IS~鉄の華~   作:レスト00

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最近ブレイクブレイドを読み返している作者。
新刊はいつだ?

鉄血のアニメは個人的にはキチンと話を終わらせた感があったので、変に消化不良になるよりは好印象でした。
最後の戦闘は熱かった(断言)


十二話

 

 

 更識簪は困っていた。

 何故なら、人生の中で初めて親以外の異性との触れ合いがまさかのハグであったのだから。

 

「…………ぅん……」

 

「……っ……」

 

 そして、ハグしている相手がそのまま眠っているため身動ぎするたびに、密着度が着実に上がってきているのもその要因だろう。

 自分よりも小柄なその相手に視線を向ける。無表情で分かりづらいが、彼――――三日月を知っている人間が見れば驚くことだろう。何故なら、いつもの警戒している強張りがない、本当にリラックスしている表情をしているのだから。

 そんな彼と向かい合うように並んで寝転んでいる簪は、どうしてこんなことになったのかを思い出す。そうでもしていなければ、緊張と気恥かしさで頭の中が沸騰しそうだという理由もあったが。

 

(えっと、もう一人の男性操縦者のISを見たくてここに来て――――)

 

 彼女は、学園の大半の例に漏れず、三日月とセシリアの試合を実際に観戦し、そして自室の端末で試合の映像を見ていた生徒だ。

 そんな彼女は三日月の機体――――バルバトスのスラスター類に興味を持った。

 バルバトスの機体スラスターは平均的な量産機と比べ、かなりコンパクトにまとまっている。バックパックの可動式のものと両足にそれぞれ付いた合計三機のスラスター。

 たったそれだけの数で、瞬時加速の高等技術を行えるだけのポテンシャルがあるのだ。これは三日月の技術以前に、それに追いつけるだけの基盤がなければできないと考えた彼女は、バルバトスに強い興味を抱いた。

 

(もし、外見だけからでも参考にできればと思って――――)

 

 彼女がそこまで推進機構に興味を持っているのは、彼女が日本の代表候補生であり、そして日本政府から預けられる筈であった自身の専用機の作成を自ら行っているが故であった。

 言葉にすれば簡単に聞こえるかもしれないが、それは不可能に近い偉業である。

 ISというのは、世界でも最先端の技術の塊だ。そしてコアに至っては制作者本人しか理解できないブラックボックスとなっているという、常識を疑う代物でもある。

 そういった専門家ですら、全容を把握していないキワモノを中学生から高校生に上がったばかりの生徒が一人で完成させることができるのか?――――答えは聞くまでもない。

 そもそも、どうして彼女が持つはずの専用機が未完成の状態で彼女の手元にあるのか。

 それは男性操縦者であり、三日月と違い自前の機体を持っていない織斑一夏が日本人であったからだ。

 元々彼女の専用機――――打鉄弐式は、日本政府が自国内で唯一ISの開発と研究を同時に行っている倉持技術研究所に作成を依頼していたものだ。だが、一夏がISを動かせることを知ると、国は打鉄弐式の開発を凍結し、彼のデータ取り用の専用機を開発、データ解析をしなければ国からの援助を打ち切るという指示を出してきた。どうしても開発と研究に莫大な資産を必要とするISという分野において、国からの援助が打ち切られるというのは倉持技研にとっては死活問題であった。

 その為、技研の責任者は直接簪と対面し、事情を話し、子供に対して不誠実な事をしてしまうけじめとして土下座までして、この事を簪にも納得してもらう。

 簪も中学生から高校生になり立てとはいえ、自分よりも倍以上の歳の大人がそこまでするのは、多くの部下や同僚がいるが故であることを理解していたため、納得も理解もしていた。

 だが、彼女は諦めきれなかった。

 

「――――っ」

 

 それが自身の目標に近づける足掛かりとなるのだから。

 その後、凍結ということから機体を技研で保管することになるならば、自分で残りの機体製造を少しでも進めたいという簪本人の意向を尊重し、ここIS学園にて彼女は作業を行っていたのだ。

 話を戻すと、その制作作業に置いてネックとなっている項目の一つがスラスター調整であった為に、バルバトスのそれに興味を持った簪はこの格納庫に訪れていた。

 学生間の噂で、バルバトスが専用機でありながら待機形態になっていないと知っていた簪。その為、見ようと思えば勝手に見ることができるのは分かっていたのだが、流石にそれはまずいと思った彼女は、誰かが来るまでその格納庫で待とうと考える。

 そして、流石にずっと立って待っているのは疲れるので、近くにあったコンテナに座ろうとした時に、彼の存在に気づいたのだ。

 座ろうとしていたコンテナの陰に隠れるように、三日月が身を丸めるようにして眠っていた。

 

(びっくりした)

 

 しみじみと彼女はそんなことを思った。

 それは無人だと思った場所に人がいたこともそうであるが、それ以上に試合で感じた印象とのギャップが大きかったこともそうである。

 本当に本人なのかと疑問に思った彼女は、身体を横にして寝ている三日月の正面に来るようにしゃがむ。そして、たまたま目に入った乱れた前髪を整えてやろうと手を近付けようとする。すると、簪の視界は一転した。

 

(本当にびっくりした)

 

 大事なことなのか、似たような事を二回思う簪であった。

 どうなったのかというと、三日月が近づいた腕を掴むと抵抗できないように引き寄せ、両腕と胴体を一緒に抱え込むように抱きついたのだ。それも寝たままの状態で。

 これは三日月の兵士としての習慣である。

 戦争をしていた頃、味方の筈の大人たちからおもちゃにされていた三日月たちは、自然と寝ている間も自衛できるように身体が覚えてしまっていたのだ。

 その結果が、向かい合うようにして抱き合い、寝転がっている二人の経緯である。

 

「…………」

 

 ここまで思い返すと、改めて簪は恥ずかしくなってきた。

 先程から身動ぎするたびに、三日月の抱きしめる力は強くなる。しかも、三日月は簪の腕が動かないようにするために、彼女の腕の真ん中辺りに腕を回しているのだ。その為、自然と三日月の顔の位置は彼女の胸の辺りに来ることになる。

 

(…………私は小さくないもん。年相応だもん)

 

 三日月が自身の身体に密着しているのを見下ろすような体勢になりながら、彼女は自己弁護を行っていた。

 

「あの、三日月・オーガス……くん?」

 

 一緒に寝転がるのが心地いいとか、三日月の身体が温かいとか、恥ずかしくはあるけど嫌ではないとか色々と思うところはあるが、いつまでもこのままではいられないと思った彼女は取り敢えず、声で彼の覚醒を促した。生憎と、彼女に同年代の男の子の知り合いがいなかった為、どう呼べばいいのか分からず、フルネームに君付けするというどこかチグハグな感じではあったが。

 

「……ん?」

 

 意外にも三日月はその一言ですぐに目を覚ます。

 眠そうな顔は、正面にIS学園の制服の白い布地があることを認識すると、そのまま顔を持ち上げ、簪の顔を正面から覗き込む。

 

(…………近い)

 

「誰、アンタ?」

 

 寝起き兼初対面の第一声がそれであった。

 先程までほとんど身動きできないのが嘘のように、三日月はあっさりとその拘束を解く。そして、固まった身体を解すように柔軟体操のような動きを見せ始める。慣れているといっても、硬い床で寝るのはやはり身体が痛くなるようだ。

 

「……えっと」

 

「なんかよう?」

 

(ど、どっちのことを言うべきなんだろう?)

 

 三日月からの質問にしどろもどろになる簪。思春期の学生としては、自分の要件を言ってもいいのか、それともどうして一緒に寝ていたのかを言うべきなのか、今更ながらに混乱する簪であった。

 

「よう、ないの?」

 

「あ、え、うん。っ、ち、違う。ある、あの子を見せて欲しい」

 

 どもりながらも何とか、要件を言い切ってからバルバトスの方に視線を向ける。

 三日月も彼女の視線の先にバルバトスがあることを察すると、思案するような、何かを思い出すような表情を浮かべた。

 

「……好きにすれば?」

 

 そっけない言葉だが、しっかりと肯定の意を返す三日月であった。

 そんな未知との遭遇が行われている頃、いつもバルバトスの整備を行っているビスケットは真耶からISについての講義を受けていたりする。

 

「何か、すいません。妹たちや三日月の面倒まで見てもらっているのに僕まで」

 

「そんな、いつでも私を……私たちを頼ってくださって、大丈夫ですよ?」

 

 教室ではなく、整備室関連の管理室内で二人はISの基本マニュアルとメモ用のノートを机に広げていた。

 対面に向かい合うようにして机に座る二人は、主にビスケットがISについての疑問点を尋ね、それを真耶が答えるという方式で知識の交換を行っている。

 これは先の試合で、EOSを整備していた頃の常識と、ISについての常識の摩擦があることが分かったため、それをなくすためにビスケットが真耶に申し出たことであった。

 

「とは言っても、放課後この区画の管理担当の時ぐらいしか、私はお相手できないのですけど……」

 

「それこそ、こちらが迷惑をかけているのだから、気にしないで欲しいです」

 

 この二人はお互いに相手に遠慮しやすい性質なのか、相手を慮る発言が多く、気付けばお互いに頭を下げ合っている。それでも、質問と筆記の作業スピードが落ちてはいないが。

 

「そう言えば、今日は三日月くんの機体の整備は終わったんですか?」

 

「えっと、機体の方はあの試合以降あまり使っていませんし、次に使うとしても学年別トーナメントぐらいになると思うので、しばらくは大丈夫です。それに三日月が今は機体のそばにいます。そうそう問題は起きませんよ」

 

 自信満々に言うビスケットであったが、その件の人物が日本の代表候補生と抱き合って寝ていたり、自身の専用機を勝手に見学させている事を彼はまだ知らない。

 

「三日月は出ませんけれど、クラス対抗戦が今度あると聞きましたけれど、山田さんはその準備とかは大丈夫ですか?僕らの相手をしている場合じゃないんじゃ?」

 

「あ、それは大丈夫です。クラス対抗戦は授業中に行われますし、特に来賓が来たりするほど大規模に行われるわけではないので、準備自体はすぐに終わるので。一組も代表が織斑くんに決まりましたし、そんなに焦ることはないです」

 

 彼女の言葉通り、一組のクラス代表はこの日、白式を受け取った織斑一夏がなることになっていた。対抗馬としてセシリアの名も上がったが、本人が機体の修理と整備と調整に時間をかけたいという希望と、それが次のクラス対抗戦に間に合わない事を自己申告し、辞退することとなった。

 二人の世間話が丁度切れたのを見計らったように、二人のいる部屋の出入り口にノックの音が響く。

 

「は~い……三日月くんでしょうか?」

 

「三日月?」

 

 その音に反応し、真耶が出入り口の近くに向かう。普段なら、入室前に学年と名前を言ってから入室してくる生徒がほとんどな為、真耶はノックの主が三日月だと当たりをつける。

 だが、ビスケットは三日月がノックなんてするだろうか?寧ろ無遠慮に部屋に入ってくるかな?とか思いながら、彼女のあとに続いて移動する。

 

「真耶ちゃん、ビスケット、コイツどうすればいい?」

 

 真耶が扉を開けるとそこには確かに三日月がいた。だが、そこにいたのは彼だけではない。

 いま格納庫でバルバトスを見学している簪と同じ髪色をしている、この学園の生徒会長が『絶許』と達筆に書かれた扇子を片手に、三日月に襲いかかろうと――――――しているのだろうが、それを彼の両手でしっかりと押さえ込まれている姿があった。

 もっと具体的に言えば、右手で顔面を、左手で空いている方の手を抑えていた。

 

「「…………えぇ~」」

 

 理解できない――――というよりも理解したくない光景であった。

 

 

 

 





次々回くらいに戦闘かな?

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