IS~鉄の華~   作:レスト00

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今回も割とあっさりめになりました。
自分が書くネームレスキャラが意外と反響があることにびっくりです。


十八話

 

 

 懐かしい。

 芯まで冷え切った頭がそんな感慨を抱かせる。

 色々と立ち込める狭い室内で、いつもと同じように淡々とそれをこなしていく三日月は人生においてそうそう感じたことのないモノを実感していた。

 

「……あっ」

 

 軽くなった感触を手が伝えてくる。生憎と、それを回復させる手段がなかった為、床に落ちているそれを拾い上げる。

 

「…………いいものがある」

 

 拾った隣に倒れているモノのそばに、拾い上げた物と同じように落ちている物体を引っ掴むと、三日月はそれを進むべき道の先に放り投げる。

 数秒か、数瞬か、たったそれだけの間を置いて、その建物が物理的に揺れた。

 

「あまり使ったことなかったけど、楽でいいな。アレ」

 

 三日月の言う“アレ”とは簡単に言えば、携行式の爆弾であった。

 そして、三日月がもう一つ拾い上げたのは、“無力化した敵”が所持していた拳銃である。

 先の爆発で、壁の一部に亀裂でも入ったのか、立ち込めていた煙や匂いが外に流れていき、生暖かく感じさせられる空気の温度が少し下がる。

 

「上か」

 

 ポツリと呟くと、そのまま三日月はそのフロアの階段に向かう。その途中で、そのまま放置されていた資材の残りであろう鉄パイプを拝借し、階段を昇る。

 残されたその空間には、いくつもの黒い服を纏った遺体と赤黒い水溜りが残された。

 階段を登り切る手前で、角になっている壁から通路を覗き見る――――ことはせずに片手に持っていた鉄パイプを放り込む。

 カランという床を打つ音がした瞬間、三日月は耳を澄ます。

 

「…………?」

 

 聞こえてくるはずの音が聞こえてこない事に三日月は首をかしげた。

 普通であれば、先の音に反応し銃を構えるか、若しくは何かしら身構えようとする衣擦れの音が聞こえてくるのだ。実際、三日月は似たような方法で下の階を制圧していたりする。

 

「…………変だな?」

 

 敵がいないことを知り、ゆっくりと壁沿いに通路を進む三日月。

 そして、そのフロアの奥の方に、これまでの部屋と違い、窓ガラスも何もない、ただ扉があるだけの部屋に行き着く。

 

「…………」

 

 その扉を慎重にあけながら、中を窺う三日月。しかし、その中には彼の予想とは違う光景があった。否――――ある意味“想定通り”ではあるのだが、予想通りではなかった。

 

「早いな、もう少し時間が掛かるかと思っていたが」

 

 その殺風景でありながら、開けた扉の正面にある壁の窓からの光がやけに印象的な四角い部屋。その中央に、これまでと同じ黒い服を着た、これといって特徴のない男が無防備に立っているのだ。

 その男を認識した瞬間、三日月は手に持った拳銃を構える。照準と発砲までの時間はほぼ最速に近い反応であったのだが、それをするよりも先に、目の前の男の言葉が三日月の耳に入るほうが先であった。

 

「俺を殺すのは構わんが――――上の双子も死ぬぞ?」

 

 体に染み込ませた反射的な行動を、理性がねじ伏せる。引き切りそうになった、トリガーを止め、銃口だけは相手の眉間に定めたまま、三日月はその動きを止めた。

 

「――――」

 

「これが見えるか?ここにあるリモコンに八桁の数値を打ち込むと、上の階にいる双子の首につけたチョーカーが外れるようになっている」

 

 フリーズしたように動かなくなった体とは裏腹に、三日月の目は「どういうことか」と如実に問いかけていた。

 それに応えるように男は右手で弄ぶようにして携帯端末を、三日月に見せつけるように揺らしている。

 その端末は一昔前の携帯電話のようなもので、その一面にはテンキーと操作用のボタン、そして小さな液晶がつけられていた。

 

「違う数字や操作をすれば、その瞬間チョーカーが爆発する仕組みになっている」

 

「なら、アンタを殺して、そのあとで首輪を外せばいい」

 

「おいおい……ISなんていう一昔前の二次元の存在が空を飛ぶ時代だぞ?簡単に外れるようなもんじゃない」

 

「……じゃあ、二人には申し訳ないけど、一生首にまいたままになるかな?」

 

「生憎と時限式だ」

 

 三日月の言葉に気が緩みそうになったのか、それとも本当に可笑しかったのか、少しだけ男の口元が緩んだ。

 

「そこで取引だ。お前が俺の雇い主のところに行くのなら、これを解除してやる。どうだ?」

 

「……どうしてISを動かしているのかは俺も知らない」

 

 所々聞き慣れない単語があったが、男の言葉を理解した三日月は事前にビスケットや雪之丞から聞いていた自分たちの事を思い出しつつ、そんな返答を返す。

 

「残念だが、お前が知っているのか知らないのかが問題じゃない。お前の体に阿頼耶識が埋め込まれている。それだけで価値がある。お前が知っているのかどうかは問題じゃない」

 

「……俺はオルガたちと一緒に行くって決めてる。そいつのとこには行かない」

 

 三日月のその言葉に男はスッとリモコンを持ち上げた。

 

「なら、双子とはお別れだな」

 

「アンタがね」

 

 そう言うと少しだけ下げていた銃口を再び構え直し、三日月は迷わず引き金を引いた。

 

「――――ッ」

 

 突然の三日月の凶行。

 しかし、常に警戒していたのか、男は身体を逸らすことで何とか致命傷を避け、そのままの勢いで部屋唯一の窓のガラスを突き破り落ちていった。

 

「――――…………もしもし?」

 

 慎重にその窓に近づき、下の様子を窺いながら、三日月は男と話している最後にポケットで震えだした携帯電話を取り出した。

 

『三日月?!こっちは三人とも“無事”に確保したよ!』

 

「ビスケット?一緒に来てるの?」

 

『更識さんに頼み込んで無理矢理だけどね。それよりも、今三日月が突っ込んだビルの隣のビルの屋上に皆いるから、三日月もこっちに来て欲しい』

 

「わかった」

 

 それだけ言うと三日月は通話を切る。

 実のところ、トラックで廃ビルに突っ込んだ三日月は、その以前に楯無から連絡を受けていた。そして、いくらかの押し問答の末、三日月が誘導役、そして楯無が救出役を行うことになったのだ。

 そして、救出が無事に成功した合図として、電話をすることを取り決めていたため、最後の男の持ちかけた取引を無視して三日月は発砲したのであった。

 

「……アンタ、やる気のない目だったよ」

 

 取引がブラフである云々以前に三日月は、男に殺気もなければやる気もない事を感じていた。言葉にするには難しいが、それは長年“そういった世界”に長くいたが故に感じ取れたものであったのかもしれない。

 感想とも呼びかけとも言える言葉を残し、三日月はビルの屋上を目指す。先程まで覗き込んでいた窓の下には、小汚い裏道と刷毛で引かれたような赤い掠れた痕、そして開いたマンホールだけがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段であれば、そのすえた臭いに眉を顰めるような場所で、その男は体に走る痛みで眉間に皺を寄せていた。

 

「弾が貫通していたのは幸いか…………いや、そもそも今回の仕事を引き受けたこと自体が不幸か」

 

 手持ちのハンカチと服の切れ端で撃たれた右肩を強引に巻いていく。破傷風の恐れもあったが、気にしたところでそれの対処法があるわけでもなし、気にするだけ無駄であった。

 

「あの後逃げ出したのは俺以外に三人。さて…………運がいいのは誰になるやら」

 

 応急処置もそこそこに、男は暗い下水道を進んでいく。

 その不衛生極まる空間を進んでいくと、自然と身につけていたスーツが汚れていく。しかし、身につけている小奇麗なスーツよりも小汚い世界の方が自分にはお似合いだと、頭のどこかで考えている自分がいることに男は気付く。

 苦笑が漏れそうになるが、傷に響くため、その顔は歪な表情を浮かべる。

 そして、どのくらい進んだのか、潮の香りと波の音が微かに伝わって来たとき、“ソイツ”は姿を現した。

 

「ハッ…………大当たりは俺か?クソッタレめ」

 

 暗闇に慣れ始めていた目では、逆光に立つソイツの細部は正確に見ることはできなかった。だが、少なくともシルエットから“人が乗れるような構造ではない人型”という程度にはその姿を捉えることができた。

 

「はてさて、お前は誰の使いだ?雇い主か?どこぞの野次馬か?それとも……あの世か?」

 

 返ってくるはずのない質問を投げかける男。しかし、その言動とは裏腹に、先程までとは打って変わって生き抜こうとする強い意志が、その目には滾っていた。

 

「精一杯、かますとしますかねぇ」

 

 結局、仕事の間抜くことがなかった愛銃を彼は懐から引き抜く。

 ソイツが前傾姿勢からの突撃をしてくるのと、彼がそのボロボロの体からは想像もつかないほどにしっかりとした姿勢で迎撃を始めるのは、それから数秒先のことであった。

 

 

 

 




次回か、次次回くらいにISの戦闘です。
取り敢えず、日常編は一旦ストップですかね?本編進めます。




追記
今回の最後のソイツは兎さんの差金ではございません。

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