IS~鉄の華~   作:レスト00

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投稿遅くなってすいませんでした。

ちょっと、スランプ気味になってしまいまして……
一応脱したとは思いますが、これからも読んで下さればと思います。


二十三話

 

 

 三日月がバルバトスを動作不良に陥れている頃、IS学園の敷地内を走る一人の――――正確には人を一人担いだ男、ビスケットが走っていた。

 

「ビスケット君!私は大丈夫ですから、貴方はクッキーちゃんとクラッカちゃんのところへ――――」

 

「嫌です!」

 

 胴体を肩に担ぐようにして運ばれている女性、真耶は担がれたことでビスケットの背中側に頭から大きな声でビスケットに呼びかける。

 しかし、彼はその提案を彼女に負けないくらいの大きな声で断る。

 

「医療施設のシェルターは既にいっぱい。だから、他の近くのシェルターに貴女を連れて行くまでは、二人を探しには行けません!」

 

 二人が何故、真耶が入院していた医療施設の避難場所を利用しなかったのかというと、クラス対抗戦によってそこを利用する生徒が多く、元来そこまで大規模な施設でもなかったために、収容できる人数がすぐさま上限に達してしまったためだ。

 生徒やほかの患者、それを診る医者などに施設の利用を譲り、真耶は他のシェルターに行くことを自ら申し出る。そして、それに便乗するようにお見舞いに来ていたビスケットも彼女に同行したのであった。

 

「どうして?!貴方にとって一番大切なのは、残された二人の家族と言っていたじゃないですか!」

 

「――――確かにっ、ばあちゃんも兄さんも死んで!僕に残された家族はあの二人だけでした!」

 

 走りながらビスケットは叫ぶ。学園に来る前、元いた基地にたどり着く前の事を思い出しながら。

 

「戦争で、孤児になって。二人の為に吹き溜まりのようなところで戦って、必死に二人を守ってきました!」

 

「なら!」

 

「その二人が笑ったんです!」

 

 遮るように喋る。

 今この時、ビスケットは鉄華団でも、兵士でもなく、ただ一人の兄として、ただの男として、胸の内を叫ぶ。

 

「あの基地で!暗い顔しかできなくて!それでも僕らに気を使って泣きそうに笑っていたあの二人が!本当に嬉しそうに毎日笑っていたんです!」

 

 ビスケットはそれを自分ができなかったことが悔しくもあり、安心もしていた。

 人殺しの一端を担っていた自分が居なくても、二人の妹が笑うことができることを。

 

「それをしてくれたのは、貴女です!山田真耶という人が二人を本当の意味で救ってくれたんです!そんな貴女を僕は絶対に一人にしません!」

 

「――――――」

 

 三日月たちが学園に来てから――――彼らと関わってから涙することの多かった真耶は再びその頬を濡らす。

 しかし、その涙はこれまでと違い、熱く、心地よいものであった。

 走るビスケットのジャケットの背中の部分を握る。そうでもしていないと、大きな声で泣き声を上げてしまいそうになってしまうから。

 

「あった!」

 

 いつの間にか、かなりの距離を移動していたのか、ビスケットの視界にシェルターの入口が映り込む。

 そして、それにより胸に込み上げてくる安堵感が一瞬の隙を生み出した。

 

「伏せて!」

 

「え?」

 

 先にそれに気付いたのは担がれている真耶であった。

 二人と入口の間に大きな瓦礫が落ちてくる。

 人間大の大きさであるその瓦礫は、地面と衝突した際に小さな破片を周囲に撒き散らす。脳が理解するよりも先に、真耶に被さるようにして蹲ったビスケットにその破片が降り注ぐ。

 

「ぐぅっ――――――」

 

 ジャケット越しとはいえ、中には拳大の破片もあったため、無視しきれない痛みがビスケットの背中を襲う。

 その痛みを堪えること数秒。ゆっくりと顔を上げると、降ってきた瓦礫を背に誰かが立っていた。

 

「?」

 

 見たことのないISのような機体。それが学園を襲撃している敵機の内の一機であると理解するのに、一秒も時間を要することはない。

 その敵機が動きを見せようとした瞬間、ビスケットはすぐさま動くことができなかった。

 何故なら、下手に動いてしまえば下にいる真耶に当たってしまうという懸念が生まれてしまったのだから。

 

「――――」

 

 咄嗟に目を瞑り、先ほどと同じく真耶に被さるようにして衝撃に備える、ビスケット。

 しかし、衝撃が彼の身体を貫くことはなく、彼の耳には聞きなれた澄んだ声が届く。

 

「お見事。男の株を上げるには十分な働きと啖呵だったわ」

 

 ビスケットはその瞬間を見ていなかった。

 動き出そうとした敵機を中心に、“線”が幾重も走る。たった数瞬でそれは終わってしまうのだが、それで十二分であった。

 線が走った部分に沿うように、敵機の体がずれ始めたのだ。

 重ねた積み木が崩れていくように、敵機が残骸に成り果てる。

 顔を上げた時点で、その姿しか見ることのできなかったビスケットはいきなりそうなった敵機に目をパチクリとさせた。

 

「お二人とも、怪我はあるかしら?」

 

 真耶の身体を起こしていたビスケットの背後から再び澄んだ声が届いてくる。

 そちらに目を向けると、そこには他のISと比べ特徴的な水のヴェールを纏い、薄く華奢な見た目の機体、ミステリアス・レイディを纏う楯無の姿があった。

 

「更識さん?」

 

「はいはーい。みんなの頼れる楯無さんですよ」

 

 呆然とするビスケットの言葉に対し、軽い言葉を返す楯無の表情はいつもどおりの笑顔であるが、それが逆に頼もしさを見る人に与えた。

 

「うーん……お姉さん的には、今の二人に水を差すのは申し訳ないとは思うのだけど、早目にシェルターの方に移動してね」

 

 彼女に言われ、ビスケットは抱き起こした真耶を片腕で支え、空いた方の手はいつの間にか彼女の手を握っていることに気付く。

 お互いに無意識に握り合っていたことに気付くと、気恥かしさから視線を逸らすが、その手を離すことはしなかった。

 

「あ、えっと、真耶さんはいいですけど、僕は妹たちを――――」

 

「クッキーちゃんとクラッカちゃんの二人なら、生徒会の虚ちゃんが既に保護しているから大丈夫。怪我一つなく、シェルターに居るわ」

 

 その彼女の言葉に安堵の息を吐くビスケット。その彼の表情に、真耶もその表情を緩めた。

 

(もう結婚すればいいんじゃないかしら?)

 

 内心でそんなことを思いながら、楯無は残骸とかした敵機の方に向かう。

 バラバラになった鉄屑を退けていくと、ソレは薄ぼんやりとした光を放ちながら姿を見せる。

 

「コアを直接見るのは流石に初めてかしら?」

 

 資料写真や映像では幾度も見たむき出しのISコアを回収しつつ、今度は自身でバラした敵機の装甲を確認する楯無。

 その綺麗すぎる切断面を見てから、ため息をひとつ吐いた。

 

(威力が高すぎるわね、これじゃあ。ここに来るまでに三日月くんから敵機が無人機と聞いてなきゃ、“スライサー”を使おうとも思わなかったし…………対人相手、というよりも試合用には改良は必須かな?)

 

 楯無が敵のISを無力化したのは言葉にすれば簡単な方法であった。

 それは彼女のIS、ミステリアス・レイディの特徴であるアクア・ナノマシンによる水流操作で、ムチ状に精製したウォーターカッターで切った。ただそれだけである。

 先の三日月との試合以降、自身の未熟を痛感した彼女が新しく考え出したアクア・ナノマシンの運用方法の一つがこの、仮称『スライサー』であった。

 

(ままならないなぁ…………さて、残る敵は三日月くんが言うにはあと一機)

 

 念のため、シェルターに真耶とビスケットを送り届けてから、楯無は思考を働かせ始める。そして、襲撃が起こってから三日月から聞いた情報や、自身が対処した二機のことなどを思い出していく。

 

「………………――――――~~っ」

 

 そんな中、あるフレーズを思い出し、自然と自分の口元が緩んでいることに気付き、彼女は珍しく気恥かしさを覚える。

 それは三日月から敵機の情報を聞いたとき、不意に彼が言った言葉である。

 

「頼んだ、タテナシ」

 

 自身が動けないことから、後は任せると言った風に三日月がそう言ったのだ。

 例の誘拐事件の事情説明等を三日月に行ったのは楯無であったのだが、その際に余計な情報は言わず、要点だけ噛み砕いて説明した。それが事のほか三日月には分かりやすかったらしく、それ以降三日月は彼女を「下手な人」とは言わなくなった。

 そして、その説明以降二人はあまり顔を合わせなかった為、彼女は不意打ち気味に三日月から初めて名前を呼ばれ、頼られるということまでされたということだ。

 

(…………やだ、私、調教されてない?)

 

 それが少なからず嬉しかったと感じるあたり、彼女はある意味既に手遅れである。

 

「って、あら?」

 

 横道にそれつつあった思考が、視界に投影されている機体ステータス情報のある部分を見ることによって軌道修正される。

 それは先程まで不良状態であった通信機能である。

 

「急に回復した……というよりも、アレを破壊したからかしら?」

 

 楯無の視線が破壊した敵機に戻される。

 流石に今この場所で、それを解析することはできないためそれ以上のことはできなかったが、人為的に起こされていたジャミングが敵機を減らした事により解消されたことは、状況証拠としては弱いがその原因を、敵であるISが積んでいると考えるには十分なものであった。

 

「なら、マッピングとマーカーの機能も」

 

 視界に投影されている情報を増やす。

 そこには学園の俯瞰図と、その中を動くISのアイコンが映し出されていた。その中で移動のために動いているものや、護衛のために動いていないものを意識的に除外していき、今現在敵機と遭遇、若しくは交戦しているであろうものを絞り込んでいく。

 

「ビンゴ…………でもコレって?」

 

 楯無の視界に残ったマーカーは四つ。

 その内の一つは学園保有のラファール・リヴァイヴ。そしてもう一つが今現在学園内でも世界的にも有名になった白式。残り二つは所属不明と表示される。

 それを見たとき、最初は三日月の情報を疑った楯無であったが、そのマーカーの移動の仕方から、所属不明の二機の内の一機が白式側に協力しているように窺えたのだ。

 

「…………直接、確かめた方が早いか」

 

 疑念の思考が生まれ、考えることに集中しそうになった彼女は、切り替えるようにそう呟いた。

 

 

 





次回くらいで今回の襲撃は終了です。取り敢えず戦闘面は。


……たっちゃんがハッシュポジになる可能性がワンチャン?

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