IS~鉄の華~   作:レスト00

24 / 57
早めの投稿を頑張った結果、どこか話がちぐはぐになったやもしれません。
今回は戦闘のための準備回です。
そして、感想でも書いた『お披露目』のための布石回でもあります。


十九話

 

 

「装甲の取り付けは最後だ。取り外した前の装甲は残骸も含めて、先方の方に送ることになってるだろ。空いているコンテナに全部放り込んどけよ!」

 

「各部関節モーターの換装が終わったから、出力調整をしよう。それが終わったら一旦三日月に試乗してもらって、重量のある武器を持ってもらうから」

 

 いつも広く感じていたバルバトスが安置されている格納庫。

 その持て余し気味の広さと、機体に触ることのできる人間が少ないことから、寂しさを感じさせるその空間は、今はたった一機の機体に手を加えるために騒がしくなっていた。

 その格納庫の隅に置かれた鉄製のコンテナに三日月は座っていた。

 

「…………」

 

「暇そうにしてるな、三日月」

 

 ポリポリとポケットから種を取り出しては口に放り込む作業を繰り返す三日月に、新しく入室してきた人物が声を掛ける。それは、オルガの補佐として働いているユージンであった。

 

「ユージン……用は終わった?」

 

「あぁ、滞在許可と搬入リストの提出は終わった」

 

 先日まで学園にいなかったユージンがなぜここにいるのか。いや、正確にはオルガが立ち上げた組織である鉄華団のメンバー、ユージンを含め、今現在バルバトスを修復している整備班とその護衛役である団員がどうしてIS学園にいるのかだが、それは以前から申請してあったバルバトスの補給パーツの搬入が目的であった。

 

「そう言えば、来るのは明日じゃなかったっけ?」

 

「……二日前に、双子が誘拐された事件があったろ。そのせいで、クラス対抗戦と合わせて俺たちがここに来たら、変ないざこざが起こる可能性があるから前倒しになったんだよ」

 

 あまり大きな声では言えないのか、ユージンは声のトーンを落としながら説明した。

 

「それよりも聞いたぞ、三日月。お前、その時に無茶やらかして大目玉くらったらしいじゃねえか」

 

「あぁ…………拳骨くらった」

 

 どこかニヤニヤした表情を浮かべるユージンに対して、三日月はその殴られたであろう頭頂部を軽くさすりながら、簡素に答える。

 先の誘拐騒動の後、三日月は事情聴取や身体検査を受けることになった。それは三日月自身がVIP扱いであるのが理由なのだが、それ以上に当人の危機感を強く持たせる意味もあった。今回のように、護衛されるべき人間が、その取引材料である人質を助けに行くなどという暴挙が行われるのは、国や学園の責任問題にもなってしまうからだ。

 しかし、そんな遠回しな物言いなど通じないことを知っていた千冬が、個人的に三日月との面談を行った。

 

「真耶……山田先生から言われなかったか?“君がいなくなるようなことはするな”と」

 

「言われた」

 

「ならば、何故今回のような事をした?」

 

「助けたかったから」

 

「……それで君が犠牲になるとは考えなかったのか?」

 

「考えないわけないでしょ。でも、俺はそれ以外を知らない」

 

 そう言い切った三日月の頭に千冬の拳が落ちた。

 慣れている痛みを頭に感じる。少し前までは大人から暴力を振るわれるのは日常茶飯事であったため、痛みにはそこまで関心がなかった。

 

(……なにこれ?)

 

 しかし、三日月には得体の知れないナニカが胸に込み上げてくる。

 そのナニカは言語化こそできないが、確かに三日月は感じたことのあるものであった。それを思い出そうと、記憶を漁るとその答えはすぐに出てくる。

 

(あぁ、仲間が死んだ時に感じてたやつか)

 

 三日月本人はその名前を知らないが、一般的に言えばその感情は“喪失感”というものであった。

 ここIS学園を訪れてから、三日月も少なくない時間を此処にいる大人と接している。その為、ここにいる大人――――特に長時間一緒にいる教師の一人である千冬や真耶と言った人物が、自分たちにとって害意を加えてくるような人物ではないことを理解していた。

 しかし、今この瞬間、それを否定するように千冬は三日月に対し、『自身の思い通りに動かなかった』事に対して、危害を加えたのだ。

 その事が、少なからず三日月にとってはショックであったらしい。

 

(なんか……嫌だな)

 

 そう感じながら、顰めそうになる顔を上げる三日月。しかし、顔を上げたところで、先ほどとは真逆の感触が身体を包んでくる。

 

「……は?」

 

 いつもマイペースな三日月が珍しく困惑の声を漏らす。何故なら、いま自分を殴った相手が、自分を抱きしめているのだから。それが理解できない三日月は身動きもしなかった。

 

「君たちが自分たちの命を軽く扱うことができてしまうのは、私たち大人の所為だ。だが、それを当然のように行うのはやめてくれ……生きたいと言ってくれ、大人が悪いと糾弾してくれてもいい、癇癪を起こして泣きついてくれるのならばいくらでも付き合う――――だから、その理不尽さを受け入れないでくれ」

 

「…………なんで泣いてるの?」

 

「自分があまりにも不甲斐なくてな…………惨めだからさ」

 

 千冬は内心で倦ねいている気持ちをしっかりと言葉にして、相手に伝えることができないのをここまで悔やんだのは初めてであった。

 本当はもっと言いたいことがあった。

 

(私たちを頼ってくれ)

 

 本当はもっと言うべきことがあった。

 

(私たちが守ろうとしても、君たちが捨てようとしてはそれはできない)

 

 本当はもっと知ってほしい気持ちがあった。

 

(生きて戻ってくれてありがとう)

 

 しかし、それを一つ一つ丁寧に言えるほど、千冬は器用ではなかった。

 そして、それを言葉にして言ってしまえば、どこか軽くなってしまうと恐れている自分がいることにも気付き、彼女は少しの間、三日月にその顔を向けることができなかった。

 

「………………なんだったんだろ?」

 

 その時の事を鮮明に覚えているが、三日月はあの時の千冬がなぜ泣いたのか、そしてどうして拳骨を落とされたのか理解できないでいる。

 

(でも…………嫌じゃなくなった、かな?)

 

 だが理解はできないが、それが自分たちのために流してくれた涙であることをどことなく察していた三日月は、千冬に対して嫌悪感はなく、寧ろ以前よりも頼れる存在と無意識のうちに認識していた。

 

「三日月、機体の微調整するから、バルバトスに乗ってもらえる?」

 

(――――まぁ、いっか)

 

 思考の海に浸りそうになった三日月は、先程まで機体にかかりきりになっていたビスケットに声をかけられたことで、その思考を中断した。

 いつものオリーブ色のジャケットを脱ぎ、タンクトップの姿になった三日月はそのままバルバトスの方に向かう。その後ろ姿を見送りながら、ユージンは自身の知る三日月と今の三日月がどことなく違う雰囲気を纏っている事に少なからず驚いていた。

 

「……なんか、柔らかくなったな、三日月の奴」

 

 そんな感想を呟いていると、先ほどユージンが入ってきた扉が開く。その音のする方に視線を向けると、そこには二人の人影があった。

 

「副団長、今到着した。報告していた機体は此処に運び込むのでいいのか?」

 

「昭弘」

 

 そこに立っていたのは、三日月やユージンたちと同じオリーブ色のジャケットを着たがたいの良い男――――昭弘・アルトランドであった。

 

「あぁ、学園への報告と申請は終わってる。搬入経路はこれに書いてあるから、従ってくれ……そんでそっちの美人は誰だ?」

 

 入室していたときから持っていたクリップボード。そこに挟まれていた学園内の見取り図と、そこに記入されている矢印の経路を軽く指で示しながら、ユージンはそれを昭弘に手渡す。

 それを受け取ったのを確認してから、ユージンは昭弘と一緒に入室し、先程から黙ってこちらの様子を覗っているスーツ姿の女性に視線を移した。

 

「この人は――――」

 

「ストップ。自己紹介くらいは自分でやるわ、アキヒロ」

 

 そう言って一歩前に出てくる女性。

 その特徴的な長髪は、自分と同じ金髪であるのだが、同じものとは思えないほどに綺麗だとユージンは思った。

 

「私はアメリカでISの操縦者をしているナターシャ・ファイルスよ。今は、アキヒロやシノ君たちを預かっている人間って言えばわかり易いかしら?」

 

「…………少々お待ちを」

 

 その言葉を脳が理解すると、ユージンは一言断りを入れてから昭弘の首に腕を回し引っ張っていく。その様子をナターシャは不思議そうに見ていたが、生憎とユージンはその事に気付く余裕はなかった。

 

「おいおい、あんな美人にお前たちは世話してもらってんのかよ!?」

 

「…………いきなりどうした、副団長?」

 

「うっせえ!こっちは毎日毎日、オルガ達と一緒に書類と向き合ってんのに、ちくしょう!」

 

 心からの慟哭であった。

 小声で叫ぶという器用な事をしているユージンであったが、所々ナターシャには聞こえていたらしく、彼女はこそこそと話す二人をどこか微笑ましく見ていた。

 それから、何かしら話がひと段落したのか、二人は仕切り直すようにナターシャの前に戻ってくる。

 

「すんませんでした。えっと……いつもうちの団員がお世話になってます。俺は鉄華団の副団長をしてるユージン・セブンスタークっす」

 

「いえいえ、こちらも皆が来てから楽しく過ごさせて貰っているわ」

 

 その社交辞令的な挨拶を交わしてから、本題を切り出すためにユージンは先程まで緩んでいた表情を引き締める。

 

「それよりも、アメリカが取り扱っていた機体……EOSの試作機を本当にウチが貰っても――――」

 

「コラ、間違っているわよ。正確には、貴方たちが廃棄、凍結されていた機体を権利ごと買い取った、よ。その辺りはキッチリと話をつけて、正式な取引を貴方たちは行った。そこに変な後ろめたさや、気後れを持つ必要はないわ」

 

 とは言うものの、彼女たちの言う試作機を鉄華団が購入する際、複数の外部の人間が口利きしてくれたことを知っているユージンはその一人であるナターシャには頭が上がらなかった。

 

「はぁ…………じゃあ、昭弘、例の機体――――グシオンをこっちに持ってきてくれ」

 

 自分たちがまだまだ独り立ちできない新米であることを再認識しつつ、ナターシャに軽く会釈をしたユージンはそのまま仕事をこなす為に、昭弘に対して指示を飛ばした。

 昭弘が鉄華団の組織編成が終了するまで、一時的に世話になっている国――――アメリカから買い取った機体をIS学園に運び込んだのは、バルバトスと共に機体改修を行うためであった。

 バルバトスの改修パーツの作成やタービンズが保有するISの研究、開発を行う研究機関『テイワズ』。そこで開発しているパーツや武装のデータ取りをこれまではタービンズが一任されていた。だが、鉄華団の発足に伴い、その業務の一部を名瀬から委託されたオルガは機体データなどの譲渡を行う代わりに、機体整備の為の補給をテイワズに依頼をしていた。

 そして、これまでの学園での試合によるバルバトスの取得データから、機体の改修パーツや補修パーツ、専用の武装などの作成がひと段落したため、今回の学園への搬入が実施された。

 その際、IS以外にも武力の補填が必要と考えたオルガは、名瀬を始めとする顔見知りとなった各国の代表などの伝手を頼り、一般的なEOSよりも高性能な機体を購入できないかと相談する。

 その結果、白羽の矢が立ったのがアメリカで廃棄寸前になっていた機体、グシオンであった。

 購入の際にいくらかごたついたが、結果的に無事購入できたその機体も、バルバトスと同じく改修するためにこのIS学園に運び込まれたのだ。因みに、装甲面などで、バルバトスからのパーツの流用ができる部分がある為、バルバトスほどパーツの準備に手間はかからなかったりしたのだが、それは余談である。

 

「まぁ、こんな機体は、それこそ阿頼耶識でもなけりゃ、操作は難しいだろうな」

 

 搬入用の資料と交換するように受け取っていた機体スペックを確認するユージンはそう溢す。

 その彼の持つ紙の資料には、スマートな人型のパワードスーツの背中に、二本の隠し腕が取り付けられている絵が描かれていた。

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、次回からクラス代表戦です。
……ここまで書いていて思ったのですが、まだ原作一巻すら終わっていないという……


え?鈴ちゃんの戦闘?ハハハ、代表候補生という立場ある人間が、自分の都合でクラスメイトの役職を無理矢理奪うわけないじゃないですか。
なので、今回のトーナメントで専用機は一組だけです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。