまた次回。




……あざといさんの出番?ありますよ?原作ほど戦ったりはしないけど

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