IS~鉄の華~   作:レスト00

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連続投稿です。
一つ前の話を読んだか確認をしてください。


二十一話

 

 

 学園全体に避難警報が流される少し前、アリーナの内の一つでは三日月、昭弘が雪之丞の指示の元、各々の機体に乗り込み機体の機動テストを行っていた。

 

『いいか、昭弘。正直なところ、直接開発に関わっていない俺が詳しく説明できることはそんなにない。だが、そのグシオンはこれまでオメェたちが乗ってたEOSとは全くの別もんだと思え』

 

 量産型のEOSを操縦していた頃から慣れ親しんだヘッドセットから、雪之丞の嗄れた声が響いてくる。本来であれば、機体の説明をするのはビスケットの役目であったが、真耶の面会に彼が向かって間もなく、アリーナの使用許可が出た為、呼び戻すのもどうかと思った雪之丞が今回はビスケット抜きでの起動試験を行うことに決めたのだ。

 

「……確かに色々と感覚が違うが、コイツはどこまで戦える?」

 

『オメェさんが何と戦うつもりなのかは知らないが、装甲はバルバトスのデータとテイワズの技術で精製した新型のラミネート装甲だ。流石にPICを利用しているバルバトスほどの強度は無いが、一般的なISの装甲よりかは頑丈だ』

 

 昭弘が乗っている機体――――グシオンは細部がバルバトスに似ているが、大まかなフォルムは少々変わっていた。バルバトスと比べ直線が多く、生物的な姿というよりもより機械的なデザインとなっている。

 

『一応、念押ししとくぞ。一般的なEOSとの変更点は、主機出力の向上と最新式の大型バッテリーパックの内蔵で、最低でも一時間の戦闘時間の確保。それと、阿頼耶識からの情報量の増加だ。……とはいえISと違って絶対防御もPICも積んでないから空中での運用は無理だがな。センサー類も強化されたとは言っても、ISのハイパーセンサー程の感度はないぞ』

 

「……いや、十分だ」

 

 そこまで確認すると、昭弘は深呼吸してから目を閉じ、開く。

 阿頼耶識から機体に装備されているセンサー類の情報が、文字の羅列や映像として脳に送られてくる。目を閉じることで視覚を遮断し、それでも外の風景が見えることから、それができている事を確認する昭弘。

 以前よりも送られてくる情報量が多く、神経が炙られる錯覚を覚えるがそれ以外に、特に問題らしい問題もないため、昭弘は実際に機体を動かそうとし始める。

 そして、動こうとすると、偶々“それ”が見えた。

 

「……三日月?」

 

 昭弘の視界に映ったのは、少し離れた場所で機体を纏った状態で上空を見上げている三日月の姿であった。

 先程から全く動かず、どこか一点を見詰めるようにしている彼に疑問を持った昭弘は、自然と名前で呼びかける。

 

「昭弘――――少し下がって」

 

「は?何言って――――」

 

 固定されていた三日月の視線が、呼びかけによって昭弘の方に向いたと思えば、返ってきたのはそんな言葉であった。

 思わずと言ったように、間抜けな声が昭弘からもれる。

 しかし、その声が三日月の耳に届くことはなかった。

 何故ならちょうど二人の間の地点に、光の帯が着弾したのだから。

 

「――――」

 

 音が大きすぎることで、逆に何も聞こえないという体験をその日初めて昭弘は経験した。

 目の前に突如降り、広がったその光景と共に衝撃波が機体を襲う。グシオンのリアスカートに装備された大型シールドを咄嗟に展開できたのは、三日月と同じくらい戦場に立ったことで身に付いた生存本能が正しく機能したがゆえの反射的な動作であった。

 その一瞬とも、数秒とも思える光の本流が唐突に止まる。そして、自身が五体満足であるかどうかの確認よりも先に、昭弘は声を張り上げた。

 

「三日月!無事なのか!?」

 

 生憎、大きな音を聞き、強い光を直視した直後で、肉眼ではなく機体に搭載されたカメラの映像を阿頼耶識を通じることで確認した形となったが、さきほどまできれいに整備されていたアリーナは大きなクレーターが出来上がっており、三日月の姿をすぐには確認することはできなかった。

 

『昭弘、上空の敵はこっちでやるから、おやっさんとか皆の避難の方よろしく』

 

 少しずつではあるが回復し始めた耳に届いたのは、そんな依頼の言葉であった。

 その言葉を聞き、上を見上げる昭弘。ISよりも劣る光学センサーが捉えたのは、新型の装備やパーツで一新されたバルバトスが、異形のISらしき機体に突っ込む姿であった。

 同時刻、三日月たちのように急な襲撃を受けた箇所は他にもあった。

 IS学園には合計で四つのアリーナが有り、三日月たちの居たものの他に二、三年生が使用していた三つのアリーナにそれぞれ一機ずつ。そして、学園を外から抑えようとしているように展開された機体が他に三機存在していた。

 その合計で七機の襲撃機は全て同じ形をしており、両腕部がやけに大型化され、搭乗している人間が全てフルフェイスという見た目からして不気味な外見であった。

 

「生徒たちの避難を最優先。教員部隊が動かせる機体は即座に搭乗し、学園の防衛に回れ。撃墜しようなどと、変な色気は出すな。遅延戦闘を心がけろ。敵機がアリーナのシールドを抜けるだけの出力があることを忘れるな」

 

 アリーナの管制室内で、学園防衛の際にある程度の指揮を任されている千冬が連絡用のマイクに向かい、各教員に指示を出していた。

 

「織斑先生、専用機持ちと代表候補生、それと試合中の生徒はどうしますか?」

 

「専用機持ちは避難経路の確保と、誘導員と生徒の護衛。試合中の生徒も同様だ。代表候補生は大人しく避難させろ」

 

 いつも頼りにしている副担任であり、後輩とは違いどこか頼りないその教員にため息をつきそうになるが、それを飲み込み現状の把握を千冬は急いだ。今すぐにでも飛び出したい衝動を抑えるために、握った拳を更に固くしながら。

 学園がその対応に追われている一方で、独自に動いていた一団がいた。

 

「おい、アンタ!ここにいたら危ないって言われたろ!早く立てよ!」

 

「は、はい」

 

 急な襲撃に身がすくみ、蹲っていた生徒に激を飛ばし避難を促す小さな子供。そのどこかアンバランスな風景は、各アリーナの所々で見られた。

 

「見つけた奴はチビ達に誘導を任せて、最後の見回りに行くぞ!こんなところで死人をだすんじゃねーぞ!」

 

 その子供たち――――鉄華団のメンバーを指揮しているのはユージンであった。

 襲撃の際、その場にいた人間たちの中で最も機敏に反応ができたのは彼ら鉄華団の子供達である。こういった戦場に慣れている彼らは即座に何をすべきかを判断し、生徒たちの避難誘導と逃げ遅れた生徒の発見を開始した。

 そのおかげで、彼らのいたアリーナの避難は迅速に終了していた。

 

『副団長!』

 

「昭弘か?俺らは今からアリーナの避難誘導に行く。こっちの護衛に来れるか?あと三日月は――――」

 

『三日月は外の敵と戦ってる。こっちは今おやっさんを近場のシェルターに放り込んできた!』

 

 連絡用にとつけていたヘッドセットから聞きなれた声が飛び込んでくる。

 その声を聞き、二人が無事な事に安堵しつつも、ユージンは頭の中からIS学園の敷地内の地図を引っ張り出しながら言葉を吐き出す。

 

「俺らは今第二アリーナに向かってる。この前の搬入ルートからこっちに合流してくれ。くれぐれも外から来るなよ?下手に敵を引き付けるな!」

 

『了解した』

 

 その言葉を最後に通信が切れる。

 ユージンたちは、メンバーの年長者を三人ほど引き連れて移動を開始する。自分たちの寝床と比べ数倍は綺麗な廊下を走りながら、廊下の途中にある物陰や階段などで残っている生徒がいないのかをしらみつぶしに探していく。

 そして、第二アリーナ目前まで迫ったところで、ユージンはその愚痴を零した。

 

「ちっ、どうなってやがる。さっきから学園側との連絡がつかねえぞ?」

 

 ユージンたちの使用しているヘッドセットが、学園で使用されている通信機と比べ旧式であることは彼もわかっていたが、それでも襲撃から今まで学園の方から全く接触が無い事に彼は違和感を覚えた。

 

「ジャミングか?それとも学園の通信相手がもういないか?」

 

 ネガティブな言葉は幸いにも後ろを走る団員には聞こえていなかった。

 そして、とうとうアリーナの観客席の入口に到着すると、ユージンは恐る恐るアリーナ内を覗き込んだ。

 

「――――っ」

 

 そこは所々が破損し、グラウンドの中に倒れるISを纏った二人の生徒が横たわっていた。その事に息を呑むが、努めて冷静にユージンはその場を観察する。視線を動かしていくと、確かに派手に壊れているが、そこは彼らが見慣れた戦場とは違い“清潔な惨状”であるのだ。

 

「犠牲者はいないな。倒れている二人も血は流れていないし……」

 

 あえて口で発声することで、状況の整理を円滑に行おうとする。その途中で彼は気付く。観客席とグラウンドを遮る壁の一部が破損し、中に入り込めるだけの道が出来ていることに。

 逡巡は一瞬、ユージンは即座に決心する。

 

「オイ、今からあそこから入り込んであの二人の救助を――――っ!」

 

 そこまで口にして、自分の視界が先ほどよりも暗くなったことに彼は気付く。

 咄嗟に上を向くと、上空から自分たちを睥睨している二機の異形の機体がそこにいた。

 

「――――」

 

 思考が止まりそうになる。

 たった一瞬の中で次に何をすべきかを必死に頭がひねり出そうとする。

 逃げる指示?今更間に合わない。

 迎撃?攻撃手段がまずない。

 後ろの三人を庇う?自分の体がいかほどの盾になれるというのか。

 どれだけ考えても、数秒先が絶望のビジョンしか浮かばない中で、大きな音が響いた。

 

「はあああああああああああ!!」

 

 叫び声とともに、二機のうちの一機が突っ込んできたベージュの機体と被さり、そのまま観客席の一角に突っ込んでいく。

 その轟音と先に聞こえてきた昭弘の叫び声によって、停止しそうになった思考が再び動き出す。

 もう片方の機体が腕部についた砲口がこちらに向けられた事を把握した瞬間、ユージンは後ろの三人を纏めて押し倒すように後ろに跳ぶ。

 

(クソ!しくった!三人は突き飛ばして、俺は反対に行けばよかった!それでどっちかは――――)

 

 後悔の念が即座に脳裏に湧いてくる。

 そして、やけにゆっくりと流れるその瞬間、ユージンは自分たちに向けられた砲口が発光し始めるのを見つめるしかできなかった。

 

「――――」

 

 恨み言の一つでも吐きかけてやろうと口を開こうとするユージン。

 だが、その言葉が放たれる前に、ユージンの視界からその砲口も、砲口を向けていた敵も消え失せる。いや、正確には“彼の視界の外に追いやられた”のだ

 

「はぁ?」

 

 代わりに出てきた間抜けな声。

 その原因となった現象を確かめる前に、跳んだことで浮いていた四人分の体が床に着地し、反射的にユージンは目を瞑っていた。

 その為、確認できたのは、昭弘の時よりも近い場所で“機体が叩きつけられる”音と衝撃だけである。

 その音と衝撃がしてからワンテンポ遅れて、衝撃によって生まれた空気の奔流が彼らを包む。

 その際に巻き上がった砂埃や塵がすぐさま起き上がったユージンの視界を遮る。

 

『生きてる?』

 

 そんな視覚が遮られた状況の中、ヘッドセットから聞きなれた声が響いてくる。

 こんな状況の中、どこか気軽に問いかけてくるその声にユージンは先程まで感じていた緊張感を上回る、安堵感を覚えた。

 

「三日月」

 

 舞い上がった土煙が晴れていく。

 そこから現れたのは、敵を踏みつけながら先端に歪なコンテナのような物をつけた長物で相手の頭を潰しているバルバトスを纏う三日月の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 





色々と不明瞭にしている部分があったり、出演キャラを活かしきれていなかったり……あぁ、どうして原作者はあんなに新キャラばっかり出すかなぁ……

取り敢えず、次回は大暴れです。
戦闘シーンまでの道のりが長すぎます…………クオリティが落ち気味ですが、次回も頑張ります。

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