IS~鉄の華~   作:レスト00

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今回は前回ほど長くはないです。
わりとあっさりめです。


十四話

 

 床は冷たい。

 戦争をしていた頃からずっと三日月はそう思っていた。荒野が多い雨の少ない土地であったが、基地内や格納庫の日陰は寝そべればそれなりに涼しいということを知ってからは、床で寝るのが当たり前になっていた。

 何故なら、IS学園の部屋とは違い空調のある部屋など使ったことはなかったから。

 だから、三日月は温かい床というのは未体験のものであった。

 

(昼間は暑くて寝れそうにないな、ここ)

 

 ぼんやりとそんな事を三日月は思う。

 

「…………三日月くん?聞いていますか?今とても大事な話をしていますよ」

 

 とはいえ、いつもの笑顔でありながら、どこか険がこもる雰囲気を纏う真耶の言葉に思考の焦点を無理やり引き戻されたが。

 

「いいですか?ここは貴方のいた場所ではなくて、皆さんと様々な事を学ぶ場所です。だから、試合とは言え自分も相手も動けなくなるまで戦う必要はありません。いいですね?」

 

「…………戦うのって、そういうことじゃないの?」

 

「っ、……ここでの戦いはそういうものではないです。それに――――三日月くんがいなくなるようなことがあれば、私はもちろんアトラさんやビスケットさんたちが悲しみます。それはとても悲しいし、悪いことです」

 

 真耶の言葉を頭の中で反芻しながら三日月は悲しむ彼女たちの姿を思い浮かべる。皮肉にも、誰かがいなくなる想像はすぐについた。つい数週間前まではそれが当たり前の光景だったのだから。

 

「……うん、わかった」

 

 いつも授業中にわからない事柄に対して真剣に理解しようとする三日月の姿を知っている真耶はそれが、その場しのぎのポーズではなく、三日月の心からの言葉だとわかった。

 理解してくれたことにひと安心しつつ、床に正座してもらっていた三日月を立たせつつ、横目でちらりともう一つの説教風景を窺う。

 

「それで?会長がどうしてアリーナを使用してまでオーガスくんと試合をしていたのかを教えてくださいませんか?」

 

「……そのまえに虚ちゃん?正座している膝の上に工具箱を乗せるのはひどいかなぁって思うのだけど……」

 

「おかしいですね。今は私の質問に答えるのが第一だと思うのですが、訳のわからない言葉が聞こえてきました。疲れているのでしょうか?ここ最近、再来週に行われるクラス対抗戦の為の書類仕事をしていたからですかね?」

 

「……いや、その、ね。三日月くんが簪ちゃんにちょっかいかけてね、それで……」

 

「やはりかなり疲れているみたいですね。まさかあの会長が、溺愛している妹様を言い訳に使うなど…………これも、会長が破壊したアリーナを使用するはずだったクラス対抗戦の書類整理を、不在の会長の分も終わらせようとしたからでしょうか?」

 

「なんかもう色々とすいませんでした!そして、その手に持っている小型コンテナは勘弁してください!!」

 

 中身のぎっしり詰まった工具箱(鉄製)を抱えるようにしながらの見事な会長の土下座であった。ついでに言うと、三日月が正座していた場所は、部屋の中でカーペットがしかれている場所であるが、楯無の座る場所は冷たいリノリウム製である。

 更に余談であるが、楯無に説教をしている女生徒――――布仏虚が持っている小型コンテナ(こちらも鉄製)にはISの銃火器のマガジンが入っていたりする。

 

「…………止まった?」

 

 IS学園会長がIS学園生徒会役員に怒られるという、ある意味シュールな光景をぼんやり眺めていた三日月は戦闘後に鼻に詰めていた脱脂綿を引き抜いた。

 

「もう大丈夫ですか、三日月くん?どこか変に感じるところはありますか?」

 

 先程までの説教の雰囲気とは一転して、真耶は気遣うように三日月に問いかける。

 先の二人の戦闘後、真耶と虚にそれぞれ撃墜された二人はすぐに回収され、今四人のいる一室――――試合前に真耶とビスケットが勉強をしていたアリーナの管理室に移動することになった。

 だが、回収されてすぐ、より正確にはISから降りてすぐに三日月が鼻血を吹いたのだ。それも顔を伝う程度の少量ではなく、せき止めていた物がまとめて溢れ出すような量で、三日月の顔の鼻から下は全て血に染まるほどであった。

 流石にこれには驚き、その場で即座に処置が行われた。

 だが、その時一番異常であったのが、三日月自身が“何も感じていなかったこと”である。

 人間の体は存外分かりやすくできている。

 痛みや発熱など、身体が異常を示す事は様々な種類があったりする。鼻血もその一種だ。だが、鼻血こそ吹いたが三日月に異常の自覚症状がなく、そして今も特に異常が見られないというのは逆に不気味であった。

 

「ん…………特に変なところはないよ」

 

 ざっと自身の体を見下ろしながら、三日月は真耶の質問にそう答える。しかし、やはり心配なのか、真耶は説教を終えたばかりの虚に声をかけた。

 

「布仏さん、すいませんが保健室の方に三日月くんを連れて行ってくださいませんか?養護教諭の方には私から連絡を入れておきますので、念のため検査をしてあげてください」

 

「……今回はこちらに大きな非があるので、構いません。山田先生も“今から”大変だと思いますが、どうか無理をなさらないように」

 

 彼女の言葉に苦笑いを返すしか、真耶にはできなかった。

 真耶に一礼し、三日月と楯無に声をかけると虚はその部屋をあとにした。

 

「さぁ、会長行きますよ」

 

「ちょ、ちょっと待って、虚ちゃん、今足の感覚が戻ってなくて、あっても痛がゆくて」

 

「知りません。キリキリ歩いてください」

 

「最近、私の扱い皆雑になってきてないかなあ?!」

 

 三人が部屋から出ていくと、真耶はまず保健室に内線を入れる。これから三日月たちが行くことを伝えて通話を切ると、自身を落ち着けるために深呼吸をする。

 そして、今度は別の部屋に内線を繋いだ。

 

『――既にビスケットくんから事情は聞いている。職員室で後始末の準備もできている。管理室の当直は代わりの者が今向かっているから、引き継いだらこちらに来い』

 

 ワンコールきっかりで内線を受け取ったのは千冬であった。

 彼女は全ての事情を理解しているのか、端的に要件を告げてきた。

 

「ありがとうございます」

 

『……いつも真耶には世話になっている。多少は手伝ってやれるから少しでも早く終わらせよう』

 

 千冬に言葉に目頭の熱くなる真耶であったが、その言葉から始末書やら何やらの書類の山が今、職員室の自分のデスクの上に高々と積み上げられているのが簡単に想像できてしまい、違う意味でも目頭が熱くなる真耶であった。

 真耶が自分たちのリーダーと同じ苦行に立ち向かう覚悟をしている頃、格納庫ではビスケットと雪之丞がバルバトスの修理を行っていた。

 

「三日月の奴、また派手に壊しやがったな…………ビスケット、そっちの関節部はどうだ?」

 

「装甲に覆われている分、スラスターやセンサー類よりはマシですね。ラミネート装甲……っと、ナノラミネート装甲だっけ?それがいい仕事したみたいです」

 

 試合後に機体ステータスチェックの際に、何故か表記とスペックの変更された装甲名をビスケットは言い直した。

 二人の模擬戦――――正確には、最後ミステリアス・レイディの“清き熱情”によってもたらされた被害は、機体もアリーナも大きなものであった。

 アリーナはシールドバリアの存在で、建物本体にこそ損傷はなかったが、グラウンドの方は爆心地のように抉れており、更には格納庫に繋がるピットの一部が損壊していたのだから、修理にはそれなりの時間を要するらしい。

 そしてバルバトスの方は、スラスターの損傷とセンサー類の損傷がビスケットの言葉通り酷いことになっていた。前者は三日月の操縦の負荷とそれに伴う爆発の負担、後者は爆発のみの負担である。

 幸いなのは、装甲が頑丈であった為、機体フレームなどには深刻な損傷がなかったことだ。寧ろ、IS学園から借りていた武器――――二本の手斧とハルバートが三日月たちが買い取らなければならない損傷をしていたほうが問題と言えば問題であった。

 

「オルガたちからの物資はいつごろにこっちに来るって言ってた?」

 

「時期的に、来週のクラス対抗戦くらいです。それと、オルガが決めたみたいですよ」

 

「決めたって、何を?」

 

「僕たちの組織の名前をです」

 

 会話をしつつも動かしていた手を一旦止める雪之丞。

 その視線は静かにビスケットに問いかけていた。

 

「鉄の華と書いて“鉄華団”――――それが僕たちの家族の名前です」

 

 

 

 

 

 




やっと鉄華団の名前を出せました。


感想で、AIキャラの話題があったのですが、作者である自分は雪風とヴァンドレッドのピョロが好きと答えました。
最近のトレンドと言うか、メジャーなAIキャラってなんでしょうね?

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