あと、作者の中で、EOSのイメージはAMボクサーです
戦場となる荒地に土煙が舞う。
元々降雨量が乏しいこの土地には、水源はもちろん植物の生えた土地もそうそう多くはない。その為、EOSによる短距離のスラスターを使った跳躍は乾燥した土をよく舞い上げた。
『ミカ、こっちはそろそろ準備が終わる。そっちはどうだ』
「あぁ、うん。向こうが気付いてるかは知らないけど、もうそろそろ戦闘が始まる」
EOSの操縦者である三日月が着ける通信用のヘッドセットから聞きなれた声が響く。
その声を聞くと、単騎で移動しているにも関わらず背中か若しくは隣に誰かのいる安心感を覚えた。
「全部倒さなくていいんだっけ?」
『そうだ。なんにせよ生き残ることが第一だ。バッテリーがヤバくなったら即座に後退しろ。お前が後退し始めたら、昭弘の部隊がそっちに向かう』
「わかった」
特に疑問も持たず、自身が確認すべきことを終えれば十分なのか、三日月の反応は淡白なものであった。
下手に長時間通信するのは危険なため通信を切る。
すると、ちょうどその切ったタイミングに合わせたように、三日月は目的地である敵軍の見える小高い丘に到着した。
「敵は、車両が四、EOSが八、戦車が六っと……陸戦部隊か」
航空戦力は見えなかったが、燃料のことを考えると戦闘が開始してから来る可能性も考えられる。だが、EOSのバッテリーの問題で、敵の航空戦力が来る頃には三日月は既に撤退を始めているだろうが。
(ヘリとかないのか……面倒くさいのがいないからいいか)
当の本人はその程度の認識しかなかった。
敵の確認を終えると、三日月は移動のために必要最低限にしていたパワーアシストの電源を入れ直す。
そして、目視と阿頼耶識からの情報で機体ステータスと装備し直した武装の確認をする。
「っ」
いつもと比べると装備したパーツも多く、脳に流し込まれる情報量が増えたことで少しだけ頭に痛みを覚える。
しかし、それを無視しつつ、背部に固定されていた武装を三日月は展開し構える。
「これ、連射はできないのか」
そう言って構えるのは、元々IS用に開発された滑腔砲であった。
狙撃に必要な環境情報を観測するセンサーは付いていないため、ほとんど感覚で照準をする。最初は片腕で構えていたが、安定しない銃身にイライラし近接用の武装を握っていた方の手を、地面にその武装を刺すことで空手にし、両腕で構える。
「弾は六発。当てられるのは前の五発だけか」
確認するようにそう呟いてから、三日月はそれが当たり前のように引き金を引いた。
大きな空気を叩く音と、風切り音が伸びていく。そのどこか綺麗な音が爆音に変わるのは、数秒とかからなかった。
「……」
狙っていた戦車の近くに着弾する。
付近を歩いていた歩兵が数人、その爆発で吹っ飛んだが、狙っていた戦車には着弾しなかったため、三日月の眉がすこしだけ歪んだ。
着弾したことにより、こちらの存在に気付いた敵兵が対応しようと、部隊を三日月のいる丘に向けようと動き出す。
そんな中でも、三日月はマイペースに狙撃を続ける。
センサーが拾った、先の射撃のデータを感覚で捉えながら、誤差を修正する。
「……よし」
先と同じく引き金を引く。すると、今度は狙い違わず戦車の砲塔部分の付け根に着弾させる。
その狙撃作業を同じように四回続けると、最後の弾は敵部隊の中央付近に叩き込む。
最後の弾丸は着弾と同時に、大きな煙を生み出す。
それは乾燥した土を舞い上げたのではなく、弾丸に仕込まれたチャフスモークであった。
「――――行こう」
撃ち終えた滑腔砲を投棄し、地面に刺しておいた武装――――無骨な先端を持つメイスを手にしながら、三日月は丘を下っていく。
数百メートル先の煙の中から最初に出てきたのは、三日月と同じEOSを装備した兵士たち。そして、それに続くように歩兵が視界を確保するために、煙から出てくる。
「……まずは!」
三日月が単騎であることを確認したEOS部隊は、各個撃破を恐れたのか一箇所に固まり、手持ちの銃火器を向けてくる。
だが、相手が発砲するよりも早く、三日月はEOSの持つメイスをその集団目掛け投擲していた。
反射的な防衛本能からか、EOS部隊の幾人かはそのメイス目掛け発砲していたが、質量の塊であるそれと比べ遥かに小さい弾丸では迎撃は不可能であった。
「こいつっ、落ちない!」
「馬鹿!それは囮だ!奴は――――」
EOS部隊の指揮官であろう人物が、浮き足立つ部隊の人間を諌めようと声を張り上げる。しかし、その言葉を最後まで言うことはできなかった。
「一人目」
メイスの影に隠れるように接近していた三日月は、ある程度の距離まで近づくと、EOSに付けられたスラスターを全開にし、投擲したメイスを追い抜く。
そして、一番厄介そうな相手に向かって、EOSの拳を叩きつけた。
しかも、EOSの装甲を避け、操縦者の頭に直接叩き込まれたのだ。
「………………へ?」
バチャリと、粘性の高い液体が三日月とEOSに降りかかる音がする。それを隣で見ていたEOSの操縦者の口から間抜けな声が漏れた。
一瞬静止したように動きを止める一同。だが、それも飛来してきたメイスにぶつかり、体勢を崩したEOSの操縦者が声を上げるまでであった。
「こ、この野郎!」
「やめろ、同士打ちが――」
三日月のすぐそばにいたEOSの銃口が味方の静止も振り切り、三日月に向けられ発砲される。
数メートルと離れていないため、どんな下手くそでも当たるその距離。
だが、そんな状況でも三日月は生きていた。
叩き込んだ拳をそのまま、向けられた銃口の方に回したのだ。
「味方を盾に?!」
拳を引き抜くようにして、最初に仕留めたEOSという即席の盾を相手にぶつける。
「ひっ、う、あぅ」
操縦者の体液を撒き散らすその盾に、生理的嫌悪感を抱きながらも避けることもできずに受け止めたそのEOSはそのまま尻餅をつく。
その盾を振りほどくため押しのけようしたところで、自身を見下ろすように立ち、メイスの先端をこちらに向ける三日月の姿がその操縦者の視界に映る。
「あ……あぁ……ひぃ」
自身と同じで、赤く身体を染めながらもそのことに“何も感じていない”目を向けてくるその少年兵に狂気と怖気を感じる。それがその操縦者の最後の思考であった。
「二人目」
メイスの先端から打ち込まれた鉄杭が二人の人間と二機のEOSを貫く。
その鉄杭をメイスを持ち上げることで、メイスから引き抜く。
地面に残る、人間と機械の残骸。そして、一本の鉄杭は歪な墓標に見えた。
「……次は」
「ひ、う、撃てえ!」
「うるさいな」
次の獲物を品定めするように、三日月が顔を上げる。
その赤く染まった顔を直視し、恐怖に染まった思考を追い払うように、敵の操縦者の一人が叫びを上げる。
それが耳障りなのか、三日月は少しだけ眉を顰めさせた。
だが、それとは別に肉体は目的のために動き出している。
「く、来るなあ!」
「三人目」
一番手近なEOSに接近する。再び銃口を向けてくるが、そのEOSの動作よりも、三日月が機体を相手の懐に飛び込ませるほうが早い。
そのまま、銃口を逸らし、自身の背後に弾幕をはらせる。
銃のトリガーを引かせたまま、その腕を空いている腕で固定すると、メイスを相手の頭上から叩きつける。
「や、やめっ――」
機体を通して、柔らかい何かと硬い何かを潰す感触が返ってくる。その瞬間、何か声が聞こえたが、特に関係ないと三日月はその事に思考を割くことがなかった。
敵を地面にスタンプすると、固定していた敵のEOSの腕が引きちぎれる。
「あれ?結構脆い?」
マガジンが空になったのか、カタカタと音を立てながら空撃ちを続ける銃を未だに握っている腕を一瞥する。
だが、すぐに興味を失ったのか、握っていた腕を背後に振り向くと同時に、迫ってきていた敵機にぶつける。
「何だこいつ!後ろに目でも付いてんのか?!」
悪態混じりの声が響く。
敵の兵士は、三日月のEOSの背部にカメラが付いており、その映像を阿頼耶識を通じて三日月が把握していることを知らない。
何故なら阿頼耶識システム自体、人間に使うことを国際法で禁止されているからだ。
ならば何故、三日月たちにそのシステムが使われているのか。それは彼らに戸籍が存在しないから。
国が把握していない人間は資源というのが、三日月たちのいる国の考えであった。
「つっ!」
自身の目が見ている以外の風景を脳で把握し、複数の敵の位置を確認し、射線を誘導しつつ各個撃破していく。
だが、相手も馬鹿ではなく、三日月の武装がメイスのみと気付くと中距離戦闘に切り替え、削り潰すように銃弾を放ってくる。
「四人目!」
メイスの先――――獲物となっている部分で、自身の生身の部分を防ぎつつ強引に切り込んでいく。
「恐怖がないのか!」
「そんな奴いないでしょ」
「子供?!」
敵の言葉に言い返しながら、メイスを振りかぶる。
その際、顔に付いていた血が乾き、剥がれたことで顕になった三日月の素顔に、敵の兵士が幾度目にもなる驚きの声を上げた。
「子供が戦場に立つのか!」
「関係ないでしょ、敵のあんたには」
接近されたことで、銃から近接用のナイフを取り出す相手であった。それは訓練され、身体に覚え込ませた動作だったのか、かなりの速度であったが今この瞬間は大きなミスであった。
「っ!受け止めきれん!」
肉厚でEOS専用とは言え、所詮はナイフ。大型のメイスを受け止めることはできず、そらすので精一杯であった。
「倒せなかった?」
「そう易易と!」
そうは言っていても、メイスは直撃を避けただけで相手にしっかりとダメージを負わせていた。
下手にこだわる理由もないと、即座に敵機から離れると三日月は再び回避運動をしながら次の敵を補足する。
すると、ある映像が無視のできない情報として脳に引っ掛かりを覚えさせる。
「煙が引く。もうそんなに経ったんだ」
最初の狙撃で発生させたチャフスモークが霧散し始めていた。
これまで、下手に動くと被害が増えるだけと判断され、動かなかった戦闘車両や、無事な戦車が自由に動けるようになってしまえば、単騎で戦っている三日月には十分な脅威となる。
「バッテリーもやばい。そろそろ戻らないと不味いかな」
そう呟いてから、EOSの腰部に装着させていた二つの円柱を引き抜くと、敵部隊の中央に投擲する。
そうすると、再び煙が舞い上がり、三日月ごと敵部隊は煙に包まれるのであった。
自分の描写ではここまでが限界です。
三日月らしさ、そして、戦闘の疾走感は難しいです(泣)