IS~鉄の華~   作:レスト00

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やっと更新できました。

アルバイトが忙しく、コツコツ書いていたのですがアラが結構あるかもしれません。
あと、切りどころがわからなかったので今回少し長めです。


二十四話

 

 織斑一夏は緊張していた。

 人生で初――――――というわけではないが、映画や小説にあるようなドンパチというものを体験しているからだ。

 更衣室で落ち込んでいた時から、非常召集により専用機持ちの一人として赴き、学園側の指示により二人一組のペアとなって逃げ遅れた生徒の確認や警戒のために白式を纏い、そして周囲を警戒しながら移動するまでトントン拍子に展開が進む。

 それを必死に自身を落ち着かせようとする思考が、漫画みたいな展開だと何処か呑気な事を考えるのは緊張云々以前に急な展開に思考がついて行っていないことを彼は自覚していた。

 

「あ、あの……」

 

「少し黙っていてくれるかしら?今はちょっと貴方に構っている余裕はないの」

 

 ペアとなっているラファール・リヴァイヴの操縦者――――ナターシャ・ファイルスは一夏の遠慮がちな言葉を容赦も余裕もない声音で切って捨てた。

 今日が間違いなく初対面の彼女のその言葉に、一夏は面食らうと同時に緊張以外のピリピリとした空気をその時やっと感じることができた。

 

(これって……怒気?)

 

 そう一夏が感じたとおり、ナターシャは怒っていた。

 彼女は元々、昭弘たち鉄華団の子供たちの保護者役兼護衛役として来ていた。しかし、今この瞬間は、成り行きとはいえ隣にいる世界初の男性操縦者のお守りをしなければならない事に少なからず苛立っているのだ。

 そもそも何故彼女が一夏のお守りをしているのかといえば、召集に応じた操縦者の中で最も技量に秀でている人物が彼女であったためである。

 千冬は総指揮をしなければならないため、ISに乗っての直接戦闘はできず、国家代表である彼女と同格の楯無は一生徒である一夏だけを守るわけにはいかず、そうした理由から自然と白羽の矢が彼女にたったのだ。

 

(緊急時に世界初の男性操縦者を守り抜いた功労者……そんな名声なんてドブにでも捨てればいい)

 

 今回の騒動において、一夏を守り抜いたとあれば彼女の祖国からはもちろん、各国からの評価は高いものとなる。しかし、彼女はそんなものを望んではいなかった。

 

(その程度のモノを欲しがる人間にでも見られているのかしら?屈辱ね)

 

 考え始めればどんどんネガティブな思考になってしまっているあたり、彼女は相当不機嫌になっていた。その彼女の機微をすぐ近くで受けている一夏には溜まったものではなかったが。

 

「――――戦闘音?」

 

 そんな中、ISの集音マイクがある音を拾う。

 ハイパーセンサーによって遠距離でもある程度クリアに聞こえるその音と、“一緒に聞こえてくるある声”を認識した瞬間、ナターシャは機体のスラスターに火を入れていた。

 

「アキヒロ!」

 

 その声とは、彼女が守るべき人間の苦悶の声であった。

 時間は少し遡り、三日月と昭弘が襲われかけていたユージン達を助けた後、敵の無人機と一緒にアリーナの一角に突っ込んだ昭弘は、その意識を飛ばしていた。

 

「昭弘、生きて…………これ」

 

 襲ってきていた二機の内の一機を文字通り潰した三日月は、昭弘の様子を確認するために、壊れたアリーナの一角に踏み込んでくる。

 そして、肉声で声を掛けようとするが、そのセリフは途中で途切れた。

 バルバトスのセンサーが、昭弘が先程まで身に纏っていた機体であるグシオンとは細部の違う機体を映し出す。

 しかし、その機体を纏っているのは気を失ってはいるが、確かに昭弘なのだ。

 

「……お前と同じなの?これ?」

 

 思ったことをそのまま口にする三日月。その返答をバルバトスから受け取ったのか、数拍の間を置いてから、納得したように頷くと、三日月は踵を返すように、昭弘に背中を向けた。

 

「……このままで良いのかって?今は敵を潰す方が先でしょ?」

 

 それだけを言い残し、三日月はバルバトスのスラスターに火を入れ飛び去った。

 それから数分後、ある程度遠くから時々聞こえる小さな破砕音が響いてくる中、昭弘が目を覚ます。

 

「――――――いっつ……何が?…………そうだ、副団長!」

 

 一瞬の記憶の混乱。しかし、ぼんやりしていた意識は即座に鮮明になる。

 敵に体当たりしたとか、自機であるグシオンがどうなっているのかなど、思考がはっきりするにつれ、思い出すことや思うことが色々と頭に溢れてくるが、そんなことはどうでもよかった。

 あの時、庇ったはずの四人――――鉄華団という新しい家族がどうなったのかが不鮮明な事が、昭弘の心を焦燥させた。

 

「すぐに――――っ!?」

 

 状況を確認しようと、機体を起こす。しかし、それと同時に昭弘の身体に倦怠感が、そして頭には頭痛が襲ってくる。その突然の不快な感覚に何事かと確認する前に、それは来た。

 

「――――」

 

 体感で数分前に目視した光の帯が昭弘の近くに打ち込まれる。

 二度目であったことは大きく、一度目とは違い足を止めることはなく、昭弘は即座に重たく感じる機体と身体を動かし、その場を離れた。

 皮肉にも、機体と体調の不調が、彼の危機感を殊更煽り、それが生存のための行動に移すだけの起爆剤となっていた。

 

「……ぇか」

 

 “先ほどよりも広く、鮮明になっている視界”が捉えたのはこの数分間で幾度も見た、奇怪な敵機。砲撃を終えたその機体は、何故か有利であるはずの上空から降りてくると、その半壊しているアリーナの地面に足をつけた。

 それを見た瞬間、昭弘の思考は闘争の思考に切り替わる。

 

「お前かあ!」

 

 咆哮が響く。

 猛る思考はそのままに、昭弘は敵機に突っ込んでいく。敵機との距離が詰まっていく中、元アリーナである何かの残骸を昭弘は引っ掴む。

 それが元々何であったとか、自身の機体がそれを持ち上げることができるのかとか、そういった思考は綺麗になく、その“元来のグシオンでは持ち上げることができないほどの質量”の鉄屑を昭弘は敵機に振り下ろした。

 それが何であれ、自分たち――――『家族』に手を出した敵を叩き潰せるのであれば何でも良かった、とは後の昭弘自身の言葉である。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 小規模なクレーターを作ると、昭弘は未だに感じる倦怠感と頭痛、そしていつの間にか流れ始めている鼻血もあり、その場に膝をつく。

 以前であれば、今日くらいの運動量で息が上がることもないと自己分析をしながら、必死に呼吸を整えようとする昭弘。しかし、これまでであれば当たり前のようにしていた命のやり取りであっても、それが誰かを守るための戦いであれば、緊張や感情の制御などで捨て身の戦い以上に消耗することを知らない彼は、身をもってそれを体験していた。

 

「ハァ……ァ……――――」

 

 なんとか呼吸を落ち着け、ユージンたちの安否を確認しようと再び身体に力を入れようとする昭弘。

 しかし、それを見計らっていたように、昭弘は機体ごと吹き飛ばされ、アリーナの地面を転がされる。

 転がされながらも、なんとか姿勢をすぐに起き上がれるようにしつつ、視界に映り込む自身を吹き飛ばした相手を確かめると、そこにはその特徴的で奇怪な大きな拳を振り抜いた姿の敵機が無傷の状態で立っていた。

 

「何か武器はないのか?!」

 

 敵機が健在なのを確認すると、いくらか冷静になった頭が攻撃を回避された事を認識すると同時に状況対応のために働き始める。

 しかし、先ほどと同じく何かの残骸や鉄骨などはある程度アリーナ内に転がっているが、どれも取り回しがいいとは言えず、例えそれで攻撃したとしても再び避けられてしまうことは容易に想像がつく。

 しかし打開策がすぐに浮かぶはずもなく、その間に敵機に接近を許してしまう。既に拳を振りかぶっている敵機に対し、昭弘が取った選択肢は回避。

 しかし――――

 

「――――なに?っ!」

 

 重く感じる身体に気合を入れて動かそうとすると、彼の思った以上に機体が動く。

 その結果、彼の想定以上に機体が移動し、アリーナの残骸の一つに突っ込みそうになる。反射的に足を踏ん張ることで衝突を凌ぐ昭弘。しかし、それは一対一の戦いの中、しかも近接戦闘をしている最中には致命的な隙になる。

 

「ごっ?!」

 

 口から変な声が漏れる。

 殴打された昭弘は再度地面を転がる羽目になった。

 そもそも何故、いきなりグシオンの動きが昭弘の想定を裏切ったのか。それは今尚彼自身把握していない機体のポテンシャルにあった。

 彼の機体、グシオンは元々EOSをISにより近づけるために造られた機体だ。それを昭弘は慣らしもせずに操作し、剰え三日月のバルバトスと同じく、“敵機であったISを偶発的に取り込んだ状態”になっている。

 それらの要因により、自身が扱ったことのないほどに上がった機体ポテンシャルに、昭弘は振り回されているのだ。

 最初に昭弘が残骸を使った攻撃が想定通りにできたのは、その残骸自体が重りになることによって、その操縦感覚が本人にとって丁度よく調節されていたからであるのだが、これは余談である。

 

「げほっ」

 

 殴打された衝撃が肺の中の空気を無理矢理押し出し、吐き出される。

 止まることのない鼻血による出血と、二度の殴打により身体を貫く衝撃、そして引くことのない頭痛により、昭弘の意識は一瞬遠くなる。

 

「アキヒロ!!」

 

 その落ちそうになる意識を引き止めたのは、ここ最近よく聞く自身の保護者――――ナターシャの声と聞き慣れた銃撃の音であった。

 鉛玉の雨が、敵機に降り注ぐ。

 しかし、その大きな異形の腕を振り回す、独特な回避機動でその奇襲は当たりはするものの致命傷にはなり得なかった。

 

「アキヒロ!無事っ!?…………邪魔をするな!」

 

 即座に昭弘の方に近付こうとするナターシャであったが、丁度二人の間に敵機が割って入ってくる。そのイラつきを隠しもせずにナターシャは叫びを上げ、格納領域にある近接用のブレードを取り出す。

 そして、それに応えるかのように敵機はナターシャとの距離を詰め始める。

 拳と刃が異音を響かせた。

 

「ぐっ、……くそ、なんで……」

 

 思った通りに動かない機体に焦燥感と危機感が募り始める。

 しかし、いくら焦ったところで事態の改善には繋がるはずもなく、昭弘は機体を立て直すのに精一杯であった。

 立ち上がると、開けた視界にナターシャのラファール・リヴァイヴと敵機、そして後から追いついてきたであろう白式を纏う一夏の三機が戦闘しているのが映り込む。

 今すぐに加勢したい衝動に駆られるが、行ったところで足でまといになることを自覚している昭弘は苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。

 

『昭弘、聞こえる?』

 

 そんな中、自身が付けているヘッドセットから聞き慣れた声が響いてきた。

 

「三日月?」

 

 その声の主が分かると、反射的に昭弘は通信相手を探すように辺りを見回す。すると、アリーナの観客席の屋根の部分に人影が見えた。

 その屋根の淵にいるのは、昭弘と同じヘッドセットをつけた三日月と、彼の両脇に腕を通し、背中から抱き上げるようにしているミステリアス・レイディを纏った楯無であった。

 

『動ける?』

 

「いや、思ったように機体が動かねぇ……一体何だってんだ、これは」

 

 三日月の問いかけに対して、ほとんど愚痴に近い返答をする昭弘。普段が寡黙な分、そのやり取りだけで彼がどれだけ焦っているのかが窺える。

 

『あぁ、今の昭弘のEOSはバルバトスと同じになってるから』

 

「……はぁ?」

 

 いきなりの三日月の言葉に昭弘は間抜けな返答しかできなかった。

 

『だから、多分、敵の一機と昭弘の機体が混ざっちゃってる』

 

「ど、どういうことだ?」

 

『さぁ?俺もどうしてそうなったのかは知らない。だけど、それの動かし方なら……戦い方なら分かる』

 

 三日月がそう言った直後、ヘッドセットから楯無の『逃げなさい!』や『やめなさい!』などという言葉が微かに聞こえてくるようになる。しかし、昭弘にとっては未だに知り合ってすらいない人間の言葉に従うよりも、目の前で戦ってくれている恩人を助ける手段を教えてもらうことのほうが重要であった。

 

「どうすればいい」

 

『何も考えなくていい』

 

「…………はあ?!」

 

 あんまりな言葉に、困惑という感情がそのまま叫びとなって口から出てくる。それは後ろで聞いていた楯無も同じであったのか、再びヘッドセットから彼にとっては聞き慣れない声が届いた。

 

『余計なことは考えずに、どう動きたいか。自分が何をしたいかを阿頼耶識を意識しながら想えばいい。細かいことは機体が勝手にやってくれる』

 

「……そんなんでいいのか?」

 

『今までもあまり頭を使って操作なんてしてなかったでしょ?考えるのはオルガやビスケットの仕事で、俺たちはただ敵を潰せばいい。それだけじゃん』

 

「あぁ……――――そういうことか」

 

 三日月の言葉がすとんと身体の底に落ちてくる錯覚を覚える。

 それまで、EOSを動かしていたとき、機体がどう動いて、どういう機構になっているのかなど、深く理解してなどいなかったと思い出す昭弘。

 

「……そう言えば、バルバトスはどうしたんだ?三日月?」

 

『ん?暴れたら、動かなくなった』

 

「お前……」

 

 昭弘は気の抜けるような言葉に呆れた。しかし、逆にそれは強張っていた身体と意識を解す。

 いつの間にか、鼻血は止まっていた。

 

「三日月」

 

『?』

 

「助かった」

 

 返答は聞かずに機体の生きているスラスターに火を入れ、突撃する。確認はしなかったが、褒められても無表情の三日月が昭弘の脳裏に浮かんだ。

 

「はああああ!」

 

「昭弘?!どうして――――」

 

 ナターシャの言葉に反応は返さず、グシオンの拳を敵機に向けて振りかぶる。

 これまでのパターンと違い、敵機はその攻撃に対して迎撃を選んだ。

 それはグシオンがほとんど丸腰であり、一般的なISと同じマニュピレーターのただの殴打などが危険度の高い攻撃とは判断されなかったからだ。

 それは無人機ではなく、有人機であったとしてもほとんど同じように判断される。手負いの操縦者が捨て鉢になった程度の認識しかされないだろう。

 だからこそ、昭弘には付け入る隙があった。

 

「え?」

 

「嘘?」

 

 それを間近で見ていた二人は驚きの声を無意識に呟いていた。

 二人の目に映りこんだのは、相手の迎撃の拳をバックパックにある二本の副腕によって凌ぎ、そのままの勢いで敵機の片足に取り付いた昭弘の姿であった。

 文字にすると簡単な事実であるが、それを行うのにどれだけの技量と度胸が必要になるのかをその場にいる人間は少なくとも理解していた。

 凌ぐというのは力任せにできるものではない。強すぎれば相手を押しのけてしまい、逆に弱すぎればそのまま自分が凌ぎきれず吹き飛ばされて終わりだ。

 絶妙な力加減で、尚且つ機体の加速を損なうことなく、そして機体に負担を掛けずにそこまでの事をしてしまえるのは、高度な操縦技術がなければできることではない。

 そもそもその際に使ったのは、昭弘本人の腕が通っている主腕ではなく、思考制御で動かす副腕なのだ。感覚的な加減ではなく思考制御での加減という難題を信じられないことに、土壇場で昭弘はやり遂げたのだ。

 そして、そこから行ったのは、EOSを使用していた頃からよく行っていた経験に基づく行動であった。

 

「はああああああ!」

 

 抱きつくような格好のまま両腕に力を加え、相手の膝関節に横から圧力を加える。

 同じ箇所ではなく、少しだけ上下がズレている横方向からの圧力は、驚く程呆気ない音と共に敵機の足をへし折った。

 

「「――――は?」」

 

 その呆気なさに思わず間抜けな声が、昭弘の近くから聞こえる。しかし、EOSと同じくパワードスーツ類の関節が横方向からの圧迫に弱いことを知っていた昭弘は、その当たり前の結果が起こると同時に叫んでいた。

 

「今だ!」

 

 その一言ですぐに正気に戻ったナターシャは、即座に格納領域内にあるガンブレードを展開し、突っ込む。

 

「っ!」

 

 量産機故に、愛機ほどの加速力を得られない瞬時加速にイラつくが、そのガンブレードの切っ先は敵機の胸に吸い込まれ、貫通した刃と銃口が抉りこまれたのを視認した瞬間、その引き金を引くナターシャ。

 先ほどの足がへし折れた時よりも大きな轟音が数秒続く。

 その音が止んだとき、残ったのは胸部に大きな穴ができた敵機のスクラップという結果であった。

 

「アキヒロ!」

 

 敵機がゆっくりと仰向けに倒れていく。そんな中、倒れ始めた敵機を確認した瞬間、ナターシャは自身が突撃した際に入れ替わるようにその場を離れていた昭弘の方に向かっていた。

 そのある意味ですんなりと終わった戦闘の光景に、一夏は少し離れた位置から安堵の息を吐きながら見ていた。

 

「…………何もできなかった…………――――っ!」

 

 自然と漏れた自身の呟きに、不謹慎だと気付き自身の頬を殴ろうとする一夏であったが、その行動は中止せざるを得なかった。

 

「――――まだっ」

 

 倒れているが、微かに動いている砲台を積んだ腕。その筒の先には、三日月を抱えた楯無の姿があった。

 それに気付いた瞬間、状況把握を正確にできていたのは、皮肉にも一番経験が少ないゆえに、ある程度付かず離れずの距離に居るしかできなかった一夏だけであった。

 

(突っ込む?白式には盾がない。水色のISは?防ぐ。防げる?砲撃はアリーナのシールドも破ってる――――――)

 

 考えが纏まらないうちに、次から次へと様々な要素が頭の中に溢れてくる。

 極限まで集中しているためか、彼の視界はゆっくりとだが着実に進行していく。

 

(――――――――)

 

 気付けば、膝を曲げ、今日の試合のために貴重なISの使用期間中に必死に練習したマニューバーの体勢を取っていた。

 

(使うべき時に、力を怖がって動かないのは――――――)

 

 手に持った雪片弐型の柄を握り締める。

 トーナメントの後にうじうじと悩み、先程まで当人すら恐怖を感じていたその“力の重さ”が今は逆に頼もしい。

 

「ただの臆病者だろうが!」

 

 機体が空気を叩く。

 瞬時加速により、機体は押し出され、しかし、自身が想定した箇所にはキッチリと止まるようにブレーキを掛ける。

 

「――――――」

 

 敵機と三日月たちの間に立つと、改めて向き直る一夏。

 姿勢は既に素振りで何度も行った正眼の構えを取る。

 敵機の砲撃は既に始まっており、既にその光は迫っていた。

 自身にできる最速の動き。入学してから既に何百、何千と繰り返したその素振りのおかげで入学前まで綺麗であった手の平も今は豆も潰れお世辞にも綺麗とは言い難い。だが、それだけしたからこそ、彼は確信する。

 間に合う、と。

 振り上げ、振り下ろす。

 ただそれだけの動作で、展開された雪片弐型から伸びる青い刀身が迫った敵の砲撃の光と対消滅していく。

 

「――――――……はぁ」

 

 たった数秒間の対峙。それだけで、残りのシールドエネルギーを全て使い切ったのか、白式は解除され、男性専用のISスーツ姿となった一夏はその荒れているアリーナの地面に尻餅をついた。

 

「あぁ~~……切れなかったか……でも届いた」

 

 そんな締まらないセリフを最後に、その日の襲撃事件は幕を引いた。

 

 

 

 




今回の昭弘流関節技は元ネタがあります。
あまりパッとしない戦闘になったかもですが、ダラダラと長引かせるのもアレでしたのでスパッと終わらせました。
昭弘の活躍はタッグトーナメントあたりからです。

一夏の扱いですが、今回は最後に上澄みを持っていった感がすごいですが、一応努力が少しだけ報われる形にしました。
色々と賛否両論ある感じですが、これからもよろしくお願いします。m(_ _)m

……襲撃時の箒?普通に大人しく避難していますよ?

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