IS~鉄の華~   作:レスト00

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今回は、色々と説明会です。
色々と穴だらけかもしれませんが……
ご指摘いただけるのはありがたいことなので、何か気付けばご一報してくださって構いません。
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八話

 

 

 IS学園の教師という立場は単純な教職員と比べ、名前は同じでもその職の内容が大きく異なる部分がある。

 細かく言い始めればキリがないが、一番大きな違いがあるとすればそれは非常事態が起こった場合の対応力である。

 ISという軍事力に繋がりやすい要素から、学園への襲撃は珍しくはあるが決してないわけではない。その為、避難誘導などの危機回避はもちろん、直接的な意味での原因の排除という武力的な能力も必要とされることがある。

 そして、それは外部からの襲撃だけでなく、内部からの場合も当然ありうることだ。生徒に偽装させた工作員などはその典型例だろう。

 だが、そう言った意図のある暴動は、言ってしまえばIS学園の騒動の中ではまだ気楽な方であった。何故なら、そういった計画性のあるものは、原因を潰してさえしまえば、暴動にまで発展する事はないのだから。

 その為、最も厄介とされているのは、そう言った意図のない、純粋な生徒の暴走などである。

 昨今の女尊男卑の風潮から、力に溺れる生徒は少なくない。それは努力を積み重ね、格上を追い抜いた生徒に限って陥りやすい精神疾患のようなものでもあった。

 そういった生徒を取り押さえるのも、IS学園の教師の役目である。そして、教員としての指導をする意味でも、今現在の生徒の技量の把握は随時しなければならない。

 そうした理由から、IS学園の教師である千冬と真耶は万一に備えてか、昼間に行われた三日月とセシリアの試合の映像を何度も見直していた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 既に何度目になるのかわからないほどに再生を繰り返した映像を、時折停止させながら二人は再び目を通す。

 

「既存のマニューバでは……ないな」

 

「はい。個別連続瞬時加速は、増設した複数のスラスターを順次使用することで行いますけど、三日月くんのこれは……」

 

「背中と両脚部のスラスターの連続使用による、瞬時加速の精密操作か。移動距離、速度の調整ができるなら、多段変速瞬時加速と言ったところか?」

 

 昼間の試合で観客席にいた生徒の度肝を抜いたのは、三日月がビットを破壊した際の機動であった。そして、それに似た機動を資料で知っていた生徒が、三日月のそれを個別連続瞬時加速と判断し、それが噂のようにその場の生徒全員に知られるのは時間の問題であった。

 しかし、三日月がバルバトスで行った機動だけでなく、バルバトスという機体自体にも目を向けていた生徒や教師は、それが違うことに直ぐに気付いていた。

 そして、そんな彼女達にとっては三日月が行った機動よりも、その後に見せた太刀捌きの方が重要であったのだ。

 

「…………」

 

「あの……先輩……私は剣道も剣術も修めているわけではないので、すごく的外れな質問かもしれませんが――――」

 

 丁度、三日月がメイスから太刀に持ち替え、セシリアに斬りかかるシーンをスローで再生しているとき。真耶はどこか遠慮がちに前置きしながら、隣に立つ千冬に質問を投げ変えた。

 

「先輩の“現役時代の動き”とすごく似ている気がするのですけど……」

 

 すぐに答える事は千冬にはできない。

 というよりも、憶測や予想はいくらでも語ることができるが、それを正答だと確認する方法がないため、千冬はその返答に答えるすべがないのであった。

 そんな事を同じ建物内で話し合われているとは露知らず、整備室の一角で雪之丞とビスケットは彼女とたちとはまた違った問題に首を捻っていた。

 

「なぁ、ビスケット……俺たちが試合の後に弄ったのはシールドエネルギーの出力調整だけだったよな?」

 

「はい……試合後に織斑先生と山田先生が教えてくれましたから」

 

 今朝と同じ場所に置かれたバルバトスを、二人仲良く並んで凝視しながらそんな確認をする二人。

 

「……俺も専門家じゃねぇからな。間違ってたら言って欲しいんだが、ISってのは“勝手に形を変える”もんなのか?」

 

「さぁ……」

 

 二人の視線の先には確かにバルバトスが置かれていた。既に夜ということと、元々外の光があまり入らない整備室内で、専用のライトに照らされたその機体は、明らかに姿かたちに差異があった。

 昼間のセシリアとの試合の後、整備室に機体を装着したまま運んだ三日月は、バルバトスから降りるとすぐに、整備のために近寄った二人にある頼み事をした。

 

「日が落ちるまで整備するの待って」

 

 いきなりそんなことを言われた二人は、急な三日月のその頼みに首を傾げるしかない。

 とにかく理由を聞こうと、どうして待つ必要があるのか尋ねるのだが、その返答に二人は更に混乱することとなる。

 

「さぁ?俺は頼まれただけだし」

 

 それだけ言うと、三日月はそのまま整備室から出ていくのだった。

 残された二人は機体のことで珍しく口を出してきた三日月の頼みごとに、今回は大人しく従うことにする。とはいえ、試合後――――戦闘後に必ず行う機体ステータスのチェックの際に千冬と真耶に教えてもらった出力調整だけは行っていたが。

 

「…………?……頼まれたって誰に?」

 

 三日月の言葉に疑問を覚えたのは、最低限の作業を終えてしばらく経ってからであった。

 そして、太陽が沈むことで灯りだよりの視界の中、整備室に向かった二人を出迎えたのが、機体の周りの床に幾つかの鉄屑を晒しているバルバトスであったのだ。

 それだけであれば装甲が剥離したのか、試合中の機体への負担でパーツが落ちたのかとも思うのだが、バルバトスの装甲や関節部分、パーツ構成などが明らかにブラッシュアップされているのを見れば、それがただ事ではないと判断するには十分であった。

 

「確か、ISには一次移行、二次移行っていう機体の最適化が行われるって聞いた事はありますけど、これがそうなるのかな?」

 

「それは俺も知ってるが、そういった移行とはまた違うもんに見えるのは俺だけか?」

 

 どこか自信のない言葉を吐き出すビスケットに、雪之丞は答えの解りきった質問を返していた。

 とにかく、このまま見ているだけでは何も始まらないと思ったのか、二人は機体に整備用の機体ステータス確認用のパッドを接続したり、機体周りに落ちていた鉄屑の確認をしたりと、行動を開始した。

 装甲を一部外し、中のパーツの状態確認。機体ステータスのデータと試合中のデータログから機体の損耗度を確認してからのメンテ。

 言葉にすれば簡単だが、実際に行うには難しい作業をしている二人。そんな中でビスケットは雪之丞にある話題を振った。

 

「そう言えば、三日月に織斑さんの現役時代の映像を見せたのって、雪之丞さんですか?」

 

「あぁ、そうだ……あの嬢ちゃんの腕前は色んな意味で有名だ。だからな、剣を使いにくいって言ってた三日月にはいい参考になるんじゃないかと思ったんだが……」

 

「だからですか……普段なら部屋に戻ってきたら直ぐに寝ちゃう三日月が、この二、三日は部屋のテレビで動画を見ていましたよ」

 

「はは……似合わねぇ光景だな」

 

「ええ……似合っていなかったです」

 

 お互いに手を止めずに会話を続けると、自然と二人は苦笑いを浮かべていた。

 IS学園で寮生活を送る上で、その寮の部屋は基本的に二人一部屋である為、三日月の相方はビスケットであった。そして、学校が始まってから既に二週間近くの時間が経過しているが、三日月の生活スタイルは殆ど以前と変わらない。

 部屋に戻りプライベートな時間は寝るか、筋トレをするかの二択であったので、部屋のテレビを見ている三日月をビスケットが見たときは、何事かと驚いたものだ。

 

「まぁ、あんまり意味はなかったがな」

 

「空戦ができるようになったとは言え、三日月らしいと言えばらしいですけどね」

 

 苦笑いで引き攣った笑顔を、少し呆れた表情に変化させた二人の脳裏には昼間のセシリアとの試合での最後の展開を思い出す。

 

「コイツは、そんなに強くないし」

 

 三日月が瞬時加速でセシリアに接近し、そう呟いたあと、三日月はその太刀を振り下ろす。

 だがその、一瞬の間。太刀の刃がセシリアに届く瞬間、三日月はあることに気づいたのだ。

 

「浅い」

 

 普段の慣れからか、相手との間合いの取り方がメイスと同じになってしまった為、三日月はこの攻撃だけでは相手を倒しきれないことを悟り、思ったことを呟いていた。

 そこで三日月は暴挙ともとれる行動にでる。

 太刀を振り下ろしながら、更に瞬時加速を使用したのだ。

 その結果、三日月はセシリアと身体を密着させる形でアリーナの壁面に彼女を叩きつけることになった。

 その激突の衝撃は凄まじく、ブルー・ティアーズの操縦者保護機能である絶対防御がフル稼働させられることとなり、そのシールドエネルギーを一気にゼロにまで削り切る。

 これが、三日月とセシリアの試合の顛末であった。

 

「でも、動画を見たとは言え、様にはなっていましたよね」

 

「剣の使い方か?そのあたりはアイツの才能か、もしくは偶然かだな」

 

 二人の目から見ても、三日月の太刀を構える姿や振り下ろす動きは随分と綺麗な動きに映っていたらしい。

 この千冬や真耶も知りたがっている疑問点は、三日月も自覚していていない理由がキチンと存在している。

 この数日の内、三日月が繰り返し見た千冬の現役選手時代の動き。それを三日月は理解しきれなかった。それもそのはずで、その動きはあくまで織斑千冬という人間が、何年もかけて完成させた動きだ。

 だから、織斑千冬とは体格はもちろん、考え方も鍛え方も違う三日月が理解するというのは土台無理な話なのだ。

 しかし、それでもそれを実現させる方法が一つだけあった。

 三日月が彼女の動きを真似できないのであれば、機体にその動きをさせてしまえばいいのだ。

 幾度も見た千冬の動き。それを真似しようと三日月は試合中、少なからずその映像を意識していた。それを阿頼耶識が汲み取り、機体がそれを命令と認識し、その動きを再現しようとした。

 そして、その動きは限りなく彼女のものと近い動きとなったのだ。

 もちろん、本人はそんな事を意識してやっているわけもなく、寧ろその事実に気付いている人間は一人もいない。

 そして、皆が気付いていない事実はもう一つある。

 普通であれば身体を壊してしまう、元世界最強の人間離れした動き。それと限りなく同じことをしてもケロリとしている三日月は、“それ以上の動きをできる可能性がある”ということだ。

 様々な意味で波紋を呼びそうなこの二つの事実に気付く者がいない今、それが良いことなのか悪いことなのか、まだそれすらも判断できるものはいなかった。

 この、エリートばかりとは言え、一般的なIS学園の生徒では気付くのも難しい事に、気づいた人間が一年生の中に二人だけいた。

 

「……似ていた」

 

 そのうちの片方は、三日月の太刀筋が今はもう会うこともできない実父から教授された剣術の太刀筋と似ている事に気付く女生徒。

 そしてもう一人は――――

 

「アイツ、何で千冬姉の剣を……」

 

 幼い頃に憧れた自身の目標に限りなく近い動きを三日月がしたこと、そしてその姿が自分の姉と被った事に、苛立ちを覚えたもう一人の男子生徒であった。

 

 

 

 





セシリア?彼女は保健室で寝てます。

前回は長めにしたことが割と好評だった為、嬉しい限りです。
今回は切りが良かったので、少なかったと思いますが、かけるときはとことん行くつもりです。

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