IS~鉄の華~   作:レスト00

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感想欄に色々と今後の展開予想を書かれ、おっかなびっくりしています(笑)

だが、敢えて言うのであれば、未だにこの作品の着地点を考えていないので、どうなるかは作者にもわかりません(オイ)


プロローグ3

 

 

「敵は追ってきてない、か」

 

 EOSを後退させ、後方からの追撃がないことを確認してから、三日月は機体のパワーアシストに回す電力を阿頼耶識を通じて落とした。

 一息つくと同時に、EOSの小さな収納ボックスに手を伸ばす。そこには少量ではあるが、吸水ボトルが入っていた。それで喉を湿らせつつ、空いている方の手で、体に被った返り血をこする。

 既に乾燥していたのか、血はパラパラと剥がれるように取れていった。

 

「ふぅ……あれ?」

 

 取り敢えず一区切りと思い、一息吐き出すと三日月の視線の先から土煙を少し上げながらEOSが近づいてくるのが見える。

 それは、三日月と入れ替わるようにして来るはずであった援軍であった。

 

「昭弘?まだ連絡は入れてないのに」

 

『三日月か、こっちの用事が早めに終わった。お前は一旦戻って機体を整備しろ』

 

「そうなの?……戦車とEOSをいくつか潰したけど、まだそれなりに数はいたから気をつけて」

 

「おう!お前ら、気合入れていくぞ!!」

 

 返答は通信機越しではなく、隣を通り過ぎる時に肉声で聞こえる。

 五機のEOSが編隊を組んで向かっていくのを見送りつつ、三日月は帰り道を急いだ。

 一方で、オルガの方は基地の方で上官たちに反旗を翻していた。とは言っても、先の昭弘の言ったとおり既に事は済んでいたが。

 国側の思惑を掴んでいたオルガは、少年兵たちを纏め上げ、基地の中枢を乗っ取り、これまで自分たちを使い潰してきた大人たちを排斥したのだ。

 

「よし、ビスケット。この基地で使えるカメラ媒体はどの位ある?」

 

「えっと、うん。監視用のカメラはそのまま使える。通信用の設備は最小限しかないけどネットに映像を流すだけならできる」

 

 基地の中央部――――司令室のような場所で、オルガとビスケットの二人はその部屋の電子機器を片っ端から立ち上げていく。

 オルガが考えたのは、所謂情報戦であった。

 ISというものがいくら強力でも、表向きそれは軍事的な利用が禁止されている。ならば、それが戦争に使用されているのを世界に見せつけてやれば、敵も引かざるをえない。

 そして、それに前後して、秘密裏にISを譲渡しようとしたとなると両国は他国から大きなバッシングを受けることとなり、戦争どころではなくなるのだ。

 例え、その映像が撮れなくても、阿頼耶識システムを処置された子供がいることを明るみに出すだけで、国は追及を免れない。

 これまでは、開けた土地とバカみたいに厳重な警備があったため、基地の外に出ることもできなかった。だが、それを管理していた大人たちを排斥したことにより、ここで消耗品のように扱われる子供たちは自由を手に入れるまであと一歩というところであった。

 今更ながら、この基地は一種の実験場であったようにも思える。

 タチが悪いのは、スラムのような場所が故郷の子供しかおらず、あの生活に戻るのであれば、ここで働いたほうがマシと思ってしまえるところである。

 

「オルガ、三日月が帰ってきた。今EOSの整備を受けてもらってる」

 

「よし、なら――――」

 

 続けて指示を出そうとするオルガ。しかし、その言葉は基地が受けた攻撃の音により、強制的に中断された。

 

「何だ?!」

 

「これって……IS?」

 

 ビスケットの呆然としたような呟きをオルガは聞き逃さなかった。

 咄嗟に、部屋に備え付けの大型モニターに視線を向ける。すると、そのうちの一つに、上空からこちらを見下ろすISの姿があった。

 逆光のせいで分かりづらかったが、そのシルエットは歪であった。

 八本の細いアーム。そして、操縦者の背部に装備された大型の楕円形のユニット。そのISの姿は蜘蛛を彷彿とさせた。

 何より歪なのは、そのISの右手に大きな長ものを持っていることだ。恐らくは、それが先ほど基地を攻撃した武装だということが伺えた。

 

「昭弘たちの戦闘は続いてるはずだ。なんでここにISが来てる?!」

 

「先にこっちのISを回収するつもりなのか、それともあのISの独断かもしれない」

 

 段取りが狂ったとオルガは歯噛みする。未だにネットに情報を流す準備は終わっていないのだ。そして、交渉をしようにも向こうからしたら、その交渉に乗るメリットがない。

 なんとか情報戦の準備をしつつ、時間を稼がなければならないと思考を働かせるオルガ。

 すると、オルガが声を出す前に、再びの爆発音が司令室にいる二人の耳朶を打った。

 

「今度は何だ?!」

 

「あれって、三日月?!」

 

「何だと?!」

 

 外では格納庫から飛び出すようにして、ISの方に向かっていくEOSを装備した三日月の姿があった。

 その手には新しい滑腔砲があり、それを二度三度とISに打ち込んでいく。

 

「オルガの邪魔はさせない」

 

 地上を舐めるようにショートジャンプをくり返し、三日月は滑腔砲の射程を気にしながら付かず離れずを繰り返す。

 

「ちっ」

 

 それが鬱陶しかったのか、ISの操縦者が舌打ちをしながら、八本のアームを展開してくる。そのアームの先端には機銃が仕込まれているのか、上空から銃弾の雨が降り注いだ。

 轟音とともに三日月のいた辺り一面に土煙が生み出される。

 それを見ていれば、誰もが三日月の死を予感する。だが、それは一発の弾丸により否定された。

 土煙から尾を引いた滑腔砲の弾丸が、ISの頭部に着弾したのだ。

 

「こ、の、クソネズミがあっ!!」

 

「最後の弾もあまり意味なかったな」

 

 これまで淡白な反応しかしなかった、ISの操縦者が吠える。頭部に直撃したため、ある程度のダメージは与えたのだろうが、ISに装備された絶対防御により戦闘不能にできるほどの深手は負わせられなかったようだ。

 よほど腹に据えかねたのか、有利なはずの空中から地面に降り立つIS。そして、これまで使わなかったその腕に掴んでいた長物をすぐそばに捨てた。

 

「?……それ人間に見えるけど」

 

「うるせーんだよ!そんなこと知ってもこれから死ぬお前にはカンケーないだろうが!!」

 

 三日月が言ったとおり、ISが捨てたこれまで何らかの武装だと思っていた長物の正体は目の前で吠えている女と同じく、“ISを纏った女”であった。

 だが、ISと言ってもそれは無残な姿であった。IS特有の非固定ユニットなどは脱落したのか既になく、辛うじてISと判断できるのは両足に装着させられたユニットくらいで、残りの部分は殆どの部分が全損で、中の操縦者の肉体が顕になっていた。

 三日月はその打ち捨てられたISに疑問を持ちつつも、今は関係ないと思考を切り替えた。

 敵と思われる蜘蛛のISは、四本のアームの先端に光の帯を伸ばさせる。

 それはISの高出力が実現させた光刃兵器であった。

 

「死ねやあ!」

 

 展開していない残り四本の足をバネにし、突撃してくるIS。

 それはEOSでは到底たたき出せない速度であった。

 三日月は反射的に、弾倉が空になった滑腔砲を相手に投げ付けつつ、思い切り横に跳んだ。

 バッテリーとか、スラスターへの負荷とかいつもなら気にする事を考える余裕はない。ただ生存本能に任せた行動だ。

 

「邪魔だあ!」

 

 滑腔砲をバラバラにしながらも、そのまま突っ込んでくる蜘蛛。

 それを間一髪で避けながら、三日月はEOSの背部に装備していたメイスを引っ掴む。

 

「そんなのが抵抗のつもりか、テメエ!」

 

 地面を削り、強引な方向転換をしつつ砲弾のように迫ってくる。

 その迫ってくる死そのものに、三日月は手に持ったメイスを思い切り投げつけた。

 

「同じことして時間稼ぎか!みっともねえんだよ!ネズミ風情が!」

 

 蜘蛛は展開したアームで、滑腔砲と同じように切り裂こうとしたが、質量の塊であるメイスではそれも叶わなかったのか、叩き落すだけで終わる。

 

「ちっ……あ?」

 

 叩き落としたメイスのすぐそばには、スラスターを吹かして接近していた三日月がいた。

 

「ゼロ距離ならっ」

 

 一度地面でバウンドしたメイスを握り込むと、その先端を蜘蛛の足の付け根あたりに接触させる。

 メイスに仕込まれた一発限りの鉄杭を内部機構の杭打ち機で打ち込もうとする。

 

「ぐっ?!」

 

 だがそれは、蜘蛛の足のうちの一本に腹を殴打され、吹き飛ばされることにより阻止されてしまった。

 吹き飛ばされ、地面を削り、轟音をたてながら倉庫の壁に突っ込む三日月。

 それでも何とか受身は取ろうとしたのか、壁に激突したのは背中からであった。

 

「手間取らせやがって……あん?」

 

「ぐぅ……」

 

 苛立ちを収めるように、緩慢な動きで蜘蛛の足の先端を三日月に向けてくる操縦者。

 あとは、思考制御で命令を下せば三日月はEOSごと蜂の巣になるはずであった。だが、彼女は何とか起き上がろうとしていた三日月の姿を怪訝な表情で見つめ、その動きを止めたのだ。

 

「お前……その背中の機械……阿頼耶識か?」

 

「っ……?」

 

 先の衝撃で、EOSのパワーアシストに弊害が出ているため、機体を立て直すことがなかなかできずにいた三日月は、問いかけられた質問に疑問を覚えた。

 何故なら、その女性の問いかけは、どこか確信を含んだ声音だったのだから。

 

「はっ!ははは!あははははははっはははははっははっははっはっはははっはっははははっははは!!!!!!」

 

 女は笑う。

 可笑しそうに、嘲るように、愉快そうに、笑い、哂い、嗤う。

 

「……何がおかしい」

 

 阿頼耶識システムの負荷と肉体的な負荷に息が詰まりそうになりながら、三日月は尋ねる。

 三日月はその笑いが酷く癪に障った。ハッキリした理由などない。しいて言えば、これまで向けられてきたどの感情とも違う何かをぶつけられたのが、ひどく不快であったためだ。

 その笑いを止められるのであればなんでも良かった。だから三日月は尋ねる。

 

「はは、さっきネズミって言ったが、しかもヒゲ付きだ。同情するぜ!変態科学者たちの実験台にされてよお!」

 

 笑いを止めることはできたが、ニヤニヤと浮かべた笑みを本当にやめてほしいと心底から三日月は思った。

 

「……どうでもいいさ……生きるのに必要だからやった」

 

 返事を返すと同時に、握っていたメイスを再び投げつけようとするが、それよりも先に蜘蛛の足で蹴り飛ばされる方が早かった。

 

「っ!?」

 

 体の中身を口からブチまけたと錯覚するほどの衝撃が三日月を貫く。

 安物のハンガーの壁は、今度は三日月を受け止めきれず、裂けてしまう。そのままEOSを纏ったまま三日月はハンガーの中に突っ込んだ。

 EOSの装甲部分を蹴られたにもかかわらず、三日月のむき出しの上半身は切り傷や打撲でボロボロであった。

 

「ネズミ狩りだ。運がよければ当たらねーよ」

 

 どこか楽しんでいる声が聞こえる。

 その一瞬後、ハンガーは銃弾の壁により薙ぎ払われた。

 

「――――――!」

 

 機能がまだ生きていたヘッドセットから誰かの叫ぶ声が聞こえる。だが生憎と、それは銃声にかき消され、うまく聞き取ることなどできるはずもなかった。

 

「ほ~ら、大事なおウチが潰れんぞ?」

 

 穴あきチーズが可愛らしく思える程に穴だらけになった壁越しに、そんな言葉がきこえた。

 

「!」

 

 跳弾の火花や、急激な光量の変化で若干目が眩んでいたが、そんなこともお構いなしに三日月は顔を上に向ける。

 そこには、ハンガーの屋根が迫ってくる光景が広がっていた。

 

「…………もう終わりか?つまんねーな」

 

 鉄骨の塊である屋根が落ちたハンガーを眺めつつ、蜘蛛の形のISの操縦者はそう呟いた。

 彼女の中で、高揚していた気持ちが冷めていく。

 久方ぶりに自分に楯突く存在がいることが彼女には嬉しかった。しかも、ISだの性別だのと、自身の強さを勘違いしている有象無象ではなく、キチンと自身の分を弁えそれでも食らいついてこようとする本当の意味での獣だ。

 そういう存在がいた事に彼女は歓喜したのだ。

 だからこそ、最後の最後にあっけなく終わってしまった事に落胆する。

 

「とっとと、やることやって帰るか」

 

 愚痴のように呟きながら、彼女は先ほど捨てておいたISを纏った女性の方に進んでいく。

 彼女の言うやること。

 それは二国間の紛争に使用されそうになったISの奪取であった。杜撰な計画しか立てることのできない国同士の取引。それは、彼女――――オータムが所属する亡国機業にとっては、格好の的に過ぎない。

 

「…………あの屋根の下にISの反応?おいおい、あの中にあったのかよ、メンドクセーな」

 

 置き去りにしたISのもとにたどり着くと、もう一つの目標を索敵する。

 その反応がたった今、自らが潰したハンガーの中にあることを知ったオータムはため息をついた。

 

「……あん?」

 

 もう一度銃撃で表面だけでも吹き飛ばしてやろうかと思い始めた時、その目標のISの反応に変化があった。

 装着しているISのバイザーに映っていたのは、待機状態から起動状態になったISの反応だったのだ。

 

「は?新手か?」

 

 そう呟いた時であった。

 先程まで、自分が吹き飛ばしてやろうかと考えていた、ハンガーの屋根が吹き飛んだのは。

 

「な――――」

 

 言葉を全て言い切ることはできなかった。

 その前に、屋根が吹き飛んだ際に舞い上がった埃と土煙の中から、自身めがけて振り下ろされる質量の塊が迫ってくる方が早かったのだから。

 

「てめぇ?」

 

「うるさいんだよ、あんた…………オルガの声が聞こえないだろ」

 

 その質量を振り下ろしていたのは、先程まで纏っていたEOSに様々なパーツが継ぎ足されたような“何か”を纏う三日月であった。

 

「ハ!」

 

 それが心底嬉しそうに、オータムは歓喜の声を漏らし、自身が求めるような獣のような笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 





次回は本当に未定です。

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