IS~鉄の華~   作:レスト00

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色々と難産でした。
本編で内容が被るところは少し飛ばし気味に行きます。
機体も飛ばし気味に進化させたいなぁ……と思う今日この頃です。


十六話

 

 模擬戦でアリーナを一つお釈迦にした。

 この話がIS学園全体に広まるのにそこまで時間は必要ではなかった。

 そもそも、模擬戦で起きた大爆発はほぼ全ての生徒が聞いており、そこまで知られているのであれば、下手に箝口令をしくよりもありのままを伝えたほうが良いという結論に至ったのか、学園側がアリーナの封鎖と復旧工事の施工の際に『模擬戦による破損』という情報を公開していたりする。

 そして、その原因である二人の生徒の生活が劇的に変化するかといえば、そういうわけでもなかった。

 楯無は反省文の提出を行うと、クラス対抗戦の準備のためにあれこれと前準備を行い、空いた時間は真耶のアリーナ復旧の為の申請書類の処理の手伝いなどをしていた。

 と言っても、クラス対抗戦の準備は広報を行う新聞部や放送部に学園側から教えられた当日の予定や対戦表の情報を下ろすことや、参加選手の情報をどの程度公開してもいいかの精査などの為、ほとんど手間はかからなかったが。ちなみに一番申請に時間がかかったのが、クラス対抗戦の優勝者のクラスに無料で学食の年間デザートフリーパスを与えるための資金申請であったりする。

 一方で、三日月の方は読み書きを習っている途中であることと、今回の一件は彼の方は巻き込まれた側であることから、反省文の提出はない。その代わりにアリーナ復旧作業でアリーナの方に土を運ぶ作業を行っていた。

 こちらの作業も、塹壕の作成や地雷の設置、撤去作業で慣れていた三日月は早々に自身のノルマを終え、バルバトスの修理の手伝いをしている。

 こういったように、模擬戦を行った当人たちがいつもと同じようにしているため、今回の模擬戦による学内の空気はそこまで大きな変化はみられなかった。

 

「……ダメだな。これ以上は送られてくる資材がなきゃどうにもなんねーな」

 

「センサー類はデリケートな分、高価な部品ですから替えはそんなにありませんしね」

 

 手に持ったスパナで肩をトントンと軽く叩きながら雪之丞は愚痴をこぼし、それに同意するようにビスケットもそんな言葉を口にする。

 模擬戦のあった週の週末。学園の格納庫では損傷したバルバトスの修理をある程度完了させた二人が、今できる分を終わらせ機体チェックを行っていた。

 愚痴る二人であったが、今現在のバルバトスの修理は七割程終えており、機体スペックをフルにできないとは言え、ここまで修理できているのは二人の技量故であった。

 それに、ISとEOSの合いの子という世界初の機体に専用のパーツがないわけがない。その専用パーツや蓄積していく機体データから新規に製造してもらうパーツなど、そういった重要部品の補給なくして今日この日までバルバトスを十全に使えるようにできていたのだから、二人の腕前は大したものである。

 

「さて……できることもなくなっちまったが、お前さんはどうするんだ?」

 

 工具を手早く片付け、雪之丞は知人から貰った玉露にあうお茶請けがあったか考えながら、ビスケットにそんな問いを投げた。

 

「えっと、昨日の時点でやれることがそんなにないのは分かっていたので、予定通り皆と外出するつもりです。学園の方には先週からそのつもりで申請していましたし」

 

 当たり前のことだが、三日月たちは世間からすれば有名人というよりも要人の扱いを受ける存在になっている。そんな彼らがIS学園という治外法権区から外に出るには、日本政府とIS委員会の都合なども考慮された上で行動しなければならない。

 その為、本日の彼らの外出許可は、外出時間はもちろん行動範囲も事前に報告をしていたりする。もちろん、IS学園の周囲の土地勘がない彼らのために真耶はもちろん、千冬も店の情報を教え、外出の計画を立てる手伝いをしていた。

 

「あぁ……今から行くってことは昼飯も外で食うのか?」

 

「はい。……それに偶には外出しないとクッキーもクラッカも外に来た意味がありませんから」

 

 会話をしつつも片付けは続けていたため、早々にやることを終えたビスケットは「じゃあ、僕はこれで」と言うと、格納庫をあとにした。

 

「……あれが歳相応な姿なんだろうな。変わったとか変えたとかじゃなく、戻したってことか」

 

 ビスケットを見送りつつしみじみとそう呟く雪之丞は、状況を変えるきっかけになった機体に向き直ると未だに交換されていない傷ついた装甲を軽く撫でる。

 

「すまねぇな。来週には資材も届くから、少しの間辛抱してくれ」

 

 その言葉に反応したかのように、アリーナから差し込んだ太陽の光が格納庫を照らし、バルバトスの装甲に反射した。

 一方、ところ変わってIS学園の正門前では五人の人影があった。

 

「二人共、知らない人にはついて行ってはいけませんよ?それと、行きたいところがあれば、私たちの内の誰かと一緒に行くようにしてください」

 

「「は~い!」」

 

「急に付いていくって言ってごめんね、アトラ」

 

「ううん。でも急にどうしたの、鈴?」

 

「あー……ちょっとした自己嫌悪と後悔してる気持ちを切り替えようと思って」

 

「?」

 

 五人のうちの最年長の真耶は、目線を合わせるようにしゃがみ、最年少の二人であるクッキーとクラッカに注意を促していた。

 そして、残りの二人――――あの出会い以来、何かと仲良くなったアトラと鈴音は気さくに会話をしているが、鈴音の方は少しだけ表情に影が差していたりする。

 と言うのも、鈴音がIS学園に来る目的の一つである、幼馴染兼初恋の相手である一夏との再会が散々な結果となってしまったからだ。

 幼い頃、プロポーズ紛いの告白の言葉を一夏に送った鈴音は、そのこと自体を彼が覚えていた事は喜んだ。しかし、受け取った本人がその言葉の意味を履き違えていたのだ。

 これには怒り心頭であった鈴音であったが、遠回しな自分の言葉と、送った相手がどれだけ鈍感な人間であったかを思い出すと、一度深呼吸してから彼にこう言ったのだ。

 

「私にも悪い部分はあるし、これが八つ当たりだとは自覚しているけど取り敢えず――――歯を食いしばりなさい、一夏」

 

 その言葉の直後に何が起こったのかは、お察しの通りである。

 ある意味やらかしてしまった自覚のある鈴音は、気持ちを入れ替える為にと、偶々小耳に挟んだアトラの買い物に付いて行くことにしたのであった。

 

「まぁ、私のことよりもアトラ……だけじゃないわね。あの二人にも今日は付き合ってあげるから、もっとお洒落しなさい…………気になる奴もいるんでしょ?」

 

 最後のセリフはアトラにだけ聞こえるような小声であった。言われた本人は「ど、どう言う意味かな?!」と慌てていて、鈴音の気遣いも虚しく注目を浴びることになったが。

 

「皆、待たせてごめん!」

 

「お兄ちゃん、遅いよ!」

 

「三日月も遅い!」

 

「……ねぇ、俺も行かなきゃダメなの?」

 

「「みんなで行くの!」」

 

 五人に合流するように、寮の方から現れた三日月とビスケット。慌てるビスケットに比べ、眠そうな表情の三日月は、今回の外出にどこか消極的なようであった。

 そんな三日月の頭には軽い寝癖があり、遅刻した理由は一目瞭然である。

 ちなみに上半身の服装が、タンクトップにオリーブ色のジャケットだけという所為で、ちょっとした拍子に阿頼耶識のピアスが見えてしまうのではないかと、真耶は戦慄していたりする。

 

「で、では皆さん。そろそろ行きましょうか」

 

 一応、今回の外出の監督役兼監視役、そして護衛役も担う真耶が六人の子供を引き連れて出発するのは、それからすぐのことであった。

 平和な街での外出という、ある意味学生としては当たり前の休日を過ごす子供がいる中で、勤勉にも勉学に励むものもいる。もっとも、IS学園の中では勉学というよりも、修練と言ったほうがある意味で適切であるかもしれないが。

 

「ISでの精密射撃と高機動マニューバー、ビット兵器の同時使用か?」

 

「はい。これをこなす為にはどういった演習が必要でしょうか?」

 

 アリーナの詰所にはいつもの学生服を着たセシリアと、いつもとは違い白いジャージを着た千冬が机を挟んで対面するように座っていた。

 

「ふむ……オーガスとの試合はよほど堪えたか」

 

「……はい」

 

 少しだけ顔を俯かせたセシリアは素直に返事を返す。その彼女の態度に、千冬は教員として心配する気持ちが生まれるが、競技の指導者としては嬉しさがこみ上げた。

 

「……織斑先生、何かおかしかったですの?」

 

「あぁ、いや、すまん」

 

 自然と口元が緩んでいたのか、訝しげに尋ねてくるセシリアに一言断りを入れてから、彼女は気持ちを引き締めた。

 

「ではオルコット。演習の方は一先ず置いておいて、先の試合の反省会から行うとしようか」

 

「反省会ですか?」

 

「ああ。確認するが、あの時のオーガスの機体――――バルバトスがどういう状態であったか、お前は把握しているか、オルコット?」

 

 そう言われ、試合の内容を思い出そうとセシリアは顎に手を当て、しばらく無言になる。

 そして、何かに気づいたのか少し驚いた表情を見せると「いや、まさか、そんな」というふうな呟きが漏れた。

 

「被弾時のエネルギー消費が激しかったと思います」

 

 半信半疑と言った風にそう口にすると、千冬は満足したような表情を浮かべ、試合時のバルバトスの状態を語る。その内容に呆然としていたセシリアであったが、それも千冬の最後の一言で、また違う意味で呆然とすることになる。

 

「つまりだ。あの試合、お前にはまだ勝ちの目があったという事だ」

 

「……………………はい?」

 

 こてんと首が自然と傾く。

 日本風に言えば鳩が豆鉄砲をくらった顔をしているセシリアに、千冬は「案外、愉快な奴だな」と感想を抱きつつ、その根拠を口にする。

 

「ビットとライフルを喪失した時点でオルコットに残された攻撃手段はミサイルビットと申し訳程度の近接武装のみ。普通であれば火力不足だが、あの時のバルバトスであれば十分すぎる手札だ」

 

「ですが、彼に攻撃を当てなければ意味は……」

 

「近接武装の方だけであれば、それが苦手なオルコットでは無理だろうな。それについては同意するが、ミサイルはその限りではない」

 

 今更ではあるが、学園側はブルー・ティアーズに限らず、学園に在籍する生徒の専用機をそれぞれカタログスペックのみではあるが、キチンと把握している。それが入学の際に専用機に関する各国の義務であるからだ。

 もちろん、機密によって明かされていない部分はあるが、どれだけ自国が開発に関して先に進んでいるかの牽制も含まれるため、開示された情報が持つ意味と、情報が開示されること自体に含まれる意味が同じかどうかは推して知るべしである。

 

「ミサイルの脅威は追尾性だが、それ以上に一帯を巻き込む爆発がメインだ。内包できる携帯火器として、速度はともかく威力と効果範囲は脅威だ」

 

 そこまで説明されて、セシリアは考えが至る。あの時自分が取るべきであった戦術を。

 

「……自身を巻き込むこと前提で、彼にホールドされた時点でミサイルビットを発射、起爆させていればまだ勝機はあった?」

 

「そういうことになるな」

 

 その担任教師の答えにセシリアは考え込む。

 彼女の中で今現在はじき出そうとしているのは、勝利することと自機の損傷の費用対効果が釣り合っているかどうかであった。

 

(…………入学時点では『そんな無様な勝ち方ができるか』と突っぱねていただろうな。そういった意味では、あの試合は意味のある敗北であったな。今のお前は確かに“成長”している)

 

 その真剣に考え事をしている生徒の姿を見て、また口元が緩む千冬であった。

 

「あの、試合の事は理解できたのですが、ビットと機動の同時運用については…………」

 

「ん?ああ、それなら簡単な練習方法がある」

 

 ある程度自分の中で考えが整理できたのか、セシリアはおずおずと千冬に話しかける。その言葉にあっさりとそんな返答をすると、千冬はその部屋に置かれている扉のついている大きな棚を漁り始める。その棚には、主にアリーナの使用目録や修繕記録などの紙媒体での保存や、小さい備品などが収納されていた。

 その棚の一角から四角い物体を取ると、「ほら」という言葉と共に千冬はセシリアにそれを投げ渡す。

 

「…………ルービックキューブ?」

 

 危なげなくセシリアがキャッチしたのは、世界的に有名な立体パズルであった。

 しかし、彼女が疑問視するような声を漏らしたのは、渡された理由が理解できなかったわけではない。受け取ったルービックキューブが一般的なものとは異なっていたからだ。

 一般的なもので、一面が三×三の九マス、六面が普通である。昨今では四×四や五×五もあるが、セシリアの持つそれは文字通り桁が違った。

 

「十三×十三、合計で百六十九マスのルービックキューブだ。それを解けるようになってみろ。それができれば次はこれだ」

 

 そう言って千冬は棚から机に幾つかのパズルを持ってくる。それはどれも見ただけでやる気を無くすようなものばかりで、セシリアもそれを理解しているのかどこか嫌そうな表情を浮かべ、千冬に説明を求める視線を送る。

 

「これらは第三世代機の思考制御式の装備が実用化され始めた頃、生徒が使用していた私物だ。当時の専用機持ちはこれらで並列思考の訓練を行っていた」

 

「……これらができるようになれば同時運用もできると?」

 

「断言はできん。私が現役の頃はISの黎明期で、第三世代兵装などのキワモノを扱ったことなどほとんどないのだからな。だが、思考制御と機体制御を同時に行うことができる生徒は、少なくともそれくらいはできていた」

 

 そう言われたセシリアは意気込むように、手に収まっているルービックキューブを強く握り、少しだけそれを軋ませた。

 

 

 

 

 




ということで、皆さんそこそこ気にしていたセシリアの今です。彼女は普通に研鑽をしています。

次回は今回出番のなかったワンサマーと箒、それと三日月たちの外出についての内容です。なので、クラス対抗戦はもう少し先です。





次回のキーワード、「やっちゃえ、○産」

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