IS~鉄の華~   作:レスト00

25 / 57
難産でした……ここ最近、こればかり書いているような?

予告詐欺になりましたが、戦闘はもう少し先です。


二十話

 

 

 学生生活の中で最も厭われるものとは何か。

 それは生徒一人ひとりによって答えは違うのだろうが、その中の一つに『繰り返す同じ毎日』というものがある。

 授業を受け、ご飯を食べ、放課後を過ごし、眠る。これを繰り返すだけの毎日はいくら新しい知識を学ぶとは言えすぐに飽きが来てしまい、遊びたい盛りの子供には一種の苦痛だ。それは一般的な学校ですらそうであるのだから、全寮制の敷地内でその殆どを過ごすIS学園の生徒は特にそれが顕著である。

 その為、時折行われる学園内のイベントは、それが成績や学業に繋がることであっても、生徒たちは普段よりも意欲も高く、そしていつもより賑やかになるのは当然のことであった。

 そのイベントのうちの一つ、本日開催されるクラス代表たちによる学年別のクラス対抗戦は来賓こそいないが、一種のお祭りのような賑やかさを見せていた。

 

「やっぱり、ここでも結構音が聞こえてきますね」

 

「あぁ……若い嬢ちゃんたちの活力にはもうついていけねぇよ」

 

 そんな中で、バルバトスとグシオンが設置されている格納庫では、ビスケットと雪之丞が整備用のタブレット端末を操作しながら、外から聞こえてくる歓声に苦笑いをこぼしていた。

 

「にしても、昨日の喧騒が嘘みてぇだな」

 

「外に出たといっても、こういう綺麗な場所に来たのが初めてって子も多いですから。それに学園側から、試合観戦の許可も貰えて、そっちに行った子も多いですし」

 

 一区切りしたのか、タブレットの画面から視線を外し、昨日まで幼い整備員が走り回っていた格納庫を一瞥する雪之丞。

 彼の漏らした感想に、無理もないですよと言った表情でビスケットは答える。

 

「まぁ、その為に昨日の内に終わらせられる部分は全部終わらせたからなぁ…………よし、チェック終わったぞ。グシオンの方はあと試験起動とそれに合わせた微調整くらいだ」

 

「こっちも終わりました。三日月たちは皆をアリーナの方に案内してから来るって言っていましたから、それまでちょっと休憩します?」

 

 そのビスケットのセリフを言い終えると同時に、格納庫内に設置された校内放送用のスピーカーから合成音が流れた。ちょうど良いタイミングであった為、ビスケットは映像が映し出されているわけでもないというのに、スピーカーをじっと見つめた。

 

『――――連絡します。第一アリーナで行われていたクラス対抗戦、一年生の部での全試合が終了しました。それに伴い、次の試合で待機している生徒は、第一アリーナで試合をしてもらうため、通知のあった生徒は移動を行ってください。繰り返します――――』

 

 業務連絡に近い放送が繰り返される。それを聞いたビスケットは思わず格納庫に備え付けの時計に目を向けた。

 

「試合が全て終わったって…………まだ正午も過ぎていないのに?」

 

「例年通りのこと……らしいぞ?」

 

 ビスケットの独り言に、雪之丞はその言葉と一緒に両手に持った二つのコーヒー入りマグカップの内の片方を手渡す。それが先ほどの休憩することについての了承の意であると判断し、素直に受け取りつつ、ビスケットは視線でどういうことかと、雪之丞に問いかけた。

 

「これはジュウゾウから聞いた話だが、この時期の一年は未だに勝手がわからない奴らが多いらしい。だから、試合前の機体の調整、試合中の駆け引き、試合後の機体データの整理と修復……まぁ、言い出せば切りがねぇが、そういったことに掛ける時間が、二年や三年の連中と比べたらかなり少ないそうだ」

 

 そこまで言われてビスケットは納得する。

 ISという機械は、操縦者の癖や身体能力が割と顕著に表面化してくるものである。その為、事前に行われる機体のセッティングは個人個人がかなり神経質に行うのだ。

 しかも、専用機を持って参加しているのは一組の代表である一夏ぐらいであり、それ以外のクラスは大体が学園の保有する量産機、または演習機であるため、機体の一試合ごとの整備などに掛かる時間は、より多くなる。

 そんな中で、まだISそのものに慣れていない一年生は、試合はもちろん整備のセッティングなどもどれが自分に最適なのかさえ、手探り状態で始めるために一試合に掛かる時間は、二、三年生と比べればずっと少なくなるのは当然の話だ。

 

「まぁ、試合が早く終わること自体は俺たちにとっちゃ、好都合だがなぁ」

 

 そんな雪之丞の言葉に苦笑いを漏らすビスケットであった。

 今回のパーツ搬入などに伴い、クラス対抗戦の後にアリーナの使用を余っている時間内であれば、機体の試運転に使用しても良いという話が学園側から提案されていた。

 世間一般にはまだまだ無名に近い鉄華団であるが、IS学園をはじめとする一部の間では、その名は既に広まっていた。そして、IS委員会からしても、鉄華団のその特殊な生い立ちや後ろ盾は無視できるものではないため、今のところは共同歩調を取るという表れの一つが今回のアリーナ使用の譲歩であった。

 

「そんなことよりもビスケット。お前さん、此処に居てもいいのか?」

 

「えっと……それってどういう――――」

 

 話題を切り替えるように雪之丞が尋ねる。何のことかわからなかったビスケットは、雪之丞の方を見るが、その顔がどこかニヤついているのを確認した瞬間、嫌な予感がする。

 

「例の誘拐事件以降、毎日あの嬢ちゃんのところに見舞いに行ってるのは知ってんだぞ?しかも、双子と一緒の時とは別に一人で行ってるらしいじゃねぇか」

 

 そう言われ、ビスケットは自身の顔に熱が貯まるのを感じた。

 三人が誘拐され、救出されたあと、真耶は犯人に投与された薬の薬抜きや、細かい身体検査を受けるという理由で学園の敷地内にある医療施設で簡易的な入院をしていた。

 双子の方は、真耶が聞いた実行犯からの証言通り、特に薬の後遺症も身体的な外傷もなく、本当に眠っていただけの為、検査を受けたその日に解放されていた。

 そして、真耶の方も薬抜き自体は翌日には終わっていたのだが、心身の疲労が溜まっていると医者に指摘され、クラス対抗戦が終わるまでは安静にしているように医者に言われ、そのまま入院生活をしているのだ。

 

「チフユの嬢ちゃんから聞いたが、事件直後はかなり落ち込んでいた彼女が、お前さんが見舞いに行った後には嘘みたいに元気になっていたって聞いたぞ?」

 

「お、おやっさん!」

 

 気恥かしさから思わず大声を出してしまうビスケット。

 その様子が、歳相応な雰囲気がどこか微笑ましく、雪之丞はただ一言「行ってやんな」と彼の背中を言葉で押してやった。

 そんな鉄やオイルの匂いが溢れる格納庫で、青臭いやり取りが行われていた一方で、アリーナの更衣室の一つでは、また別の意味で青臭い場面が展開されていた。

 

「………………はぁ……」

 

 口から漏れる溜息が既に何度目なのか、それすらわからない程にため息の主である一夏は気が滅入っていた。

 

「…………」

 

 今回のクラス対抗戦に置いて彼の最終成績は参加者内で二位となった。とはいえ、一学年六クラスしかないため、試合数としては三位決定戦を含め全六試合しか組まれておらず、一夏が行った試合数は、たったの三回である。

 そして、トーナメント形式での準優勝と言えば聞こえは良いかもしれないが、そこに『参加者の中で唯一の専用機持ち』という情報が追加されれば、それはすなわち『量産機に負けた専用機持ち』という事実が明らかにもなる。

 一夏自身、自分が強いなどとは思うことができていない。何故なら、同じクラスに所属するセシリアや三日月、そして違うクラスの鈴音といった専用機持ちが、自分よりも強いことを知っているからだ。

 だが、それでも専用機という大きなアドヴァンテージを持ちつつも、量産機を相手に勝つことができなかったことは一夏の中で、大きなしこりとなっていた。

 そして、それとは別にもう一つ、一夏の中には目を逸らすことのできない事実がある。

 

「――――っ」

 

 それは一回戦の試合でのことだ。

 一夏の専用機である『白式』は、主に機動力とその特殊な攻撃力に機体のリソースを大きく注ぎ込まれている。というのも、その特殊な攻撃力であり、最大の特徴でもあるワンオフアビリティー“零落白夜”がその要因となっていた。

 本来であれば試合中に相手のシールドエネルギーを削るには、一定以上のダメージを与え、ISの操縦者を守るための絶対防御を発動させるのが最も効率的と言われている。だが、零落白夜はその限りではなく、一定のダメージを与えることなく相手のシールドエネルギーを大きく削ることができるのだ。

 その試合運びによっては大きな勝因ともなる能力を持ったが故か、白式には大きな欠陥があった。それは、機体に他の武装を登録し、量子格納できないということだ。つまり、白式には零落白夜を発動させる媒体となっているブレード、雪片弐型しか武装がないということである。

 その為、一夏の戦法は近づいて斬るという、シンプル且つ無茶な戦法しかできないのである。

 

「…………怯えてたな、あの子」

 

 そして、今回のクラス対抗戦に置いて、お互いにISでの試合に不慣れということもあり、相手に接近すること自体は簡単に行うことができた。しかし、自身が手に持った武器を相手に向けた瞬間の表情を、その高性能なセンサーがしっかりと一夏の視界に映し込む。

 

 

 その試合相手の表情は、今にも泣きそうなほどに怯え切ったものであった。

 

 

 それは当たり前のことである。

 競技とは言え、ISを纏っていなければ簡単に人の命を奪うことのできる武器を向けられ、何も思わない子供がいるだろうか?

 答えは聞くまでもなく否である。

 入学前から試合の経験のある代表候補生は例外だろうが、そういった生徒は自分から進んでこういう役職には付きたがらないのが普通だ。国家に属する彼女たちは国からの要請にはできる限り応えなければならない義務があるため、学園やクラスの仕事をする可能性のあるクラス代表にはなりたがらない。

 その為、クラス代表は一夏と同じく学園に来てから本格的にISを学ぶ人物がなることが多く、そういった生徒の大半は武器を他人に向けることに慣れているはずもない。

 学年が進むにつれISを触れる機会も増え、そういった事に慣れる生徒もいるが、入学してからたった一、二ヶ月でそこまでできる生徒はそうそういなかった。

 そして、一夏の対戦相手の場合はまた別の恐怖もある。

 それは零落白夜により、“絶対防御が発動せずに攻撃を受ける”可能性があるということだ。ISと絶対防御という操縦者を守る、唯一にして絶対の保護を無効化する攻撃が怖くない筈もなく、そして、そういった力を振るっていると自覚した一夏もまた、自身が手に入れたモノの凶悪さを今回の試合を通じ、実感していた。

 

「守るための力…………でも向けられる相手にはただの凶器…………でも千冬姉は……」

 

 そして、その迷いは試合にも影響し、決勝戦では対策をしてきた相手が一夏を寄せ付けないように攻撃を繰り返し、勝敗は一夏の敗北という結果で幕を閉じた。

 グルグルと頭の中でぐちゃぐちゃになっていく思考をなんとか纏めようとしている一夏。

 しかし、その作業は唐突に途切れることになる。

 

「え?何だ?」

 

 ブレーカーが落ちるような音が響いたと同時に自身の視界が赤く染まった事に戸惑う一夏。だが、更衣室全体が赤色灯によって照らされている事に気付くのはすぐであった。

 

「避難警報?」

 

 更衣室の連絡用の電光掲示板には避難を促す言葉が流れていた。

 

 

 

 

 

 




原作を読んでいて、一般人視点で思ったことを基準に書いたので、今回の価値観とかその辺りは色々と物議を醸し出すかもしれません(滝汗)

あと数分後にもう一話あげます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。